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第3話
しおりを挟む「……咲蘭……?」
お互いに注いだ酒が何杯目になるのか、もう覚えていない。不意に静かになってしまった咲蘭を気遣い、叶が名前を呼ぶ。
咲蘭の息をつめた様子が分かった。
視線がそろそろと叶に向く。
酒に潤んだ目と視線が合う。
頬は紅をさしたかのように、薄っすらと春花と同じ色に染まっていた。めずらしいこともあるものだと、叶は思った。普段は滅多に顔に出ない咲蘭の中々見ることが出来ない姿に、叶は咲蘭から視線を外せない。
やがて、そっと、咲蘭が叶から視線を外す。
「……少し、夜気に当たりに、行ってきますね…」
「大丈夫、ですか?」
「……ええ」
ゆっくりと咲蘭が立ち上がり、楼台に向かって歩を進めた。
それは一瞬の出来事だった。
咲蘭が体勢を崩して後ろに倒れこむところを、叶が抱きかかえる形で庇った。
だが叶も急に動いてしまったせいか、くらりと眩暈がしてそのまま後方へ倒れ込んだ。
叶の痛そうなくぐもった声が聞こえて、咲蘭は慌てて上半身をひねり起こす。
叶は咲蘭の下敷きになっていた。だが咲蘭を支え抱える腕を緩めなかったのは、さすがというべきだろうか。
「す、すみません……叶、大丈夫ですか?」
自分の上から降る声に叶は答えようとした。
大丈夫ですよ、咲蘭、怪我はありませんか。そんな言葉が脳裏に浮かんだのだと思う。
だが。
その感覚に眩暈がした。
倒れ込んだ時にお互いの夜着の裾が乱れ、素肌のままの足が絡み合っている。
その肌の、あまりにも心地良い感覚に眩暈がした。
先程、少しだけ見えた、白い足首。
その白い肌の足が、今、自分の肌に触れている……。
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