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第66話 銀狐、医生に会う 其の五

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「──っ!」

 
 こうは今度こそ言葉を失った。
 同時に疑問に思っていたこと、もしやと思っていたことがひとつの線に繋がった気がした。
 こんな高度な術を扱える者など、たったひとりしかいない。しかもその人物は晧が南に行くことを知っていたのだ。

 
(……俺を追い掛ける為に、危ないと分かっていて姿を変えたのか)

 
 しかも自分と対の紋様を消して、気配まで変えて。

 
「……なんで……」

 
 晧が茫然と白霆はくていを見ていると、麒澄きすみが大きくため息をつくのが分かった。そして寝台近くの卓子つくえに、鳥の形に折られた紙を幾つか置く。

 
「薬を飲ませて払ってしまえば、本来馬鹿弟子が持っている浄化作用が働いて、体調が一気に回復するだろうよ。だがもしもの為に『折り式』を置いて行く。何かあったら連絡しろ」

 
 そう言って麒澄が部屋の引き戸を開けようとした。

 
「……え……、帰る、のか」
「当たり前だ。無粋な真似はしたくないからな」

 
 晧を見ることもなく、麒澄が引き戸を開けて部屋を出ようとする。
 だが何かを思い出したかのように、晧の方を振り返った。

 
「ひとつ、土産話をしてやる」

 
 いきなり何を言い出すのか。
 晧が怪訝そうに麒澄を見つめる。
 だが彼は愉快だと言わんばかりに、質の悪い笑みを浮かべるのだ。

 
「俺のところに昔、ある餓鬼が突然弟子にして欲しいってやって来た。何でも自分の大事な人が、自分の所為で熱を出しているのに、何も出来なかったのが悔しかったんだらしい。俺の作った薬の飲んで、熱があっという間に下がったのを見て、医生と薬の知識を得たいと思った。何かあった時に今度こそすぐに助けたいと思ったと言っていたな。……ったくその『大事な人』って奴は愛されてやがる。そう思わねぇか? なぁ、晧」  
   
 
 
 
 
  
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