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強者討伐 失われた武器
277 ひとときの時間 2
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「おっと、危ないな」
「背筋を伸ばしてください、足を踏むことを気にされるよりも感覚を思い出してください」
メアリの足を俺が踏むわけ無いだろう。
「ありがとうございます」
ある程度踊ると、メアリからパメラへと変わる。
「次は私の番ですよ」
「はいはい、分かったよ。お嬢様」
俺たちが踊っていると、隣にやって来たロイとスミアが自慢げな顔を浮かべて俺を挑発してくる。
何時覚えたのかわからないが、ごく自然にそれでいて優雅なステップを踏んでいる。
そんな二人を見て、パメラはクスクスと笑っている。
「あらあら、アレスさんはロイたちに比べてかなり見劣りしますね」
「な、何だと?」
パメラの挑発に誘われるがまま、おぼつかない足取りは少しだけ昔を思い出させていく。
メアリのときに比べて少しマシに思えるが……それでも、ロイたちに負けるとは思いもよらなかった。
「ありがとうございました」
ミーアが手を差し出して待っている。
その手を取り俺たちは軽く頭を下げる。
「それでは、アレス様。よろしくお願いします」
「お手柔らかに頼むよ。ミーア」
さっきよりもゆっくりとしたステップを踏むミーア。
きっと俺に合わせてくれるのだろうな。こんな時間も悪くはない。
今の俺達にはこんな時間が必要なんだろう。
これまでのことを少しだけの間、何もかもを忘れ今の時間を皆で楽しむ。
周りに居た人達は居なくなり、誰もが俺の拙いダンスを見ているようだった。
「ミーア、その……言い忘れていたが、よく似合っている」
これは、この場に流れる雰囲気のせいだろ。
メアリもパメラも侍女たちのおかげで、その美しさが一層華やかなものに変わっている。
それはミーアも当然のことだけど……でも、何かが他の二人に比べて違って見えるのは、そういう気持ちを持っているから、そう思えるのだろう。。
「綺麗だよ」
「アレス様!」
何を思ったのか、ミーアが俺に飛びついてきたことでバランスを崩して倒れてしまう。
胸に顔を埋める頭を撫でてやると、嬉しそうな顔をしている。のだが……視線を上げると、さっきまでの美しさは何処に行ったのか、笑顔にも関わらず沈黙の重圧がかかってくる。
「ミーア離れてくれ、起き上がれないから」
「だめです。もう少しだけこのまま居させてください」
そうは言うが、お前の後ろには睨みを効かせてくるご令嬢がいるんだよ。
一向に離れないミーアを抱きかかえて、魔法を使うゆっくりと上昇していく。
「わっ」
「まったく、いきなり飛びつくなよ」
残念がると思ったが、ミーアはスカートを広げ膝を折っている。
俺もそれに習い、右足を下げ右手を胸に当て少しだけ頭を下げる。
「それでは、次は私の出番ですわね」
隣から聞こえてくる声に、ポーズを取ったまま動けないでいた。
何でよりにもよってここで姉上と踊らないといけないんだよ。
俺は、ミーアの手を取ってこの場から離れる。
「あ、こら! 待ちなさい!」
そのままミーアを抱えて外へ逃げだした。こんな事で、諦めるような姉上じゃない。
冬ということもあってかなり冷えている。エアシールドを展開し、ミーアに上着をかけてやる。
「ありがとうございます。ですが、踊って差し上げればよかったのではありませんか?」
姉上の場合、俺のダンスを見て指摘のオンパレードなるのが目に見えている。
ミーアを連れ出したことで、追いかけてこないだろうけど……他の二人にはなんて説明をしたものか。
少しの間だけ、逃げたっていいだろ?
「ミーア、少し触れるがいいよな」
少しだけ目を見開くと、頬を赤らめて小さく頷く。
体を抱き寄せて、上空へ上がっていく。
ローバン家を取り囲む壁の外にはアルライトの街に灯った明かりが見えるが、昔の記憶に残っているものと比べ、その数はかなり少なく弱い光。
だけど、今の俺にとってはここが一番見慣れた場所に感じていた。
子供時代をここで過ごし、ダンジョンで戦いに明け暮れ、帰ってくるたび何度も見てきた所だ。
今は笑顔を見せる彼女は、それまでの間どんな顔をしていたのかを考えると俺はやはり間違っていたのかも知れない。
それなのに、俺は隣りにいる女性につらい過去を与えていた。
俺という異質な相手でも、短い時間の中で、色んな表情を見せてくれた。
そして、何度も泣かせてきた。
これからは……この先、俺は、この笑顔に何処まで向き合えるのだろうか?
「背筋を伸ばしてください、足を踏むことを気にされるよりも感覚を思い出してください」
メアリの足を俺が踏むわけ無いだろう。
「ありがとうございます」
ある程度踊ると、メアリからパメラへと変わる。
「次は私の番ですよ」
「はいはい、分かったよ。お嬢様」
俺たちが踊っていると、隣にやって来たロイとスミアが自慢げな顔を浮かべて俺を挑発してくる。
何時覚えたのかわからないが、ごく自然にそれでいて優雅なステップを踏んでいる。
そんな二人を見て、パメラはクスクスと笑っている。
「あらあら、アレスさんはロイたちに比べてかなり見劣りしますね」
「な、何だと?」
パメラの挑発に誘われるがまま、おぼつかない足取りは少しだけ昔を思い出させていく。
メアリのときに比べて少しマシに思えるが……それでも、ロイたちに負けるとは思いもよらなかった。
「ありがとうございました」
ミーアが手を差し出して待っている。
その手を取り俺たちは軽く頭を下げる。
「それでは、アレス様。よろしくお願いします」
「お手柔らかに頼むよ。ミーア」
さっきよりもゆっくりとしたステップを踏むミーア。
きっと俺に合わせてくれるのだろうな。こんな時間も悪くはない。
今の俺達にはこんな時間が必要なんだろう。
これまでのことを少しだけの間、何もかもを忘れ今の時間を皆で楽しむ。
周りに居た人達は居なくなり、誰もが俺の拙いダンスを見ているようだった。
「ミーア、その……言い忘れていたが、よく似合っている」
これは、この場に流れる雰囲気のせいだろ。
メアリもパメラも侍女たちのおかげで、その美しさが一層華やかなものに変わっている。
それはミーアも当然のことだけど……でも、何かが他の二人に比べて違って見えるのは、そういう気持ちを持っているから、そう思えるのだろう。。
「綺麗だよ」
「アレス様!」
何を思ったのか、ミーアが俺に飛びついてきたことでバランスを崩して倒れてしまう。
胸に顔を埋める頭を撫でてやると、嬉しそうな顔をしている。のだが……視線を上げると、さっきまでの美しさは何処に行ったのか、笑顔にも関わらず沈黙の重圧がかかってくる。
「ミーア離れてくれ、起き上がれないから」
「だめです。もう少しだけこのまま居させてください」
そうは言うが、お前の後ろには睨みを効かせてくるご令嬢がいるんだよ。
一向に離れないミーアを抱きかかえて、魔法を使うゆっくりと上昇していく。
「わっ」
「まったく、いきなり飛びつくなよ」
残念がると思ったが、ミーアはスカートを広げ膝を折っている。
俺もそれに習い、右足を下げ右手を胸に当て少しだけ頭を下げる。
「それでは、次は私の出番ですわね」
隣から聞こえてくる声に、ポーズを取ったまま動けないでいた。
何でよりにもよってここで姉上と踊らないといけないんだよ。
俺は、ミーアの手を取ってこの場から離れる。
「あ、こら! 待ちなさい!」
そのままミーアを抱えて外へ逃げだした。こんな事で、諦めるような姉上じゃない。
冬ということもあってかなり冷えている。エアシールドを展開し、ミーアに上着をかけてやる。
「ありがとうございます。ですが、踊って差し上げればよかったのではありませんか?」
姉上の場合、俺のダンスを見て指摘のオンパレードなるのが目に見えている。
ミーアを連れ出したことで、追いかけてこないだろうけど……他の二人にはなんて説明をしたものか。
少しの間だけ、逃げたっていいだろ?
「ミーア、少し触れるがいいよな」
少しだけ目を見開くと、頬を赤らめて小さく頷く。
体を抱き寄せて、上空へ上がっていく。
ローバン家を取り囲む壁の外にはアルライトの街に灯った明かりが見えるが、昔の記憶に残っているものと比べ、その数はかなり少なく弱い光。
だけど、今の俺にとってはここが一番見慣れた場所に感じていた。
子供時代をここで過ごし、ダンジョンで戦いに明け暮れ、帰ってくるたび何度も見てきた所だ。
今は笑顔を見せる彼女は、それまでの間どんな顔をしていたのかを考えると俺はやはり間違っていたのかも知れない。
それなのに、俺は隣りにいる女性につらい過去を与えていた。
俺という異質な相手でも、短い時間の中で、色んな表情を見せてくれた。
そして、何度も泣かせてきた。
これからは……この先、俺は、この笑顔に何処まで向き合えるのだろうか?
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