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四章 悪意の薬と月華の君
薬草茶と癒やし
下級、中級、魔力回復ポーションを作りながら、リヴィアスは専用の小屋の窓を見上げる。
今は夜で、アンブラ、アクアは明日の準備、ルーチェは小屋の外で侵入者の警戒、待機をしている。
「……殿下やリヒト様、レイン兄様は大丈夫かな……」
溜め息混じりに、リヴィアスは呟く。
あれから一週間が経った。
頻繁にプロミネンス公爵領にやって来ていたラディウス達は、偽物の効能を謳った薬の件を解決させるため、エリスロース竜王国の城に戻ったままだ。
進捗状況はエリスロース竜王国の内政に関わる可能性もあるため、リヴィアスからは滞在しているプロミネンス公爵家の伯母や伯父、従姉に聞くに聞けない。
リヴィアスとしては、滞在しているプロミネンス公爵領に無事にレインが帰って来て、ラディウスとリヒトが遊びに来てくれたら安心出来る。
いつの間にか、リヴィアスにとって、ラディウスとリヒトとの会話は日々の楽しみになっていた。
突然の行動をするラディウスには、まだ慣れずに驚いて固まってしまうが、何故か嫌な気持ちにはならない。
太陽に当たって輝く真紅色の目が、とても真剣で、リヴィアスを誂って遊んでいるようには見えない。
「……便りがないということは無事ってことだよね……」
ポーションの瓶に蓋をしながら、リヴィアスはまた呟く。
「また、色々とお話出来たらいいなぁ……」
「――どんな話がいいんだ?」
「えっ?!」
突然聞こえた声に驚いて、リヴィアスは小屋の扉を見た。
扉の前に、腕を組んで柔らかい笑みを浮かべているラディウスが立っていた。
「で、殿下?! どうして、こちらに!? 解決したのですか?」
「いや、国内に広まってしまった例の薬を全て回収し、追い詰めている最中だが、まだ解決は出来てない。俺がどうしても貴方に会いたくて、お忍びで来た」
「お忍びでって……。リヒト様やレイン兄様はご存知なのですか?」
「そのリヒトとレインから、鬱陶しいからリヴィアスに会いに行けと追い出された」
苦笑して、ラディウスは答えた。
「鬱陶しいって……」
「いや、つい、な。事あるごとにリヴィアスは元気だろうか、とか、何も起きてないだろうか、とかリヒトとレインの前で呟いてしまってな。それが鬱陶しかったようだ」
「……僕は元気ですよ。何事もなく、薬を作ったり、薬草に水やりをしたり、読書をしたり、ゆっくり過ごさせて頂いてます」
ふわりと穏やかに微笑み、リヴィアスはラディウスに椅子を勧める。
ラディウスが座ったのを確認し、ティーカップを差し出す。
「宜しかったら、こちらを」
「これは?」
「薬草茶です。ポーションとは違うのですが、その時に応じた様々な薬草を混ぜて、僕が作ったものです。何処にも出回ってなくて、実家で家族と飲むくらいなのですが……宜しかったら」
「そうか。ありがとう、頂こう。どんな効能なんだ?」
「今日は疲労回復効果のある薬草で作ってます。お口に合うと良いのですが……」
小さく笑うリヴィアスを見ながら、ラディウスはティーカップに口を付ける。
飲むと、少し甘い香りが鼻腔に届く。甘い香りに対して、味はさっぱりとしたもので、後味も悪くない。
紅茶とは違った深い味わいがあり、じわじわと疲労が軽くなっていくように感じる。
「うん、美味しい。とても気に入った。ほとんど出回っていないのが、もったいないな。もし、良ければ、こちらの茶葉を少し分けてもらうことは出来るだろうか」
「はい。気に入って頂けて嬉しいです。僕が趣味で作ったようなものなので、たくさん作ってはいないのですが、一週間分くらいならお分け出来ます」
そう言って、リヴィアスはマジックバッグから赤色のリボンが巻かれた小さな袋を七つと、水色のリボンが巻かれた小さな袋を三つ取り出す。
「赤色のリボンが先程の疲労回復効果のある薬草で作ったもので、水色のリボンは興奮を落ち着かせて安眠出来る効果のある薬草で作ったお茶です。解決させるために毎日お疲れだと思うので、少しでも癒えたらいいのですが……」
小さな袋を机に置いてリヴィアスは、はにかむように微笑む。
「……貴方は、本当に優しい……。エリスロースの貴族の令嬢、令息と全く違う」
「そ、そんなことはないですよ。僕は、薬作りしか価値がない、ですから……」
悲しげに眉を下げ、リヴィアスは呟く。
会う度に、事あるごとに元婚約者から言われた言葉。
『お前は効果の高い薬作りしか価値がない』
『お前を娶ってあげるのは俺だけだ。他の者なんて、お前には見向きもしない』
『お前を大事にしてやってるんだから、俺に尽くし、利益を齎すのがお前の役目だろ?』
婚約破棄をして、離れられて、やっと気付く。
あんな最低な言葉を平気で言える者との婚約を何故、長い間、我慢していたのだろうと。
だから、次の婚約もしたくなくて、父に告げた言葉は嘘ではない。
同じ言葉を、また次の婚約者に言われたら、立ち直れない。選びたくない選択をしてしまうかもしれない。
今後あるかもしれない、全ての婚約の打診を拒否したのは、自分の心を守るためだ。
「……それは、元婚約者から言われたのか?」
真っ直ぐ、真紅色の目を煌めかせて、ラディウスはリヴィアスに問う。
リヴィアスは何も答えず、ただ苦笑するだけだった。
沈黙が答えだと感じたラディウスは、机の上で握り締めているリヴィアスの右手に触れる。
驚いて、リヴィアスの右手がぴくりと動く。
「――リヴィアス。これだけは言わせて欲しい。貴方の価値は、薬作りだけではない。貴方の、相手を案じて、心優しい言葉や態度、行動は相手を癒やしてくれる。誰もが出来る訳ではない。だから、周りの者達は、貴方に笑顔で接し、大事にし、守ろうとしている。薬作りだけしか価値がないのなら、そのような態度を皆しない。俺も貴方にたくさん癒やされた。貴方の価値は、存在そのものだ。貴方が側にいてくれるだけで、俺の荒んだ心が癒やされる」
リヴィアスの右手を持ち上げ、握り締めている指を一つずつラディウスは解く。
「初めてなんだ。俺が知る令嬢、令息は、俺のことを案じたりしない。竜神の加護を持つのだから、強い王太子なのは当然だと思われている。俺も思っていた。だが、貴方は竜神の加護など関係なく、俺のことを案じて、貴重なエリクサーやソーマ、状態異常回復ポーション、魔力回復ポーションを惜しげもなく渡してくれた。何かあっても、自分の出来る最大限で動こうとする、そんな貴方のことを愛しく思う」
真っ直ぐ、真紅色の目を輝かせて、ラディウスはリヴィアスに囁くように告げ、右手に口で触れる。
突然の言葉に、リヴィアスは固まる。
家族や親族以外からの、初めての肯定的な言葉に、戸惑う。
(初めて、言われた……)
戸惑うが、嬉しさや恥ずかしさを感じつつも、真っ直ぐな言葉に胸が暖かくなる。目頭が熱くなる。
「……初めて、言われました。家族や親族以外で、僕に肯定的な言葉を言って下さる人は、いなくて……。家族や親族だから、そう言ってくれているのだと、思っていました」
「どんなヤツかは知らないが、元婚約者は最悪で最低な者だな。俺なら貴方を否定するようなことは絶対に言わない。俺なら、貴方に常に愛を囁く。全力で貴方を守る。伴侶となる者の素行に問題がなく、誠実なら、そのような態度を取るなど有り得ない」
「殿下の婚約者になる方は、とても幸せでしょうね」
「政略結婚でも、相手の人となりが問題なければ、そこから愛は育むことは出来る。俺の場合は、婚約前に候補者の素行や家を調べたら不正やら不貞やら色々出て来たから流れたが、そうでなければお互い歩み寄ることは出来るはずだ」
ラディウスは苦笑し、リヴィアスを見つめる。
「だが、俺としては、愛しいと思う人を伴侶にしたいと思っている。王家に流れる竜神の血と竜神の加護の影響もあるんだが、どうも竜王家の血筋は家族や愛しいと思う者に対して、過保護だったり、嫉妬で過激だったりするんだ。愛しい者に何かあれば、暴れるくらいに」
「それは、お相手になる方はとても嬉しいでしょうね。殿下に愛されて」
「それが俺にとって、貴方だよ。リヴィアス。俺の婚約者に、ゆくゆくは伴侶になってもらえないだろうか」
愛おしそうにラディウスは真紅色の目を煌めかせ、熱い視線をリヴィアスに送る。
「――っ!」
突然の告白に、息が止まる。
端正な顔立ちのラディウスに愛を告げられ、真っ赤な顔のリヴィアスの心臓がばくばくと暴れる。
嬉しい気持ちもあるが、リヴィアスは躊躇してしまう。
(嬉しいけれど、もし、また、裏切られたら……?)
次は立ち直れないのではないだろうか。
ラディウスの人となりは、今までの会話で元婚約者とは真逆だと、今では分かる。
それでも、恐怖がついて回る。
あの六年間が、リヴィアスの心に影を落とす。
「返事は今でなくていい。でも、俺は、貴方が良いんだ。貴方でないと、俺は癒やされない。俺は貴方を絶対に裏切らない。それだけは分かって欲しい」
匂いで感じ取ったのか、ラディウスはリヴィアスの右手に口付けを落としながら、安心させるように微笑んだ。
「ありがとう、ございます……。ごめんなさい、すぐに返事が出来なくて……」
「いいんだ。本当は今日言うつもりはなかったんだ。ただ、俺がここに来られない間に、エリスロースはもちろん、ブラカーシュでも、貴方に婚約の話があったらと思うと気が気じゃなくてな。焦って言ってしまった……。リヴィアスの気持ちを無視して、また突っ走ってしまった……すまない」
顔を赤くしながら、ラディウスはそう呟いた。
「あの、僕は嬉しかったです。僕のことを想って下さったことを知れて……。返事は必ずします。ですから、あの、その時は、聞いて下さいますか……?」
「ああ。良い返事がもちろん良いが、どんな返事でもちゃんと聞く」
「ありがとうございます。あの、殿下。今が大変なのは分かってます。ですが、どうか、お身体ご自愛下さい」
「分かった。それと、リヴィアス。お願いがあるんだが……」
「はい、何でしょうか」
「前にも言ったが、俺のことを名前で呼んでもらえないか? リヒトのことは名前で呼ぶのに、俺のことは殿下と呼ぶから……」
少し拗ねたようにラディウスが呟く。
その様子に、リヴィアスは口に手を当てて、くすくすと笑う。
小さく笑うリヴィアスをラディウスは、見惚れるように目を細める。
「わ、分かりました。ラディウス様とお呼びしてもいいでしょうか?」
「ああ。本当は愛称で呼んで欲しいが、今は是非、名前で呼んでくれ」
「はい、ラディウス様」
窓から覗く月の光で、リヴィアスの微笑みが輝いてラディウスには見えた。
今は夜で、アンブラ、アクアは明日の準備、ルーチェは小屋の外で侵入者の警戒、待機をしている。
「……殿下やリヒト様、レイン兄様は大丈夫かな……」
溜め息混じりに、リヴィアスは呟く。
あれから一週間が経った。
頻繁にプロミネンス公爵領にやって来ていたラディウス達は、偽物の効能を謳った薬の件を解決させるため、エリスロース竜王国の城に戻ったままだ。
進捗状況はエリスロース竜王国の内政に関わる可能性もあるため、リヴィアスからは滞在しているプロミネンス公爵家の伯母や伯父、従姉に聞くに聞けない。
リヴィアスとしては、滞在しているプロミネンス公爵領に無事にレインが帰って来て、ラディウスとリヒトが遊びに来てくれたら安心出来る。
いつの間にか、リヴィアスにとって、ラディウスとリヒトとの会話は日々の楽しみになっていた。
突然の行動をするラディウスには、まだ慣れずに驚いて固まってしまうが、何故か嫌な気持ちにはならない。
太陽に当たって輝く真紅色の目が、とても真剣で、リヴィアスを誂って遊んでいるようには見えない。
「……便りがないということは無事ってことだよね……」
ポーションの瓶に蓋をしながら、リヴィアスはまた呟く。
「また、色々とお話出来たらいいなぁ……」
「――どんな話がいいんだ?」
「えっ?!」
突然聞こえた声に驚いて、リヴィアスは小屋の扉を見た。
扉の前に、腕を組んで柔らかい笑みを浮かべているラディウスが立っていた。
「で、殿下?! どうして、こちらに!? 解決したのですか?」
「いや、国内に広まってしまった例の薬を全て回収し、追い詰めている最中だが、まだ解決は出来てない。俺がどうしても貴方に会いたくて、お忍びで来た」
「お忍びでって……。リヒト様やレイン兄様はご存知なのですか?」
「そのリヒトとレインから、鬱陶しいからリヴィアスに会いに行けと追い出された」
苦笑して、ラディウスは答えた。
「鬱陶しいって……」
「いや、つい、な。事あるごとにリヴィアスは元気だろうか、とか、何も起きてないだろうか、とかリヒトとレインの前で呟いてしまってな。それが鬱陶しかったようだ」
「……僕は元気ですよ。何事もなく、薬を作ったり、薬草に水やりをしたり、読書をしたり、ゆっくり過ごさせて頂いてます」
ふわりと穏やかに微笑み、リヴィアスはラディウスに椅子を勧める。
ラディウスが座ったのを確認し、ティーカップを差し出す。
「宜しかったら、こちらを」
「これは?」
「薬草茶です。ポーションとは違うのですが、その時に応じた様々な薬草を混ぜて、僕が作ったものです。何処にも出回ってなくて、実家で家族と飲むくらいなのですが……宜しかったら」
「そうか。ありがとう、頂こう。どんな効能なんだ?」
「今日は疲労回復効果のある薬草で作ってます。お口に合うと良いのですが……」
小さく笑うリヴィアスを見ながら、ラディウスはティーカップに口を付ける。
飲むと、少し甘い香りが鼻腔に届く。甘い香りに対して、味はさっぱりとしたもので、後味も悪くない。
紅茶とは違った深い味わいがあり、じわじわと疲労が軽くなっていくように感じる。
「うん、美味しい。とても気に入った。ほとんど出回っていないのが、もったいないな。もし、良ければ、こちらの茶葉を少し分けてもらうことは出来るだろうか」
「はい。気に入って頂けて嬉しいです。僕が趣味で作ったようなものなので、たくさん作ってはいないのですが、一週間分くらいならお分け出来ます」
そう言って、リヴィアスはマジックバッグから赤色のリボンが巻かれた小さな袋を七つと、水色のリボンが巻かれた小さな袋を三つ取り出す。
「赤色のリボンが先程の疲労回復効果のある薬草で作ったもので、水色のリボンは興奮を落ち着かせて安眠出来る効果のある薬草で作ったお茶です。解決させるために毎日お疲れだと思うので、少しでも癒えたらいいのですが……」
小さな袋を机に置いてリヴィアスは、はにかむように微笑む。
「……貴方は、本当に優しい……。エリスロースの貴族の令嬢、令息と全く違う」
「そ、そんなことはないですよ。僕は、薬作りしか価値がない、ですから……」
悲しげに眉を下げ、リヴィアスは呟く。
会う度に、事あるごとに元婚約者から言われた言葉。
『お前は効果の高い薬作りしか価値がない』
『お前を娶ってあげるのは俺だけだ。他の者なんて、お前には見向きもしない』
『お前を大事にしてやってるんだから、俺に尽くし、利益を齎すのがお前の役目だろ?』
婚約破棄をして、離れられて、やっと気付く。
あんな最低な言葉を平気で言える者との婚約を何故、長い間、我慢していたのだろうと。
だから、次の婚約もしたくなくて、父に告げた言葉は嘘ではない。
同じ言葉を、また次の婚約者に言われたら、立ち直れない。選びたくない選択をしてしまうかもしれない。
今後あるかもしれない、全ての婚約の打診を拒否したのは、自分の心を守るためだ。
「……それは、元婚約者から言われたのか?」
真っ直ぐ、真紅色の目を煌めかせて、ラディウスはリヴィアスに問う。
リヴィアスは何も答えず、ただ苦笑するだけだった。
沈黙が答えだと感じたラディウスは、机の上で握り締めているリヴィアスの右手に触れる。
驚いて、リヴィアスの右手がぴくりと動く。
「――リヴィアス。これだけは言わせて欲しい。貴方の価値は、薬作りだけではない。貴方の、相手を案じて、心優しい言葉や態度、行動は相手を癒やしてくれる。誰もが出来る訳ではない。だから、周りの者達は、貴方に笑顔で接し、大事にし、守ろうとしている。薬作りだけしか価値がないのなら、そのような態度を皆しない。俺も貴方にたくさん癒やされた。貴方の価値は、存在そのものだ。貴方が側にいてくれるだけで、俺の荒んだ心が癒やされる」
リヴィアスの右手を持ち上げ、握り締めている指を一つずつラディウスは解く。
「初めてなんだ。俺が知る令嬢、令息は、俺のことを案じたりしない。竜神の加護を持つのだから、強い王太子なのは当然だと思われている。俺も思っていた。だが、貴方は竜神の加護など関係なく、俺のことを案じて、貴重なエリクサーやソーマ、状態異常回復ポーション、魔力回復ポーションを惜しげもなく渡してくれた。何かあっても、自分の出来る最大限で動こうとする、そんな貴方のことを愛しく思う」
真っ直ぐ、真紅色の目を輝かせて、ラディウスはリヴィアスに囁くように告げ、右手に口で触れる。
突然の言葉に、リヴィアスは固まる。
家族や親族以外からの、初めての肯定的な言葉に、戸惑う。
(初めて、言われた……)
戸惑うが、嬉しさや恥ずかしさを感じつつも、真っ直ぐな言葉に胸が暖かくなる。目頭が熱くなる。
「……初めて、言われました。家族や親族以外で、僕に肯定的な言葉を言って下さる人は、いなくて……。家族や親族だから、そう言ってくれているのだと、思っていました」
「どんなヤツかは知らないが、元婚約者は最悪で最低な者だな。俺なら貴方を否定するようなことは絶対に言わない。俺なら、貴方に常に愛を囁く。全力で貴方を守る。伴侶となる者の素行に問題がなく、誠実なら、そのような態度を取るなど有り得ない」
「殿下の婚約者になる方は、とても幸せでしょうね」
「政略結婚でも、相手の人となりが問題なければ、そこから愛は育むことは出来る。俺の場合は、婚約前に候補者の素行や家を調べたら不正やら不貞やら色々出て来たから流れたが、そうでなければお互い歩み寄ることは出来るはずだ」
ラディウスは苦笑し、リヴィアスを見つめる。
「だが、俺としては、愛しいと思う人を伴侶にしたいと思っている。王家に流れる竜神の血と竜神の加護の影響もあるんだが、どうも竜王家の血筋は家族や愛しいと思う者に対して、過保護だったり、嫉妬で過激だったりするんだ。愛しい者に何かあれば、暴れるくらいに」
「それは、お相手になる方はとても嬉しいでしょうね。殿下に愛されて」
「それが俺にとって、貴方だよ。リヴィアス。俺の婚約者に、ゆくゆくは伴侶になってもらえないだろうか」
愛おしそうにラディウスは真紅色の目を煌めかせ、熱い視線をリヴィアスに送る。
「――っ!」
突然の告白に、息が止まる。
端正な顔立ちのラディウスに愛を告げられ、真っ赤な顔のリヴィアスの心臓がばくばくと暴れる。
嬉しい気持ちもあるが、リヴィアスは躊躇してしまう。
(嬉しいけれど、もし、また、裏切られたら……?)
次は立ち直れないのではないだろうか。
ラディウスの人となりは、今までの会話で元婚約者とは真逆だと、今では分かる。
それでも、恐怖がついて回る。
あの六年間が、リヴィアスの心に影を落とす。
「返事は今でなくていい。でも、俺は、貴方が良いんだ。貴方でないと、俺は癒やされない。俺は貴方を絶対に裏切らない。それだけは分かって欲しい」
匂いで感じ取ったのか、ラディウスはリヴィアスの右手に口付けを落としながら、安心させるように微笑んだ。
「ありがとう、ございます……。ごめんなさい、すぐに返事が出来なくて……」
「いいんだ。本当は今日言うつもりはなかったんだ。ただ、俺がここに来られない間に、エリスロースはもちろん、ブラカーシュでも、貴方に婚約の話があったらと思うと気が気じゃなくてな。焦って言ってしまった……。リヴィアスの気持ちを無視して、また突っ走ってしまった……すまない」
顔を赤くしながら、ラディウスはそう呟いた。
「あの、僕は嬉しかったです。僕のことを想って下さったことを知れて……。返事は必ずします。ですから、あの、その時は、聞いて下さいますか……?」
「ああ。良い返事がもちろん良いが、どんな返事でもちゃんと聞く」
「ありがとうございます。あの、殿下。今が大変なのは分かってます。ですが、どうか、お身体ご自愛下さい」
「分かった。それと、リヴィアス。お願いがあるんだが……」
「はい、何でしょうか」
「前にも言ったが、俺のことを名前で呼んでもらえないか? リヒトのことは名前で呼ぶのに、俺のことは殿下と呼ぶから……」
少し拗ねたようにラディウスが呟く。
その様子に、リヴィアスは口に手を当てて、くすくすと笑う。
小さく笑うリヴィアスをラディウスは、見惚れるように目を細める。
「わ、分かりました。ラディウス様とお呼びしてもいいでしょうか?」
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