かりそめの永遠ーアナタに逢えてよかった

てるる

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act36 名前

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型通りに出欠を確認した。
今日は、たからが居ない。
見れば連続で欠席が続いている。
このまま退学するのではなかろうか。

たから、れみ、れいあ、りる、るしあ、あいら、じゅりあ、
ここな、りりな、るみか、くれあ、らいむ、えるな…

フリガナを目で追いながら、蛍子は頭痛がしてきた。

彼らのせいではないのだ。
そんなことはわかっている。
親なりに、愛情を込めてつけている名前には違いない。
だが、残念ながら知性が感じられない。
ただそれだけのことだ。

いつの時代にも、耳目に新しい名前というものがある。
ひとは保守的なものであるから、自分が慣れないというだけで、
白眼視するのはどうかと思う。

どうかと思う、が。

せめて、人名らしい、「夜露死苦」を連想しない
字を選んでほしいとは思う。
そして、読みやすいこと。

大いに余計なお世話ではあるものの、
名前には社会性というものがあるので、
関わらずにはいられない。

散歩に出るイヌのほうが、家で過ごすネコよりも
より名前らしいことを、蛍子は思い出した。


紫で「ゆかり」や、明を「はる」と読ませるのは
ゆかしい感じではあるが、
そういえば、医者の友人が、読めない名前の
子どもの罹患率の高さについて熱っぽく語っていたことがあった。
そういうネーミングセンスの親は、子どもの健康管理までもが
疎かになるということか。

困ったものだ。


自分の子どもには、シンプルな名前を付けよう

と、蛍子は思う。

教師アルアルで、生徒とかぶらないように
気をつけたいところでもある。


蛍子は、6月生まれだ。

生まれたときに、病室に蛍が1匹迷い込んできたから、
そこにインスピレーションを得たらしい。

名前の中に虫がいることを蛍子は嫌っていた。

せめてひらがなで「ほたる」にしてくれれば、
と、親を恨んだこともある。

しかし、「けいこ」というごく平凡な名前でも、
蛍のイメージが少し華を持たせてくれると思えば
悪くはない。
蛍の光は地味でかそけきものではあるが、
ひとの輪の中心で華やかに輝いているよりは、
ひっそりと闇夜に灯る感じが自分に
似合っている気がする。


黒板に、テキストを書き出していく間も、
よけいな考えが止まらないのは、完全に
現実逃避であろう。
頭の中がこんな状態でも不思議と、板書のミスはしない。


「匠」は、大工さんだったおじいちゃんが
付けてくれたんだっけ


その話を匠から聴いたとき、
「たくみ」でもカッコいいけど、「しょう」はちょっと
モダンだと思ったものだ。


女の子なら、「凜」だろうか

日本では男の子に付けることも多いけど、
英語ではLynneは女の子だ

「茉莉花」では、華やかすぎるけど、
Jasminと呼ばせられるのもいいかも

「マヤ」も響きがいいなあ
漢字は「摩耶」?




「…マヤ」


「…マヤだよね…」


とりとめもなく蛍子が妄想を繰り広げていると、
ぼそぼそと声が聴こえてくる。

一応蛍子が教壇に立っている間は、そこそこ
静かにしている。
それくらいの礼儀はわきまえているのだ。


「ノストラダムス?」

「マヤ暦」

と、ひそひそ語らっている声だった。



は?


人類滅亡の危機?


蛍子は耳を疑った。


そんなことをこの子たちは気にするのか!


地球滅亡の前に、このままではキミらが
滅亡するわ!!


蛍子は、膝から崩れ落ちそうになって、



もし人類が滅亡するようなことになったら、
NHKのニュースでやるでしょうよ


と、力のない声でつぶやいた。

彼らに聴こえるか聴こえないかという音量である。


急に空気がシンとしたので、不審に思い、
ゆっくり振り返ると、
37×2個の目が一斉に蛍子に注がれていた。

「眼力」というものがあるなら、そのとき蛍子は
明らかに背中に圧を感じたのだ。


その眼差しの真剣なことには瞠目したが、
何のレスポンスも期待することなく、蛍子は恬淡と続ける。


ノストラダムスのとき、キミら生まれてた?
何も起きなかったでしょ?


教室に安堵の空気が広がった。



そのとき、突如、
天啓に打たれたように蛍子は理解した。


この子たちは、子どもなのだ


それも、寄る辺のない、迷子の子どもたち。


よちよち歩きの子どもが、
不安に駆られ、胸に飛び込んでくるのを
抱きとめるような感触。
このときは、まだ蛍子は母ではなかったが、
身の内に湧き上がる母性を感じた。


この子たちは、ママを求めているのか

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