301 / 562
III プレ女王国連合の成立
忘れていた占い…… 下 旅立ち 号泣のフルエレ、遂に本城へ
しおりを挟む
『そこの黒い魔ローダー動くな! ハッチを閉じる事無く跪け!』
『トゲトゲの濃いグレー遂にキサマも年貢の納め時だなっ!』
突然魔法外部スピーカーの巨大音声が鳴り響き、スピネルのデスペラード改Ⅲが六機程のSRVに取り囲まれていた事に気付いた。全機剣を前に構えどんなトリッキーな動きにも隙を見せないぞという気迫が見えていた。
「どうするのスピネル、敵に囲まれたわっ!」
「お、おいどうするんだ!?」
弁当屋の娘と父親が同時に叫んだ。
「安心しろ、こんな物は大した数では無い……」
コンカン
スピネルが事も無げに包囲網を突破しようと考えた直後、デスペラード改の装甲に何かが当たる音がしてセンサーが拾い、魔砲モニターに音源を映した。
「むっ」
「おーい、そこにいるのは根暗カッコつけキザ男ではないのか?」
「おおっそこに居るのは貧相ヒモ男ではないか、生きておったのか?」
すっかり囲まれたデスペラード改の足元に居たのはクレウだった。
「良いから私を早く乗せろ」
グイーーン
あたかもSRV達の要求に従う様にスピネルはデスペラード改Ⅲを跪かせ、巨大な手でクレウを操縦席に回収した。今蛇輪と違って狭い単座の操縦席の中にはスピネルと弁当屋の娘とその父母、さらにクレウの五人が乗り込み、まさに満員のぎゅうぎゅう詰めとなった。
「お、おいスピネルこれ以上乗せるなよ」
「貴方……狭いです」
「奥様申し訳ない」
「それでココナは何処にいる?」
スピネルはいつもの様に些細な事は無視して聞いた。
「呼び捨てにするなっ! ココナ様と呼べ」
「スピネル、ココナって誰? 女の人? ねえ教えて」
「幹部の女だ。それでココナは何処に行った?」
「ココナ・さ・まは、恐らくサッワ殿と共に半壊したル・ワンで遁走された。もはや城内の何処にもおらず貴嶋殿も家臣達も大騒ぎだ」
「ねえ、ココナさんって美人? どんな人なの? 言えーーーっ」
弁当屋の娘はスピネルの首を軽く閉めたが彼は無視して続けた。
「うむでは致し方ないな、我らもまおう軍の地に向かうか……」
「な、何だと!? 儂らがまおう軍の地に向かうだと??」
「安心しろ、まおう軍と言っても住んでいるのは普通の人間だ。まあただクマ耳は付けねばならんかも知れないが」
「この年齢でクマ耳など付けられるかっ! 第一何をして生きて行けば良い!?」
「まおう軍の村や街で今まで通りケーキ屋かパン屋を続ければ良い」
「貴様っ今まであれだけウチの弁当を食べ続け、せめて総菜屋ぐらい言えんのか!? 何故ケーキ屋だっ?」
「貴方、ここは堪えて生きる為よっクマ耳付けましょう、似合うかもしれないわっ」
遂に娘に続いて父親までスピネルの首を締め始め、クレウは汗を掻いて呆れた目で見た。ちなみにクマ耳はクラウディア元王国の猫耳と違い住人の選択制であり、スピネルの思い込みだった……
『よし、良い心がけだ。そのまま動くな! 手も動かすな! 煙も出すなっ!!』
剣を前に突き出したSRV達が、今度こそデスペラードを仕留めようとぐるりと輪を描いてにじり寄る。
「ね、ねえどうするのスピネル、このままじゃまおう軍に行く処じゃないわっ!!」
娘がスピネルの肩にしがみ付いた。
「根暗カッコつけキザ男よ、貴様と心を合わせるなど寒気がするが仕方が無い、掌を合わせるのだ」
「うむ、それがしもココナの腰巾着の貧相ヒモ男と心を合わせるのは鳥肌が立つが致し方あるまい」
等と言いながらも二人の男は突然片手掌を貝合わせの様にぴたっとくっつけた。
「え、スピネルこれは何なの!? ふざけているの??」
「黙っててくれ」
「行くぞっ」
「おおっ」
「透明化っっ!!」
パッ……
『何だ!? 消えたっ??』
『何処に行った? 上かーーーっ??』
SRV達が戸惑う中、デスペラードはそーっと立ち上がった。
「奥さんお嬢さん、分からないと思うが、今我らは私の魔法で透明化しておるのです、どうぞ故郷にお別れを」
「貴様こそ良いのか? もうあっちには戻らないのか?」
「もう良いのです……さらば私の女王陛下……」
娘達はアンジェ玻璃音女王の事と思い込んでいたが、クレウは同盟の女王雪乃フルエレと完全に決別した。
「では行くぞ」
そのままデスペラード改は音を立てる事無く、すーっとSRV達の隙間を事も無くすり抜け逃げおおせた。ここからまだ道は遠く七葉後川を越えねばならないが、この様にメドース・リガリァからまおう軍の地に逃げ込んだ将兵は多く居たのだった。
(さようなら私の故郷、私のお店……)
娘は両親に抱き着き涙を流して燃え盛る夜の故郷に別れを告げた。
<i678007|39370>
ガシャーン、ガシャーーーン
雪乃フルエレ女王と砂緒とセレネの三人が乗る蛇輪は、魔法通信を封鎖したまま指揮をコーディエ達やイェラやメランに丸投げし、フルエレの復讐の為だけにメド国の本城にゆっくり向かっていた。
「何でしょう、この辺りに不釣り合いな立派な建物がありますねえ……軍事施設でしょうか」
前世は元デパート建屋の砂緒が、ふと一つの立派な建物に気付いて声を上げた。それは貴嶋がトキメキ作戦の為に建て、紅蓮や美柑とアンジェ玻璃音女王が宿泊したオーベルジュだった……砂緒は何気なくその場所を魔法モニターで拡大した。
「あっ……」
無言で魔法モニターを見つめていたフルエレは、そのオーベルジュの魔法映像を観て、かつて砂緒と出会う前一人で放浪していた時、メドース・リガリァの魔法まんが喫茶で寝泊まりしていた事も、そして何故自分が一人で故郷の海と山とに挟まれた小さき王国を飛び出したのかも、すっかり忘れていた事を一瞬で思い出した。
誰にも愛される事無く、一人で死んでいく、誰かを好きになっても相手もすぐに死ぬ……
決して自分を占ってはいけないという禁を破り、この占いを診てしまった為に、占いの結果を運命を変えてしまおうと思い切って単身城を飛び出した事を思い出した。その瞬間、上手く行かない行商やカリカリの乾いたパンを食べながらひもじい思いをした事などが次々思い出されて行く。
(ああっ私はバカだっすっかり忘れていた……何の為に城を出たかも、何を心配していたかも)
フルエレは再び両手で頭を抱えた。砂緒と出会い、さらに猫呼やイェラなど色々な仲間に出会い、激しくも楽しい日々を送り、遂には旧ニナルティナを滅ぼし不服ながらも北部海峡列国同盟の女王に祭り上げられ、アルベルトという素敵な男性にも出会い、幸せな毎日を送る中ですっかり気が緩んでしまい、あろう事か小さな事に腹を立てそのアルベルトを放置して出掛けている間に彼が戦死するという、最悪の結果に雪乃フルエレを激しい後悔と自責の念が襲う。
「う、うわあああああああああああ」
突然フルエレは再び叫び声を上げて大声で泣き始めた。
「フルエレ!? どうしたんですかっ」
『どうしたフルエレさん!?』
突然の号泣に砂緒がびっくりしてフルエレを見たが、当の雪乃フルエレは砂緒が最初にハッチの中で見た、険しい顔で涙を流し操縦桿を握っていた状態にすっかり戻っていた。
「はぁはぁ……潰してあげるわっメドース・リガリァの城を跡形も無くっ! 私の所為でアルベルトさんを……仇を取るわっ!! 取ってあげる!」
雪乃フルエレは自分の占いに巻き込まれてアルベルトさんが運命を狂わせたかもしれないという後悔の念を、全てメド国を滅ぼすという行為に転嫁しようとして歩みを早めた。
バシャッ!!
背中の羽が再び大きく開き、魔ローダー日蝕白蛇輪の両目が真っ赤に光った。本城はもはや目前だった。
『トゲトゲの濃いグレー遂にキサマも年貢の納め時だなっ!』
突然魔法外部スピーカーの巨大音声が鳴り響き、スピネルのデスペラード改Ⅲが六機程のSRVに取り囲まれていた事に気付いた。全機剣を前に構えどんなトリッキーな動きにも隙を見せないぞという気迫が見えていた。
「どうするのスピネル、敵に囲まれたわっ!」
「お、おいどうするんだ!?」
弁当屋の娘と父親が同時に叫んだ。
「安心しろ、こんな物は大した数では無い……」
コンカン
スピネルが事も無げに包囲網を突破しようと考えた直後、デスペラード改の装甲に何かが当たる音がしてセンサーが拾い、魔砲モニターに音源を映した。
「むっ」
「おーい、そこにいるのは根暗カッコつけキザ男ではないのか?」
「おおっそこに居るのは貧相ヒモ男ではないか、生きておったのか?」
すっかり囲まれたデスペラード改の足元に居たのはクレウだった。
「良いから私を早く乗せろ」
グイーーン
あたかもSRV達の要求に従う様にスピネルはデスペラード改Ⅲを跪かせ、巨大な手でクレウを操縦席に回収した。今蛇輪と違って狭い単座の操縦席の中にはスピネルと弁当屋の娘とその父母、さらにクレウの五人が乗り込み、まさに満員のぎゅうぎゅう詰めとなった。
「お、おいスピネルこれ以上乗せるなよ」
「貴方……狭いです」
「奥様申し訳ない」
「それでココナは何処にいる?」
スピネルはいつもの様に些細な事は無視して聞いた。
「呼び捨てにするなっ! ココナ様と呼べ」
「スピネル、ココナって誰? 女の人? ねえ教えて」
「幹部の女だ。それでココナは何処に行った?」
「ココナ・さ・まは、恐らくサッワ殿と共に半壊したル・ワンで遁走された。もはや城内の何処にもおらず貴嶋殿も家臣達も大騒ぎだ」
「ねえ、ココナさんって美人? どんな人なの? 言えーーーっ」
弁当屋の娘はスピネルの首を軽く閉めたが彼は無視して続けた。
「うむでは致し方ないな、我らもまおう軍の地に向かうか……」
「な、何だと!? 儂らがまおう軍の地に向かうだと??」
「安心しろ、まおう軍と言っても住んでいるのは普通の人間だ。まあただクマ耳は付けねばならんかも知れないが」
「この年齢でクマ耳など付けられるかっ! 第一何をして生きて行けば良い!?」
「まおう軍の村や街で今まで通りケーキ屋かパン屋を続ければ良い」
「貴様っ今まであれだけウチの弁当を食べ続け、せめて総菜屋ぐらい言えんのか!? 何故ケーキ屋だっ?」
「貴方、ここは堪えて生きる為よっクマ耳付けましょう、似合うかもしれないわっ」
遂に娘に続いて父親までスピネルの首を締め始め、クレウは汗を掻いて呆れた目で見た。ちなみにクマ耳はクラウディア元王国の猫耳と違い住人の選択制であり、スピネルの思い込みだった……
『よし、良い心がけだ。そのまま動くな! 手も動かすな! 煙も出すなっ!!』
剣を前に突き出したSRV達が、今度こそデスペラードを仕留めようとぐるりと輪を描いてにじり寄る。
「ね、ねえどうするのスピネル、このままじゃまおう軍に行く処じゃないわっ!!」
娘がスピネルの肩にしがみ付いた。
「根暗カッコつけキザ男よ、貴様と心を合わせるなど寒気がするが仕方が無い、掌を合わせるのだ」
「うむ、それがしもココナの腰巾着の貧相ヒモ男と心を合わせるのは鳥肌が立つが致し方あるまい」
等と言いながらも二人の男は突然片手掌を貝合わせの様にぴたっとくっつけた。
「え、スピネルこれは何なの!? ふざけているの??」
「黙っててくれ」
「行くぞっ」
「おおっ」
「透明化っっ!!」
パッ……
『何だ!? 消えたっ??』
『何処に行った? 上かーーーっ??』
SRV達が戸惑う中、デスペラードはそーっと立ち上がった。
「奥さんお嬢さん、分からないと思うが、今我らは私の魔法で透明化しておるのです、どうぞ故郷にお別れを」
「貴様こそ良いのか? もうあっちには戻らないのか?」
「もう良いのです……さらば私の女王陛下……」
娘達はアンジェ玻璃音女王の事と思い込んでいたが、クレウは同盟の女王雪乃フルエレと完全に決別した。
「では行くぞ」
そのままデスペラード改は音を立てる事無く、すーっとSRV達の隙間を事も無くすり抜け逃げおおせた。ここからまだ道は遠く七葉後川を越えねばならないが、この様にメドース・リガリァからまおう軍の地に逃げ込んだ将兵は多く居たのだった。
(さようなら私の故郷、私のお店……)
娘は両親に抱き着き涙を流して燃え盛る夜の故郷に別れを告げた。
<i678007|39370>
ガシャーン、ガシャーーーン
雪乃フルエレ女王と砂緒とセレネの三人が乗る蛇輪は、魔法通信を封鎖したまま指揮をコーディエ達やイェラやメランに丸投げし、フルエレの復讐の為だけにメド国の本城にゆっくり向かっていた。
「何でしょう、この辺りに不釣り合いな立派な建物がありますねえ……軍事施設でしょうか」
前世は元デパート建屋の砂緒が、ふと一つの立派な建物に気付いて声を上げた。それは貴嶋がトキメキ作戦の為に建て、紅蓮や美柑とアンジェ玻璃音女王が宿泊したオーベルジュだった……砂緒は何気なくその場所を魔法モニターで拡大した。
「あっ……」
無言で魔法モニターを見つめていたフルエレは、そのオーベルジュの魔法映像を観て、かつて砂緒と出会う前一人で放浪していた時、メドース・リガリァの魔法まんが喫茶で寝泊まりしていた事も、そして何故自分が一人で故郷の海と山とに挟まれた小さき王国を飛び出したのかも、すっかり忘れていた事を一瞬で思い出した。
誰にも愛される事無く、一人で死んでいく、誰かを好きになっても相手もすぐに死ぬ……
決して自分を占ってはいけないという禁を破り、この占いを診てしまった為に、占いの結果を運命を変えてしまおうと思い切って単身城を飛び出した事を思い出した。その瞬間、上手く行かない行商やカリカリの乾いたパンを食べながらひもじい思いをした事などが次々思い出されて行く。
(ああっ私はバカだっすっかり忘れていた……何の為に城を出たかも、何を心配していたかも)
フルエレは再び両手で頭を抱えた。砂緒と出会い、さらに猫呼やイェラなど色々な仲間に出会い、激しくも楽しい日々を送り、遂には旧ニナルティナを滅ぼし不服ながらも北部海峡列国同盟の女王に祭り上げられ、アルベルトという素敵な男性にも出会い、幸せな毎日を送る中ですっかり気が緩んでしまい、あろう事か小さな事に腹を立てそのアルベルトを放置して出掛けている間に彼が戦死するという、最悪の結果に雪乃フルエレを激しい後悔と自責の念が襲う。
「う、うわあああああああああああ」
突然フルエレは再び叫び声を上げて大声で泣き始めた。
「フルエレ!? どうしたんですかっ」
『どうしたフルエレさん!?』
突然の号泣に砂緒がびっくりしてフルエレを見たが、当の雪乃フルエレは砂緒が最初にハッチの中で見た、険しい顔で涙を流し操縦桿を握っていた状態にすっかり戻っていた。
「はぁはぁ……潰してあげるわっメドース・リガリァの城を跡形も無くっ! 私の所為でアルベルトさんを……仇を取るわっ!! 取ってあげる!」
雪乃フルエレは自分の占いに巻き込まれてアルベルトさんが運命を狂わせたかもしれないという後悔の念を、全てメド国を滅ぼすという行為に転嫁しようとして歩みを早めた。
バシャッ!!
背中の羽が再び大きく開き、魔ローダー日蝕白蛇輪の両目が真っ赤に光った。本城はもはや目前だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
36
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる