【R18】陰陽の聖婚Ⅱ:銀龍のめざめ

無憂

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6、新年の宴

ベルナデットの思惑

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 ヴェスタ侯爵家は八大諸侯家に連なる貴種の名門で、二代前の女王ゼナイダの夫として執政長官インペラトールも輩出し、かつ元老院の議席も有するナキアの大諸侯だ。
 しかし、ヴェスタ家の血を引く王女ユウラは先祖返りで〈王気〉が強く、まともな王女を生むことは期待できないと言われていた。ゼナイダ女王の前夫の子であるアライア女王がイフリート公爵と結婚したことで、ナキアの覇権は完全にイフリート家に握られ、またアルベラ王女が生まれた頃に相次いで当主を亡くし、一気にその勢力を失った。

 十年前に予想外の事態でユウラ女王が即位したが、しかしヴェスタ家の当主ヴィルジニオはまだ若年で、完全にイフリート家に首根っこを押さえられて、女王の父親の家が当然享受するべき何らの特権も行使することができなかった。今、ユウラの所生であるアデライードが、〈禁苑〉と帝国の後押しで女王位を要求するに及び、起死回生の最後のチャンスとして、権力の座への返り咲きを狙っているのである。その手段としてヴィルジニオが選んだのが、亡き侯爵の遺腹の子である妹、ベルナデットとアデライードの夫、恭親王との結婚であった。

 アデライードが女王として即位すれば、慣例に従ってその夫君である恭親王が執政長官に就任する。しかし、東の皇子である恭親王はナキアに政治的基盤を持たない。そこにアデライードとベルナデットと、二重の婚姻関係を結んで、恭親王を共生関係を持とうという計画である。ヴィルジニオの考えでは、恭親王にとっても悪くないはずだった。

 だが恭親王はアデライードの異母兄レイノークス辺境伯ユリウスと個人的にも親しくしていて、ユリウスはナキアのエイロニア侯爵の娘を妻にと薦めているという。ヴィルジニオが愚図愚図しているうちに、ユリウスは一歩も二歩も先んじてしまったのだ。

 ナキアで思い悩んでいたヴィルジニオのもとに、太陽宮の僧侶となっていた叔父イスマニヨーラが、なんと恭親王の顧問に就任したとの報せが届き、ヴィルジニオは信じられない僥倖に、取るものも取りあえず、妹を連れてソリスティアまでやってきたのであった。

 ヴィルジニオとしては、噂に聞く〈狂王〉であれば、我が妹ベルナデットの肉感的な美しさに抗うことはできまいと、妙な自信を持っていた。が、蓋を開けてみれば恭親王はどちらかと言えば線の細い美男子タイプの貴公子で、妖精のように可憐なアデライードを人目もはばからずに溺愛している。

 一方、ベルナデットは事前に目にした細密画ミニアチュールより、さらに美しい恭親王の美貌に目が釘付けであった。しかも、美しいだけでなく東の皇子としてソリスティア十万の兵を率いる地位と権力を有し、アデライード即位の暁には執政長官として西の女王国の政治の実権を握るのだ。美も、富貴も、権力も、全てを手にするこの男の妻の座を射止めれば、没落の際にあるヴェスタ家復興は間違いなかった。

(確かにアデライード姫は美しいけれど、まだほんのネンネじゃないの。女王の娘とは言え、父親は所詮、地方の辺境伯。ナキアの名門貴族のあたくしが、あの子に劣るわけないわ)

 ナキアの貴族階級において、男児を生むことのない女王家の姫たちは、ある種、貴族家の格付けを示すお飾りでしかない。西の貴族層も男系継承だからである。始祖女王以来の四方辺境伯は爵位も家格も中央の侯爵家と同等のはずなのだが、ナキア中心主義に慣れ切ったベルナデットは、地方貴族というだけでレイノークス伯を見下していた。そしてそれだけに、落ち目になった自分の家を再興させることは、彼女自身のプライドとも直結していたのである。

 アデライードの話によれば、総督は夜の営みには熱心であるらしい。ベルナデットは大貴族の令嬢として純潔は守ってきたが、自分が十分、男心をそそる色気を備えていると知っている。あんな痩せっぽちで貧相なアデライードなどに、自分が負けるはずはない。

 ベルナデットは、恭親王を誘惑する手段について、考えを巡らせ始めていた。
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