43 / 409
第一部 嫉妬と情愛の狭間
第43話 悪戯 其の四
しおりを挟む捲る勇気もなくて香彩は、触感だけで彼の身体を撫でる。ゆっくり下へ、下へと。触れただけで分かるほどの割れた腹筋に、感嘆の息をついた。
竜紅人の腹筋をずっと見てきたというのに、ぞくりと背筋を駆け上がるほど、意識したのは果たしていつだっただろうかと、香彩は思う。
(……一緒の部屋で寝泊まりするようになった日から……だよね)
確か仕事から帰ってきたら、竜紅人が就寝前の楽な格好で、上着を脱ぎ胸までの防具姿で寛いでいた。その時に見た羨ましいまでの綺麗に割れた腹筋に、どきりとして居た堪れない気分になったのだ。
この引き締まった逞しい身体に抱き締められ、言葉では言い表せないほど愛でられたというのに、指先で腹筋の硬い筋を擦っている今の方が、妙な気恥ずかしさを感じているなんて、本当にどうかしていると香彩は思う。
心窩から腹筋へ、そして指先を少し下へと滑らせると、ざらりとした感触がした。
硬くて指先をちくちくと突くようなそれは一体何なのか、一瞬考えてからたどり着いた答えに、かぁっと香彩は顔を赤らめた。
それは竜紅人の下生えの感触だった。
驚いて竜紅人の身体から指先を離した香彩だったが、戸惑いながらもそっと触れてみる。
自分とは全く違うそれ。
肉体的には同い年のはずだ。だというのに、薄くて柔らかい自分の下生えとは、あまりにも違う感触に、駄目だと思いながらも指先で擽るように弄る。
その硬い触り心地に堪らないものを感じて、手を離さなきゃと思いながらも香彩は、あと少しだけと指先を下へと移動させた。
竜紅人がこの手の感触で、起きてしまうかもしれない。しかも目覚めてすぐに、下生えに触れられているのだと分かってしまったら、どんな風に思うだろう。
起こさないように、ゆっくりと手を引こうとした時だった。
つん、つん、と。
手の甲に触れるものがある。
それは熱かった。
熱く、湿り気を感じたかと思うと、幾度か軽く突かれて、やがて滑り気のあるものが、甲と指の間に塗り付けられる。
何だろうと思った。
指先でそれに触れて、やがてしまったと思い、香彩は慌てて手を引いた。
明らかな意思を持って、その熱いものが指先に擦り付けられたからだ。
「……もう、悪戯は終わりか?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
132
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる