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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ⑨ 神々の戦い再び Ⅰ

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『魔戦車隊隊長、カガチが第一防衛ラインに到達します!!』
『何か決戦兵器があるとか無いとか、それまで時間を稼ぐ! 炎氷衝撃各魔法弾装填、姿を見せ次第……』

 ズズーーーン、ズズーーーン
 地鳴りの様な地の底から聞こえる低い音と共に、山々の間から山が動いてやって来た様に見えた。

『なんだ!? 山が動いている……』
『あんなモン攻撃したって何とかなるのかよ』

 魔戦車の隊員達がため息交じりに呟いた。

『全車両射程ギリギリに入り次第一斉射撃して全力後退! 行くぞ』
『ハッ』

 魔戦車の隊員魔導士達が固唾を飲んで狙いを定めた。ちなみに現在のチマタノカガチ全高三百Nメートルとは、最近日本一を抜かれてしまったあ〇のハル〇スとほぼ同じ高さである。あ〇のハル〇スが何か分からない方はネットで調べて頂こう……

『こんなモン何処を狙えばいいんだよ!?』
『脚を狙え!!』
『足なんて何処にあるんだよ!?』

 ピーーーッ
 各車両の射程範囲に入った。

『撃てーーーッ』
『ってーーー!!』

 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドドンドドン!!
 二十両程の魔戦車から一斉に射撃が始まり、各車両のサスペンションが衝撃で沈み込む。射程ギリギリ遠くに見えるチマタノカガチの足元の表面に色とりどりの魔法弾の弾着が確認されるが、全く効いている感触は無い。

『よし、全車全速後退!!』

 ギャーーーーッ!!
 ほぼほぼピンポンダッシュと同じくらいな勢いで各車両が勢いよく後退し始めた。

「くおおーーーーーんん!!」

 それを見てチマタノカガチが見咎める様に異様な声でひと鳴きした。
 ヒヨンッッカッッ
 不思議な音が鳴ったその直後、無数にあるカガチの真っ赤な目の内の二つだけが異様にビカッと光り、それと全く時間差無く魔戦車部隊の車両に光が直撃した。
 ドドドドドドドーーーーーーーーーーンッッ
 直後、魔戦車七両から火柱があがった。

『魔戦車二番から八番消失!!』
『何!? 迎撃中止、全速後退を続けろ!!』

 ギャーーーッ
 残った魔戦車は這う這うの体で逃げ帰った……


 ガチャッ
 オペレーターのメイドさんが再び髪を振り乱して椅子ごと振り返り、冷や汗を流しながら叫んだ。

「魔戦車七両が消滅!! 第一防衛ライン突破されましたっ!!」
「むう、魔戦車ではどうにもならんか……しかし何故急に飛び道具を!?」

 貴城乃たかぎのシューネが疑問を感じた様に、何故かチマタノカガチは砂緒達の魔ローダー蛇輪と同じ様に、最近吸収した魔戦車の砲撃能力を獲得し、突然飛び道具を放ち始めた。

「全兵士に伝達、魔銃から魔戦車の主砲からカガチに向けての全ての射撃を禁止する!」
「はい、全兵士に伝達します!!」

 このままでは仮宮殿にまで到達されてしまう……かと言って猫弐矢ねこにゃとフゥーのヌなどアテにならない、そう考えたシューネは居てもたっても居られず、役に立つかどうかは兎も角、自らも魔ローダーに乗る事にした。

「メイドさん……後を頼む」

 椅子からカタッと立ち上がると、シューネはやたら低い声でメイドさんに後を頼んだ。

「はっ?」

 突然後を託されたオペレーターのメイドさんは意味が分からなかった。

「メイドさん、君を臨時総司令代理に任命する。後を頼む」
「えーーー~~~?」
「後を頼む」

 先程から同じ事を繰り返すシューネの決心は固いのだと感じた。

「分かりましたっ! 例えメイドだとて臨時総司令代理が見事勤まると証明してみせますっ!」
「うむ、後を頼む」
(冗談なのに何とノリの良いメイドさんである事か……メイドさんはかくあるべし)

 シューネは敬礼するメイドさんに感心しながら、神聖連邦帝国で受領した高性能試作機CBR25RRの元へ急いだ。


 ―第二防衛ライン。

『ほほほ、魔戦車が這う這うの体で戻って来ましたね。もはや隠れるまでも無く巨大なチマタノカガチからは丸見えです』
夜叛やはんモズさま、ここを突破されればもはや住民が避難する仮宮殿まではわずかです』
『住民達にさらなる避難を準備させた方が良いかも知れませんね』
『何処へ?』
『今は何も無い高層神殿建設予定地にでも移動するしか無いでしょう』

 確かにクラウディア王国の西側中央部に位置する仮神殿寸前の所にまでチマタノカガチは迫っていた。

『だが、この四旗機桃伝説ももでんせつの絶対服従、最後まで諦めませんよっ貴方は手出し無用です』
『はっ』

 夜叛やはんモズとさらにもう二人の操縦者が乗り込んだ、桃伝説の狭い操縦席の中が緊張に包まれた。何もする事が出来ない一機のGSXR25は一歩下がった。食われてカガチを巨大化させては元も子もないからだ。

『行きますよ! 三人分の魔力で魔ローダースキル絶対服従、百連打っ!!』

 シュパパパパパパパパ
 見た目には何の違いも無いが、操縦者が三人乗り込んだ桃伝説からピンク色の妖しい玉が無数に放出され、カガチの巨大なウロコの肌に吸い込まれていく。

「キュピーーーン!!」
『効いたか!?』

 操縦者二人では効きづらくなっていた絶対服従が一発で効いた。

「くおおおおおおおおおおおーーーーーーーんんん!!」

 再び不思議な鳴き声で一声叫ぶと、チマタノカガチはスキルの命令に抵抗している様に見えた。

『ええい、大人しく川上に戻れえええええ!!!』

 踏ん張っても仕方が無いのだが、操縦桿を握る手に力を込めて、モズはカガチを押し返しに掛かる。

『私も押し返しますっ!』

 待機中の残りの一機のGSXが思わず手で物理的に押し返そうとした。

『あっコラッ!?』

 次の瞬間、無数のカガチの蛇の首がGSXに絡みつく……見る間に吸収され消えて行った。

「くおおおおおおーーーーーーーんん!!」
『バカな何て事をしてくれた!? ぐっっ』

 もう一機魔呂を吸収して微妙に大きくなったカガチのパワーが急激に大きくなり、三人分魔力の絶対服従を押し返し始めた。
 ギリギリギリギリ……

(私はもうダメかもーー!?)

 夜叛モズは男たちに挟まれて死にたくないと心底思った。

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