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二章 エリスロース竜王国へ
従兄のレイン
「少しのお昼寝が、うっかり朝まで寝ちゃった……」
ベッドから起き上がり、ブランケットを見つめながらリヴィアスは溜め息を吐いた。
「申し訳ございません。何度かお声を掛けたのですが……」
金色の髪、緑色の目の侍女のアクアが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ううん。アクアは悪くないよ。僕が気付かずに寝てしまっただけだから。気にしないで」
ベッドから降りて、リヴィアスはアクアに微笑む。
「何度も声を掛けてくれて、ありがとう」
「いえ。リヴィアス様の侍女として、当然のことです」
背筋を伸ばし、アクアは凛とした笑みを浮かべる。
「あ、そういえば、今日、僕がしないといけないことがあるとか何か聞いてる?」
「リヴィアス様にして頂くことは特に聞いておりませんが、エリスロース竜王国のプロミネンス公爵家からレイン様が来られると伺っております」
「レイン兄様? 何か来るようなことってあったっけ?」
「その……リヴィアス様のことで詳しく聞きたい、と」
伏し目がちに苦笑を混ぜて、アクアは簡単に説明した。
「あー……母様が伯母様達に報告しちゃったのか……」
服を着替えながら、アクアの言葉で察したリヴィアスも苦笑する。
「ただの婚約破棄なのにね……」
「ただではございません、リヴィアス様。レイディアンス辺境領の至宝でもあられるリヴィアス様を傷付けたのです。それも謂れのない罪を国王陛下や他の貴族方の前で言い、薬で私達を守って下さる薬師としての名誉も傷付けたのです。レイディアンス大公家の皆様、私達はもちろん、従兄であられるレイン様やプロミネンス公爵家の皆様も怒るのは当然のことです」
アクアはリヴィアスが脱いだ寝衣を受け取り、鼻息荒く熱弁する。
「ありがとう、アクア。至宝って言われると何だか照れるけど……」
「至宝です。何よりリヴィアス様が齎す薬で、レイディアンス辺境領の死亡率が格段に減ったのですから。昔、魔物に襲われた私の父や兄も、リヴィアス様の薬で命を救われました」
「そう言ってもらえて、本当に嬉しいよ」
「リヴィアス様、朝食は如何致しましょう?」
「遅く起きちゃったから、ここで食べてもいいかな?」
窓から見える太陽の位置が高いことに気付き、リヴィアスは苦笑する。
「はい。すぐ準備致します」
朝食を自室で済ませたリヴィアスは、家族に挨拶し、薬草園で薬草に水やりをした後、レイディアンス大公家の領主館の大きな書庫で、よく使用される薬草から珍しい薬草まで、様々な種類が載っている図鑑を読んでいた。
「加護で作った薬を、薬草でたくさん作れたら、もっとうちの領の魔物等の傷害による死亡率も減るよね……」
図鑑に載っている珍しい薬草を見つめながら、リヴィアスは呟く。
薬神の加護は、相手の状態を見ただけでその相手に必要な薬を魔力で精製することや、希少な薬を魔力で精製することが出来る……と言われている。
過去にも薬神の加護を持つ者がいて、その者から加護の内容を聞いた者が記したという書物により、その二つが広く知られている。
「……他にもあるけど、知られたら、僕、狙われるんじゃないかなぁ……」
書庫にある光を取り込むための大きな窓を見つめながら、ぼんやりと呟く。
リヴィアスの家族を含む周囲の者には、広く知られている二つと、もう二つの薬神の加護の内容しか伝えていない。
他にもあるが、伝えようにも、加護の影響なのか口を開いても、文字に書こうとしても、誰にも伝えられないようになっていた。
万が一、自白剤等で漏れてもいけないという父ミストラルの判断で、リヴィアスの加護を知る者は全員、制約魔法を掛けている。
だから、伝えたこと以外は知らない方がいいのかもしれない。
また迷惑を掛けてしまうから。
ぼんやりと大きな窓から見える空を眺めていると、書庫の扉を勢い良く開ける音が聞こえた。
「リヴィ! いるかい?!」
大きく通る声で、茜色の髪、蜜柑色の目をした男性がリヴィアスの愛称を叫ぶ。
「えっ、レイン兄様?!」
こちらにやって来ると聞いていたが、現れた人物が予想よりも早く来たことに驚き、リヴィアスは椅子から立ち上がり、目を何度も瞬かせる。
「リヴィ! 大変だったね、辛かったね! 俺が来たから、アレには絶対に近付かせないから!」
レインと呼ばれた、左に竜を象る紋章が描かれた腕章を着け、赤い炎の環を象った模様の白いマント、紺色の騎士服を着た男性は、リヴィアスの元へ駆け、ぎゅっと抱き締める。
「えっ?! 近付かせないって何の話ですか? 婚約破棄をしたウィキッド侯爵令息なら、もう来ないと思いますよ」
レインに抱き締められながら、リヴィアスは首を傾げる。
「いや、リヴィ……。その危機感のなさはどうかと俺は思うよ。まぁ、俺も含めて、皆、リヴィには過保護だから、鉄壁の防御だろうけど。リヴィはアレのことは忘れろ。あとは俺達がやる。これからは楽しいことがたくさん起きる。そっちを楽しみにしてればいい」
リヴィアスの頭をポンポンと撫で、レインは快活に笑う。
「楽しいこと、起きるんですか?」
「ああ。恋愛感情はないのは知ってるけど、リヴィが傷付いたのは確かだ。早速だけど、傷心を癒やすために、しばらくウチに来ない?」
「ウチって、レイン兄様の……プロミネンスのお城ですか?」
「そうそう。昔、功績を認められて、エリスロース王家が持ってた城をもらって、改装改築したウチの家! リヴィの薬草園もそのまま育ててるし、遠征の時に見つけた珍しい薬草も育ててるから、新しい薬も作れるかもしれない。レイディアンスの館に引き籠もるのもいいけど、息抜きをすれば少しは気持ちも落ち着くかもだよ? リヴィ、どう?」
にこにことレインは、リヴィアスが心惹かれるような誘惑をさり気なく入れて提案する。
「あの、凄く心惹かれるのですが、父様達には話しましたか?」
「ああ、もちろん! リヴィのやりたいように、気持ちを尊重するって仰ってたよ。ミストラル叔父上もプロミネンス公爵家とは良好だし、何より、リヴィはしばらくウチにいた方が安全だろうって」
「え? 安全……? 魔物の侵略行為があったのですか?!」
焦った様子で、リヴィアスは乗り出すように声を上げる。
「いやいや、魔物じゃないよ。リヴィが婚約破棄されて、今日で五日目だけど、ミストラル叔父上の話だと、アレとその浮気相手が暴走しそうな気配があるらしいから、そのとばっちりがリヴィに来ても困るし、レイディアンスでも安全だろうけど、アレ、何度かここに来たことがあるんだろう? 侵入を許してしまった時にリヴィが危ない。だから、ウチで静養って形で避難して、ゆっくりしたらいいんじゃないかなって。プロミネンスは隣国のエリスロース竜王国だから、ブラカーシュ王国の侯爵家の次期当主予定のアレでも、流石に不法侵入しようとはしないだろ? 多分」
「不法侵入は多分、しないとは思いますけど……」
レインの話を聞き、ウィキッド侯爵令息に対する信頼度が地の底のリヴィアスは、しっかり否定が出来なかった。
その様子にレインは苦笑しながら、リヴィアスの頭を撫でた。
「どうする? ウチに来る?」
リヴィアスは少しだけ逡巡した後、頭一つ分高いレインを見上げて頷いた。
「……はい、行きます! 伯父様や伯母様、アウラ姉様にも久々にお会いしたいので」
「よしっ! 決まり! 少ししたら行こうか」
「え?! 今からですか!?」
「善は急げって言うし、何より早ければ早いだけ良いんだよ。リヴィもアレとアレの浮気相手の暴走に巻き込まれたくないだろ?」
にっこりと満面の笑みを浮かべ、レインはリヴィアスを背後から肩を押して、ミストラルがいる執務室へ向かった。
そして、リヴィアスはレインに連れられて、ミストラルの執務室で、しばらくエリスロース竜王国のプロミネンス公爵領に行くことを家族に伝えた。
「ああ、その方が良いだろう。すぐにでも行った方がいい」
ミストラルは苦い顔で頷いた。
「あの、父様。何か、あったのですか?」
「……あまり不安にさせたくはないが、王都に行かせた影からの報告で、あの小僧とその浮気相手が我が領に向かっているらしい」
「何故でしょうか?」
目を何度も瞬かせて、リヴィアスは首を傾げる。
「リヴィとの婚約破棄を撤回するためだろうな。パーティーでのあの不貞野郎の様子を見ると、リヴィの反応が想像と違ったといった顔だったしな」
グレイシアが肩を竦めて、リヴィアスに告げると、更に困惑した表情を浮かべた。
「でも、兄様。僕もウィキッド侯爵令息も恋愛感情はないはずです。ウィキッド侯爵令息は婚約した時から浮気をしていましたし、プサリ男爵令嬢と仲睦まじい様子でした」
「だからこそ、リヴィ兄上が必要なんじゃない? リヴィ兄上という正式な婚約者を隠れ蓑に、男爵令嬢を愛人にするんじゃない? 侯爵令息と男爵令嬢だと爵位が釣り合わないから」
アイシクルが説明すると、困惑しているリヴィアスはじわじわと眉を顰めた。
「……僕は都合の良い婚約者には、もう、なりたくないのだけど……」
「だからこそ、一旦、ウチに避難しよう。連絡はステラ叔母上の魔導具で出来るし」
「そうね! 新しい魔導具もあるのよ、リヴィ」
そう言って、ステラはリヴィアスに小物入れのような袋を三つ渡した。それぞれ色は水色、赤色、黄色だ。
「母様、これは?」
「新しい魔導具よ。この小物入れに相手に送りたい物を入れると、同じ小物入れを持っている相手に送ることが出来るの」
ちょうど、ポーションの瓶が十本くらい入れられる大きさのピンク色の袋をステラも見せる。
「だから、うっかり薬を作り過ぎたら、これに入れて送って。手紙も送れるし、他にも必要な物を伝えてくれたら、こちらからもリヴィに送れるわ」
「母様、ありがとうございます。でも、三つも袋がいりますか?」
「これは、水色はリヴィで、赤色はプロミネンスに。黄色はもし、渡したい人が出来たら渡して」
「渡したい人??」
リヴィアスは首を傾げながら、ステラを見つめる。
「何となく母親の勘だけど、エリスロースで、リヴィにとって素敵な出会いがありそうな気がするのよね~。それが友人なのか、恋人なのかは分からないけど」
にっこりと慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ステラはリヴィアスの頭を撫でる。
「友人でも、恋人でも、素敵な出会いって、なかなか出来ないのよ。私もブラカーシュ王家の主催のパーティーに行かなければ、ミストラル様には出会えなかったもの。そういう出会いをリヴィも大切にして欲しいわ。もちろん、心も身体も元気でいることが一番大事よ。しばらくはプロミネンスでゆっくりしていらっしゃい」
ほぼ同じ背のリヴィアスを優しく抱き締めて、ステラは微笑んだ。
「はい、母様。しばらく、プロミネンス公爵家にお邪魔してきます」
「リヴィアス、ゆっくり休め。その間に、こちらの問題は片付けておく」
「父様、お任せすることになってごめんなさい」
「気にするな。子供を守るのが父親の役目だ。あちらで何かあったら、すぐ連絡しなさい」
リヴィアスの頬を撫で、ミストラルは口元に笑みを浮かべた。
「こちらのことは私達に任せて、リヴィはゆっくり休むんだぞ」
「リヴィ兄上は薬師としてたくさん頑張ったんだから、ゆっくり休養も必要だよ!」
グレイシアに頭を撫でられ、アイシクルに抱き着かれながら、リヴィアスは頷いた。
「アンブラ、ルーチェ、アクア! リヴィ兄上のこと、よろしくね!」
リヴィアスの後ろに控えるアンブラ、ルーチェ、アクアを順に見て、アイシクルは白い歯を見せて笑う。
「お任せ下さい、アイシクル様」
代表して、アンブラが頷き、三人が一礼する。
「レインも、リヴィのことを頼んだ」
「もちろん。グレイも暴走するなよ?」
ニヤリと笑って、レインはグレイシアと拳を合わせた。
ベッドから起き上がり、ブランケットを見つめながらリヴィアスは溜め息を吐いた。
「申し訳ございません。何度かお声を掛けたのですが……」
金色の髪、緑色の目の侍女のアクアが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ううん。アクアは悪くないよ。僕が気付かずに寝てしまっただけだから。気にしないで」
ベッドから降りて、リヴィアスはアクアに微笑む。
「何度も声を掛けてくれて、ありがとう」
「いえ。リヴィアス様の侍女として、当然のことです」
背筋を伸ばし、アクアは凛とした笑みを浮かべる。
「あ、そういえば、今日、僕がしないといけないことがあるとか何か聞いてる?」
「リヴィアス様にして頂くことは特に聞いておりませんが、エリスロース竜王国のプロミネンス公爵家からレイン様が来られると伺っております」
「レイン兄様? 何か来るようなことってあったっけ?」
「その……リヴィアス様のことで詳しく聞きたい、と」
伏し目がちに苦笑を混ぜて、アクアは簡単に説明した。
「あー……母様が伯母様達に報告しちゃったのか……」
服を着替えながら、アクアの言葉で察したリヴィアスも苦笑する。
「ただの婚約破棄なのにね……」
「ただではございません、リヴィアス様。レイディアンス辺境領の至宝でもあられるリヴィアス様を傷付けたのです。それも謂れのない罪を国王陛下や他の貴族方の前で言い、薬で私達を守って下さる薬師としての名誉も傷付けたのです。レイディアンス大公家の皆様、私達はもちろん、従兄であられるレイン様やプロミネンス公爵家の皆様も怒るのは当然のことです」
アクアはリヴィアスが脱いだ寝衣を受け取り、鼻息荒く熱弁する。
「ありがとう、アクア。至宝って言われると何だか照れるけど……」
「至宝です。何よりリヴィアス様が齎す薬で、レイディアンス辺境領の死亡率が格段に減ったのですから。昔、魔物に襲われた私の父や兄も、リヴィアス様の薬で命を救われました」
「そう言ってもらえて、本当に嬉しいよ」
「リヴィアス様、朝食は如何致しましょう?」
「遅く起きちゃったから、ここで食べてもいいかな?」
窓から見える太陽の位置が高いことに気付き、リヴィアスは苦笑する。
「はい。すぐ準備致します」
朝食を自室で済ませたリヴィアスは、家族に挨拶し、薬草園で薬草に水やりをした後、レイディアンス大公家の領主館の大きな書庫で、よく使用される薬草から珍しい薬草まで、様々な種類が載っている図鑑を読んでいた。
「加護で作った薬を、薬草でたくさん作れたら、もっとうちの領の魔物等の傷害による死亡率も減るよね……」
図鑑に載っている珍しい薬草を見つめながら、リヴィアスは呟く。
薬神の加護は、相手の状態を見ただけでその相手に必要な薬を魔力で精製することや、希少な薬を魔力で精製することが出来る……と言われている。
過去にも薬神の加護を持つ者がいて、その者から加護の内容を聞いた者が記したという書物により、その二つが広く知られている。
「……他にもあるけど、知られたら、僕、狙われるんじゃないかなぁ……」
書庫にある光を取り込むための大きな窓を見つめながら、ぼんやりと呟く。
リヴィアスの家族を含む周囲の者には、広く知られている二つと、もう二つの薬神の加護の内容しか伝えていない。
他にもあるが、伝えようにも、加護の影響なのか口を開いても、文字に書こうとしても、誰にも伝えられないようになっていた。
万が一、自白剤等で漏れてもいけないという父ミストラルの判断で、リヴィアスの加護を知る者は全員、制約魔法を掛けている。
だから、伝えたこと以外は知らない方がいいのかもしれない。
また迷惑を掛けてしまうから。
ぼんやりと大きな窓から見える空を眺めていると、書庫の扉を勢い良く開ける音が聞こえた。
「リヴィ! いるかい?!」
大きく通る声で、茜色の髪、蜜柑色の目をした男性がリヴィアスの愛称を叫ぶ。
「えっ、レイン兄様?!」
こちらにやって来ると聞いていたが、現れた人物が予想よりも早く来たことに驚き、リヴィアスは椅子から立ち上がり、目を何度も瞬かせる。
「リヴィ! 大変だったね、辛かったね! 俺が来たから、アレには絶対に近付かせないから!」
レインと呼ばれた、左に竜を象る紋章が描かれた腕章を着け、赤い炎の環を象った模様の白いマント、紺色の騎士服を着た男性は、リヴィアスの元へ駆け、ぎゅっと抱き締める。
「えっ?! 近付かせないって何の話ですか? 婚約破棄をしたウィキッド侯爵令息なら、もう来ないと思いますよ」
レインに抱き締められながら、リヴィアスは首を傾げる。
「いや、リヴィ……。その危機感のなさはどうかと俺は思うよ。まぁ、俺も含めて、皆、リヴィには過保護だから、鉄壁の防御だろうけど。リヴィはアレのことは忘れろ。あとは俺達がやる。これからは楽しいことがたくさん起きる。そっちを楽しみにしてればいい」
リヴィアスの頭をポンポンと撫で、レインは快活に笑う。
「楽しいこと、起きるんですか?」
「ああ。恋愛感情はないのは知ってるけど、リヴィが傷付いたのは確かだ。早速だけど、傷心を癒やすために、しばらくウチに来ない?」
「ウチって、レイン兄様の……プロミネンスのお城ですか?」
「そうそう。昔、功績を認められて、エリスロース王家が持ってた城をもらって、改装改築したウチの家! リヴィの薬草園もそのまま育ててるし、遠征の時に見つけた珍しい薬草も育ててるから、新しい薬も作れるかもしれない。レイディアンスの館に引き籠もるのもいいけど、息抜きをすれば少しは気持ちも落ち着くかもだよ? リヴィ、どう?」
にこにことレインは、リヴィアスが心惹かれるような誘惑をさり気なく入れて提案する。
「あの、凄く心惹かれるのですが、父様達には話しましたか?」
「ああ、もちろん! リヴィのやりたいように、気持ちを尊重するって仰ってたよ。ミストラル叔父上もプロミネンス公爵家とは良好だし、何より、リヴィはしばらくウチにいた方が安全だろうって」
「え? 安全……? 魔物の侵略行為があったのですか?!」
焦った様子で、リヴィアスは乗り出すように声を上げる。
「いやいや、魔物じゃないよ。リヴィが婚約破棄されて、今日で五日目だけど、ミストラル叔父上の話だと、アレとその浮気相手が暴走しそうな気配があるらしいから、そのとばっちりがリヴィに来ても困るし、レイディアンスでも安全だろうけど、アレ、何度かここに来たことがあるんだろう? 侵入を許してしまった時にリヴィが危ない。だから、ウチで静養って形で避難して、ゆっくりしたらいいんじゃないかなって。プロミネンスは隣国のエリスロース竜王国だから、ブラカーシュ王国の侯爵家の次期当主予定のアレでも、流石に不法侵入しようとはしないだろ? 多分」
「不法侵入は多分、しないとは思いますけど……」
レインの話を聞き、ウィキッド侯爵令息に対する信頼度が地の底のリヴィアスは、しっかり否定が出来なかった。
その様子にレインは苦笑しながら、リヴィアスの頭を撫でた。
「どうする? ウチに来る?」
リヴィアスは少しだけ逡巡した後、頭一つ分高いレインを見上げて頷いた。
「……はい、行きます! 伯父様や伯母様、アウラ姉様にも久々にお会いしたいので」
「よしっ! 決まり! 少ししたら行こうか」
「え?! 今からですか!?」
「善は急げって言うし、何より早ければ早いだけ良いんだよ。リヴィもアレとアレの浮気相手の暴走に巻き込まれたくないだろ?」
にっこりと満面の笑みを浮かべ、レインはリヴィアスを背後から肩を押して、ミストラルがいる執務室へ向かった。
そして、リヴィアスはレインに連れられて、ミストラルの執務室で、しばらくエリスロース竜王国のプロミネンス公爵領に行くことを家族に伝えた。
「ああ、その方が良いだろう。すぐにでも行った方がいい」
ミストラルは苦い顔で頷いた。
「あの、父様。何か、あったのですか?」
「……あまり不安にさせたくはないが、王都に行かせた影からの報告で、あの小僧とその浮気相手が我が領に向かっているらしい」
「何故でしょうか?」
目を何度も瞬かせて、リヴィアスは首を傾げる。
「リヴィとの婚約破棄を撤回するためだろうな。パーティーでのあの不貞野郎の様子を見ると、リヴィの反応が想像と違ったといった顔だったしな」
グレイシアが肩を竦めて、リヴィアスに告げると、更に困惑した表情を浮かべた。
「でも、兄様。僕もウィキッド侯爵令息も恋愛感情はないはずです。ウィキッド侯爵令息は婚約した時から浮気をしていましたし、プサリ男爵令嬢と仲睦まじい様子でした」
「だからこそ、リヴィ兄上が必要なんじゃない? リヴィ兄上という正式な婚約者を隠れ蓑に、男爵令嬢を愛人にするんじゃない? 侯爵令息と男爵令嬢だと爵位が釣り合わないから」
アイシクルが説明すると、困惑しているリヴィアスはじわじわと眉を顰めた。
「……僕は都合の良い婚約者には、もう、なりたくないのだけど……」
「だからこそ、一旦、ウチに避難しよう。連絡はステラ叔母上の魔導具で出来るし」
「そうね! 新しい魔導具もあるのよ、リヴィ」
そう言って、ステラはリヴィアスに小物入れのような袋を三つ渡した。それぞれ色は水色、赤色、黄色だ。
「母様、これは?」
「新しい魔導具よ。この小物入れに相手に送りたい物を入れると、同じ小物入れを持っている相手に送ることが出来るの」
ちょうど、ポーションの瓶が十本くらい入れられる大きさのピンク色の袋をステラも見せる。
「だから、うっかり薬を作り過ぎたら、これに入れて送って。手紙も送れるし、他にも必要な物を伝えてくれたら、こちらからもリヴィに送れるわ」
「母様、ありがとうございます。でも、三つも袋がいりますか?」
「これは、水色はリヴィで、赤色はプロミネンスに。黄色はもし、渡したい人が出来たら渡して」
「渡したい人??」
リヴィアスは首を傾げながら、ステラを見つめる。
「何となく母親の勘だけど、エリスロースで、リヴィにとって素敵な出会いがありそうな気がするのよね~。それが友人なのか、恋人なのかは分からないけど」
にっこりと慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ステラはリヴィアスの頭を撫でる。
「友人でも、恋人でも、素敵な出会いって、なかなか出来ないのよ。私もブラカーシュ王家の主催のパーティーに行かなければ、ミストラル様には出会えなかったもの。そういう出会いをリヴィも大切にして欲しいわ。もちろん、心も身体も元気でいることが一番大事よ。しばらくはプロミネンスでゆっくりしていらっしゃい」
ほぼ同じ背のリヴィアスを優しく抱き締めて、ステラは微笑んだ。
「はい、母様。しばらく、プロミネンス公爵家にお邪魔してきます」
「リヴィアス、ゆっくり休め。その間に、こちらの問題は片付けておく」
「父様、お任せすることになってごめんなさい」
「気にするな。子供を守るのが父親の役目だ。あちらで何かあったら、すぐ連絡しなさい」
リヴィアスの頬を撫で、ミストラルは口元に笑みを浮かべた。
「こちらのことは私達に任せて、リヴィはゆっくり休むんだぞ」
「リヴィ兄上は薬師としてたくさん頑張ったんだから、ゆっくり休養も必要だよ!」
グレイシアに頭を撫でられ、アイシクルに抱き着かれながら、リヴィアスは頷いた。
「アンブラ、ルーチェ、アクア! リヴィ兄上のこと、よろしくね!」
リヴィアスの後ろに控えるアンブラ、ルーチェ、アクアを順に見て、アイシクルは白い歯を見せて笑う。
「お任せ下さい、アイシクル様」
代表して、アンブラが頷き、三人が一礼する。
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ニヤリと笑って、レインはグレイシアと拳を合わせた。
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