45 / 170
6、新年の宴
ベルナデットの思惑
しおりを挟む
ヴェスタ侯爵家は八大諸侯家に連なる貴種の名門で、二代前の女王ゼナイダの夫として執政長官も輩出し、かつ元老院の議席も有するナキアの大諸侯だ。
しかし、ヴェスタ家の血を引く王女ユウラは先祖返りで〈王気〉が強く、まともな王女を生むことは期待できないと言われていた。ゼナイダ女王の前夫の子であるアライア女王がイフリート公爵と結婚したことで、ナキアの覇権は完全にイフリート家に握られ、またアルベラ王女が生まれた頃に相次いで当主を亡くし、一気にその勢力を失った。
十年前に予想外の事態でユウラ女王が即位したが、しかしヴェスタ家の当主ヴィルジニオはまだ若年で、完全にイフリート家に首根っこを押さえられて、女王の父親の家が当然享受するべき何らの特権も行使することができなかった。今、ユウラの所生であるアデライードが、〈禁苑〉と帝国の後押しで女王位を要求するに及び、起死回生の最後のチャンスとして、権力の座への返り咲きを狙っているのである。その手段としてヴィルジニオが選んだのが、亡き侯爵の遺腹の子である妹、ベルナデットとアデライードの夫、恭親王との結婚であった。
アデライードが女王として即位すれば、慣例に従ってその夫君である恭親王が執政長官に就任する。しかし、東の皇子である恭親王はナキアに政治的基盤を持たない。そこにアデライードとベルナデットと、二重の婚姻関係を結んで、恭親王を共生関係を持とうという計画である。ヴィルジニオの考えでは、恭親王にとっても悪くないはずだった。
だが恭親王はアデライードの異母兄レイノークス辺境伯ユリウスと個人的にも親しくしていて、ユリウスはナキアのエイロニア侯爵の娘を妻にと薦めているという。ヴィルジニオが愚図愚図しているうちに、ユリウスは一歩も二歩も先んじてしまったのだ。
ナキアで思い悩んでいたヴィルジニオのもとに、太陽宮の僧侶となっていた叔父イスマニヨーラが、なんと恭親王の顧問に就任したとの報せが届き、ヴィルジニオは信じられない僥倖に、取るものも取りあえず、妹を連れてソリスティアまでやってきたのであった。
ヴィルジニオとしては、噂に聞く〈狂王〉であれば、我が妹ベルナデットの肉感的な美しさに抗うことはできまいと、妙な自信を持っていた。が、蓋を開けてみれば恭親王はどちらかと言えば線の細い美男子タイプの貴公子で、妖精のように可憐なアデライードを人目もはばからずに溺愛している。
一方、ベルナデットは事前に目にした細密画より、さらに美しい恭親王の美貌に目が釘付けであった。しかも、美しいだけでなく東の皇子としてソリスティア十万の兵を率いる地位と権力を有し、アデライード即位の暁には執政長官として西の女王国の政治の実権を握るのだ。美も、富貴も、権力も、全てを手にするこの男の妻の座を射止めれば、没落の際にあるヴェスタ家復興は間違いなかった。
(確かにアデライード姫は美しいけれど、まだほんのネンネじゃないの。女王の娘とは言え、父親は所詮、地方の辺境伯。ナキアの名門貴族のあたくしが、あの子に劣るわけないわ)
ナキアの貴族階級において、男児を生むことのない女王家の姫たちは、ある種、貴族家の格付けを示すお飾りでしかない。西の貴族層も男系継承だからである。始祖女王以来の四方辺境伯は爵位も家格も中央の侯爵家と同等のはずなのだが、ナキア中心主義に慣れ切ったベルナデットは、地方貴族というだけでレイノークス伯を見下していた。そしてそれだけに、落ち目になった自分の家を再興させることは、彼女自身のプライドとも直結していたのである。
アデライードの話によれば、総督は夜の営みには熱心であるらしい。ベルナデットは大貴族の令嬢として純潔は守ってきたが、自分が十分、男心をそそる色気を備えていると知っている。あんな痩せっぽちで貧相なアデライードなどに、自分が負けるはずはない。
ベルナデットは、恭親王を誘惑する手段について、考えを巡らせ始めていた。
しかし、ヴェスタ家の血を引く王女ユウラは先祖返りで〈王気〉が強く、まともな王女を生むことは期待できないと言われていた。ゼナイダ女王の前夫の子であるアライア女王がイフリート公爵と結婚したことで、ナキアの覇権は完全にイフリート家に握られ、またアルベラ王女が生まれた頃に相次いで当主を亡くし、一気にその勢力を失った。
十年前に予想外の事態でユウラ女王が即位したが、しかしヴェスタ家の当主ヴィルジニオはまだ若年で、完全にイフリート家に首根っこを押さえられて、女王の父親の家が当然享受するべき何らの特権も行使することができなかった。今、ユウラの所生であるアデライードが、〈禁苑〉と帝国の後押しで女王位を要求するに及び、起死回生の最後のチャンスとして、権力の座への返り咲きを狙っているのである。その手段としてヴィルジニオが選んだのが、亡き侯爵の遺腹の子である妹、ベルナデットとアデライードの夫、恭親王との結婚であった。
アデライードが女王として即位すれば、慣例に従ってその夫君である恭親王が執政長官に就任する。しかし、東の皇子である恭親王はナキアに政治的基盤を持たない。そこにアデライードとベルナデットと、二重の婚姻関係を結んで、恭親王を共生関係を持とうという計画である。ヴィルジニオの考えでは、恭親王にとっても悪くないはずだった。
だが恭親王はアデライードの異母兄レイノークス辺境伯ユリウスと個人的にも親しくしていて、ユリウスはナキアのエイロニア侯爵の娘を妻にと薦めているという。ヴィルジニオが愚図愚図しているうちに、ユリウスは一歩も二歩も先んじてしまったのだ。
ナキアで思い悩んでいたヴィルジニオのもとに、太陽宮の僧侶となっていた叔父イスマニヨーラが、なんと恭親王の顧問に就任したとの報せが届き、ヴィルジニオは信じられない僥倖に、取るものも取りあえず、妹を連れてソリスティアまでやってきたのであった。
ヴィルジニオとしては、噂に聞く〈狂王〉であれば、我が妹ベルナデットの肉感的な美しさに抗うことはできまいと、妙な自信を持っていた。が、蓋を開けてみれば恭親王はどちらかと言えば線の細い美男子タイプの貴公子で、妖精のように可憐なアデライードを人目もはばからずに溺愛している。
一方、ベルナデットは事前に目にした細密画より、さらに美しい恭親王の美貌に目が釘付けであった。しかも、美しいだけでなく東の皇子としてソリスティア十万の兵を率いる地位と権力を有し、アデライード即位の暁には執政長官として西の女王国の政治の実権を握るのだ。美も、富貴も、権力も、全てを手にするこの男の妻の座を射止めれば、没落の際にあるヴェスタ家復興は間違いなかった。
(確かにアデライード姫は美しいけれど、まだほんのネンネじゃないの。女王の娘とは言え、父親は所詮、地方の辺境伯。ナキアの名門貴族のあたくしが、あの子に劣るわけないわ)
ナキアの貴族階級において、男児を生むことのない女王家の姫たちは、ある種、貴族家の格付けを示すお飾りでしかない。西の貴族層も男系継承だからである。始祖女王以来の四方辺境伯は爵位も家格も中央の侯爵家と同等のはずなのだが、ナキア中心主義に慣れ切ったベルナデットは、地方貴族というだけでレイノークス伯を見下していた。そしてそれだけに、落ち目になった自分の家を再興させることは、彼女自身のプライドとも直結していたのである。
アデライードの話によれば、総督は夜の営みには熱心であるらしい。ベルナデットは大貴族の令嬢として純潔は守ってきたが、自分が十分、男心をそそる色気を備えていると知っている。あんな痩せっぽちで貧相なアデライードなどに、自分が負けるはずはない。
ベルナデットは、恭親王を誘惑する手段について、考えを巡らせ始めていた。
14
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳
どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。
一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。
聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。
居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。
左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。
かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。
今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。
彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。
怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて
ムーライトノベルでも先行掲載しています。
前半はあまりイチャイチャはありません。
イラストは青ちょびれさんに依頼しました
118話完結です。
ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる