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act6 暗黒をとめたち
しおりを挟む少し濃い目の口紅を引き直し、蛍子は臨戦態勢に入った。
女子は同性に厳しいものであるから、女子生徒の女教師を見る目は
言うまでもない。
何事も最初が肝心。隙を見せたら、こちらがやられる。
たかが教室に行くのに、そんな鯉口を切った緊張感を
強いられることに苦笑いするのだが、しかし一方、
女同士の結びつきの固さというものも、
蛍子は知っている。
退学者は5人出したが、女子生徒の一部とは卒業後、
さらに親密なつきあいに発展している。
教師としては3年間でその関係性を終わらせて、
なお後に生きる教育を目指したい
と蛍子は思うのだが、卒業後はフラットに女同士として交流し、
あるいは女の先輩として頼られるのも悪くはない。
とはいえ、そんな幸運は、根本的に人間関係不全に陥っている
生徒たちの巣窟であるこの学校の、
わずか12日間で望むべくもないのだが。
来て、帰るだけ
たった45分で5000円
蛍子は自らを奮い立たせ、校内の案内表示に従い、
戦場へと向かった。
ロイヤルブルーのロングスカートは、袴のようにも見える。
袴なら股立ちを取りたいところだが。
廊下ですれ違う生徒たちの物珍し気な視線を受けながら、
教室の表示を目で追う。
ときどきある複雑な迷路のような学校とは異なり、
全校生徒数700名に満たないこの学校の、
ホームルーム教室がある校舎はひとつ。
シンプルに学年ごとに階が分かれていて、
2階の端に情報ビジネス科のクラスがあった。
通常どこの学校でも上階が若い学年になるのだが、
ここは1年生に一番手を焼くのだろう。
1階にある職員室に近いということは、恐らくそういうことだ。
始業のチャイムと同時に、口角を上げて、
入室した蛍子の目に飛び込んできたのは、
スナック菓子の袋、化粧品と体操服などがまき散らされた、
典型的に失敗した女子クラスの雑然とした有様。
おとなしげな子たちは最初からピクリともせずに席に着いている。
おとなしいだけで、覇気がない。
いかにもイマドキのチャラけたJK風体の生徒たちは、
居汚く机に腰かけている。
卒業したら即就職というクラスのメンバーとしては、
だらしなさすぎる。
1年生だから、まだやっと学校に通うことに慣れたくらいで、
指導がまったく入っていない状態なのだろうが、
恐らく半数が3年生まで残れるまい。
夏休みが勝負かな、と蛍子はいつになく冷淡にそう思った。
40人ほどの教室を見渡せば、名列順で並んでいる生徒の
出欠状態はわかるのだが、
人間同士の関係性を築くのに名前を呼ぶ大切さを知っているので、
わずか4時間ばかりのおつきあいではあるけれども、
袖振り合うも他生の縁、
と蛍子は名簿を取り上げ、フリガナを頼りに出欠を取った。
名前を呼ばれた生徒のうち、何人が社会性を持ったヒト科ヒト族、
ホモ・サピエンスに該当するのかは、不明であったが。
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