530 / 698
Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)
スナコちゃん再々降臨!! ② 砂緒の霊魂……
しおりを挟むヒヨンッ!! カカッ!
いつもながら妙な音を発して、千岐大蛇の真っ赤な瞳が突然光り、光った時には既に光線は兎幸の展開した魔ローンが跳ね返していた。
『うわっ!? 思い出した様に突然撃ち返して来た!!』
『兎幸ちゃんナイス!! てか、人間なら絶対に避けられない攻撃よね』
凄まじいスピードを持つ剣の達人のセレネでさえ、カガチの光線は避ける事が不可能な速さであった。それを牽制とでもするかの様に、蛇輪かル・ツー漆黒ノ天か乗組員かが影響している謎の誘引を解かれたカガチは、ふわふわとゆっくりと北に向かって移動を開始した。
『なんだか北に向かい始めたけど……いいのほっといて??』
『接近したらまた撃って来るんだろうなあ、やっぱめんどくさいなあ帰るか?』
『私の話聞いてましたか!? アレは私が捨てた物なんですよ、責任感じませんか!?』
再び帰ろうと言い出したセレネに蛇輪の中の人、いや中の真実の鏡の声が叫んだ。
『お前のせーだろーがっお前が一人で責任感じとけやっ!』
『セレネさん、アレほっといたら多分蛇輪に釣られていつかセブンリーフまで飛んで来ますよ! もし私達のニナルティナの大都会にあんな化け物がやって来たら、フルエレの女王の座なんて吹き飛びますよ! それでも良いのですか!?』
『へっ?』
真実の鏡の片割れと話していたつもりのセレネだが、途中から砂緒の声に変わった気がしてビクッとなった。
『砂緒か!? メランさん、兎幸先輩、砂緒がそこにいるんか??』
セレネは魔法通信画面を操作しつつ、必死に聞いた。だが画面中にはわざとらしくメランが立ち塞がっている。
『え? い、いや居ないよー』
『うんうん、いないない』
操縦席内を映し出す魔法カメラを隠しながら二人がわざとらしく否定した。
『いや、今砂緒の声が……何故画面を隠す??』
『私も砂緒の声が聞こえた気が』
『今ややこしいからお前は喋んな』
『私は砂緒であって砂緒で無い』
『え? イライラするなあもう、来てるなら来てるでいいから、言ってくれよ!』
セレネは北に向かうカガチを見ながら、もどかしさに画面を叩いた。
『……私はフルエレ女王に追放され、爪を剥がされ毛を抜かれ、辱めを受けリベンジポルノ的な恥ずかしい写真を撮られ、挙句になんだか良く分からない脱出不能な深き穴に突き落とされ死にました……』
『シャシンて何だよ!? お前死んで無いよな? 生きてるよな?? 穴に落とすてフルエレさんヒド過ぎるよ!!』
冗談が通じないセレネは半泣きになって画面をこすった。
『そして気が付けば霊魂となってル・ツーに取り憑いていたのです……』
『めんどくせえヤツだなあ? つまりル・ツーに乗ってるんだな? そうだよなメランさん??』
『お願い、今は霊魂という事にしてあげて、私の口からは……これ以上は命の危険が』
『おーおー砂緒は霊魂になってしまったーおーおーおー』
魔法画面いっぱいに兎幸は大袈裟に泣き真似をした……それを見て逆にセレネは安心してしまった。
『わかったよ、砂緒の霊魂とやら、そんであたしらはどうすればいいんだよ?』
『このまま千岐大蛇が北に向かえば内海湖に着いてしまうでしょう、そうなると無限に海水を供給して復活し続ける事になり、倒すのがさらに困難になります。ヤツが急に翼を展開して飛び始めたのは恐らくは水の流れを断たれた渇きの為。だとすれば、もう一度ダムを破壊して水の流れを回復してやれば良いのです。セレネさん、撃ち返しに充分注意してもう一度カガチに接近して誘引し、南の川上にゆっくりと向かいましょう!』
『お、おう? そうだな……』
突然現れて今までの話を全部聞いていたかの様な、的確な分析と対応策をテキパキと指示する砂緒に戸惑うと共に、内心では凄くホッとして嬉しいセレネであった。
『今嬉しくてホッとして泣いてるんでしょ~~?』
『……メランさん後で血を見たいんですか?』
図星を突かれてセレネは意図的に怖い顔をした。しかし気持ちを切り替え、すぐさま蛇輪を旋回させて再びチマタノカガチに付かず離れずの誘引を再開した。北に向かおうとフワフワと飛んでいたカガチは、はたっと気が付いた様に蛇輪に誘引され、再び南の川上に誘われて向かい出した。
『砂緒これで良いんか? 顔を見せてくれよ……』
『霊魂なので顔などないのです』
『マジでめんどくせえな』
『そんな事を言い合っている暇はありません、ヌッ様とやらと通信を回復させなさい、蛇輪!』
『元々砂緒と私は割れた一つの鏡、それを大切なフルエレ様と抱き合ったりキスしたり、見守っていた私が内心穏やかであったと思いますか? 砂緒に命令されるのだけはなんだか癪に障りますね、拒否します』
『私もさっきからコイツの話を聞いてて全くピンと来ませんでした。全部このガラクタのホラでは無いのですか? 少なくとも私前世の前世の記憶とかほぼ無いのですよ』
(セレン・ディピティー……)
ゲシッ!
セレネは再び思い切り蛇輪を蹴り上げた。
『いーからやれやっ! 喧嘩すんな、二人してめんどくさ過ぎるんだよ』
『セレネ様の命令なら了解』
蛇輪は渋々ヌッ様との魔法通信を再開した。
『フルエレッ! その作ったばかりのダムを破壊して、すぐに水流を元に戻して下さい!!』
ダムが完成し、川の流れを変更してヤレヤレと一息付いていたヌッ様組は、突然の砂緒の声に驚いた。
『え? 砂緒?? 砂緒が此処に来てるの??』
『いえ私は砂緒の霊魂、フルエレに追放された私は……』
『え、霊魂??』
『だからめんどくさいわあああ!! フルエレさん今はコイツに話合わせて下さい。とにかく川の流れを元に戻す為にダムを破壊して下さい! そうしないと翼の生えたカガチが北の内海湖に向かってしまうんです!!』
砂緒に任せると埒が明かないと思ったセレネは必死にフルエレを説得した。
『……追放した私なんかの為に砂緒来てくれてたのね、凄く嬉しい。よく分かったわダムを破壊すれば良いのね!?』
切羽詰まっていた時に、思いがけず砂緒の声を聞いた雪乃フルエレ女王は涙が滲む程に嬉しくて、すぐにダム破壊を承諾した。しかしそれとは全く逆に寝耳に水のフゥーは複雑な、どちらかと言えば完全に不満と反発する気持ちで充満した。
『どういう事ですか? 今皆で作ったばかりのダムなんですよ、それをいきなり壊すのですか??』
(砂緒? あの嫌な砂緒が来ていたの?? しかもその砂緒の命令でダムを壊すのなんて絶対嫌よっ!!)
0
あなたにおすすめの小説
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
転生?したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる