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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟
どきどきの初登城 8 だったらキスしましょうよ… 有為転変の女、瑠璃ィ
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それからまた数日が経った。
「んふふんふんふん、んふふふんふ~~ん」
にこにこの笑顔で、鼻歌交じりに雪乃フルエレがテーブルを拭いたり、掃除をしたりしている。もちろんアルベルトの誤解が解け、今後も良好な関係が築けると判ったからだった。
「あ、あのフルエレ……どこかに旅に出ていくという話は……」
フルエレは振り返って、にこっと笑った。
「いやだわぁ、行く訳ないじゃない。常識で考えてよっ!」
「いやあのでも……では幼……とは」
「ん?」
「いえ、いいです……」
昔はもっと無神経で強行姿勢だったと思える砂緒が、何故かどんどん弱気になっていた。七華や多くの人間と出会う中で、彼の中で自分以外の人間という物の地位が、少し上がった結果かもしれない。
「何だよ情けないなあ、もっとガツーンと言えないのかよ! 見ててこっちが腹立つわ。それにあたし、ああいう学生時代のなかよし友達連中……みたいなのが凄く嫌い。虫唾が走るわ」
(闇ですねセレネ、なんだか闇カワイイ……)
可愛いと思いながらも、何故かイライラしてセレネにぶつけてしまう。
「…セレネは確かフルエレに好感を持ってここに来たのですよね、何故に私にそんな上から目線でフルエレを非難するように命令をするのです?」
さっきの情けない砂緒を見てて、てっきり自分の言葉にも従順に従うと思い込んでいたのに、すぐに言葉に噛み付いてくる砂緒を見て、話が違うじゃん! と思うセレネだった。
「知らんわー」
びっくりして気の利いた返しが出来ない。
「そうだ、セレネはキスした事ありますか? 私はありますよ! それにそのもっと先も」
「お、おおお、あるわ。当然だろ」
無かった。
「じゃあ今、ここでキスしましょうよ、もう長い事一緒に居るし、それくらいは良いでしょう」
「な、ななな、何言ってるんだよ」
気付くと砂緒はセレネの両手首を持って、壁際に押し込んできていた。
「ぃ、いや……」
「嫌いでも無いのでしょう?」
「!! 嫌っ、離せっ馬鹿っ!!」
パシッ!
セレネは思い切り手首を振ると、もともと砂緒は力を入れて無かったので簡単に離れ、勢いで頬をはたいた。はたかれた砂緒は自分の頬に手を置いて、呆然としていた。
「す、すすすすすすす、すいません。私どうかしていました。イライラする気持ちをセレネにぶつけてしまいました。紳士としてあるまじき行為でした。謝罪します。刺して下さい、硬化しないので刺し殺して下さい」
今度は砂緒はすぐさま土下座して謝罪した。
「べ、別にあれくらい何とも思ってねーわ。さ、刺し殺すまでも、な、ないし」
セレネは心臓が高鳴りバクバクしていたが、必死に髪をかき上げて誤魔化した。土下座からの顔を少し上げて狼狽して自分を見上げる砂緒を見て、少し可愛いと思ってしまった。
さらに後日、喫茶猫呼にレナードとアルベルトが二人して来た。
「どの面下げてお前は来るんだ、さっさと」
「あ、いらっしゃい! 私が呼んだのよ! 砂緒は邪魔しないでね、公務なのだから」
フルエレに割って入られてムッとしながらも黙り込む砂緒。
「砂緒君、いつか君ともゆっくり話したいと思っているんだ……」
「話す事等無い!!」
失礼にも指を差してそのまま立ち去る砂緒。苦笑いするアルベルト。どう見ても勝敗は明らかだった。
「まー何でも良いが、その新ニナルティナ軍再建の話、聞こうか」
二人は席に着くと、珍しくレナード公が真面目な話を切り出した。
「はい、イライザこっちに来て」
「は、はい……初めまして。イライザという者です。兄が素浪人をやっております」
以前、砂緒達を騙して港の倉庫街に呼び出した依頼者の娘だった。
「このイライザの兄が素浪人どものリーダー格で、お二人が新ニナルティナ軍再建の折には、是非ともお声がけして欲しいと頼まれていたの」
(どもって……フルエレさん言い方!)
セレネは腕を組んで遠くから見ていた。
「セレネ殿大丈夫ですか? まさか砂緒殿があんな破廉恥な事をしでかすとは……」
珍しくクレウが突然話し掛ける。
「み、みみみ、見てたんかい!?」
激しく赤面した。
アルベルトとレナードはイライザと話をして、今度イライザの兄を通して、多くの前ニナルティナ軍の浪人を召し抱える事に決めた。
「ありがとうございます。本当に有難いです。フルエレさんにも何とお礼を言って良いか……」
「ううん、いいの。今まで通り時々遊びに来てくれたり、ピンチの時はバイトに入ってくれればそれで良いから」
フルエレはにこっと笑った。フルエレの言葉を聞いて、感動して涙ぐみながらも、イライザは一礼すると喫茶猫呼を後にした。
「権力の匂いのする所……猫耳の影あり! 猫呼クラウディア参上!!」
(猫呼さまぁーーー!!)
突然の猫呼の登場にクレウは感激したが、今は仕事中なのでぐっと耐えた。
「君は……?」
「それ本物かよ?」
「付け耳です」
猫呼は付け耳をパカッと外すと、付け耳紹介の下りを完全省略した。
「それよりも! ご挨拶が遅れてしまいましたわ! 私が当喫茶猫呼の主、猫呼クラウディアと申す者です。これは名刺です」
猫呼は頭を深々と下げると、可愛いイラストの入った名刺を渡した。
「もしかして……君が冒険者ギルドのマスターの?」
「おおおおお、この子がかよ」
「そうですわ、以後お見知りおきを」
猫呼は不敵に笑った。
「ここって、割とかわいい子ばかりだよな……今日は長身のお嬢さんは、いるのかなー?」
レナードは店の奥にイェラが居ないか軽く探った。
「なあ猫呼ちゃん、初めて会った記念に何か買ってあげようか!? 何でもいいなよ! 買ってやるからさあ」
「えーじゃあ猫呼、運転手付きのリムジン型魔車がいいなあ!!」
「おおお買ったる買ったる! 国費でいくらでも買ってやるぞ、ナハハハハハ」
「わぁ嬉しい、時々おねだりしちゃおうかしらっ!」
猫呼は両手を合わせた。
「お、おい冗談だよな二人共」
フルエレは猫呼の豹変ぶりに付いて行けなかった。しかしこの日を切っ掛けとして、この新ニナルティナ公国の重要政策は、重臣会議にかかる前に、雪乃フルエレとレナードとアルベルトと猫呼クラウディアの四人で、事実上喫茶猫呼の一室で事前に決まる事になってしまった……
―北方列国、最西側の国ラ・マッロカンプ王国。
「ウェカ王子様は!? ウェカ王子さまはどこに行ってしまったのですか?」
セクシーなメイド姿の侍女が、しばしば城内で行方不明になる王子様を探しておろおろしている。
「ご安心を、ウェカ王子様なら新しく届いた魔ローダーを見に、新築した格納庫においでで御座います」
「そうなのですか、また城を抜け出したのかと……」
紳士な執事に教えてもらい安堵する侍女だった。
「ウェカ王子様、魔ローダーは大変危険な物で御座います! 血反吐を吐いて倒れる者もいるとか! とにかく直ぐに、お降りを!」
家臣達がユティトレッド魔導王国からようやく届いた二機の魔ローダー、ジェイドとホーネットのどちらかの操縦席に消えた王子様を、心配しておろおろする。
「これが……魔ローダー、ジェイド。行ける、全然動かせる!!」
王子が言う通りにジェイドの目がビカッと光った。おおおと声を上げる家臣達。
「これがあれば、僕の大切な許嫁の依世ちゃんを助けにいける!!」
依世ちゃんとは、ウェカ王子が幼い頃、幼稚園交換留学生として一年だけ一緒に居た、天使の様に可憐な幼女だった。しかし十三歳の今になるまで再会は果たしていない……
「依世ちゃんは僕が友達も出来ず、一人で三角座りをしていた時、優しく笑顔で話し掛けてくれた……それに悪い奴らにいじめられてる時も、依世ちゃんはまるで暴力を楽しむ様に、笑いながら悪い奴らを魔法でフルボッコのボッコボコにしてくれた……今度は僕が依世ちゃんを守る番だよ!!」
ウェカ王子が念じると、今度は魔ローダージェイドの腕が動いた。おつむの方はアレっぽいが本当に魔ローダーを動かす才能はあった様だ。
「そして……依世ちゃんは、ラ・マッロカンプの依世姫として末永く僕と幸せに暮らすのさ、ぐふふふふふふふふふふふっふ」
ウェカ王子の幼き日に依世という可憐な幼女がやって来て、数々の危機を救ってくれた事は事実だったが、将来を約束するだとか許嫁だとかは全て王子の妄想であり、今は依世は何故かメドース・リガリァに捕まっているという設定になっていた……
「んじゃー魔ローダーも見たんで、日課の依世ちゃん探しに市場に行って来まーす!!」
大して疲労した様子も無く、ウェカ王子は操縦席から飛び降りると梯子を伝い、元気に走って行った。
「また……依世ちゃん依世ちゃんと……」
周囲の者達はウェカ王子が、また妄想で作り上げた娘の話をしていると不憫に思っていた……
そして市場。ウェカ王子は敵国に捕まっているという自己設定の依世を、自国の市場で探すという矛盾した日課をこなしていた。
「依世ちゃん依世ちゃんどこかな~~~むふふふ」
「また……ウェカ王子様が来たよ……依世ちゃん依世ちゃん言ってる……魔性の娘だね、怖い怖い」
市場の人々は眉をひそめた。
「わ、若~~~い、いずこへ~~~」
棒を杖代わりにして歩く、ボロボロの姿になった瑠璃ィキャナリーだった。
「はぁはぁ……お供の者とはぐれてまうし、若君は見つからへんし、もう死ぬ~~あの方に殺される~~~はぁはぁ」
「はい、僕がウェカ王子ですが?」
ふらふらの瑠璃ィの目の前に突然ウェカ王子が顔を覗かせる。
「はぁはぁ……ぼんぼん誰やーっ。うちが探してる若君と違うわーっアホー」
数日間食事をしてないにも関わらず、本能と気力で突っ込む瑠璃ィ。
「僕だって、依世ちゃんを探してる最中なんだよ! こんな化粧の濃いバ、いやあ妙齢なお姉さまには用は無いやい!」
ウェカ王子は立ち去ろうとした。
「ぼ、ぼんぼん、飴ちゃんいるか……」
瑠璃ィはふらふらになりながらも、スッと掌の上の飴ちゃんを差し出した。
「な、何故!? そんなにお腹空いてるなら自分で舐めれば良いじゃん!」
「駄目なんや、人に上げる分の飴ちゃんは、自分で食べたらあかんのや!!」
瑠璃ィは号泣しながらも自身のポリシーを叫んでいた。
「ふっ、バいやお姉さん僕が王子様でラッキーだったねっ! 周りに隠れてる家来ども、このバいやお姉さまを、お城に連れて行くのだっ!!」
「ハハッ!!」
市場の商人や通行人に変装して紛れていた、お城の者達がささっと現れる。そのままぐったりする瑠璃ィを運んで行った。
「依世ちゃーーーん、見ましたかーーー?? 今行倒れのバ、いやお姉さまを助けました! 僕は立派な王子に成長していますよーーっ!!」
いきなりぐったりした女性を城に連れ去った王子を見て、一般の人々はこの王子ますます頭が怪しくなって来たと、ひそひそ悪口を言い合った。
「んふふんふんふん、んふふふんふ~~ん」
にこにこの笑顔で、鼻歌交じりに雪乃フルエレがテーブルを拭いたり、掃除をしたりしている。もちろんアルベルトの誤解が解け、今後も良好な関係が築けると判ったからだった。
「あ、あのフルエレ……どこかに旅に出ていくという話は……」
フルエレは振り返って、にこっと笑った。
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「ん?」
「いえ、いいです……」
昔はもっと無神経で強行姿勢だったと思える砂緒が、何故かどんどん弱気になっていた。七華や多くの人間と出会う中で、彼の中で自分以外の人間という物の地位が、少し上がった結果かもしれない。
「何だよ情けないなあ、もっとガツーンと言えないのかよ! 見ててこっちが腹立つわ。それにあたし、ああいう学生時代のなかよし友達連中……みたいなのが凄く嫌い。虫唾が走るわ」
(闇ですねセレネ、なんだか闇カワイイ……)
可愛いと思いながらも、何故かイライラしてセレネにぶつけてしまう。
「…セレネは確かフルエレに好感を持ってここに来たのですよね、何故に私にそんな上から目線でフルエレを非難するように命令をするのです?」
さっきの情けない砂緒を見てて、てっきり自分の言葉にも従順に従うと思い込んでいたのに、すぐに言葉に噛み付いてくる砂緒を見て、話が違うじゃん! と思うセレネだった。
「知らんわー」
びっくりして気の利いた返しが出来ない。
「そうだ、セレネはキスした事ありますか? 私はありますよ! それにそのもっと先も」
「お、おおお、あるわ。当然だろ」
無かった。
「じゃあ今、ここでキスしましょうよ、もう長い事一緒に居るし、それくらいは良いでしょう」
「な、ななな、何言ってるんだよ」
気付くと砂緒はセレネの両手首を持って、壁際に押し込んできていた。
「ぃ、いや……」
「嫌いでも無いのでしょう?」
「!! 嫌っ、離せっ馬鹿っ!!」
パシッ!
セレネは思い切り手首を振ると、もともと砂緒は力を入れて無かったので簡単に離れ、勢いで頬をはたいた。はたかれた砂緒は自分の頬に手を置いて、呆然としていた。
「す、すすすすすすす、すいません。私どうかしていました。イライラする気持ちをセレネにぶつけてしまいました。紳士としてあるまじき行為でした。謝罪します。刺して下さい、硬化しないので刺し殺して下さい」
今度は砂緒はすぐさま土下座して謝罪した。
「べ、別にあれくらい何とも思ってねーわ。さ、刺し殺すまでも、な、ないし」
セレネは心臓が高鳴りバクバクしていたが、必死に髪をかき上げて誤魔化した。土下座からの顔を少し上げて狼狽して自分を見上げる砂緒を見て、少し可愛いと思ってしまった。
さらに後日、喫茶猫呼にレナードとアルベルトが二人して来た。
「どの面下げてお前は来るんだ、さっさと」
「あ、いらっしゃい! 私が呼んだのよ! 砂緒は邪魔しないでね、公務なのだから」
フルエレに割って入られてムッとしながらも黙り込む砂緒。
「砂緒君、いつか君ともゆっくり話したいと思っているんだ……」
「話す事等無い!!」
失礼にも指を差してそのまま立ち去る砂緒。苦笑いするアルベルト。どう見ても勝敗は明らかだった。
「まー何でも良いが、その新ニナルティナ軍再建の話、聞こうか」
二人は席に着くと、珍しくレナード公が真面目な話を切り出した。
「はい、イライザこっちに来て」
「は、はい……初めまして。イライザという者です。兄が素浪人をやっております」
以前、砂緒達を騙して港の倉庫街に呼び出した依頼者の娘だった。
「このイライザの兄が素浪人どものリーダー格で、お二人が新ニナルティナ軍再建の折には、是非ともお声がけして欲しいと頼まれていたの」
(どもって……フルエレさん言い方!)
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「セレネ殿大丈夫ですか? まさか砂緒殿があんな破廉恥な事をしでかすとは……」
珍しくクレウが突然話し掛ける。
「み、みみみ、見てたんかい!?」
激しく赤面した。
アルベルトとレナードはイライザと話をして、今度イライザの兄を通して、多くの前ニナルティナ軍の浪人を召し抱える事に決めた。
「ありがとうございます。本当に有難いです。フルエレさんにも何とお礼を言って良いか……」
「ううん、いいの。今まで通り時々遊びに来てくれたり、ピンチの時はバイトに入ってくれればそれで良いから」
フルエレはにこっと笑った。フルエレの言葉を聞いて、感動して涙ぐみながらも、イライザは一礼すると喫茶猫呼を後にした。
「権力の匂いのする所……猫耳の影あり! 猫呼クラウディア参上!!」
(猫呼さまぁーーー!!)
突然の猫呼の登場にクレウは感激したが、今は仕事中なのでぐっと耐えた。
「君は……?」
「それ本物かよ?」
「付け耳です」
猫呼は付け耳をパカッと外すと、付け耳紹介の下りを完全省略した。
「それよりも! ご挨拶が遅れてしまいましたわ! 私が当喫茶猫呼の主、猫呼クラウディアと申す者です。これは名刺です」
猫呼は頭を深々と下げると、可愛いイラストの入った名刺を渡した。
「もしかして……君が冒険者ギルドのマスターの?」
「おおおおお、この子がかよ」
「そうですわ、以後お見知りおきを」
猫呼は不敵に笑った。
「ここって、割とかわいい子ばかりだよな……今日は長身のお嬢さんは、いるのかなー?」
レナードは店の奥にイェラが居ないか軽く探った。
「なあ猫呼ちゃん、初めて会った記念に何か買ってあげようか!? 何でもいいなよ! 買ってやるからさあ」
「えーじゃあ猫呼、運転手付きのリムジン型魔車がいいなあ!!」
「おおお買ったる買ったる! 国費でいくらでも買ってやるぞ、ナハハハハハ」
「わぁ嬉しい、時々おねだりしちゃおうかしらっ!」
猫呼は両手を合わせた。
「お、おい冗談だよな二人共」
フルエレは猫呼の豹変ぶりに付いて行けなかった。しかしこの日を切っ掛けとして、この新ニナルティナ公国の重要政策は、重臣会議にかかる前に、雪乃フルエレとレナードとアルベルトと猫呼クラウディアの四人で、事実上喫茶猫呼の一室で事前に決まる事になってしまった……
―北方列国、最西側の国ラ・マッロカンプ王国。
「ウェカ王子様は!? ウェカ王子さまはどこに行ってしまったのですか?」
セクシーなメイド姿の侍女が、しばしば城内で行方不明になる王子様を探しておろおろしている。
「ご安心を、ウェカ王子様なら新しく届いた魔ローダーを見に、新築した格納庫においでで御座います」
「そうなのですか、また城を抜け出したのかと……」
紳士な執事に教えてもらい安堵する侍女だった。
「ウェカ王子様、魔ローダーは大変危険な物で御座います! 血反吐を吐いて倒れる者もいるとか! とにかく直ぐに、お降りを!」
家臣達がユティトレッド魔導王国からようやく届いた二機の魔ローダー、ジェイドとホーネットのどちらかの操縦席に消えた王子様を、心配しておろおろする。
「これが……魔ローダー、ジェイド。行ける、全然動かせる!!」
王子が言う通りにジェイドの目がビカッと光った。おおおと声を上げる家臣達。
「これがあれば、僕の大切な許嫁の依世ちゃんを助けにいける!!」
依世ちゃんとは、ウェカ王子が幼い頃、幼稚園交換留学生として一年だけ一緒に居た、天使の様に可憐な幼女だった。しかし十三歳の今になるまで再会は果たしていない……
「依世ちゃんは僕が友達も出来ず、一人で三角座りをしていた時、優しく笑顔で話し掛けてくれた……それに悪い奴らにいじめられてる時も、依世ちゃんはまるで暴力を楽しむ様に、笑いながら悪い奴らを魔法でフルボッコのボッコボコにしてくれた……今度は僕が依世ちゃんを守る番だよ!!」
ウェカ王子が念じると、今度は魔ローダージェイドの腕が動いた。おつむの方はアレっぽいが本当に魔ローダーを動かす才能はあった様だ。
「そして……依世ちゃんは、ラ・マッロカンプの依世姫として末永く僕と幸せに暮らすのさ、ぐふふふふふふふふふふふっふ」
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大して疲労した様子も無く、ウェカ王子は操縦席から飛び降りると梯子を伝い、元気に走って行った。
「また……依世ちゃん依世ちゃんと……」
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そして市場。ウェカ王子は敵国に捕まっているという自己設定の依世を、自国の市場で探すという矛盾した日課をこなしていた。
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「また……ウェカ王子様が来たよ……依世ちゃん依世ちゃん言ってる……魔性の娘だね、怖い怖い」
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「はぁはぁ……お供の者とはぐれてまうし、若君は見つからへんし、もう死ぬ~~あの方に殺される~~~はぁはぁ」
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ウェカ王子は立ち去ろうとした。
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「ハハッ!!」
市場の商人や通行人に変装して紛れていた、お城の者達がささっと現れる。そのままぐったりする瑠璃ィを運んで行った。
「依世ちゃーーーん、見ましたかーーー?? 今行倒れのバ、いやお姉さまを助けました! 僕は立派な王子に成長していますよーーっ!!」
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