かりそめの永遠ーアナタに逢えてよかった

てるる

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act1 蛍子の事情

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非常勤講師は、授業に来て、帰ればいいのである。

教員現役時代、蛍子は結構な修羅場をくぐっていた。

ひとさまに話すのも憚られるような異常事態である。
教員生活2年目にして初めて担任したクラスで、
素行不良の生徒を5人ばかり退学させた。
厳密にいえば、生徒たちが自主的に辞めたのであるが、
蛍子の指導が甘かったわけではない。
当時は己を責める気持ちもあったが、
辞めて数年経った今は自分の教員としての力量不足以上に、
彼ら自身が抱える課題があまりにも大きすぎたことを
冷静に受け止めている。
家庭で十余年たっぷりと肥え太らせた問題を、
学校が1年や2年で減量することなどできないのである。

ひとりは所謂出会い系サイトで知り合った男のところに
のこのこ出かけていって、
そこで待ち受けていた複数名にレイプされ、
もうひとりはタバコで謹慎中にバイク事故を起こし、
別のひとりは継父から性的虐待を受ける日常の中、
国語教師と不倫関係になり、残りのふたりは怠学で留年が決定し、
5人みんなそれぞれ何のあいさつもなく退学していったのだ。
(その国語教師はその後も何事もなかったかのように
平然として勤めをやめずにいた。
自分にも同じ年頃の娘が居るというのに!)

初めての担任。
年は10ほど違うだけだが、親になった気分で、
クラスのひとりひとりに心を砕き、愛情を注いできたつもりだった。
それをすべて否定され裏切られた思いで蛍子は失望した。
郊外の比較的荒い地域で子ども時代を過ごした蛍子ではあったが、
そこは国立大学に進学し教員免許などを取るくらいであるから、
いろいろと恵まれた環境であったことは否めない。
そのゲンジツを突き付けられたことで、
蛍子は少なからずショックを受けていた。
小柄で一見優しげな風貌ながら発声には力があり、
偶然、暴走族に取り囲まれた生徒に出くわして、
その場を収めるくらいの胆力はあったものの、
やはり乳母日傘なのである。

何はともあれ、そんな気丈なお嬢さん先生であったから、
蛍子にとっては、ひと月ばかりの非常勤講師など、遊びである。
久々の教壇復帰に胸をときめかせ、
中学校に毛の生えたような教科書を眺めながら、その日を待っていた。

来て、帰るだけの非常勤講師。

自分がリハビリするのに高い時給をいただいたうえ、
授業だけすればいいなんて、そんな夢みたいな話があるのだろうか。


夢じゃなかった。


いや、むしろ、夢であってほしい。
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