蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する

結城星乃

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第二部 嗣子は鵬雛に憂う

第201話 兆しの夢 其の三

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『──香彩かさい様』


 頭の中に声が響いた。
 その声が白虎のものであることを、香彩かさいは知っている。
 二度、聞いたのだ。
 本来ならば同族である真竜と、四神と契約する術者以外、聞くことが出来ないという、その声を。


香彩かさい様……』


 白虎は言う。

 どうか我々を拒絶なさるな、と。


「え」


 拒絶とは一体どういうことなのか。
 先程の儀式のことを言っているのか。


「……皆を拒絶なんてしてないよ」


 受け入れたはずだ。
 光玉が胎内で動くあの壮絶な法悦を、よく覚えている。納まるところに納まったのだというあの不思議な感覚を、よく覚えている。
 あとは馴染ませ、身体を休ませれば。


『──貴方様の心に拒絶反応が出ております』
「……っ、そんな」


 そんなはずがないと香彩かさいは思った。
 白虎を含めた四神とは、何度か面識があった。紫雨むらさめの式神だったが、自分の要請の声に応えてくれたこともあった。それに昨年の『雨神うじんの儀』では紫雨むらさめから四神を借り受け、一時的にだが身に宿したのだ。その全てにおいて、拒絶反応などなかったというのに。
 だから大丈夫だと思った。


「拒絶、なんて……」 
『私は何とか姿を保っておりますが、他の三体は貴方様の夢床ゆめどのですら、姿を保てぬほどに貴方様が遠いのです』
「遠、い……?」


 確かに自分は先程思わなかっただろうか。
 近くにいるのに遠く感じる、と。
 だがその『感じていたもの』も、だんだんと薄っすらとしたものに変わり果てて行くことに、香彩かさいは戸惑った。


「白虎……っ」


 香彩かさいはもう一度、目の前にいる白虎に触れようとした。だがやはり透明な壁があって、白虎に触れることが出来ない。
 そしてやがて目の前にいる白虎の気配が、薄く薄く変化し、そして。


(──……消え、た……?)


 香彩かさいの中を、慄然としたものが駆け上がる。
 目の前に確かに白虎がいるというのに。
 白虎が感じられない。
 先程まで確かに、その気配を感じ取ることが出来たというのに。

 香彩かさい様、と白虎が唸るように名前を呼ぶ。


『……どうか、どうか我々を拒絶なさるな。我々は貴方様をお守りしたいだけなのです』
「だから拒絶、なんて……」






 ──本当に?
 ──本当に拒絶しなかった?
 ──自分から求めていながら。
 ──心と身体が散々になりそうだって。
 ──そう思いながらあの二人を受け入れた儀式だったというのに?
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