上 下
193 / 409
第一部 嫉妬と情愛の狭間

第193話 成人の儀 其の五十九★     ──羨慕の情──

しおりを挟む
 

 何よりも竜紅人りゅこうとがあの事件に巻き込まれた、一番の被害者だったのだ。あの事件があったから、竜紅人りゅこうと香彩かさいの面倒を見、紫雨むらさめを助けるようになったのだから。


(……だから……) 


 動けないようにした。
 どうしようもなく錯乱状態になって、暴れてしまうことを恐れたのか。

 あと一体だと。
 だから耐えろと。
 これが終われば、失くさずに済むのだと。

 拘束に近い、絡み付く竜紅人りゅこうとの身体の体温が、そう言っているような気がして、香彩かさいは無意識の内に竜紅人りゅこうとの熱さに縋る。


「……かさい……」


 気付けば接吻くちづけを強請るような、吐息が唇に触れるそんな近い場所に、紫雨むらさめの端正な顔があった。
 ひくりと震え、喉の渇きとはまた違った渇きを覚え始めた喉が鳴る。

 それは戦慄に近いもの。

 やがて薄く開いた香彩かさいの唇に、紫雨むらさめの熱い舌が入り込む。術者の血の味がする接吻くちづけは、神気に浸された香彩かさいの身体には、とても甘く感じられた。
 歯列を舐め、やがて舌が絡み、軽く吸い上げられれば、尾骶が甘く疼き、胎内なかの剛直を狂おしく締め上げる。二本の雄の存在を改めて感じて、粟立つ悦楽が背筋を駆け上がった。
 そんな粟立つものの中に、やはり冷やりとした戦慄わななかしさがある。
 どんなに愛おしいのだと言わんばかりの優しい接吻くちづけを、紫雨むらさめから贈られても、この体勢が過去を忘れさせてくれないのだ。


「……は、ぁ……っ」


 名残惜しそうに紫雨むらさめの唇が離れる。
 それでも情熱的な接吻くちづけに、術者の血に、身体は熱くなった。
 だが劣情のだるような熱と、涔々しんしんと降り積もるかのような冷たい心の有り様。そんな真逆の感情に、心と身体が次第に散々ちりぢりになっていく気がして、香彩かさいは自分の顔のすぐ側にある竜紅人りゅこうとの腕に頬を寄せた。
 それがよすがであると言わんばかりに。


「……か…さい……っ!」


 どこか狂おしげに紫雨むらさめ香彩かさいの名前を呼んだ。

 それは胎内で締め付けられる熱楔の心地好さか、ぬるま湯にも似た蜜壺の淫蕩な善さか。
 それとも目の前で竜紅人りゅこうとの熱に縋る、香彩かさいに対する羨慕の情なのか。

 ぐいと腰を使い、これでもかと言わんばかりに最奥の蜜壺に入り込む紫雨むらさめの熱楔に、香彩かさいは啼く。
 この薄い腹に紫雨むらさめの雄楔の形が浮かび上がりそうな程に、腹側の泣き処をじわじわと擦られながら、紫雨むらさめが再び指の皮膚を噛み切った。
 赫がぽたりと落ち、臍の凹みに流れてやがて溜まっていく。それを楽しそうに見遣りながら、紫雨むらさめはもう片方の手で香彩かさいの薄い腹を軽くさすった。それがまるで腹越しの自慰のように思えて、その卑猥さにぞくりとしたものが背を駆け上がる。

 くつりと、紫雨むらさめが笑った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:64

間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,385pt お気に入り:277

溺愛社長とおいしい夜食屋

BL / 完結 24h.ポイント:513pt お気に入り:1,107

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,528pt お気に入り:846

数十年ぶりに再会した神様に執着されて神隠しに遭う話

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:289

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,491pt お気に入り:4,185

女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:686

異世界のんびり散歩旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,230pt お気に入り:745

異世界ライフは山あり谷あり

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,094pt お気に入り:1,554

処理中です...