コミュニティーサバイバル 〜生き延びた先に待つコミュニティーで追放されぬよう、本日も強制労働に心臓を捧げる日々〜

アモーレ ポン太

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無能生産者編

第27話 赤い恥

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「大将のどが渇いちゃった。お冷三人分ちょうだい」





「へい!かしこまり!」





 そのバーテンダーの男は、水を取りに行った。高級そうなスーツを着ているのに、どちらかというと大衆酒場を経営している人の種類の口調になっていて、この大人な雰囲気を醸し出しているバーの店内に似つかわしくない感じがした。そのこともあって、ますます大衆酒場の大将といった感じがプンプン漂ってくる。





「ミーヤーは今日も飲みまくるのかい?」





 カウンター越しに大将がそう聞いてくる。





「もちろん!今日も飲みまくるよ~」





「本当にほどほどにしてよねミーヤー・・・あんたいっつものんだくれちゃうからさ~」





 ペトラルカさんは眉を八の字にして、困り顔をしつつそう言った。これからしばらくこういったガールズトークが、自分をワンクッション間に挟みながら繰り広げられていくなんて、本当にたまったものではない。



 ほどなくして、自分たちの前にお冷三人分が運ばれてきた。





「へい!はまち!お冷三人分!」





 クソしょうもないギャグなのか、ギャグでないのかわからないほどの微妙なラインのボケをかましてきた大将。



 当然のことながら、ミーヤーとペトラルカはその大将の渾身のギャグを華麗にスルーした。彼女らの表情には何の変化も読み取れなかった。自分もくすりともしなかった。





「さあさあ今回はなににするんだい?」





 先ほど大いにすべったことを引きずるそぶりを見せることなく、大将は注文を聞いてきた。





「まずはテキーラを2つ!わたしとペトラルカの分、持ってきて!」





「かしこまり!テキーラ2杯!」





「ちょっと!テキーラなんて飲めないって!大将、わたしはバーボン1つで!テキーラはなし!」





「かしこまり!じゃああとはそこの兄ちゃん!なににするんだ?」





「えっと・・・」





 まずい!お酒なんて何にも知らないから、酒の銘柄とかその種類とか何一つわからない!どうしよう!何も言えねえ!



 そもそもテキーラとバーボンの名前すらしらん!普段酒を飲まないから余計わかない。





 だからと言って、このままだんまりを決め込むわけにもいかない。くそ!今なんかパッと思いついた飲み物を言っていくしかない。



 そう心に決め、ベルシュタインはある飲み物の名前を口にした。





「じゃあ・・・自分は、ミルクで・・・おねがいします」





「はいはいミルクね。・・・・へっ?ミルク?」





 そのバーテンダーの男は、ミルクと言った瞬間なぜかあっけにとられた顔をしていた。





 あれ?自分何かまずいことを言ったのか?お酒に関して何一つ詳しくないため、見当もつかない。





 ふとミーヤーとペトラルカの方を見てみた。





「ブッ!」





「ぶはー!」





 2人はすでに口に含んでいたお冷を盛大に吹き出しており、腹を抱えて笑っていた。





「ミルクって、君はガキンチョかよ!!」





「酒場でミルクを頼む人なんて、見たことないよ~!」





 2人にとって、自分がミルクを頼んだのはよっぽど変なことだったらしい。予想だにしていないところで赤っ恥をかいてしまった。



 ・・・・ますますこの場に居ずらくなってしまった。もうすぐにでもこの場から立ち去りたいとますます思ってしまった。





「でもミルクあるっちゃあるぜ?」





 大将は2人が腹を抱えて笑っているところで、そう一言添える。





「「あるの!?」」





 2人して見事なまでにハモった。





「カステラおばさん牧場直送の新鮮なミルクがある」





「衝撃だわ~大将・・・」





 なんどもこの酒場に通い詰めているであろうミーヤーもそれを聞いてびっくりしていた。





「だったらわたしも、ベル坊やくんと同じやつ飲みたい!」





 ペトラルカはさきほどの大将の一言を聞いて、その牛乳を飲みたくなってきたようだった。





「ならわたしも!それ頂戴!」





 ミーヤーもペトラルカに続いて、同じものを注文する。





「かしこまり!かしこまり!他は何を頼むんだい?」





「そうだな~。じゃあ今日も大将の一押しのあれで頼むよ」





「かしこまり!今日の一押しは、同じくカステラおばさん牧場からの産地直送、ヒツジのラム肉だ!」





「ばっちし!それで頼むよ!」





 ミーヤーはヒツジのラム肉と聞いて、目を輝かせる。ペトラルカも羊肉と聞いて、その瞬間からよだれが止まらなくなったようで、口元からだらだらとあふれだしていた。そしてそのよだれを手で拭って、じゅるりと舌なめずりをしていた。





「はいよ~。じゃあその前にドヨルドチップを頂こうか。合計1500チップね」





 ドヨルドチップといった無能生産者の自分に取って、聞き覚えのない単語が飛び出してきた。ドヨルドチップ?このコミュニティーで出回っている貨幣のことだろうか。



 おそらくそのドヨルドチップとやらを支給されているのは、有能生産者のミーヤーとペトラルカとこのバーテンダーの大将だけだ。この場においては。





 当然自分なんかがそんな手持ちがあるはずもなかった。払えっこない。



 さすがに金持たずの自分がここに居るのはふさわしくない。無能生産者であることもそれに拍車をかけている。ここは有能生産者が出入りを許される場所。金もない、身分もない人間が居座ってもいい場所ではない。だから今度こそは本当にお邪魔して、ここから立ち去らなければならなかった。





「すいませんミーヤーさん」





「どうしたのベル坊?」





 いつの間にかミーヤーさんの自分の呼び方が君から、ベル坊と変わっていた。是非ともやめてほしいものだが、そうも言ってられない。自分が無能生産者であり、ドヨルドチップなんてモノを持っていないため、ここで食事をすることさえ出来ないといったその旨を伝えた。



「そういうわけで、お暇させてもらいます。大変申し訳ないです」





 この場から立ち去る正当な理由ができて、内心ほっとした。しかしこの人達と自分とは相いれない関係であるのだとまたしても思い知らされ、すこし悲しかった。



 せっかくこうして2人に出会って、何一つ満足できるほどの話はしてなかったが、それでも一言、二言でもお互いしゃべることができてよかった。



 本当ならば、もうすこしだけこの場に居たかったが、それもかなわないらしい。内心悔しかったが、コミュニティーにおける最底辺な無能生産者である以上、仕方がなかった。





 そうして自分はもどかしい思いを抱きつつ、席を立とうとした。するとミーヤーはそれを見て、席を立たせまいと、彼の頭をポカリと叩き、そして次のことを言った。





「おっけい!そういうことなら今日は無礼講だ!ペトラルカとベル坊の分まで全部わたしのおごりでいいよ!」





「えええ!そんなの悪いよ!なにもわたしの分まで払わなくていいのに」





「いいのいいの。急遽路線変更!今日はわたしがみんなの分までおごるよ~」





「ダメダメダメ~!わたしは意地でも自腹で払うからね!大将これわたしの分です。受け取ってください」





 ペトラルカはそう言うと、懐から自分の分のドヨルドチップをカウンターに置いた。





「いいのいいの!ペトラルカ!わたしが払うって言ってるんだから!」





「そんなのダメ。どうせ今日も結構飲むんでしょ?全部おごりで払うってなったら、ミーヤーのチップなくなっちゃうよ」





「いいのいいの!わたしこう見えて、ちょっとした小金持ちならぬ、ドヨルドチップ持ちなんだから!心配しなくていいの!」





 ミーヤーはそう言って、大将の前に差し出されたドヨルドチップをペトラルカの前に戻した。





「でもでもでも!ミーヤーがそうはいっても、わたしは引き下がらないからね!」





 対するペトラルカも一向に譲らない。よほどおごられるのが嫌なのか、ミーヤーに戻されたチップを再び大将の前に置いた。





「だから~いいって言ってんの。しつこい金髪娘なこと!」





 そうしてミーヤーはまたその差し出されたチップをペトラルカの前に戻す。





「このわからずやのミーヤー!わたしはおごりなんて結構だからね!」





 この夫婦漫才みたいな展開が自分を間に挟んで行われているため、大変困る。目の前ではひたすらチップの押し問答が繰り広げられていた。





「だからいいって言ってるの!」





「ダメったらダメ!」





 そのやり取りは永遠に終わりが無いように思えた。そこでそれを見かねた大将がついにそのペトラルカのドヨルドチップを受け取ってしまった。





「まあいいじゃないか、ミーヤー。ペトラルカはこう言ってることだし」





「あ~~ダメだって!大将!返してよ!そのチップ返してよ!」





 本来ならそのドヨルドチップはペトラルカの手で支払われたものなのだが、なぜかそれをミーヤー自身のものであると主張しだし、彼女はカウンターから身を乗り出して、強引にそのドヨルドチップを奪い去ろうとしていた。





「ちょっとちょっと落ち着いてくれよ、ミーヤー。乗り出してくるな」





 その行為に注意する大将。それを聞いたミーヤーは、





「・・・ごめんなさい。大将」





 素直にここは大将の注意を聞き入れ、おとなしく引き下がった。





 それを見届けてから大将は、その後そのドヨルドチップをあろうことか突然、ベルシュタインの座ってる目の前の席に手を伸ばし、そっとそれを置いたのだった。





「え?あの~これってどういう・・・・」





 その行動に不意を突かれた。彼は思わずその意図とするところを大将にたずねたのであった。





「このチップはお前さんの分だ。・・・えっと名前は?」





「えっと・・・ベルシュタインです」





「ベルシュタインか!ならこのチップはお前のものだ。受け取るといい」





 そういうと、大将はペトラルカの方に顔を向けた。なにか彼女にむかって目配せをして、何かしらの合図をおくっていた。



 それを見たペトラルカさんも同じく目配せをして返す。





「いいよベル坊やくん。これはわたしのほんの気持ちと言うことで、好きに使っていいよ」





 ペトラルカさんはそう言って、微笑みかけてくれた。





「う~~ん。まあこれはこれでありかな!感謝しろよ!ベル坊!この金髪美少女なペトラルカ直々にくださった賜たまわり物だからな!後生大事にするように!」





 ミーヤーもペトラルカに続き、そのように言ってくれた。





「ええ・・・ほんとにいいんですか?」





「いいよベル坊やくん」





「そうと決まれば、そのチップはさっさとズボンのポケットにでもしまっときな!今日はわたしが全部おごるから、それでお互いうらみっこなし!」





 まさか自分が無能生産者であり、みじめで差別的な存在であることを知ってもなお、ここまでのことをしてくれるなんて・・・思ってもみなかった。今まで親以外の人間にやさしくされたことのない自分に取って、これは筆舌に尽くしがたいほど、胸が温まる思いだった。





「ありがとうございます。お気遣い感謝します」





「硬いな~!全てにおいて硬い!もっと肩の力を抜いて!柔らかくな~れ」





 そんなことを言われても、とても肩の力をぬいて緊張を解くといったことは到底できそうに思えなかった。だがそれでも、何のとりえもない自分に対してこうも接してくれたこの女の子2人、それと大将にはなんとお礼を申しあげていいかわからなかった。





「じゃあ注文された品をさっそく用意してくるぜ!」





 そうして大将はカウンターの裏手にある厨房へと下がっていった。

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