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家族
1.おはよう来世
しおりを挟む「──っこほっ、けほっ……や、やったのか……?」
なんだか、幼い声が聞こえた。
女の子のようで、随分と可愛らしい声音だったが、声の主が遠いのか、声はしても何を言っているのか聞き取れない。
(……誰…だろう…?)
疑問に答えを見出だす前に、また幼い声が聞こえてくる。
「……むむむ、魔力反応による霧が邪魔でよく見えない……失敗したのか?いや、まだわからない。陣を視認する前に決めつけるには早計すぎる。」
何事かを呟いているのだろうが、やはり聞こえるだけで理解ができない。
頭がぼぅっとする。まるで熟睡していたところを無理矢理叩き起こされたような感じ。この状況も何も分からないのだが、分からなければならないという危機感が存在しない。
(……なんだが、身体が重い……?)
少しずつではあるが、ようやく脳が稼働し始めた。
深く暗い海の底から水面に向かって這い出していく感覚。全身に血が流れていることを理解し始めてくる。
「ん……ん?ん!!?いるのか!!まさか、本当に!?」
興奮した声が響く。コツコツコツと、気持ち早めの足音を鳴らしながら、少女がこちらに近づいてきた。
ヤバい──と脳が警鐘を鳴らす。あどけない声音の少女だとはいえ、知らない人間の目の前で寝ているという事実に戦慄を覚える。
更に焦燥を覚える状況として、俺の身体が上手く動かせないというのもある。理由はさっぱり分からないが、瞼が異常に重く、目を開けることすらままならない。
足音はどんどん近づいてくる。それに比例するように、焦燥と不安が高まっていく。
(なんだこれ、なんだこの状況!意味がわからない、はやく、はやく目覚めろよ!ちくしょう、俺どうやって今まで瞬きしてたっけ!?)
身体と気持ちの乖離に発狂に似た混乱を覚える。しかも──
(あぁ、クソッタレ!身体が重くて全く動かせねぇ!!)
全身に力を入れてみるが、少し震える程度で、動かせているというにはあまりにもお粗末だ。
そんな現実に焦燥と不安が頂点にまで達したとき、遂に足音がすぐ近くで止まった。
頭をよぎる「死」の文字が濃くなる。
俺の頭は、もう真っ白になり、動くこともない口を動かすようにわめき散らす。
(いやだ……何も知らないまま死ぬのはいやだ!こんなのはいやだ!)
駄々をこねる子供のように叫ぶ。誰にも聞こえることのない言葉を、醜く紡いでいく。
(これが運命だっていうならクソ食らえだ!!ふざけんな!責任者出てこいぶっ飛ばしてやる!!)
生前からよく神様に対して憎まれ口を叩いていたが、ここまで腹が立ったのは初めてだった。
怒りからか、脳が熱くなっていく。
(だってそうだろう、何もできず死ぬなんてごめんだ!)
頭の奥がチカチカする。ギリギリと、心なしか不穏な音まで聞こえてきた。
(抗ってやる……これは運命だから仕方ないだろなんて──)
それでも、叫ぶ。心の底から咆哮する。
(──諦めてなんてやるものか!俺は、俺は生きていたいんだ!!!)
バギンッと、鎖が砕かれたような音がした。
実際に耳に届いた訳ではなく、なんだか頭の中に直接響いたような不思議な感じだ。でも、それを気にする暇は俺には無かった。
何が変わったのかは分からない。ただ漸く、瞼が開いたのだ。今までが嘘だったかの様に、すんなりと。
しかし、飛び込んできた光景は想像を絶する異常なものだった。
そこには──
「初めまして!黒く小さい僕の隸属君!!君は、今日から僕の家族だ!!!」
──時代錯誤も甚だしい魔法使いのようなローブと帽子を被った、あどけない顔をした大きな大きな人間の姿があった。
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