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第1ラウンド
第2話 ゲームは平等で公平に
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私、アドヴィナ・サクラメントにより、異空間に転移された生徒の皆さん。
「ここどこ?」
「………私たちさっきまで王城にいたはずよね?」
彼らは突然のことで何があったのか理解しておらず、困惑の表情を浮かべていた。中にはパニックになった人や、「ここはどこだ?」をオウムのごとく連呼してキョロキョロしている人がいたり。
でも、1人だけは違った。
王子エイダンだけは、台の前に立つ私をじっと見ていた。眉間にしわを寄せ、燃えるような橙の瞳できつく睨んでいる。私はそんな彼を目の前にしながらも、ニヤリと笑ってみせた。
「アドヴィナッ! これはどういうつもりだッ! ここはどこだッ!?」
エイダンは耳が痛くなるほどの大きな声でそう言ってきた。その彼の叫びで口を切ったかのように、他の人たちも「元の場所に返せ!」だの「人が楽しんでいたのに邪魔するな!」だの声を上げ始める。
はぁ……。
わーきゃー、わーきゃー、全くうるさい人たちね……。
「あー、ええっと、一気にはお答えできないので、同時に質問しないでくださいな」
「なら、俺の質問に答えろッ!」
はぁ……なんでこうも大声で話すのかしら……聞こえてるっつうの。しかも、命令してくるなんて、ほんとうっざ。
私はもうあなたの婚約者なんかじゃないし、味方とかでもないのに……もう少し丁寧にお願いしてくるもんじゃないのかしら?
エイダンのうるささに口を曲げながらも、器の広い私は彼の質問に答えてあげた。
「………分かりましたわ。最初の質問は『これはどういうつもりだ?』でしたっけ? どういうつもりもなにも、先ほど申した通り今からデスゲームを行うのです。私と皆さんでするのです。楽しそうでしょう?
あとは……『ここはどこだ』でしたっけ? ここは魔法により展開されている結界空間ですわ。街のデザインはドイツのメルヘン街道をモデルにしましたわ。あ、こんな説明しても分かりませんよね?」
そう答えると、エイダンはプルプル肩を震わせる。
…………あらぁ?
私は丁寧に質問に答えたつもりだったけど、王子様はその回答になにかご不満だったかしら。
「他に質問があるのなら、どうぞ?」
「貴様は魔法がロクに使えない。なのに、なぜこんな広い空間を形成できている!?」
…………ああ、そんなこと。
魔法訓練では底辺の成績を叩きだしていた私が、膨大な魔力量を必要とする魔法を使えているのか。理由は簡単に説明できるけど、でも言わないであげましょう。
言ったら、面白くないし。
エイダンの質問に鼻で笑うと、彼の眉間にさらに高い山脈ができた。
「その質問はノーコメントでいますわ」
「誰が質問したと思っているんだ。答えろッ!」
「気になるようでしたら、賢い王子様が自分の頭で答えを導き出して見たらどうです?」
「くっ……貴様、悪魔と契約でもしたのかッ!」
「フフフっ、では殿下が最後に生き残ったら、教えてあげますわ」
そう言うと、エイダンはさらに歯ぎしり。彼の近くにいたハンナも私を憐れむような悲しげな顔をしていた。
彼らになんと思われようとも、もう何も感じない。心底どうでもいいわ。
「とにかく元の世界に戻せッ! アドヴィナッ!」
「殿下のお願いといえど、さすがにお断りします。申し訳ありませーん」
みんなを戻したら、私の努力が水の泡じゃない……絶対に帰してやらない。
たとえ、外からこの異空間に侵入しようとしてきた人たちがいたとしても、私はその人たちを全員殺す。
まぁ、あの王国の人たちがそんな器用なことができるとは思えないけど。
だが、エイダンも怯むことはなく、「パーティー会場に戻せ!」「くだらないことに俺たちを巻き込むな!」と叫んでくる。他の生徒の声も大きくなっていく。
「ナアマちゃん」
『はい、アドヴィナ様』
私が小さく名前を呼ぶと、敬称付けで呼び返す天の声。だが、彼女の姿はどこにもなく、その代わりに空から銃が出現。私はその銃をキャッチし、構えるとすぐに銃口を彼の頭に向けた。
すると、周りの人たちは悲鳴を上げ、私から離れていく。だが、エイダンが動揺する様子はない。彼の瞳はじっと私を捉えていた。
…………あ~あ、全然面白くない反応だわ。もっと取り乱してほしかったのに。
でも、これで動じないって、私結構信頼をされているのかしら? 絶対に撃たないとでも思っているのかしら?
「……アドヴィナ……なぜ……なぜこんなことをする?」
だが、そんな彼から出た声は意外にも震えていた。
あらぁ~?
ちゃんと怖がっているのね?
ふふふ………いい反応じゃない。
「それはあなた方にムカついたからですよ」
「だからといって、デスゲームまですることないだろう」
「デスゲームまでとは………デスゲームは復讐を楽しくしようと思って開催しただけです。普通に殺すだけじゃ、味気ないでしょう?」
「……お前は俺たちを殺すつもりなのか」
「ええ、もちろん。1人残らず殺しますの。それ以外に選択肢ってあります?」
私だけを虐めて、自分たちだけ幸せな時を過ごすなんて許せるわけがない。
もちろん、私がした罪全てが許せるわけではないけれど、前世の記憶を思い出して謝罪して以来、本当に私はヒロインちゃん――ハンナにはちょっかいを一切かけていない。
何なら、今日まで話も会いもしなかった。
なのに、婚約破棄&冤罪をかけるなんて、これが苛立たないわけないでしょ。
「まぁ、ルール説明はしっかりとするのでご安心を。じゃあ、ナアマちゃん。説明をお願い!」
『了解しました』
そうして、私が声をかけると、天から落ち着いた声が返ってきた。
『アドヴィナ・サクラメントのデスゲームへようこそ。私はこのゲームにおけるスタッフ、ナアマです。今回のゲーム主催者はアドヴィナ様ですが、アドヴィナ様に代わって私がゲームマスターとなり、プレイヤーの皆様にゲーム説明を行います。よろしくお願いいたします』
ナアマちゃんはこのデスゲームの調整者。異常が生じた場合、対処する役割を持っている。
私がゲームマスターをしてもいいのだが、それだとプレイヤーとして参加できない。そのため、ナアマちゃんにゲーム管理をしてもらうことになった。
『ではゲームについて全体の説明を行います。今回のデスゲームは合計4ラウンド行われます。ゲームの終了条件は生存者が1人になることです。この世界からは生存者が1人になるまで誰1人脱出することができません。予めご了承ください』
ナアマちゃんがゲームの説明をし始めた途端、プレイヤーたちはざわつき始める。
まぁ、驚くのも無理はないか。
1人しか生き残れないとか突然言われたようなものだから。
ここにいる人たちのほとんど………いや、全員が生き残れない。みんな死ぬ。
そして、私だけが生き残る。
『早速第1ラウンドのゲーム説明に参ります。第1ラウンドは『ゾンビランドでガンデスマッチ』。皆様には制限人数まで銃で殺し合っていただきます。次へのラウンドに向かうためには、生存者を人にする必要があるため、存分に殺し合ってください。次のラウンドに行くことが可能な人数は180人です』
今ここにいる人間は、私を含めて約360人。それが第1ラウンドで半分になる。
このくらい減ってもらわないと、4ラウンドまでに生存者が1人にならない。最後のラウンドは一対一の真剣勝負をしたいのよね。
一番死んでほしいのはエイダン王子、ヒロインちゃん。一方で、彼らには最終ラウンドまで生き残ってほしい気持ちもある。死にゆく友人たちの叫びを聞いて狂って、私を存分に楽しませてほしい。
『使用できる武器は配布する銃とフィールドにある物であれば、どれでも使用できます。魔法は使用できません。ご了承ください。追加の銃はショットガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、サブマシンガンの4種類がランダムに配置されます。
また、装填用のマガジンはフィールド内にある安全地帯で配布されます。安全地帯は銃での攻撃が制限され、発砲しても当たることも銃弾が消費されることもありません。
安全地帯は無敵状態となれる場所です。滞在できる時間は5分で、1時間ごとにリセットされます。5分以上滞在をされても無敵状態は無効となりますので、ご注意ください。安全地帯の場所は今から示す地図の通りです』
ナアマちゃんがそう言うと、プレイヤーそれぞれ目の前にホログラムのような地図が出現。その地図には城下町の全体図が示されており、そこに何ヶ所か赤い丸のマークが付けられていた。
『地図の中に赤の丸のマークで示されている部分が安全地帯になります。地図は皆さまのこめかみを押したり、『地図を開いて』などの声で命令したりすることにより展開することができますので、ゲーム中にご活用ください』
そうして、淡々とゲーム説明をしていく天の声。他人には機械のような声に聞こえるだろうが、私には彼女がルンルン気分なのが分かった。
『また、フィールド内にはゾンビがいます。彼らに噛まれた場合には体がゾンビとなり、死亡判定となりますので、ゾンビに噛まれることがないようご注意ください』
本当に楽しそう……ええ、そうよね。このためにアナウンスの練習してきたものね。
『では、今から拳銃を2丁配布いたします。目の前に現れますので、受け取った後は各自で管理してください』
アナウンスが終わると同時に、各プレイヤーの前に銃が二丁出現。配布された拳銃は自動式、マガジンは20発装填されている。
魔法の世界だし、自分で作り出した世界なので、弾が無限に出る仕様にしようとしたが………でも、それだと面白さにかけるのよね。
永遠に発砲できた場合、狙わなくても撃ち続けていれば、いつかは当たる。そうなると、みんななりふり構わず撃ち続けてしまって、戦略なしのただの銃撃戦になる。
そんなのじゃ面白くない。ぜんぜーん面白くない。
だから、弾丸の装填数を制限させた。その代わり再装填用のマガジンを安全地帯で確保することができる。追加の銃はそれほど多くならないように設定してある。我ながら今回のゲームバランスとしてはとてもいいと思う。
銃が存在しているものの、魔法で戦うことの多かった乙女ゲームの世界。初めて銃を触る者が多いのか、銃を受け取るなり、その銃をしばらくじっと見つめる人、まじまじと観察して構造を理解しようとする人、など色んな反応を示していた。
本当に銃を持ったことがないのね。
という私も、前世では本物の銃を持ったことがなかったのだけど。
私も宙に浮かぶ一丁のハンドガンをキャッチし、その重みが左手に落ちた。
『この後、プレイヤーの皆さんには移動していただきます。移動はこちらがしますので、その場に待機していてください。5分後に全プレイヤーの移動を開始します。
準備は移動後にも時間を設けていますが、移動場所は1人ずつの配置となりますので、ゲーム開始時からの集団行動はできません。ご注意ください』
そして、ナアマちゃんの説明終了後、プレイヤーの皆さんは各自準備をし始めた。
困惑しながらも、銃の仕様を確認する男子生徒。2つの銃を抱きかかえながら、泣きじゃくる女子生徒。「あなたが心配」とか「君をすぐに迎えに行く」とか言い合って悲しそうな表情で見つめ合うカップル。
そんな彼らを、私は台の上からじっと眺めていた。
恐らく、あのカップルは二度と再会できない。彼女のアンは筋力がないし、彼氏のジェフも頭が切れるほうではなかったはず。
だから、別れの挨拶をしっかりしておいてほしいわ。
きっと二度と会話はできないだろうから♡
そうして、ナアマちゃんがアナウンスして5分後。移動が始まり、私以外のプレイヤーたちの姿がシュンッと同時に消えた。
だが、私は強制瞬間移動させられることはなく、誰もいなくなった広場にポツンとある台に立ったまま、準備を始める。先ほど受け取った2丁の拳銃。私はその一つを隣に置き、もう一方の拳銃のマガジンを取り出した。
『アドヴィナ様、マガジンをチェックされているのですか。でも、ご安心を。全てのマガジン、銃に不備はありません』
空の上から見ているであろうナアマちゃん。彼女は、私が銃の不備を心配してチェックしていると思ったのか、少し不安そうな声でそんなことを言ってきた。
「大丈夫よ、ナアマちゃん。あなたことは信頼しているわ。ただ、私は弾を減らしたいと思って、マガジンを取り出したのよ」
『弾を減らすですか……これまたなぜ?』
10発分の弾をポイポイッと地面に捨てると、カランカランという地面に転がる弾の音が響く。10発になったマガジンを装填し直し、それを腰のガンホルダーにしまった。そして、もう一方のハンドガンのマガジンも10発分の弾を抜いていく。
それをしながら、私はナアマちゃんに弾を捨てた理由を話した。
「プレイヤーの中には今日初めて銃を持つ人がいる。一方で、私はゲームでテストプレイでも何度か戦っている。そんな私と彼らを戦わせるのはちょっと公平性に欠けるでしょ。だから、アドバンテージとして、私の弾を減らしたの」
『半分も減らすのですね』
「ええ、まぁ正直半分なんて誤差程度のものよ。時間が経てば私は安全地帯でマガジンは手に入れれる。それに、次の開放時間まで10発ずつあれば私には十分よ」
『さすがです。アドヴィナ様』
もう一つのハンドガンの弾数を減らすと、私はその銃を右手に持った。
これで武器の準備おっけーと。
その後、私はストレッチとして、ジャンプをしたり、背筋を伸ばしたりし始めた。
半年前は細身であるものの筋肉がなく、たるんたるんだった私の体。だが、前世を思い出してからは、こっそり筋トレをしていたので、今では引き締まった体になっていた。
さぁ、静かに鍛えてきた体を生かす時ね。
ちゃんと動かすためにも、ちゃんと準備体操をしておかなくちゃ。
私は股関節を伸ばしたり、肩を回したりと入念にストレッチをしながら、天の彼女に話し変えた。
「ねぇ、ナアマちゃん」
『いかがいたしましたか。アドヴィナ様』
「私のこと応援しててね。絶対勝ち上がるから」
『もちろんです』
「ああ、でも判定は公平にね。公平性に欠けたら、ゲームがつまらなくなっちゃうから」
『了解いたしました』
――――――そうして、数分後。
全員の移動が完了したのか、空は青から、星々がきらめく黒の夜空に変わって、閑散とした城下町はゾンビが湧き出た。しかし、彼らはまだ私を認識していない。
暗くて見えづらかったが、私は灯ろうに照らされたゾンビに注目し観察した。
ゾンビは全裸というわけではなく、人間だった時に着ていた服のままでいるのだが、その服は使い果たしたボロ雑巾。さらに、口から目からあらゆる穴から汚い液を垂らしながら、のそのそと歩いている。
もちろん、人間の時のような思考はない。ただただ生きる人間を求めて、歩き回る怪物。
彼らはゲームが始まって、発砲などの音を聴くとそれに反応し、音がした方へと集まっていく。そのため、ゾンビに襲われたくなければ、発砲は最小限にして音を立てず行動する必要がある。
ゾンビをどう対処するかがカギね……。
『ゲーム開始1分前です』
ナアマちゃんのアナウンスを聞くと、私はそっと目を閉じ、深呼吸をした。
そして、これから始まる戦闘に想いを馳せる。
ああ……単なるデスマッチにしなくてよかった。ゾンビという障害物があってこそ、デスゲームは盛り上がるってものよ。
もちろん、ゾンビがいることで、私が殺せることのできる人間の数は減る可能性がある。でも、それはゾンビが食べちゃう前に私が殺しちゃえばいい話。
ある意味ゾンビと私の争いでもある。
ゾンビと競って、人間を殺せるなんて……うぅ~、ワクワクするわぁ~………。
ビィ――――ッ!!
ゾンビのうめき声だらけの街中に、開始のサイレンの音が響く。私はカッと目を開け、右手に持つ拳銃を握りしめる。そして、腰を低くし、構えた。
『アドヴィナ・サクラメントのデスゲーム、第1ラウンド開始です』
そのアナウンスと同時に、私はゾンビだらけの城下町を駆けだした。
――――――――
3話は21時頃更新いたします。よろしくお願いします<(_ _)>
「ここどこ?」
「………私たちさっきまで王城にいたはずよね?」
彼らは突然のことで何があったのか理解しておらず、困惑の表情を浮かべていた。中にはパニックになった人や、「ここはどこだ?」をオウムのごとく連呼してキョロキョロしている人がいたり。
でも、1人だけは違った。
王子エイダンだけは、台の前に立つ私をじっと見ていた。眉間にしわを寄せ、燃えるような橙の瞳できつく睨んでいる。私はそんな彼を目の前にしながらも、ニヤリと笑ってみせた。
「アドヴィナッ! これはどういうつもりだッ! ここはどこだッ!?」
エイダンは耳が痛くなるほどの大きな声でそう言ってきた。その彼の叫びで口を切ったかのように、他の人たちも「元の場所に返せ!」だの「人が楽しんでいたのに邪魔するな!」だの声を上げ始める。
はぁ……。
わーきゃー、わーきゃー、全くうるさい人たちね……。
「あー、ええっと、一気にはお答えできないので、同時に質問しないでくださいな」
「なら、俺の質問に答えろッ!」
はぁ……なんでこうも大声で話すのかしら……聞こえてるっつうの。しかも、命令してくるなんて、ほんとうっざ。
私はもうあなたの婚約者なんかじゃないし、味方とかでもないのに……もう少し丁寧にお願いしてくるもんじゃないのかしら?
エイダンのうるささに口を曲げながらも、器の広い私は彼の質問に答えてあげた。
「………分かりましたわ。最初の質問は『これはどういうつもりだ?』でしたっけ? どういうつもりもなにも、先ほど申した通り今からデスゲームを行うのです。私と皆さんでするのです。楽しそうでしょう?
あとは……『ここはどこだ』でしたっけ? ここは魔法により展開されている結界空間ですわ。街のデザインはドイツのメルヘン街道をモデルにしましたわ。あ、こんな説明しても分かりませんよね?」
そう答えると、エイダンはプルプル肩を震わせる。
…………あらぁ?
私は丁寧に質問に答えたつもりだったけど、王子様はその回答になにかご不満だったかしら。
「他に質問があるのなら、どうぞ?」
「貴様は魔法がロクに使えない。なのに、なぜこんな広い空間を形成できている!?」
…………ああ、そんなこと。
魔法訓練では底辺の成績を叩きだしていた私が、膨大な魔力量を必要とする魔法を使えているのか。理由は簡単に説明できるけど、でも言わないであげましょう。
言ったら、面白くないし。
エイダンの質問に鼻で笑うと、彼の眉間にさらに高い山脈ができた。
「その質問はノーコメントでいますわ」
「誰が質問したと思っているんだ。答えろッ!」
「気になるようでしたら、賢い王子様が自分の頭で答えを導き出して見たらどうです?」
「くっ……貴様、悪魔と契約でもしたのかッ!」
「フフフっ、では殿下が最後に生き残ったら、教えてあげますわ」
そう言うと、エイダンはさらに歯ぎしり。彼の近くにいたハンナも私を憐れむような悲しげな顔をしていた。
彼らになんと思われようとも、もう何も感じない。心底どうでもいいわ。
「とにかく元の世界に戻せッ! アドヴィナッ!」
「殿下のお願いといえど、さすがにお断りします。申し訳ありませーん」
みんなを戻したら、私の努力が水の泡じゃない……絶対に帰してやらない。
たとえ、外からこの異空間に侵入しようとしてきた人たちがいたとしても、私はその人たちを全員殺す。
まぁ、あの王国の人たちがそんな器用なことができるとは思えないけど。
だが、エイダンも怯むことはなく、「パーティー会場に戻せ!」「くだらないことに俺たちを巻き込むな!」と叫んでくる。他の生徒の声も大きくなっていく。
「ナアマちゃん」
『はい、アドヴィナ様』
私が小さく名前を呼ぶと、敬称付けで呼び返す天の声。だが、彼女の姿はどこにもなく、その代わりに空から銃が出現。私はその銃をキャッチし、構えるとすぐに銃口を彼の頭に向けた。
すると、周りの人たちは悲鳴を上げ、私から離れていく。だが、エイダンが動揺する様子はない。彼の瞳はじっと私を捉えていた。
…………あ~あ、全然面白くない反応だわ。もっと取り乱してほしかったのに。
でも、これで動じないって、私結構信頼をされているのかしら? 絶対に撃たないとでも思っているのかしら?
「……アドヴィナ……なぜ……なぜこんなことをする?」
だが、そんな彼から出た声は意外にも震えていた。
あらぁ~?
ちゃんと怖がっているのね?
ふふふ………いい反応じゃない。
「それはあなた方にムカついたからですよ」
「だからといって、デスゲームまですることないだろう」
「デスゲームまでとは………デスゲームは復讐を楽しくしようと思って開催しただけです。普通に殺すだけじゃ、味気ないでしょう?」
「……お前は俺たちを殺すつもりなのか」
「ええ、もちろん。1人残らず殺しますの。それ以外に選択肢ってあります?」
私だけを虐めて、自分たちだけ幸せな時を過ごすなんて許せるわけがない。
もちろん、私がした罪全てが許せるわけではないけれど、前世の記憶を思い出して謝罪して以来、本当に私はヒロインちゃん――ハンナにはちょっかいを一切かけていない。
何なら、今日まで話も会いもしなかった。
なのに、婚約破棄&冤罪をかけるなんて、これが苛立たないわけないでしょ。
「まぁ、ルール説明はしっかりとするのでご安心を。じゃあ、ナアマちゃん。説明をお願い!」
『了解しました』
そうして、私が声をかけると、天から落ち着いた声が返ってきた。
『アドヴィナ・サクラメントのデスゲームへようこそ。私はこのゲームにおけるスタッフ、ナアマです。今回のゲーム主催者はアドヴィナ様ですが、アドヴィナ様に代わって私がゲームマスターとなり、プレイヤーの皆様にゲーム説明を行います。よろしくお願いいたします』
ナアマちゃんはこのデスゲームの調整者。異常が生じた場合、対処する役割を持っている。
私がゲームマスターをしてもいいのだが、それだとプレイヤーとして参加できない。そのため、ナアマちゃんにゲーム管理をしてもらうことになった。
『ではゲームについて全体の説明を行います。今回のデスゲームは合計4ラウンド行われます。ゲームの終了条件は生存者が1人になることです。この世界からは生存者が1人になるまで誰1人脱出することができません。予めご了承ください』
ナアマちゃんがゲームの説明をし始めた途端、プレイヤーたちはざわつき始める。
まぁ、驚くのも無理はないか。
1人しか生き残れないとか突然言われたようなものだから。
ここにいる人たちのほとんど………いや、全員が生き残れない。みんな死ぬ。
そして、私だけが生き残る。
『早速第1ラウンドのゲーム説明に参ります。第1ラウンドは『ゾンビランドでガンデスマッチ』。皆様には制限人数まで銃で殺し合っていただきます。次へのラウンドに向かうためには、生存者を人にする必要があるため、存分に殺し合ってください。次のラウンドに行くことが可能な人数は180人です』
今ここにいる人間は、私を含めて約360人。それが第1ラウンドで半分になる。
このくらい減ってもらわないと、4ラウンドまでに生存者が1人にならない。最後のラウンドは一対一の真剣勝負をしたいのよね。
一番死んでほしいのはエイダン王子、ヒロインちゃん。一方で、彼らには最終ラウンドまで生き残ってほしい気持ちもある。死にゆく友人たちの叫びを聞いて狂って、私を存分に楽しませてほしい。
『使用できる武器は配布する銃とフィールドにある物であれば、どれでも使用できます。魔法は使用できません。ご了承ください。追加の銃はショットガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、サブマシンガンの4種類がランダムに配置されます。
また、装填用のマガジンはフィールド内にある安全地帯で配布されます。安全地帯は銃での攻撃が制限され、発砲しても当たることも銃弾が消費されることもありません。
安全地帯は無敵状態となれる場所です。滞在できる時間は5分で、1時間ごとにリセットされます。5分以上滞在をされても無敵状態は無効となりますので、ご注意ください。安全地帯の場所は今から示す地図の通りです』
ナアマちゃんがそう言うと、プレイヤーそれぞれ目の前にホログラムのような地図が出現。その地図には城下町の全体図が示されており、そこに何ヶ所か赤い丸のマークが付けられていた。
『地図の中に赤の丸のマークで示されている部分が安全地帯になります。地図は皆さまのこめかみを押したり、『地図を開いて』などの声で命令したりすることにより展開することができますので、ゲーム中にご活用ください』
そうして、淡々とゲーム説明をしていく天の声。他人には機械のような声に聞こえるだろうが、私には彼女がルンルン気分なのが分かった。
『また、フィールド内にはゾンビがいます。彼らに噛まれた場合には体がゾンビとなり、死亡判定となりますので、ゾンビに噛まれることがないようご注意ください』
本当に楽しそう……ええ、そうよね。このためにアナウンスの練習してきたものね。
『では、今から拳銃を2丁配布いたします。目の前に現れますので、受け取った後は各自で管理してください』
アナウンスが終わると同時に、各プレイヤーの前に銃が二丁出現。配布された拳銃は自動式、マガジンは20発装填されている。
魔法の世界だし、自分で作り出した世界なので、弾が無限に出る仕様にしようとしたが………でも、それだと面白さにかけるのよね。
永遠に発砲できた場合、狙わなくても撃ち続けていれば、いつかは当たる。そうなると、みんななりふり構わず撃ち続けてしまって、戦略なしのただの銃撃戦になる。
そんなのじゃ面白くない。ぜんぜーん面白くない。
だから、弾丸の装填数を制限させた。その代わり再装填用のマガジンを安全地帯で確保することができる。追加の銃はそれほど多くならないように設定してある。我ながら今回のゲームバランスとしてはとてもいいと思う。
銃が存在しているものの、魔法で戦うことの多かった乙女ゲームの世界。初めて銃を触る者が多いのか、銃を受け取るなり、その銃をしばらくじっと見つめる人、まじまじと観察して構造を理解しようとする人、など色んな反応を示していた。
本当に銃を持ったことがないのね。
という私も、前世では本物の銃を持ったことがなかったのだけど。
私も宙に浮かぶ一丁のハンドガンをキャッチし、その重みが左手に落ちた。
『この後、プレイヤーの皆さんには移動していただきます。移動はこちらがしますので、その場に待機していてください。5分後に全プレイヤーの移動を開始します。
準備は移動後にも時間を設けていますが、移動場所は1人ずつの配置となりますので、ゲーム開始時からの集団行動はできません。ご注意ください』
そして、ナアマちゃんの説明終了後、プレイヤーの皆さんは各自準備をし始めた。
困惑しながらも、銃の仕様を確認する男子生徒。2つの銃を抱きかかえながら、泣きじゃくる女子生徒。「あなたが心配」とか「君をすぐに迎えに行く」とか言い合って悲しそうな表情で見つめ合うカップル。
そんな彼らを、私は台の上からじっと眺めていた。
恐らく、あのカップルは二度と再会できない。彼女のアンは筋力がないし、彼氏のジェフも頭が切れるほうではなかったはず。
だから、別れの挨拶をしっかりしておいてほしいわ。
きっと二度と会話はできないだろうから♡
そうして、ナアマちゃんがアナウンスして5分後。移動が始まり、私以外のプレイヤーたちの姿がシュンッと同時に消えた。
だが、私は強制瞬間移動させられることはなく、誰もいなくなった広場にポツンとある台に立ったまま、準備を始める。先ほど受け取った2丁の拳銃。私はその一つを隣に置き、もう一方の拳銃のマガジンを取り出した。
『アドヴィナ様、マガジンをチェックされているのですか。でも、ご安心を。全てのマガジン、銃に不備はありません』
空の上から見ているであろうナアマちゃん。彼女は、私が銃の不備を心配してチェックしていると思ったのか、少し不安そうな声でそんなことを言ってきた。
「大丈夫よ、ナアマちゃん。あなたことは信頼しているわ。ただ、私は弾を減らしたいと思って、マガジンを取り出したのよ」
『弾を減らすですか……これまたなぜ?』
10発分の弾をポイポイッと地面に捨てると、カランカランという地面に転がる弾の音が響く。10発になったマガジンを装填し直し、それを腰のガンホルダーにしまった。そして、もう一方のハンドガンのマガジンも10発分の弾を抜いていく。
それをしながら、私はナアマちゃんに弾を捨てた理由を話した。
「プレイヤーの中には今日初めて銃を持つ人がいる。一方で、私はゲームでテストプレイでも何度か戦っている。そんな私と彼らを戦わせるのはちょっと公平性に欠けるでしょ。だから、アドバンテージとして、私の弾を減らしたの」
『半分も減らすのですね』
「ええ、まぁ正直半分なんて誤差程度のものよ。時間が経てば私は安全地帯でマガジンは手に入れれる。それに、次の開放時間まで10発ずつあれば私には十分よ」
『さすがです。アドヴィナ様』
もう一つのハンドガンの弾数を減らすと、私はその銃を右手に持った。
これで武器の準備おっけーと。
その後、私はストレッチとして、ジャンプをしたり、背筋を伸ばしたりし始めた。
半年前は細身であるものの筋肉がなく、たるんたるんだった私の体。だが、前世を思い出してからは、こっそり筋トレをしていたので、今では引き締まった体になっていた。
さぁ、静かに鍛えてきた体を生かす時ね。
ちゃんと動かすためにも、ちゃんと準備体操をしておかなくちゃ。
私は股関節を伸ばしたり、肩を回したりと入念にストレッチをしながら、天の彼女に話し変えた。
「ねぇ、ナアマちゃん」
『いかがいたしましたか。アドヴィナ様』
「私のこと応援しててね。絶対勝ち上がるから」
『もちろんです』
「ああ、でも判定は公平にね。公平性に欠けたら、ゲームがつまらなくなっちゃうから」
『了解いたしました』
――――――そうして、数分後。
全員の移動が完了したのか、空は青から、星々がきらめく黒の夜空に変わって、閑散とした城下町はゾンビが湧き出た。しかし、彼らはまだ私を認識していない。
暗くて見えづらかったが、私は灯ろうに照らされたゾンビに注目し観察した。
ゾンビは全裸というわけではなく、人間だった時に着ていた服のままでいるのだが、その服は使い果たしたボロ雑巾。さらに、口から目からあらゆる穴から汚い液を垂らしながら、のそのそと歩いている。
もちろん、人間の時のような思考はない。ただただ生きる人間を求めて、歩き回る怪物。
彼らはゲームが始まって、発砲などの音を聴くとそれに反応し、音がした方へと集まっていく。そのため、ゾンビに襲われたくなければ、発砲は最小限にして音を立てず行動する必要がある。
ゾンビをどう対処するかがカギね……。
『ゲーム開始1分前です』
ナアマちゃんのアナウンスを聞くと、私はそっと目を閉じ、深呼吸をした。
そして、これから始まる戦闘に想いを馳せる。
ああ……単なるデスマッチにしなくてよかった。ゾンビという障害物があってこそ、デスゲームは盛り上がるってものよ。
もちろん、ゾンビがいることで、私が殺せることのできる人間の数は減る可能性がある。でも、それはゾンビが食べちゃう前に私が殺しちゃえばいい話。
ある意味ゾンビと私の争いでもある。
ゾンビと競って、人間を殺せるなんて……うぅ~、ワクワクするわぁ~………。
ビィ――――ッ!!
ゾンビのうめき声だらけの街中に、開始のサイレンの音が響く。私はカッと目を開け、右手に持つ拳銃を握りしめる。そして、腰を低くし、構えた。
『アドヴィナ・サクラメントのデスゲーム、第1ラウンド開始です』
そのアナウンスと同時に、私はゾンビだらけの城下町を駆けだした。
――――――――
3話は21時頃更新いたします。よろしくお願いします<(_ _)>
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