君を拒まなかった言い訳が欲しい

小湊ゆうも

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言い訳が欲しい

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 私から彼になかなか連絡をしないから諦めたのか、あれ以降頻繁に電話が来るようになった。
 相変わらず大したことは話さず、私から話題提供をすることもないが、それでも声が聞きたいからと言って週に何度かかかってきている。

 電話だけで会うことがないのかと言われればそういうわけでもなく、最近はそこまで忙しくないようで週末に自宅に来てくれている。
 それでも、どこかに出かけることはほとんどないし、あったとしても近所のスーパーかコンビニくらいだ。

 これまで一人で通っていた場所に彼と並んで行くことに少しばかり抵抗があったが、彼がそういうことを気にしていない様子を見ると、私は過剰に他人の目を気にし過ぎていたのだと思うようになった。

 些細なことではあるものの、世界が広がったようにも感じる。

「ふう……」

 あと数分もすれば電話がかかってくるだろうと思い、画面をすぐに確認できるよう表を向けてパソコンの横に置いた。

 ある程度パターン的なタイミングだから、いつかかってくるのか、そもそもかかってくるのかなどと悩むこともなくなり、彼からの連絡を仕事をしながら待つことができるくらいには余裕が出てきたと思う。

「ほら、」

 机の上で震えるその画面を見れば、彼の名前が表示されている。何度も会い、電話もしているとはいえ、通話ボタンを押すまではいまだに緊張してしまうが、それでも出ないでおこうかと考えることはなくなった。

「もしもし」

隆義たかよしさん、今日はいつもより出るの早かったですね」

「そんなことはないと思うが」

「あるんですよ。俺、それだけで嬉しいです。今何していたんです? お仕事中でしたか?」

「いや、書いていたけれど、区切りは良いから気にしないで」

「そうですか。じゃあ今日はいつもより長く、あなたの声を聞いていたいな」

 さらりとそんなことを言う彼に、私も何か言葉を返したいと思うけれど、私にとってはそのハードルが高い。返したいと思うようになっただけで成長かもしれないが。

隆義たかよしさん」

「ん?」

「会いたいですね」

「……週末に来るだろう?」

「それはそうなんですけど、今、会いたいなって」

「今……?」

「あなたは俺に会いたくない?」

「……いや、」

 どう答えるのが正解なのだろう? 
 もう遅いし、それに週末に会えるじゃあないか、と今日はやんわり突き放す? 

 君が来たいのなら来れば良いと、彼の判断に任せる? 来てくれたら嬉しいと、正直な気持ちを伝える? 

「私は……」

「俺が会いたいからって理由で、隆義たかよしさんに会いにいくことは許されますか? あなたが嫌でなければ俺、今からでも会いに行きたいです」

 彼の言葉を嬉しいと思ってしまった私には、どのように断れば不自然ではないのかを考える余裕はない。
 そんな私の返事を待たずに、彼は「今から行きます」とだけ言うと電話を切った。

 彼がうちに来るまでは一時間ほどかかるだろう。それまで、どんな気持ちで待っていれば良いのか。

 少し伸びたこの髭は剃る? 
 そうすると来てくれることを楽しみにしていたと気づかれてしまうだろうか。

 ソファの毛玉を取っておいたほうが良いか? いやでも、今度新しいカバーを買いに行く話をしたことがあった気もする。
 じゃあ、何か飲み物を買っておくべきか? うちには水しかない。
 お茶? お酒? でもお酒を飲まない私の冷蔵庫にそれがあるのは不自然?

「ああ、どうしたら良いのだろうか」

 そこまで広くない部屋を行ったり来たりしながら、まとまらない考えをどうにか整理しようとするものの、このままでは、何もせずにこの時間が過ぎてしまいそうだ。

 せめて、部屋着はそれなりのものにしておこうか。

「……あっ、」

 どうせすぐに脱がされてしまうかもしれないのに? とそんな考えがふと過り、引き出しから服を取り出していた手が止まった。

「はあ、」

 当たり前にこんなことを考えてしまうとは。別に来るたびに触られているわけでもないのに。
 開けていた引き出しを戻し、それから立ち上がると洗面所へと向かった。鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。

 少し伸びた髭も、長らく切っていないこの髪も、襟元がよれた服も、目尻の皺も、いまさらどうしようもなければ、何かを期待してかえるべきものでもない。
 
「まだまだ時間があるな」

 何も取り繕わなければ十分に余裕があると、時計を見ながら計算をする。余計なことを一度でも考えてしまった頭をすっきりさせたくて、飲み物を買いに行くことにした。 

 すぐ近くではなく、さらに五分ほど先にあるコンビニでも良いだろう。
 
 「飲み物と、お菓子でも買っておくか。テレビは見るだろうし」

 玄関を出て鍵を閉めると、強めの風が吹き抜けた。
 夕方になると一気に冷えてくるな、と思うものの、もう一度部屋に戻って上着を取りに行くのは面倒くさい。
 エコバッグと財布、それだけあれば問題ないし、長居せずにすぐに戻ってこよう。

 そんなことを考えながら、マンションの玄関を出てしばらく歩いていると、少し遠くでにゃあと猫の鳴き声がした。

 鳴き声のするほうに行ってみれば、時々うちの近くで見かける猫だった。
 マンション内の誰かが餌付けしているのだろう。その体はまるまると肥えている。

「パッツン、おいで」
 
 前髪をパッツンと切ったような模様が目の上にあるからと、私は勝手にそう呼んでいるが、以前は別の名前で呼ばれているのを見かけたことがある。
 
 きっとそれぞれが好きな名前で呼んでいるのだろう。人懐こい猫だから、どんな呼び名で呼ばれようが近づいてきてくれる。
 その姿が可愛らしく、猫に会えた日は一日中穏やかに過ごせるほどだ。

「私からは餌はあげられないんだが。ごめんね」

「にゃあ」

「それでもいつも私のところに来てくれるんだね。ありがとうね」

 何も持っていないと分かっていても離れて行かずに、私の足元に擦り寄るその猫の頭をしばらくの間何度も撫でた。







「お邪魔します」

「どうぞ」

「いきなり来てしまってごめんなさい」

 一時間ほどして彼が家にやって来た。
 私の家に何もないと分かってか、ちょっとした食べ物やお菓子、飲み物を買って来てくれていた。

 私用の水も入っていて、それが普段飲んでいるものと同じボトルだったことにすら、思わず口角が上がってしまうほどご機嫌な気持ちになる。
 
「何もおもてなしできず、ごめんね」

「いいんです、ちょっと会いたかっただけなので」

 ソファに案内すると、「じゃあ」と言って肩が触れる距離で私の横に座る。
 不自然にならないように座り直したかった私は足を組み、彼から少しだけ離れた。

「あ、」

「え?」

隆義たかよしさん、今日猫触りました?」

「……え?」

 なぜそれを? と思えば、私のズボンの裾に猫の毛が数本残っていた。
 取ったつもりだったのに、全て取りきれていなかったのか。
 
「よく気づいたね。さっきコンビニに行こうとしたら野良猫がいて触ったんだよ」

「全体的に白くて、頭のところと尻尾が茶色の猫ですか?」

「え!?」

 私があまりにも驚いた顔をしたからか、弘明ひろあきくんがクスッと笑った。
 でもどうして彼がその猫を知っているのだろう。配達の時にでも見かけたのだろうか。

弘明ひろあきくんも知っているんだ? あの猫、人懐こくて可愛い猫だよね」

「俺も配達の時に、時々見かけるんです。でもあの猫、全然寄って来てくれなくて。人懐こくないですよ。俺のこと、怖いのかな?」

「そうなんだ……。あの猫からそばに来てくれたから、みんなに懐く猫なのかと思っていたけれど、違ったのかな」

 私には最初から警戒心もなく、むしろあの猫から寄って来てくれたというのに。
 私より爽やかで優しそうな彼には、どうして懐かないのか。

隆義たかよしさんには懐いているみたいですね。羨ましいなぁ」

「あ、別に餌とかあげているわけじゃあないからね」

「そんなこと分かっていますよ」

 もしかして、近寄って引っ掻かれでもしたらどうしよう、というネガティブな気持ちが伝わっているのかも……と、彼は眉を垂らして笑う。

「……猫、怖いの?」

「怖いというわけじゃあなくて、気まぐれなイメージはありますね。急にシャーって引っ掻いてきそうな。だから、おいでーと呼んでみても、来たら来たでどうしよう、みたいな気持ちはあったかもしれないです」

 確かに猫は気まぐれだが、私は引っ掻かれることにそこまでの恐怖心はないかもしれないと思った。
 そういう気持ちが猫に伝わってしまうものなのだろうか。

「猫って難しいね。私はあの子にパッツンという名前を付けているんだよ」

「パッツン?」

「今度近くで見る機会があれば、頭の模様を見てみると良い。前髪を真っ直ぐに切ったみたいな模様なんだよ」

「前髪パッツン。はは、隆義たかよしさん面白すぎです」

 馬鹿にしたような笑いではなく、柔らかい優しさが滲むようなものだったが、それが反対に恥ずかしさを招き、私はソファから立ち上がりキッチンへと向かった。

 そんな私の気持ちに気づかずか、弘明ひろあきくんも隣に並ぶ。
 持って来てくれたお茶をコップに注ぐのは彼に頼み、私はお菓子や食べ物を皿に盛り付けた。

「以前にね、隆義たかよしさんが、猫に触れているのを見かけたことがあったんです。ほらあの、日向ぼっこができるところ。ベンチのある、あそこの」

「え?」

 ソファのほうへと戻り、ローテーブルにコップを置きながら、彼がそんなことを言う。
 そういえば、出会ったばかりの頃に私のことを何度か見かけたことがあると、そう言われたような気がする。

「少し近所を散歩したり、買い物をしに出た時にあの猫を見かけると、必ず触るようにしているんだ」

「そうなんですね。その時にあなたがあまりにも可愛く笑うものだから、つい見惚れちゃったんですよね。俺にはまだ見せてくれませんけど、無防備で可愛らしい笑顔でした」

「なんだそれ」

 無防備で可愛らしい? この私が?

 確かに触れている間は猫に対して何か警戒することもなければ、擦り寄ってきてくれることで穏やかな時間を提供してくれることに感謝しているほどだし、思い詰めたような表情はしていないと思うけれど。

 それでも、話したこともない、よく知りもしないおじさんが、猫を撫でて笑っているだけの姿を見て、どこをどうしたら可愛いと思えるのか。

「でもマンションや外で数回だけ見かけたあなたは、元気もなければ、挨拶をしても返事はないしで、余計に気になっていたんです。あの猫は俺には懐かないのに、そんなあなたには懐いているから、きっと知らない素敵な一面がたくさんあるんだろうなって思いました」

 執筆に行き詰まった時の気晴らしで出歩くこともあるから、その時の私を見られたのだろうか。
 挨拶をしてくれていたことがあったなんて、知らなかった。

 他人への興味は持ち合わせていないし、知りもしない誰かが仕事でもないのに私に挨拶をしてくれると、そう考えたことすらなかったから。

 だからなつめさんにも孤独なおじさんなどと言われてしまうのだ。

「君への態度が悪かったようだが、それなのによくも私に素敵な一面があるだろうと思えたね。猫に好かれているくらいで」

 彼が私に興味を持ってくれる理由が、分かるようで曖昧なところが多く、納得できないからか嫌な言い方になってしまう。
 怒っているわけではないものの、そういう言い方しかできない私を、彼は変わらず優しく見つめている。

「態度が悪いというか……。意図して嫌な態度を取っていたわけではなくて、あの時の隆義たかよしさんは、俺に全く興味がないんだなと感じたんです。すれ違う他人だとしても、ああ前から人が歩いて来るな、なんてそんなことくらいは思いますもん。でもあなたは、そういうことすら頭にないようでした」

 猫の話から真剣な話になりそうな予感がし、気まずさからコップのお茶を飲む。

「まぁ、確かに私は人への興味はないし、人から挨拶をされるほどの興味……と呼んで良いのかは分からないが、そういうものも向けられないと思って過ごしてきたから」

隆義たかよしさんもそう言うし、じゃあ間違いではないのかも。俺という人間が通行人としてですら、あなたの人生にはいないんだ、って思ったんです」

 そういうものではないのか? と尋ねれば、あなたは例外なんだと返される。
 あまりにもじっと見つめてくるものだから、思わず目を逸らした。

「そんなあなたが、自分のペットでもない野良猫には穏やかな優しい眼差しで見つめ、触れ合って、笑顔になっているのを見て、あなたの人生に入れてもらえているこの猫は羨ましいなと、そう思いました。それにあの猫が誰にでも懐く猫だったらそれまででしたよ。でも俺には懐かないのに、あなたには懐いているし、マンションに住んでいる方だろうなと思う人ですら、俺と同じ扱いを受けている人もいました」

 一気に話す彼を止められることもできず、ただただ私がひとり、恥ずかしを感じているように思う。
 誰かに挨拶を返されないこと、無愛想な人が野良猫を可愛がっていること、そんなことは私以外とでもいくらでもあるだろうに。

「まぁそんなことは言い訳のようなもので、単に一目見た時から隆義たかよしさんが気になっていたってことなんだと思います」

「気になっていた、だなんて」

「この人の人生に入れてもらいたいだなんて、誰にでも思うことじゃあないですからね」

「まぁ、そうだが」

「それに、今でも無防備なあの笑顔は見られていないですが、あなたの色んな表情が見られるようになって、俺はそれだけで充分嬉しいんですよ」

 先程お茶を飲んでから、コップをテーブルに置くタイミングを失ったままの私を彼は笑いながら、そっとそれを取り上げ代わりに置いてくれる。
 自由になった私の手を優しく包み込み、それから視線を合わせた。

隆義たかよしさん」 

「な、に……」

「今日も、可愛いです」

 さすがに分かる。この瞳で見つめられ、握られた手は熱く、優しく握っているようで私のことを離す気がないことが、この先何を意味するのか。

 私が振り払い、今日はそんなつもりはなかったと断らなければ、彼はこのまま私に顔を近づけ、この唇を奪うだろう。

弘明ひろあきくん」

「ん?」 

「その……えっと、」

「なぁに?」

「……私のどこが、可愛い……ん、だ……?」
  
 名前を呼んだ私への彼の返事が、あまりにも近い距離で覗き込まれてなされるものだから、瞳の中で揺れる光も、先が柔らかくカールした長い睫毛も、髪から香る甘い香りも、すーっと通った鼻筋にも、心地良い低音が紡がれる唇も、全てが、はっきりと感じられて、それに抱いた感情をどのように処理すれば良いのか分からなかった。

 私の可愛いところ、そのようなことが聞きたかったんじゃあない。
 その言葉を言うつもりもなかった。
 
「そういうところが、たまらなく可愛いんですよ。隆義たかよしさん、俺、ごめんなさい。今日はここまでするつもりなかったのに」

 抵抗する間もなく、ソファへと押し倒される。胸元を押し返そうとした手は、その前に掴まり行き場を失ってしまう。

 ゆっくりと近づいてくる彼の顔から視線を逸らせば、首筋に吸いつかれ、熱がそこに集中していくのを感じる。
 唇を離した彼が満足げに微笑んでいるのを見て、赤い痕を付けられたのだと分かった。

 彼のように柔らかくもない私の髪を指先でとくように撫でながら、温かな唇は首筋を這い私の頬へと辿り着く。
 
「この髭……」

「あっ、剃っていなくて。痛い……?」

「ふふ、ちょっと痛いです。でもその痛みのおかげで、ああ隆義たかよしさんにキスしているんだなと実感できるから、その分興奮しますけどね」

「興奮って……」

「ね? ほら」

 手首を掴まれ、彼の勃ち上がったそれへと手を押しつけられる。
 厚手の服越しでもはっきりと分かるその形に、次第に自身のものにも熱が集まっていくのが分かった。

「俺、本当に今日はあなたの顔を見たいだけだったのに」

弘明ひろあきくん、」

「我慢できないです。最後までしないから、触れてもいい? 隆義たかよしさん、嫌じゃない?」

「だからその聞き方、ずるいって、」

「ずるいのは、隆義たかよしさんのほうですよ。なんでこんなに可愛いの、」

 万歳の姿勢で呆気なく服を脱がされる。
 やはり服を着替えなくて良かったと、期待通りの展開になり、彼の目を見ることができない。

 なんとなく胸元を両手で隠すと、その姿を彼に笑われる。

「見られるの恥ずかしい?」

「そりゃあ、……慣れないからね」

「じゃあ俺も脱ぎますね」

 そう言って私に跨ったままで彼が服を脱ぐと、綺麗に割れた腹筋が視界に入ってきた。
 若さだけでそうなっているのではなく、仕事以外の日も鍛えているのだろうとそんなことを思った。

 自分のとはあまりにも違うそれに手を伸ばし触れると、手のひらにぴったりと吸い付く。

「最近また鍛えたんですよ」

「そうなんだ」

「あなたにかっこいいと思われたくて」

 力を入れたらもっと硬くなりますよと、彼が腹に力を入れてみせる。
 その姿があまりにも面白く、緊張がほぐれて笑みをこぼせば、彼はまたさらにふざけたポーズをとった。

 そうして油断した私の力が抜けるのを待っていたかのように、身体を固定され身動きが取れなくなってしまう。

「おふざけはここまでです。俺はまだこんなにガチガチなのに、隆義たかよしさんは余裕なんだ?」
 
 わざとらしく笑う彼に、柔らかくなってしまったそこを撫でられる。
 そんなふうに触れられたらすぐにでも反応してしまうのに、彼はそれだけでやめてはくれない。

隆義たかよしさん、口開けて」

「あ……?」

 言われるがままに口を開けると、彼が舌を差し入れ、ねっとりと口内を舐め上げる。
 歯列や上顎まで触れられ、意識がぼんやりとしてくる中、綺麗な指先を私の頭へと回し、髪を絡めて遊ぶ。
 
「こっちも」 

「あっ……」

 あっという間に下も脱がされ、「部屋着は脱がせやすくて良いですね」と彼が笑った。
 そう言いながら直接私のペニスに触れる彼の手が温かく、ふと彼を見つめればまた、唇を奪われる。

「俺のも触って」

「ん……っ」

 ベルトを外し、ファスナーを下ろす手が少しだけ震えている。
 それでも服を圧迫していたそれが出されると、彼は私の手をそこへと持って行った。

「うあ……、かた、い……」

「ねぇ、隆義たかよしさん。そんなこと言って煽らないで。あなたのせいでこうなってるのに、もっと大きくさせたいの?」

「や、……そういうわけ、じゃあ……っ、あ」

 ああ、この関係は一体なんなのだろう。
 会いたいと言われ、それを受け入れ、最後までしないものの、こうして熱を帯びた視線を交わしながら、お互いのものに触れている。

 柔らかくもない身体を重ねることも、自分自身がみっともない姿にされようとも、それでも私は彼を拒むことができないし、拒みたくもない。

弘明ひろあきくん、そこ、は……っ、」

隆義たかよしさん、気持ち良いのなら逃げないで」

「う、あ……!」

 誰かと深く関わることがこの歳までまともになかったから、今更何ができるかも分からないし怖い。

 なつめさんとは仕事を機に自然に知り合い、そこから長い時間をかけて関係を築いてきたけれど、彼とは違う。
 届け先の部屋番号を間違ったところから出会い、彼に興味を持たれ、私もそれを拒まず、ここまで来てしまった。

 まして、友人関係にはあり得ない、身体の関係までできてしまっている。

 なつめさんは私に自信を持てと言うけれど、私にいったいどのような魅力があるというのか。
 どうしたってこれから進む先に、長く続くような関係は存在しないだろう。

 彼がこの先何をどこまで望むのかは分からないけれど、私はもう、友人としての関係を彼には望めない。

 彼に欲情し、求められると隠せないほどの嬉しさを感じ、時にはもっと求められたいとすら願ってしまう。
 そうした先に、彼が愛想を尽かし、私の前からいなくなってしまうことでもあれば、私はもう生きていけないかもしれない。
 
 誰かと関わるなんて、慣れないことをするものではなかった。
 彼に好意など抱かなければ良かった。
 少し触れられたくらいで、夢中になるなどと、そんな単純な自分自身に早くに気づいておけば良かった。

 こういうことを考えている時点でもう遅いのかもしれないけれど、完全に抜け出せなくなる前にこれ以上深入りしないほうが良いのではないだろうか。
 距離を置けば、出会ったばかりの頃のように戻れるだろうか。

 彼は同性で年齢も親子ほども離れているのだ。
 この先に私が望んでしまうだろう恋仲になんて、彼と私とではなれるはずがないのだから。

隆義たかよしさん、こっち向いて、表情かお見せて」

「あっ……」

「可愛い……っ。ねぇ、隆義たかよしさん。俺のこと、ちゃんと見て。隆義たかよしさん、」

 それでも、私を抱きしめるその腕の震えに気づいたから、それを無視して彼から逃れることができなかった。
 掠れる声で何度も何度も私の名前を呼ぶから、この時だけは応えてあげなければとそう思った。

 勘違いしてしまうほどに、あなたを離したくないと全身でそう伝えてくるから、だから、拒絶の言葉を口にすることができなかった。

「あっ、」

隆義たかよしさん、可愛い……」

弘明ひろあきくん、」

 背中に爪を立てた。
 彼の肌に自分の爪が食い込んでいく感触がはっきりと伝わる。

 私は、君を拒まなかった言い訳が欲しい。私にはどうしようもないことだと、そう思えるほどの言い訳が。



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