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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

対決 5 新たなる姿、魔ローダー空を飛ぶ

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「もうここらで死になさいっ!」

 ガシイイインン

三毛猫の群青色のル・ツーが剣を振り下ろすと、砂緒すなおと雪乃フルエレの銀色の魔ローダーが巨大な鉄骨で受け止める。

「死になさいと言われて死ねますかーーーっ!」

 今度は二人の魔ローダーが鉄骨を振り回し、ル・二に襲い掛かるがル・二は難なく剣で受け流す。

「まだまだーーーっ!」

 砂緒は受け流された鉄骨の勢いのままくるりとル・二の後ろに回ると、背中から鉄骨を打ち込む。
 バシィッ!

「ぐあっ!?」

 一旦外れた関節がまだ痛むのか、ル・二が片膝を着いて動きを止める。

「そのままお前が死になさい!!」

 動きを止めたル・二に向かって上段から鉄骨を振り下ろす二人の魔ローダー。しかし寸での所で転がり避けられてしまう。再びお互い得物を持って睨み合う二機の巨大人型機械の魔ローダー。

「基本的に魔ローダーは魔法が効かない様ですのでキリが無いですね……」

 砂緒がフルエレに話し掛ける。

「え、うん……そ、そうだね」

 砂緒は普通に話しかけてハッとする。

「……すいません、やっぱりさっきの事怒ってるんですね……もうこの戦闘が終われば、許可無くフルエレの十キロ圏内には接近しませんので許して下さい……」

 砂緒の声は普段の傲慢な態度からはあり得ない程ショボンとしているが、フルエレは恥ずかしくて振り返る事が出来ない。

「怒って無いわよ!」
「え?」

 モニターのル・二を注視しながら砂緒が驚く。

「怒ってなんか無いよ……そうじゃ無くて、どんどん人間に近付いて変わって行っている砂緒の事全然理解して無かったって、私ばっかりお願い事聞いてもらってて、砂緒に何もして上げてないって……」

 てっきり激怒していると思っていたフルエレの意外な言葉に安堵しつつも、狭い操縦室内で気まずい展開には違い無かった。

「べ、別に私はフルエレに対してどうこうして欲しい等と思った事はありません。一緒に居れればそれで幸せなのです!」

 直前にフルエレの背中から抱き着くという行動に出ながら、今度は直ぐに生来の性格の似非紳士ぶりが出て、見栄を張ってしまう砂緒。

「う、うん!」

 砂緒の見栄を張った言葉を、素直に百パーセントに受け取ってしまうフルエレだった……

「そ、そうだフルエレ、この敵を倒したらもう一度魔輪まりんに乗せてもらえませんか?」
「あ、そうだね! そう言えば最近砂緒は白い馬に乗っててたんだったね……」
「ああ、あの馬はどこかへ走って行きました……」

 白い馬とは、七華しちか王女が砂緒に買って上げた物とは皆が知る事だった。

「そうなんだ~。あ、じゃあさ、今度はリュフミュランの北海岸に行って見ようよ! 海に面した素敵な古代神殿があるんだって!」

 戦闘中なのを忘れてフルエレがときめく。

「海に面した古代神殿ですか……私も聞いた事あります。如何にも風光明媚そうな雰囲気です。ふ、二人で行くのですよね……」
「そ、そうだよ……距離的に日帰りで行けるしね……」

 最近喧嘩が続いていた二人がこの様に、楽し気に話すのは久しぶりの事だった。

「そうですね、考えただけで凄く楽しみです。イェラに何か美味しい物作ってもらいましょう!」
「うん! えへへ、本当は私が作ればいいんだけど、料理下手」
「いいえ、魔輪の運転はフルエレ担当なので、それで良いのですよ!」

 会ったばかりの頃に戻った様に久しぶりに笑い合った。

「だから、戦闘中に旅行の相談する奴がいるかーーーーーーーーーーーーっっ!!!」

 三毛猫のル・二が恐ろしい勢いで長剣を振り回して襲い掛かる。

「あ、忘れていました」

 砂緒は避けたり鉄骨で受け止めたりして全ての攻撃をかわして行く。

「砂緒、なるべく海岸に向けて移動して! 街に近付くと誰かを踏んじゃうよ!」
「やってみます!」

 ガチーーン、ガキーーーン!!
二機は長剣と鉄骨で文字通り火花を散らしながら、港や砂浜で戦い続ける。

「あの濃い魔ローダーはやっぱりル・二!! 私達王家に伝わるル・二を動かせるのは王家の者だけ……あれに乗っているのはお兄様なんだわ……国が吸収合併された時に勝手に持ち出した機体……」

 残り約ニ十匹のサーペントドラゴンが全て倒され、避難誘導や怪我人救助に多くの人々が活動範囲を広げ、回復が得意な冒険者達と怪我人救助に当たっていた、猫呼ねここクラウディアとイェラ達がとうとう港湾都市の港にまで到達していた。

「そうなのか!?」

 初耳の話が多すぎて混乱するイェラ。

ル・二ル・ツーは魔王が所有しているとされるル・三ル・スリーと並んで最も古くて、最も強い機体の一つとされているの……倒しても倒しても恐ろしい回復力で絶対に勝つ事は出来ない! このままだと砂緒とフルエレが殺されちゃうよ……どうしよう……」
「え!? そんな凄い機体なのか?」

 魔王という聞き慣れないパワーワードが飛び出して驚くイェラ。

「やめてーーーっ! お兄様やめてーーーっっ!! そんな事をしてても神聖連邦に吸収された故郷はもう元に戻らないのよ!! 只の八つ当たりだわっっ!」

 猫呼が手を振りながら戦う二機に近寄ろうとする。最もスケール的に間近に見えていても走る寄る事は、まだまだ相当走らないと無理だが。

「危ない、やめろっ! 話が通じる相手では無い!」

 イェラは細かい内容はもう考えない様にして、猫呼を抱き抱えて庇う。
 ガキーーーン、カキーーーーン!!
猫呼が間近で叫んでいる事など気付きもせず、二機は長剣と鉄骨で激しい打ち合いを繰り返す。

「そう言えば……つかぬ事を伺いますが、この魔ローダー背中に変な羽根が生えていますね。こんな物ありましたか?」

 実は砂緒はまだまだ眼前に乗るフルエレの、耳や首筋やちらちら見える背中を見て興奮が収まっておらず、時折生唾を飲み込んでいるがそうした事を一切隠して違う話題を切り出した。

「そうなのよ! 一人で竜達と戦っている時にだんだん生えて来たのよ!」
「なんと……その様な事があったのですかっ。確かに若い人間と触れ合う機会が多いご老人が、若い人のエキスを吸うなどと言いますからね、ドラゴンと戦う間にドラゴンのエキスを吸ったのかもしれませんよ!」
「若い人のエキスを吸うって……お年寄りみたいな言い方しないでっ」

 フルエレは久しぶりの砂緒の迷言に苦笑いをした。

「こう見えても百歳ですから、お年寄りと言えばお年寄りなのですが」
「戦闘中に公園のベンチででも普通に語らってるみたいに会話するなーーーっ!!」
「うわ、何をぶち切れているのですかこの男は……」

 砂緒とフルエレは普通に会話しているが、実際には二機の巨大な魔ローダーで海岸で激しい打ち合いを繰り広げている。ル・二がブンっと長剣を横に斬ると、ザンッと砂緒の魔ローダーがしゃがんで避ける。そのまま宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島決闘の様に、砂浜をザシュザシュと走りながら剣を構えると、ル・二が振り下ろした長剣を砂緒の機体がジャンプして避ける。着地した時に激しく上がる大波。

「……魔ローダーも羽根が生えたけど、砂緒も別人くらいに変わって来たよね、なんか最初は人間性の欠片も無かったし……」
「人間性無かったですか。それよりもこの機体は飛べるのですか?」
「ううん、全然飛べないの。ピョンピョンジャンプするだけ。変わったのは羽根が生えただけみたい……」
「変わるですか……変わるねえ……そう言えば私はデパートという建築物から人間に変化したのでしたっけ……」

 ガキッシューーーッ

「え!? なんか変な音がしてるわよっ!」
「うわ、壊れてます壊れてます。視点が変な位置になってる、機体が崩壊していますよ!」
「どうした! 何の真似だ! ふざけるなっっ!!」

 砂緒とフルエレの二人の魔ローダーが、戦闘中におかしな挙動を始めた事に戸惑いつつも、すかさず長剣でそのまま切り裂こうと突っ込んで来る。

「死ねえ!!」

 ガシャガシャッッ!!

「うわ、来た来た危険ですけど、機体が上手く操作出来ません……」
「きゃっ!! もうだめっ!! 砂緒!!」

 ル・二の長剣が振り下ろされたが、だが既にそこに二人の機体は無く、空中をビュンと虚しく切り裂くだけの音がする。

「どこに消えた!?」

 三毛猫は左右をキョロキョロ探す。

「あれ、なんか今度は急に高い位置に来てる気がする……」
「これ……空飛んでる気がするわよね……何コレ」

 とても残念な事に文章で表現する事が困難な程の複雑な機構により、砂緒とフルエレの二人の魔ローダーは人型から飛行機の様な形態に変化していた。しかし中に乗っている二人には全貌が掴めず訳が分からなかった。

「見ろ猫呼……魔ローダーが羽根と足の生えた鳥みたいな物に変わったぞ!! あれは何だ??」
「知らない私もあんな物は分からないよ!」

 猫呼とイェラとル・ツーに乗る三毛猫も、大空を舞う空飛ぶ銀色の巨大な鳥型に変わった魔ローダーをポカンと見上げた。
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