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第23話 銀狐、謝る 其のニ

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白霆はくてい……」


 眠っている白霆はくていを労るように手を伸ばして、そっと男の頭に触れてみる。手櫛で梳く髪は、とても手触りの良い上質な布のようだった。さらさらとして流れる薄青色は、清流に似ている。
 ふわりと。
 春の野原にある草花のような、瑞々しいのにどこか甘い、そんな香りがした。媚薬の熱に浮かされている時に、散々縋った香りだった。

 
(……ただこの男の香りが……)

 
 昔どこかで嗅いだ気がして、懐かしくて堪らなくなるのだ。

 
 「ん……」

 
 白霆はくていの目覚める気配に晧は、彼に気付かれないように髪から手を離した。
 しまった寝てしまったと言わんばかりに、彼が慌てて顔を上げる。
 視線が、合った。
 良かったと、吐息混じりの声で言う彼の銀灰の瞳が、途端に柔らかくなる。自分を思い遣る優しい眼差しに、とくりと胸が高鳴るのを、こうは身を起こすことでやり過ごした。

 
「もう、身体は大丈夫ですか? どこか辛いところや痛いところなどはありませんか?」

 
 優しい口調で話す白霆はくていの声にも、何故か心は翻弄される。大丈夫だと、安心させてやりたい気持ちが湧いてきて仕方がない。だがそれよりも先に、しなければならないことがある。
 晧は寝台の上で正座をしたかと思うと、白霆はくていに向かって頭を下げた。

 
「──済まなかった、白霆! 助けて貰ったというのに、あんな……!」
「や、やめてください。頭を……」
「いや、謝らせてくれ!」
「謝らなければならないのは、貴方を治療していたというのに……あんなことになってしまった、未熟な私です。本当に申し訳ございません」

 
 白霆はくていが頭を下げようとするのを気配で察した晧が、両腕を掴んで止める。
白霆はくていは悪くない!」
「ですが……」
「魔妖狩りの連中から俺を助けて、媚薬からも救ってくれた。身体はすっかり良くなった。ありがとう白霆はくてい、感謝する。銀狐は恩に報いる一族だ。何でも言ってほしい」
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