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act12 ギタリストの匠先輩
しおりを挟む蛍子は大学では軽音のサークルに所属し
キーボードを担当していた。
小池匠はサークルの1年先輩のギター弾きで、
キーボーディストとして1年生の蛍子を自分のバンドに
スカウトした。
蛍子は小学校に上がる前から大学受験まで
ピアノのレッスンを受けており、
そこそこ弾けたのでその腕を買われたのである。
匠の率いるバンドは、その筋では知らぬ者のいない有力バンドで、
メジャー・デビューの噂まであった。
蛍子はそのときは、凄腕ギタリストの先輩として尊敬する以上に、
匠のことを特に意識することはなかった。
髪こそはロッカーらしくプラチナ・ブロンドに染め上げているが、
いつも小ざっぱりとしたクラッシック・ギタリストのような
シックなファッションに身を包んでいること、
お互い日本人の平均的背格好で、
いろんなジャンルで音楽が好き、ということが共通項として
親しみを感じる程度であった。
目鼻立ちのくっきりしたきれいな顔をしていたことも、
蛍子の興味を殊更引くことがない理由のひとつだった。
後輩女子から、寡黙なイケメンの先輩として
絶大なる人気を誇っており、
蛍子が匠から直々にバンドに誘われたことは
少なからずやっかみを覚えられていた。
それに対応するのも面倒だったことから、
蛍子は必要以上に近寄らないようにもしていた。
そんなサークルの人気者である先輩と自分がどうこうなるなどと、
少女漫画かドラマのような甘ったるい夢を蛍子は見たりしない。
女子の中で目立たないように生きてきた自分には
脇役のほうが似合っている。
わたしなんか、誰の恋路の邪魔にもならないから、ほっといて!
そう蛍子は思っていた。
決定的事件が起きたのは、その年の冬、クリスマス会のときだった。
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