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第一部 嫉妬と情愛の狭間
第44話 悪戯の代償 其の一★
しおりを挟む低く掠れた艶のある声が、頭上から降ってきたと同時だった。
香彩が竜紅人の方を見る前に、彼の身体が香彩の下に滑り込んでくる。
いつの間にか竜紅人に乗り上げるような体勢になり、香彩は恥ずかしさのあまり頬を染め上げた。
目の前には竜紅人の顔がある。
寝起きとは思えないような表情で、楽しそうに、くつくつと彼が笑った。
「りゅ……起きて……た……?」
「いや、初めは寝てたんだけどな。お前がごそごそ動き始めた時に目が覚めた。……っても半覚醒だけどな」
竜紅人はそう言いながら、肩で引っ掛かってるだけになっていた、香彩の湯浴衣を落とすと、剥き出しになった白い肩に軽く歯を立てる。
「んっ……!」
「しかし……随分とまぁ、煽ってくれたよなぁ、かさい。まだ、足りなかったか?」
「違っ……んっ、ごめ……」
手首と腰の辺りで再び引っ掛かってる湯浴衣の中を、竜紅人の熱い手が進む。片方の手で胸の頂きを弄られ、もう片方の手で腰を括れを直に撫でられれば、それだけでもう身体は震え、ぞくりとしたものが背を駆け上がる。
「謝るなよ、かさい。謝るのなら、悪戯の責任、取ってくれないか?」
「りゅ……こ……と……っ!?」
腰の括れを撫でていた手が下がり、湯浴衣を捲り上げると、白桃のような臀部が外気に晒された。
非難の声を上げる暇もなく、双丘の割れ目に擦り付けるようにして上下に動くのは、既に硬くなった『悪戯の証拠』だった。
より擦り付やすくする為なのか、竜紅人が膝を立てる。
「やっ……ん、待っ……て、りゅ……」
先走りの蜜の所為なのか、彼が怒張を擦り付ける度に、ぬちゃりと卑猥な水音が聞こえて、香彩は無意識の内に頭を降った。
竜紅人は責任という言葉を使ったが、何を求めているのかは、一目瞭然だった。
臀部の割れ目に擦り付ける彼の雄が、時折蕾を掠めて、がくりと力が抜ける。最後に竜紅人と繋がった時から、それなりに刻が経っているというのに、硬い剛直が掠める度に、蕾は彼を求めてひくつくのが分かった。
そして香彩の陽物もまた、兆しを見せ始める。
(……昨日あんなにしたのに……)
再び全身で竜紅人を求めていることに気付いて、香彩はいやいやと頭を振った。
決して嫌悪の『いやいや』ではない。
だが今は戸惑いの方が大きかった。昨日にあれほど求め求められ果てたというのに、再び欲しいと思ってしまう自分が信じられなかったのだ。
僅かな抵抗とばかりに頭を振った香彩を、愛しそうに見つめるのは竜紅人だった。細められた伽羅色の優しい目付きに、香彩の心が高鳴る。
くつくつと笑い声を耳に吹き込まれて、香彩は身を捩った。
「俺の身体にあんないやらしい悪戯をして……これが欲しくならなったのか? かさい」
「──っ!」
白い双丘の狭間に、上下に大きく擦り付けるだけだった竜紅人の雄が、今度は的確に後孔だけを狙って、先端を押し付ける。
「……んっ、いやらしい悪戯なんて……ぁっ」
「よく言う。俺の手管を真似て、俺の身体に触れたのはお前だろう?」
思い出さなかったのかと、吐息のような声を耳に吹き込まれて、香彩は震えた艶声を上げた。
見透かされている。
決して欲を持って竜紅人に触れたわけではなかった。じっくり見て触れる機会が出来て、初めは興味本位に彼に触れてみたいと思っただけだった。
だが竜紅人に触れていく内に、思い出される彼の手付きや声、吐息や熱い体温。どんな風に自分に触れたのか、もしくはどんな風に自分に触れようとするのか、想像をしてしまって、身体が熱く疼いてしまったのは事実だった。
だが昨夜に猛々しいばかりの屹立を、腹の奥までこれでもかと受け入れたはずの蕾は、まるで男を咥えたことなどないと言いたげに、固く閉じたままだった。
そんな慎ましい蕾の様子に、竜紅人の雄は蕾を開花させようと、更に硬さを増していく。幾度も幾度も蕾と昂りの先端が、淫らな水音を立てて接吻を繰り返し、時には角度を変えて突くが、秘口と鈴口との間に卑猥な糸を引くだけで、蕾は開こうとしなかった。
その剛直が欲しいと、奥まで埋めて欲しいと思う反面、香彩の心内はまだ、理性と戸惑い方が勝っていたのだ。
昨日、あれほど竜紅人を求めて与えられたというのに、竜紅人に触れて、彼の手管を思い出しただけで、こうも簡単に身体に火が付く自分は、どこかおかしいのではないか。
一度そんな風に思ってしまうと、もう駄目だった。
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