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第一部 嫉妬と情愛の狭間

第43話 悪戯 其の四

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 めくる勇気もなくて香彩かさいは、触感だけで彼の身体を撫でる。ゆっくり下へ、下へと。触れただけで分かるほどの割れた腹筋に、感嘆の息をついた。
 竜紅人りゅこうとの腹筋をずっと見てきたというのに、ぞくりと背筋を駆け上がるほど、意識したのは果たしていつだっただろうかと、香彩は思う。


(……一緒の部屋で寝泊まりするようになった日から……だよね)


 確か仕事から帰ってきたら、竜紅人が就寝前の楽な格好で、上着を脱ぎ胸までの防具姿で寛いでいた。その時に見た羨ましいまでの綺麗に割れた腹筋に、どきりとして居た堪れない気分になったのだ。
 この引き締まった逞しい身体に抱き締められ、言葉では言い表せないほど愛でられたというのに、指先で腹筋の硬い筋をなぞっている今の方が、妙な気恥ずかしさを感じているなんて、本当にどうかしていると香彩は思う。

 心窩しんかから腹筋へ、そして指先を少し下へと滑らせると、ざらりとした感触がした。
 硬くて指先をちくちくと突くようなそれは一体何なのか、一瞬考えてからたどり着いた答えに、かぁっと香彩は顔を赤らめた。

 それは竜紅人の下生えの感触だった。
 驚いて竜紅人の身体から指先を離した香彩だったが、戸惑いながらもそっと触れてみる。

 自分とは全く違うそれ。

 肉体的には同い年のはずだ。だというのに、薄くて柔らかい自分の下生えとは、あまりにも違う感触に、駄目だと思いながらも指先でくすぐるように弄る。
 その硬い触り心地に堪らないものを感じて、手を離さなきゃと思いながらも香彩は、あと少しだけと指先を下へと移動させた。
 竜紅人がこの手の感触で、起きてしまうかもしれない。しかも目覚めてすぐに、下生えに触れられているのだと分かってしまったら、どんな風に思うだろう。
 起こさないように、ゆっくりと手を引こうとした時だった。

 つん、つん、と。
 手の甲に触れるものがある。

 それは熱かった。
 熱く、湿り気を感じたかと思うと、幾度か軽く突かれて、やがて滑り気のあるものが、甲と指の間に塗り付けられる。
 何だろうと思った。
 指先でそれに触れて、やがてしまったと思い、香彩は慌てて手を引いた。
 明らかな意思を持って、その熱いものが指先に擦り付けられたからだ。













「……もう、悪戯は終わりか?」

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