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待ち侘びた熱
しおりを挟む彼の言っていた通り、きっちり三週間後に家にやってきた。
前日に『明日行きます』とのメールがあり、私が返信をする前に『何があっても行きます』と追加で送られてきていた。
「隆義さん!」
「うわっ!」
玄関を開けるなり、彼に勢いよく抱きつかれた。その姿は甘える大型犬のようで、尻尾と耳まで見えてきそうだ。
反射的に背中に手を回すと、軽めのキスが頬に落とされる。
「髭を剃ったからキスしやすいですね」と耳元で囁かれ、まるでこの日のために剃ったと見透かされたようで心臓が跳ねた。
「隆義さん、俺に会えなくて寂しかった?」
「え? いや……」
「寂しかったって言ってください。直接聞きたいです。俺は寂しかったですよ」
首筋に鼻先を寄せられ、くすぐったさから身を捩るも、絶対に離さないと私を抱きしめる彼の手に力がこもる。
痛いよと伝えたけれど、知らないと返事をした彼の声色から拗ねているのだと分かった。
最初にメールと電話が来た日以降、彼はこまめにメールをくれたが、慣れない私には一言返すのがやっとで、楽しくやりとり、というほどのものは何もなかった。
声だけでも私の気持ちが伝わるのなら、電話も億劫になるし、文字として残すのも……と色々考えているうちに、文字を打つ指が止まってしまった。
「返事ももう少しほしいし、あなたから電話をもらえないかと期待もしました」
「何をどう話せば良いか分からなくて……」
「そんなの、声を聞くことができればなんでも良いんです」
「待っ、……んっ、」
私からの返事も、反応も待たずに、彼は強引に唇を重ねた。
頬や首筋に落とされたものとは違う、少しだけ雑なキス。
余裕がないのか、私の呼吸のタイミングはお構いなしで何度も何度も奪われる。
バランスを崩し一歩下がれば、器用に腰を支えられ、彼も一歩私のほうへと踏み込んだ。
腰に回された指先は、徐々に下がっていき、柔らかくもない私の臀部を掴むように触れる。
下半身に熱が集中し、自身のがゆるりと起き上がってくる感覚がする。
見れば分かるほどには盛り上がったそれに気づかれないようにと、彼の腹部をぐっと押し込み距離を取ろうと試みた。
けれど、その手も彼にあっけなく捕まり、力のやり場がなくなった私に対し、ぐりぐりと下半身を押し付けてくる。
「久しぶりだし、あなたに触れていたら……」
覗き込むようにして下から私を見上げるその彼の視線に吸い込まれそうだ。
やっと唇が離れ呼吸が自由にできるようになったというのに、再び重ねられ、それまでよりさらに深いところまで彼の舌がねじ込まれた。
みっともなく口の端から垂れ続ける唾液が顎を伝う。
「隆義さんのも、勃っちゃいましたね」
「う、あ……、待っ、て」
反応したそれを隠し切れるわけもなく、彼に下からなぞられるようにして触れられる。
裏筋に爪を立てられるが、服を挟んでいるせいでその刺激がちょうど良い快感となる。
あの日以降ひとりで処理をすることもなく、しばらく彼にも触れられていないその先端からは、染みを作るほどの先走りが溢れてきた。
「やめて、くれ……っ、恥ずかし、い」
「ダメ。そういうあなたがたまらなく可愛いって、前にも言いましたよね。全部俺に見せて」
立っていられなくなり座り込んだ私を、彼はそのまま冷たい床に押し倒した。
ベッドに誘うか、ソファに誘うか、私からいくらでも提案することはできるはずなのに、そうできないのは、いまだに揺らいでいる自分がいるからだろう。
いつまで経っても弱虫なままだ。私には何もない。
「隆義さん、何を考えているの? 俺だけを見ててください」
「待っ……て、」
「さっきからそればっかり。待てないです」
頬に、鼻先に、首筋に、優しく口付けられる。視線の先には優しい表情の彼がいて、それだけで泣きそうになってしまう。
「脱がせますね」
慣れた手つきで服を脱がされ、咄嗟に隠そうと下に伸ばした手には、彼の指が絡む。
手の甲や指先を遊ぶようになぞられると、ぞくぞくとした快感が背中を駆け抜けていく。
何も言い返すこともなく、口を開いて荒い呼吸をする私を見た彼が、ふっと笑った。
前髪をかきあげる彼があまりにも色っぽくて、私の喉が鳴った。
「本当に可愛い人だ」
あっという間に、私の身体は彼に好きにされてしまう。
「ここ、気持ち良いですか?」
「だから、待っ……て、くれ、」
「ねぇ、俺のも触ってください」
彼に誘導され、互いの性器を握り合った。私はぼんやりとしてきた意識の中で、必死に手を動かす。
互いの先が擦れるとあまりにも気持ちが良く、呼吸が乱れる。
「これ、好きなんですね」と彼が耳元で囁き、以前のようにお互いのものを擦り合わせるように握り直した。
あの日の記憶が、快感と共に鮮明に思い出され、私はそれだけのことで呆気なく果ててしまう。
「だから、待ってって、」
「でもあなたが可愛いから。隆義さん、俺まだだから、もう少しだけ、いい?」
「え、あっ、」
抵抗する間もなく彼とは反対を向かされ、後孔が晒される。
あまりの恥ずかしさに思わず暴れると、強めに頭部を押さえつけられた。
「痛いことしないから、ちょっとじっとしてて」
「だっ、て、あっ、あぁ、……っ」
太腿の隙間に、彼のペニスがねじ込まれた。
自身や後孔とも擦れ、これまでとは比にならない快感が襲う。
「ちょっと、こうするだけ」
「あっ、あ、……それ、だ、めっ、」
誰かとの性行為自体長らくなかったというのだから、相手が男性で、まして彼にこうして触れられることに、本来は違和感があるはずなのに。
それどころか、彼に抱かれるならこういう感覚なのかと、直接繋がったら比にならないくらい幸せなのではないかと、そういうどうしようもない考えが頭の中を支配していく。
一度も弄ったことのない後孔が、彼を誘っているかのようにひくひくと収縮しているのが自分でも分かり、これを彼に見られでもしたらどんなに言葉で拒否をしたとしても説得力などなくなるのだろう。
「あっ、……はあっ、」
肌と肌がぶつかる音、冷たかった床に自身の汗が流れ落ちていく音、快感が我慢できずに漏れ出る吐息の音、何より彼が私の名前を呼ぶ声だけで、この世界が創られているようだと錯覚さえする。
もう何も考えられない。私の記憶に、身体に、心に、彼がこびりついて離れなくなってしまいそうだ。
「隆義さんっ、」
「あっ、は、あ、」
「俺もう、出そうです、」
「いっ、!?」
首筋を強く噛まれたと同時に、私は二回目の絶頂を迎えた。
彼は太腿から自身を引き抜いた後、私の背中に向かってそれをかけた。噛まれた箇所にまで飛び散り、痕に染みていく。
彼が私の背中に先を押し付けると、先端からはまだ白濁が出続けているようで、じんわりとその部分が熱くなった。
「隆義さん、」
「はあっ、は……つ」
「余裕なくて、好き勝手して、ごめんなさい」
ぐったりと横たわる私の手を引き抱き起こすと、大きくて温かなその手で私を強く抱きしめた。
私の首筋に頬を寄せる彼の髪が、鼻先に触れると、それが湿っているのに気付く。
こんなに汗をかくなんて、と先ほどまでしていた行為を反芻する。
弘明くんは、手の甲で汗を拭うと、それから身体中に飛び散った白濁をティッシュで拭き取ってくれた。
それについてお礼を伝えると、舌先で唇を舐められ、それから噛み付くようなキスをされる。
ほてった身体が徐々に冷えるまで、その強引なキスを繰り返した。
唇が離れる頃には私ももう止められなくなり、最後は私のほうからキスをねだった。
「あなたがあまりにも可愛いすぎて、止められなかった。……夢中になりすぎました。本当にごめんなさい」
「いや、私も……」
「嫌いになりました?」
「弘明くん。それ聞くの、ずるいよ」
「そうですか?」
「いつもそう思う……」
指先で彼の髪に触れながら、せめてお風呂だけは貸さないとな……と考えているうちに、口から「泊まっていく?」と思っていたこととは異なる言葉がこぼれ出た。
慌てて口を塞いだ私を見て、彼が優しく笑う。
「こんなことしておいてなんですけど、泊まるのはもっと特別な日にしたいです。だからお風呂を貸してください。今日は一緒に入りませんか?」
「……二人は狭いと思うが」
「否定の言葉が真っ先に出てこないことが嬉しいです。狭くても良い。あなたとくっついて入れるから」
先に立ち上がった彼に抱き起こされるようにして立たされると、そのまま手を繋いで給湯器のボタンを押しに行く。
「なんだか良いですね」と満足そうに笑う彼を見ていたら、このまま時間が止まってしまえば良いのにと、そんなくだらないことを考えた。
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