おとぎ話 (ALPHAPOLIS)

Strayfox

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新しい人生

9-物語:丁寧に淹れたお茶

朝だった。ローズと俺の間ですぐに、ものすごくバタバタした空気になっていった。

「それは俺のものだ!」俺はローズに向かって怒鳴った。
「だから窓にケーキなんか置くなって言ったでしょ!」ローズも同じように怒って言い返してきた。

ここ数週間、ローズと俺の関係はまったくうまくいっていなかった。……でも気づいたんだ。誰かと本気で言い争ったのは、これが初めてだった。
本当のことを言えば、俺は誰にも本当の感情をぶつけたことなんてなくて、いつも端っこにいて、他の奴らより下に沈んでばかりだった。なのに、それなのに……結局、話は最悪な形で終わった。

「このバカ! 俺がいなかったら、その“児童性愛のヒーロー”にもう捕まってたぞ!」俺は怒りで言った。
「で、俺がいなかったらアンタは“鬱っぽいエモのヲタ”のままだったわ。俺に会わなかったら、たぶん絞めてたかもね」ローズは言った。

そこで、俺たちの言い争いは決定的に切り替わって――俺たちはもう話さないことにした。少なくとも、今週の残りまでは。

まあ、少し落ち着くために散歩に出た。すると、いつも通り町の人たちは俺を指さして、俺の悪口を陰で言ってくる。
最近は気にならないはずだったのに……それでも、こんな不機嫌な顔で外に出たのは初めてだった。

「悪魔みたい……魔法のないガキ、何があったんだろ。どうせリューガに見捨てられたんだよ」
人々がそう囁き続けていた。

……正直、変な感じがした。初めてなのだ。俺のことを傷つけるような言葉を誰も口にしない。むしろ、みんな俺を怖がっているみたいだった。

水たまりに映った自分を見て、俺は気づいた。人が怖がっている理由が。
不機嫌そうな顔が、変な種類の悪魔みたいに見えるんだ。……まあいい。俺はそのまま歩き続けて、ダンテに出くわした。

ダンテは子どもの頃からいつも俺をいじめていた。でもリューガはいつだって守ってくれた。

「おい、カラス野郎!」
俺は聞いたことのない言葉が口から勝手に出た。
「“親友”に捨てられて喚いてるらしいな。しかも町の人まで怖がらせてる。新しい“町の守り手”だかなんだか知らないが、俺がてめえの居場所を作ってやる」

そいつらは乱暴に殴ってきて、ゴミだらけの路地裏に投げ飛ばした。
そして、まるで人間の屑みたいに吐き捨てた。

「またこの顔を見せたら、もっとひどい目に遭わせる。呪われた化け物め!」

俺はこういう扱いには慣れていた。……あるところまでくると、もうどうでもよくなる。
そのあと大雨になって、俺は家に帰ることにした。

「ローズは考え直して謝ってくれればいいけどな」
そう思った。正直、もう最初の友だちであるローズを怒り続けたくなかった。

でも、ふと路地裏のほうから何か聞こえた。

「助けて!」

路地の奥で、路上の犬に襲われている女の子の叫びだった。俺は駆けつけて、犬を呼ぶために口笛を吹いた。すると犬たちは言うことを聞いて、落ち着いた。

「大丈夫、大人しくしろ」

女の子は言った。

「リードつけてあげなよ。人を襲いちゃうでしょ」

「違うよ。俺の犬じゃない。路上の動物は、少なくとも人間よりずっと優しくしてくれる」
そう言った。

すると彼女は返してきた。

「わかるよ。あなたは魔法がない。マナを感じないもの。……それでも、助けてくれて本当にありがとう!」

彼女はやたらと大声で叫ぶ。俺は知ってる誰かを思い出した。……まあいい。

助けたお礼に、彼女は俺をお茶とアイスに誘ってくれた。
彼女はチェリー味を頼み、俺はダブルの○○味を頼んだ。

普段は人に軽く見られたり馬鹿にされたりするのに、彼女は丁寧に接してくれた。アイスも異常なくらいおいしい。ここは町でも屈指の名カフェだったからだ。

正直、ここに来るのは初めてだった。……と言っても、この店のアイスを食べたことがないわけじゃない。
子どもの頃、リューガと俺はここでよくアイスを食べていた。俺はいつも外で待たされていた。というのも、店の主人が絶対に入れてくれなかったからだ。
俺を劣った存在みたいに扱う。

でも今日は例外だった。彼女が店の主人と仲がいい友だちだとしたら、納得できる。
それでも主人は俺を横目で見続けている。視線がまるで裁くかのようだった。他の客も同じだった。称賛の目じゃない。むしろ、“犯罪者みたいな目”で品定めしている。

……でも、彼女が隣にいる間だけは、何も言えないみたいだった。

「ねえ、魔法なしの坊や。雨の中で何をしてたの?」
彼女が聞いてきた。

「友だちと喧嘩してさ。落ち着くために町をぶらぶらしてた」
そう答えた。

(くすくす笑い)
「表情豊かって感じじゃないね。変なエモっぽい。しかも髪も変だよ。髪型が変なんじゃなくて、色が二種類あるもんね」

からかうみたいに言って、ちょっと笑う声が――リューガを思い出させた。

「生まれつき、ってやつだと思う。最近いろいろあって……変わった気がするんだ。新しい経験もして、でも……自分がちょっと変な感じがする」

彼女は俺の手を取って、やわらかい声で言った。

「人は成長すると変わるの。そんなの、変じゃないよ。いいことでも悪いことでも、経験っていうのは少しずつ人を育てて、形を変える。少なくとも、それが人間ってものじゃないかな」

「……距離が近い!」

よく見ると、彼女はとても綺麗な女の子だった。肌は絹みたいだ。
普通の服を着ているのに、服の選び方と組み合わせ方が上手くて、すごく上品に見える。しかも礼儀正しいのが分かる。

「この気持ちは……呪いみたいなもの?」

彼女の目は……きれいすぎる。

「顔、真っ赤だよ。かわいい」

この気持ち……いや、違う。愛とか言うな。ありえない。
「愛じゃない! あ、いや! ちが……!」

こんなふうに感じたことのある女の子は、みんな最悪なやり方で俺を拒絶してきた。

……待って。ローズは?

考えてみると、ローズとの間に“恋っぽい”瞬間はたくさんあった。
でも少し振り返ると、ローズに対する気持ちは、主に欲望だった。

「俺、クローゼットの変態じゃん……!」
しかも最悪なのは、否定する気すらないことだった。

「ふふ……雨も止んで、やっとお茶が来たね」

彼女はお茶を見てすごく嬉しそうだった。まるで新しいおもちゃをもらった子みたいに。

「正直、俺はお茶って得意じゃない」
俺が言うと、

「楽しみ方を知ればいいの」

結局、彼女の言う通りにして、俺はお茶を飲もうとした。香りは最高で、母さんが家で育てている薬草を思い出す匂いだった。だから少し飲んだ。

「くそっ! 熱っ! 舌が焼けた……!」

彼女は大笑いした。まるでコメディの舞台みたいに。

それから笑いながら言った。

「飲む前にふーって吹きなよ。あと、お茶は一気に飲むんじゃなくて“すすって”飲むんだよ」

そのあともしばらくからかわれたが、ようやく落ち着いた。
店の主人は俺を追い出した。理由は「うるさくて客の迷惑だ」ってことだった。
……まあ、入ってきた瞬間から出したかったのは明らかだったけど。

「本当に、あなたと過ごせてよかった」
彼女は言った。

「……本当? ほんとに?」
俺は驚いて聞いた。

「うん」

彼女はやさしい目で俺を見てくる。心臓がずっと、ドキドキしていた。

「ほんとに、彼女は綺麗だ。魔法がないって知ってるのに、あんなふうに優しくしてくれるなんて……」

俺はその午後ずっと彼女と一緒に町を案内した。
どうやら彼女が知っているのは、さっき行ったカフェくらいだったらしい。
そのカフェが有名だから、別に驚くことじゃない。

俺は、今まで誰にも入れてもらえなかった場所にいくつも連れていった。
まるで彼女と一緒にいる間は、誰も俺に何も言えないみたいに。

「すごく楽しい午後だったね」
彼女が言う。

「うん」

本当に、俺がいつも通りじゃない感じがした。

最後に、俺が誰よりも入れないとされた場所へ行った。
――ナツメさんの古い本屋。

ナツメさんは少し気難しいおじいさんで、たくさんの猫を飼っていた。
座右の銘は「払うなら歓迎する」だ。

正直、リューガと母さん以外は、魔法がないことを責めたことなんて一度もなかった。
金さえ払えば、あとはどうでもいい人なんだろう。
しかも俺は、この店で買い物をする唯一の客だった。

彼女はふと、窓際のガラスケースに飾られている一冊の本に目を奪われた。子どもみたいな目で見つめている。

「その本、好きなの?」
俺が聞くと、

「大好き。私の一番のお気に入り」

それは、みんなに拒まれていた“蜘蛛姫”の話だった。
でもある日、王子がやって来て彼女に恋をした。
偏見のせいで苦労しながらも二人は愛のために戦って、そして幸せに暮らした――そういう話。

彼女がそんなに嬉しそうに本を見ているのを見て、俺は買うことにした。
少しだけ貯めていたお金で。

「本当にありがとう!」
彼女は世界の全部みたいな笑顔で言った。

「どういたしまして」

正直、彼女の笑顔を見られた時点で、俺にとっては十分な“お礼”だった。

そして彼女は少しだけ微笑んで言った。

「本当に……プレゼントをもらうのは初めてなの。大切に、大事にするね」

「……その笑顔で、俺は完全にやられた!」

もしかして、彼女は俺に呪いでもかけたのか?

正直、楽しかった。けど同時に落ち込んだ。
だって彼女のそばにいられるなんて、俺には無理だ。

リューガの友だちだったのも、偶然に近い。
ローズの件だって同じ。
ここまで俺は運がよかった。でも、いい運は永遠じゃない。

そのうち、俺は完全に一人になるのかもしれない。

彼女は俺の顔を見て、聞いてきた。

「ねえ、どうしたの? なんで急にそんな寂しそうな顔になるの?」

「……最近、うまくいきすぎててさ。でも、俺の人生はずっとクソみたいだった。だから最近、変えようって決めたんだ。でもさ――今までの運が消えたらどうする? 俺が思い描くものを一度も手に入れられなかったら?」

怖い。
この世界では魔法の力が支配してる。俺にはない。
魔法がないってだけで、これまでの人生は何度も選択肢を奪われてきた。

「……俺はずっと、役に立たない臆病者のまま、哀れだって言われ続けるのかなって……」

「たしかにね。でも、あなたは“哀れで役に立たない”みたいには見えないよ。今日はあなたと一緒にいて、すごく楽しかった。私にとってあなたは、すごくいい人だと思う」

「努力すれば何でもできるっていう人もいる。でも、魔法の力が一番強い人でも限界はあるの。魔法がないってことは、たしかに機会を奪ってしまう。でも、それでも前に進もうとすることは間違いじゃない」

「結局あなたは人間でしょ?」

「……そうだ。俺、ずっと忘れてた。俺は人間なんだ。欲しいものがある。夢がある。どんな底の底に落ちたとしても、人間は目標を掴もうとして、望みを追いかける」

「じゃあ、君の夢は?」

「普通の生活がほしい。魔法がなくても、自分が望むことを全部掴める生活。誰にも、俺の願いも夢も奪わせない生活」

「いい夢だと思う。でも、前の生活は普通じゃなかったの?」

「前の生活が普通じゃなかったのか?」

……そうか。本当に、俺の前の生活は普通だったのか?

夜は寝る場所があった。少し不在がちだったけど、母さんは俺を無条件で愛してくれていた。
それからリューガがいた。いつも俺を支えてくれる友達。

質の高い生活ではなかったけど、食卓には三食あった。いつもお金に余裕があったわけじゃない。それでも俺たちはそれなりに暮らしていた。
基準によっては、前の俺の生活は“普通”だったのかもしれない。あるいは、俺がそれで満足してただけかもしれない。

学校教育を拒まれたけど、俺はそれでも文字の読み書きは覚えた。
礼儀も学んだ。数学も、歴史も、いろんなことも……全部、自分で。

それでも社会は俺を拒んだ。社会の基準に合わないから。
でも俺は悪い人間じゃなかった。

「……でも、そんな社会に属したいの? 人の考え方を変えるべきなの?」

魔法のない少年がいる物語――そういう漫画では、最後には主人公が最終的に世界を変える。でも現実は違う。社会はそんな簡単に変わらない。

「じゃあ、“普通”って何だ? 世界で普通ってなんだ? 社会が押し付けるもの? それとも、俺たちが日常で自然に感じるもの?」

――答えがない、完全な迷路だ。

「前の生活は、普通だった気がする」

「でも、それでも…」

「それでも……」

「それでも、俺は……どんなことがあっても、あきらめずに進みたい」

彼女は少し笑って、でも優しい笑顔で言った。

「いいよ。運がつくといいね」

「……」

「ほんっとに、ありがとうございます」

「最初は小さい目標を決めてみたら? それから少しずつ難しくしていって、最後に“ラスボス”まで行くの」

「……それ、いい助言だ」

「そう。ありがとう」

彼女は別れて去っていった。名前を聞き忘れた。けど、いつかまた会える気がする。
彼女の顔は忘れない。

俺は彼女のことを考えながら、ゆっくり家へ向かった。
言葉は俺を励ましてくれた。どんなことがあっても、俺は目標に向かって進む。――でも家に着いて思い出した。

「俺の人生は呪われてる……」

「ようこそ、カラスくん」

家に入った瞬間、母さんが床に倒れていて血まみれだった。
そしてローズは、ばらばらにされていた。

あまりの惨状に、俺は完全に固まった。

「……一体、こいつは誰だ? なんで俺の家にいる?」

「大丈夫。誰も死んでない」
「でも、放っておいたら母さんは出血してしまうかもしれない。庭にある薬草で治療できるよ。品質もかなり良さそうだ」

「……自己紹介がまだだったね。俺はJ.F.。Starshipのリーダーだ。俺の主は部下が次々と倒されるのに飽きてね。だから俺を“薔薇の魔女”のところへ向かわせた」

「なあ、君はレオだよね?」

「どうやら共通点があるらしい。俺は占い――星座占いが得意なんだ」

彼は丁寧で親切そうに全部を話していた。礼儀正しい“いい人”みたいに。
でも俺は、やったことを見て――こいつがただの狂人だと気づいた。

「下がれ! 未来の王が来た!」

……さらに最悪な狂人が現れた。

「俺の名は世界中に知れ渡る! 俺こそ偉大な存在! 素晴らしい存在! 真の未来の“最高の王”――俺はシノウ!」

…………

「こいつ……Link Parkと一緒に働いてる奴じゃないか。マジで、あのクソ野郎が助けに来たのか?」

続く……
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