婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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一章 婚約破棄

婚約破棄

 それは突然の出来事だった。

「リヴィアス・シエル・レイディアンス大公令息! 俺、アルギロス・マッド・ウィキッドとの婚約を破棄する!」

 葡萄色のベリーショートの髪、自信に満ち溢れた若草色の目をした青年――アルギロスは、腰まである銀色の長い髪を緩く結んだ少年に向かって指を差して、高らかに宣言した。アルギロスの隣には我が物顔で彼の腕に凭れるように組み、ミモレ丈の赤いドレスを纏った小豆色のミディアムヘア、紫色の大きな目の少女がいる。

(ああ……やっぱり、こうなるのか……)

 小さく息を吐いて、リヴィアスと呼ばれた少年は、少しだけ天色の目線をアルギロスの足元の床を見るように下げる。
 その表情は憂いに満ちていて、起こるべくして起きたのだと物語っている。
 アルギロスの宣言で、ざわりと会場にいる様々な爵位の貴族達がざわめく。

(今日は、先輩方の門出を祝うべき卒業パーティーなのに……)

 リヴィアスはちらりと周囲を窺う。
 ここはブラカーシュ王国の王立タイバス学園の式典等に使われるホールだ。
 様々な爵位の貴族の子息子女とその家族が集まり、卒業パーティーを始めた瞬間だった。
 十八歳の生徒達の卒業を祝う場で、王族、大臣や国内の貴族達も集まっている。
 パーティーでもあるので、家族はもちろん、婚約者がいる場合は学生ではなくても同伴可能だ。
 十六歳のリヴィアスは在学生でもあり、婚約者のアルギロスが卒業するのでパーティーに同伴する予定だった。
 どういう訳か、婚約者からはエスコートの話はなく、嫌な予感がしたので、四歳年上の兄のグレイシアに同伴をお願いした。

(それが、良かったのか、悪かったのか……)

 周囲から、隣に立つ兄へ視線をちらりと移す。
 兄からは怒りで冷たい魔力が周囲を漂っている。

(これは、色々といけないし……もう、無理。このままだと心が死ぬ……)

 会場内の学生や貴族達の視線が集中しているのもあり、リヴィアスは静かに、真っ直ぐとアルギロスを見た。

「――破棄の理由を伺っても宜しいですか?」

 凛とした声音を意識して、リヴィアスは静かに問う。
 リヴィアスの問いに、待ってましたと言いたげにアルギロスと少女の目が輝く。

「リヴィアス、お前は誉れ高き薬師でありながら、こちらのプサリ男爵家のモノリス嬢の功績を奪った! そのようなことをする人間を、我がウィキッド侯爵家に属すことは認めない! よって、婚約を破棄する!」

 自信満々にアルギロスは、周囲の貴族達にも聞こえるように叫ぶ。

「プサリ男爵令嬢の功績とは、どのような功績でしょうか?」

 首を少しだけ傾げ、リヴィアスは静かに問う。

「身に覚えがあるだろう! 半年前まで国内で流行った病だ! その特効薬をお前は作ったと言ったが、実際に作ったのは見習い薬師でもある彼女、モノリス嬢だ! お前との婚約破棄後は、モノリス嬢と婚約する!」

 アルギロスの宣言に、ざわりと会場がざわめく。
 それを貴族達の賛同と受け取ったのか、アルギロスは更に声高に叫ぶ。

「お前は王弟殿下の息子で、薬師でも有名で、大公家の次男。彼女はまだ見習い薬師で男爵家の令嬢。見習いが作ったものを自分が持つ権力で握り潰し、自分の功績にしたに違いないっ! 俺を流行り病から救ったモノリス嬢を貶めた、そんなお前を俺は決して認めない!」

「リヴィアス様、ヒドイです!」

 アルギロスに寄り掛かるように、モノリスは目にハンカチを当てる。

「は? お前、私の弟を盗人だと言っているのか? それと弟から名を呼ぶ許可を得ているのか?」

 魔力を冷気に変えて漂わせながら、グレイシアがモノリスを鋭く見る。
 見られたモノリスはビクリと肩を震わす。

(……僕が作った物で間違いないのだけど、これはどういうことになってる?)

 表情を変えず、無のまま、リヴィアスは今度はちらりと国王がいると思われる場所を見る。
 こちらへ乗り込みそうな勢いの、リヴィアスにとって伯父でもある国王を宰相が必死に抑えているのが見えた。

(……陛下、怒っていらっしゃる……。早く終わらせた方がいいよね……。兄様も怒ってるし)

 小さく息を吐き、吸い込んでリヴィアスはアルギロスをもう一度見た。

「流行り病の特効薬は、僕が作った物で間違いありません。特効薬の実物もレシピを含め、国王陛下に報告し、宮廷薬師の薬師長に提出して、承認を得ています。レイディアンス大公家の名に誓って、流行り病の特効薬は僕が作った物だと宣言致します」

「私も宣言しよう。大公家次期当主、グレイシア・ヘイル・レイディアンスの名に誓って、我が弟リヴィアスが流行り病の特効薬を作ったことに間違いはない。そして、流行り病に罹った弟の婚約者のウィキッド侯爵令息を助けるため、優先的に特効薬を贈っている。その記録もある」

「なっ!」

 リヴィアスとグレイシアの宣言に、アルギロスは目を大きく見開く。
 家名や名に誓って宣言するのは、家名を背負い、偽りではないと証明する言葉だ。
 偽りであった場合、罪に問われ、場合によっては貴族籍から抜かれ、平民になる。
 それを二人が平然と宣言したことで、嘘ではないと察した貴族達の同情のような視線がリヴィアスに纏わりつく。

「ですが、ウィキッド侯爵令息は信じて下さらないご様子。このまま、婚約関係を続けても、僕はウィキッド侯爵令息を信頼する気持ちが持てません。ですので、謹んで婚約の破棄に応じます」

 少し悲しげに頷き、リヴィアスはボウアンドスクレープをアルギロスに向けて行った。
 その行動に、貴族達に動揺が走る。

「国王陛下。今回の件、我が弟のことはもちろん、レイディアンス大公家の名を貶め、侮辱、傷付けようとする行為です。ウィキッド侯爵家とプサリ男爵家に抗議を致します。陛下の御前での婚約破棄の宣言をウィキッド侯爵令息はしましたので、速やかな婚約破棄の許可を頂きたく存じます。そして、我が弟が特効薬を作ったことは偽りではないと証明するため王家の査問機関に捜査頂くこと、もしウィキッド侯爵家とプサリ男爵家による虚偽と認められた場合、両家には謝罪と賠償を望みます」

 リヴィアスの両肩をそっと持ち、労るように目を向けた後、グレイシアは国王に告げる。
 グレイシアの言葉に、びくりとアルギロスとモノリスは震える。

「――分かった。ウィキッド侯爵令息の婚約破棄の宣言は私も聞いた。この場で認めよう。特効薬については我が王家の査問機関で調べよう」

 先程まで怒りの表情を浮かべていた国王は、表情を戻し、鷹揚に頷いた。
 分が悪いと感じたのか、アルギロスが反論しようとする前に、グレイシアが遮った。

「ありがとうございます。それと、弟は突然の婚約破棄にショックを受けています。申し訳ございませんが、この場を辞させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

 周囲から守るように、グレイシアはリヴィアスの肩を抱いて、国王に尋ねる。

「もちろんだ。リヴィアス、ゆっくり休みなさい」

 リヴィアスを労るように国王は頷いた。

「はい、陛下。お心遣い、痛み入ります……」

 ボウアンドスクレープを国王にして、リヴィアスは力なく微笑んだ。
 ショックを受けたというグレイシアの言葉通り、リヴィアスのボウアンドスクレープは先程より精細さが少し欠けていた。

「陛下、皆様。失礼致します。先輩方、卒業おめでとうございます」

 力なく小さく微笑み、リヴィアスはグレイシアに付き添われ、会場を後にした。

「なっ、リヴィアス! 待てっ! 否定するならちゃんと説明をしろ!」

 アルギロスの叫びを背中で聞きながら、リヴィアスとグレイシアは会場を後にした。











 ※アルファポリスさんでは初めまして。
初めてのジャンルなので、不安ですが楽しんで読んで頂けると嬉しいです。
感想等、頂けると更に嬉しいです。
ただ、ヒーローに会うのは大分先なので、そこは申し訳ありません。
会ってからは、たくさん出てくる予定なので、どうぞ宜しくお願い致します。
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