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四章 悪意の薬と月華の君
悪意の薬(黒幕視点→三人称視点)
※いつも読んで下さり、ありがとうございます。
今回は、突然の黒幕視点から始まります。
後半はいつも通りのリヴィアス寄りの三人称視点です。
ラディウス殿下の様子がおかしい。
そんな話をエリスロースの城の使用人達が噂をしていた。
使用人達によると、殿下は頻繁に側近のライトニング公爵令息と共に何処かへ出掛けている。
城に戻ってくると、殿下に近しい者達に、殿下が穏やかに笑っているのを数人の使用人達が目撃したという。
あの、公明正大ではあるが、貴族に対して冷ややかな態度をする殿下が、穏やかに笑うというのが信じられない。
家族の国王陛下達は見たことがあるかもしれないが、私は見たことがない。
私の可愛い娘に対しても、殿下は冷めた態度を見せていた。
竜神の血と竜神の加護を持つ影響なのか、殿下は嘘を見抜く。
それで我が家門も小さな不正を暴かれ、爵位はどうにか侯爵家のままだったが、罰金刑を処された。
殿下の五人いる婚約者候補の一人だった私の娘も、不貞をしていたことを暴かれ、候補から外された。
婚約者がいない者同士と三股関係でもいいではないか。お互い合意の上だったのだから。
たが、竜王家は竜神の血の影響で、一人を愛し抜く。
国王陛下も、王妃陛下しか愛しておらず、側妃もいない。竜王家の他の王族達もだ。
更に竜神の加護を持つ殿下にとっては、三股など有り得ないのだろう。
殿下の婚約者になり、王妃になる予定だった私の娘は、婚約者候補を外されたことで、ひどく落ち込んでいる。
今頃は、殿下の婚約者として、私の娘は殿下の隣に立つはずだったのに。
殿下と私の娘なら美男美女の組み合わせで、誰もが羨む夫婦になっていたはずなのに。
婚約者候補を外されたことで、予定が流れた。
まぁ、他の婚約者候補も色々と叩けば埃が出て来たようで、全てが白紙となったのだから、まだマシだ。
それより、殿下が近しい者達の前で、穏やかに笑うというのが、本当に信じられない。
「もしや、殿下に愛する者が出来たのか……?」
だから、婚約者を候補の中から選ぶことが白紙になったのか?
色々と叩いて埃を出したことで、理由を付けて。
もし、そうなら、非常に困る。
可愛い娘が殿下と結婚することで、我が侯爵家の爵位を公爵位に上げることが出来る。
エリスロース竜王国の三公と呼ばれている三つの公爵家に、追加で四公目として入ることが出来るはずだったのに…………!
三公を出し抜く予定のこちらの事情など無視して、殿下は娘も誰も選ばなかった。
「どうすればいい?」
殿下が私の娘を選ばせる方法はないだろうか。
竜神の加護を持つ殿下は厄介だが、利用価値がある。
こちらの味方にさえなれば、王族の中でも竜神に近い存在で、強い魔力、強靭な肉体、竜の特性が強く出るという殿下は、どんな相手でも、そこらの騎士団でも、一人で制圧出来る。
ブラカーシュ王国の王弟、ミストラル大公を抑えられるのではないだろうか。
そのくらいの力を持つ殿下がこちらの手元に落ちれば、怖いものはない。
殿下の理性を抑え込めるような何かがあれば、操ることは出来るのではないだろうか。
「……そうか。薬だ。殿下に効く強力な薬を作ればいい!」
ちょうど薬師が我が家門にいる。
分家の伯爵家の三男だ。
その三男は確か、見習いの薬師だったはずだ。
ブラカーシュ王国の『月華の君』のような有名な薬師に作らせたらいいが、父親の王弟は勘が鋭い。
こちらの思惑を看破されてしまう。
そういう訳にはいかないから、やはり分家の伯爵家の三男に作らせるのがいいだろう。
「ちょうど、有り得ない効能を謳った薬がポーションに紛れ込む事件もある。それに便乗して、殿下に飲ませよう」
そう呟き、私は侯爵家の自室で達成前の祝杯を上げた。
用途は伝えず、分家の伯爵家の三男に、殿下に効く強力な薬を作らせた。
竜神の加護を持つ殿下を無力化することを考え、作らせた薬は、遅効性の強度の麻痺毒、催眠薬、魔力低下薬を組み合わせた。
通常の量より十倍の量が入っている。
これなら、流石の殿下も効くのではないだろうか。
この薬の遅効性の麻痺毒は、殿下の周りの者達に気付かれないようにし、強度の麻痺毒は殿下の身体能力を考えて攻撃させないため、催眠薬は意識を混濁させている間に、こちらの都合の良い言葉を殿下に吹き込んで有利にするため。魔力低下薬は殿下の強い魔力を抑えるためだ。
それを飲ませた後は、何度も強力な催眠薬を殿下に飲ませ、こちらの思う通りに殿下を動かしていけばいいのではないか。
そんな欲に塗れた私は、一つの失敗から芋蔓式に証拠を残してしまい、追い込まれてしまった。
その失敗は、有り得ない効能を謳った薬がポーションに紛れ込む事件の犯人が、分家の伯爵家の三男で、私が作らせた殿下用の薬の一つを、一緒にポーションと紛れ込ませていたことに私が気付かなかったことだ。
その失敗によって、まさか薬が殿下の手に渡ってしまい、対策され、薬を鑑定士によって鑑定されたことで、分家の伯爵家の三男の名が出るとは思わなかった。
そんな鑑定士の使い方など知りもしなかった。
追い込まれた私は、強行突破をするしか道はなく、私兵を率い、殿下が住む陽光宮に乗り込み、隙を突いて手元にあった一番強力な殿下用の薬を飲ませた。
それが、まさか、更なる失敗に繋がるとは、この時の私は思いもしなかった。
◆◇◆◇◆◇
「リヴィ! リヴィの助言で、製作者が分かった! 今回の事件の黒幕も芋蔓式に釣れた! ありがとう!」
プロミネンス公爵家の裏庭にあるリヴィアス専用の薬を作る小屋に、レインが勢い良く入ってきた。
「レイン兄様! お久し振りです! お身体は大丈夫ですか?」
「二週間振りにリヴィに会えて、滅茶苦茶に癒される……! へとへとだったけど、リヴィを抱き締めたら、疲労が飛んだ!」
リヴィアスをぎゅっと抱き締め、レインは安堵の息を漏らす。
「リヴィの方は何もなかったか? 大丈夫だったか?」
「はい。こちらは特に何もなく、ゆっくり過ごさせて頂きました」
「そうか。それなら良かった。あ、ウチの殿下がごめんな。一度、やって来ただろう?」
「あ……はい……その、突然、いらしたので、驚きました……」
少し、頬を赤く染めて、リヴィアスは苦笑した。
リヴィアスの様子に、目敏く気付いたレインが鋭く目を光らせる。
「……何か、殿下に言われたのか?」
「あの……その……殿下に、こ、告白されまして……」
「はぁっ?!」
赤くしながら俯いたリヴィアスを見て、レインは目を剥く。
「へ、返事は、まだ、出来てなくて……。返事は今でなくていいと仰って下さって……。告白も含めて、そういった言葉を、家族や親族以外から言われたことがなくて……」
「……本当に、アレは最悪で最低だな……。で、リヴィは殿下のこと、どう思っているんだ?」
「その、よく、分からないんです……。最初は強制的な出会いだったので、無理強いなお願いをされるような、そういう方なのかと思っていたのですが、お話していくと、気さくで、誂うことなく真剣に僕の話を聞いて下さるので、元婚約者とは真逆な方なんだなと、好感に思うのですが……」
「それが友情なのか、愛情なのか分からない、ってところか?」
顔を赤くしながら俯くリヴィアスに、レインは苦笑する。
「はい。僕には、婚約は合わないんだと思うんです。婚約中の交流が苦痛でしたし、薬を作っている方が楽しかったので……」
「それは、アレのせいだと思うぞ。リヴィの場合、アレしか比較対象がないからなぁ……」
「幼い頃は、婚約した相手と、父様と母様みたいに仲睦まじい関係でいたいと思っていたのですが、実際の婚約した相手は浮気ばかりしてましたし、そのような方と仲睦まじくはなれないなぁ……と思いましたし……」
「殿下とはどうなんだ? 想像出来るか?」
「……尊重はして下さってるところは何となく想像出来るんです。普段の時がそうなので。ただ、僕の方が想像出来なくて……」
「アレの弊害が酷過ぎる……。本当にアレを懲らしめる時に一枚噛ませて貰えないかな、ミストラル叔父上……」
困ったように笑うリヴィアスの頭を撫でながら、レインはぼそりと呟く。
「お返事を含めて、色々と考えてみます。ところで、レイン兄様。事件の黒幕が釣れたと仰ってましたけど、解決はしたのですか?」
「いや、まだだな。あらかた作戦は決まったが、まだ誘き寄せてない」
「誘き寄せ……?」
何故、そのようなことになったのかが分からず、リヴィアスは首を傾げる。
「リヴィが予測した内容の通りだったんだよ。ざっくり説明すると、あの薬は殿下専用で、黒幕の目的は殿下だった。それと、偽物の効能を謳った薬を作った奴はその黒幕の家の分家だった。偽物の効能を謳った薬の方を信頼出来る鑑定士に鑑定して頂いて、偽名ではなく、本当の名前も分かって、調べていったんだ」
「偽名、だったのですか?」
「ああ。調べると黒幕の家の分家で、伯爵家の三男の見習い薬師だった。流石に薬師ギルドに登録している見習い薬師がとんでもない偽物の薬をポーションに紛れ込ませて、国を混乱に陥ったとなれば、実家がマズイし、自分の見習い薬師としての経歴に傷が付くと思ったんだろう。が、信頼出来る鑑定士の方が能力が上だったから、本当の名前が出た」
「そうだったのですね……」
「その伯爵家の三男を調べていくと、本家の侯爵家の当主が殿下を狙っていることが分かった」
レインの説明にリヴィアスは眉を寄せる。
「殿下を狙っているのは、自分の娘を婚約者に、ひいては王妃にさせるためだ。まぁ、王家の政略結婚なんてそういうのが多いけどな。が、婚約者候補に選ばれたが、前に殿下が仰ったように、婚約者候補は五人いたんだが、いずれも不正や不貞等があって、全てが白紙になった。他の婚約者候補を出し抜くために、今回の薬を使おうとしていたらしい」
レインの説明を聞いたリヴィアスは、眉を寄せたまま俯く。手をぎゅっと握り締める。
どうして、人を助けるための薬を、悪意の薬に変えて平気で人を貶めようとするのだろう。
「黒幕の目的も分かったから、捕えるために殿下が住んでる陽光宮に誘き寄せるつもりなんだ」
「何故、わざわざ殿下の住む場所に誘き寄せるのですか? 殿下が一番、危ないではないですか」
「他のところだと怪しまれるだろ? その時だけ、警備を薄くして、包囲するつもりなんだよ」
「殿下の護衛は、ちゃんと配備されているのですか? 大丈夫なのですか?」
「一応、な。殿下自身が強いから、本当に念の為、だけどな」
苦笑しながら、レインは告げる。
「誘き寄せる以外に、何か方法はないのですか? 罠とはいえ、城内、それも王族の居住区に誘き寄せるのは、今後似たようなことが起きませんか?」
「可能性はあるが、今回は普段より最低限の警備にしてるから、普段を知れば王族の居住区に侵入しようとは思わないと思う。だが、今回は誘き寄せる必要がある。白紙になって流れた五人の婚約者候補の一人の侯爵家が、今回の事件の黒幕だ。また似たようなことを他の婚約者候補の家がするかもしれない。早急に捕えて、そういうことを狙っても無駄だと思わせる」
「……皆様に怪我がなければいいのですが……」
「俺もリヒトも殿下に付いてるから。近々、誘き寄せる日を考えてるんだが……解決したら、またリヴィに伝えるよ」
俯くリヴィアスに頭を撫でながら、レインは腰を落とし、目線を合わせる。
「ごめんな。疎外感を抱かせるようなことになって。リヴィにとって他国のことだから、巻き込みたくなかったとはいえ、長く放置するようなことになったから、気が気じゃなかったよな」
「それは、仕方がないことです。正式な要請がない限り、僕は首を突っ込むようなことは出来ませんし、突っ込むことで、レイン兄様やアウラ姉様、プロミネンス公爵家にご迷惑を掛けますから」
頭を緩く左右に振り、リヴィアスは言った。
その時だった。
「レインお兄様! リヴィ! 大変よ!」
リヴィアス専用の薬を作る小屋の扉を慌ただしく開けて、アウラが入ってきた。
「アウラ? どうかしたのか?」
眉を顰めて、レインはアウラを見る。
「殿下が強力な薬を飲まされたって、リヒト君から緊急の連絡が入ったの!」
「え……」
アウラの言葉に、リヴィアスは血の気が引いていく。
「レインお兄様達が話してた、黒幕の侯爵が例の薬の強力なのを隠し持ってたみたいで、私兵と一緒に殿下の住む陽光宮に侵入したようなの! 混乱に乗じて、侯爵が殿下に飲ませたみたいで……。すぐに侯爵を引き剥がしたみたいだけど、リヴィの状態異常回復ポーションが効かないみたいなの。リヒト君からの要請で、リヴィも一緒に来て欲しいって。お願い出来る?」
アウラの説明がリヴィアスの頭の中に、半分も入ってこない。
何故、そのようなことに?
(どのくらい、強力な薬をラディウス様に……?)
呆然とリヴィアスは立ち尽くす。
「リヴィ? 大丈夫か?」
呆然としているリヴィアスが心配になり、レインが肩に触れる。
「あの、僕が、ラディウス様の下に伺っても、大丈夫なのですか?」
「殿下の側近のリヒト君の要請だから、問題ないよ。ただ、まだ侯爵の私兵を抑え込めてないみたいだから、レインお兄様に護衛をしてもらうようにって。私も行くよ」
「……あっちはかなり混乱してるな。リヴィ、殿下のところに一緒に行ってもらえるか?」
「もちろんです。僕がお役に立てるなら。それに、状態異常回復ポーションが効かないというのが気になります」
力強くリヴィアスは頷いた。
今は、告白云々より、ラディウスの容態を確認することが先決だ。
「よし、すぐにルスに乗って、行こう!」
「はい!」
リヴィアス、レイン、アウラはエリスロース竜王国の城のラディウスが住む陽光宮へと向かった。
※いつも読んで下さり、ありがとうございます!
ついに、ストックがなくなりまして、明日の更新に間に合えば、20時から23時の間に更新します。
以降は、1日、2日お休み頂くかもしれません……。
楽しみにして下さってる方には、本当に申し訳ございません!
何とか、毎日更新出来るようにします。
宜しくお願い致します!
今回は、突然の黒幕視点から始まります。
後半はいつも通りのリヴィアス寄りの三人称視点です。
ラディウス殿下の様子がおかしい。
そんな話をエリスロースの城の使用人達が噂をしていた。
使用人達によると、殿下は頻繁に側近のライトニング公爵令息と共に何処かへ出掛けている。
城に戻ってくると、殿下に近しい者達に、殿下が穏やかに笑っているのを数人の使用人達が目撃したという。
あの、公明正大ではあるが、貴族に対して冷ややかな態度をする殿下が、穏やかに笑うというのが信じられない。
家族の国王陛下達は見たことがあるかもしれないが、私は見たことがない。
私の可愛い娘に対しても、殿下は冷めた態度を見せていた。
竜神の血と竜神の加護を持つ影響なのか、殿下は嘘を見抜く。
それで我が家門も小さな不正を暴かれ、爵位はどうにか侯爵家のままだったが、罰金刑を処された。
殿下の五人いる婚約者候補の一人だった私の娘も、不貞をしていたことを暴かれ、候補から外された。
婚約者がいない者同士と三股関係でもいいではないか。お互い合意の上だったのだから。
たが、竜王家は竜神の血の影響で、一人を愛し抜く。
国王陛下も、王妃陛下しか愛しておらず、側妃もいない。竜王家の他の王族達もだ。
更に竜神の加護を持つ殿下にとっては、三股など有り得ないのだろう。
殿下の婚約者になり、王妃になる予定だった私の娘は、婚約者候補を外されたことで、ひどく落ち込んでいる。
今頃は、殿下の婚約者として、私の娘は殿下の隣に立つはずだったのに。
殿下と私の娘なら美男美女の組み合わせで、誰もが羨む夫婦になっていたはずなのに。
婚約者候補を外されたことで、予定が流れた。
まぁ、他の婚約者候補も色々と叩けば埃が出て来たようで、全てが白紙となったのだから、まだマシだ。
それより、殿下が近しい者達の前で、穏やかに笑うというのが、本当に信じられない。
「もしや、殿下に愛する者が出来たのか……?」
だから、婚約者を候補の中から選ぶことが白紙になったのか?
色々と叩いて埃を出したことで、理由を付けて。
もし、そうなら、非常に困る。
可愛い娘が殿下と結婚することで、我が侯爵家の爵位を公爵位に上げることが出来る。
エリスロース竜王国の三公と呼ばれている三つの公爵家に、追加で四公目として入ることが出来るはずだったのに…………!
三公を出し抜く予定のこちらの事情など無視して、殿下は娘も誰も選ばなかった。
「どうすればいい?」
殿下が私の娘を選ばせる方法はないだろうか。
竜神の加護を持つ殿下は厄介だが、利用価値がある。
こちらの味方にさえなれば、王族の中でも竜神に近い存在で、強い魔力、強靭な肉体、竜の特性が強く出るという殿下は、どんな相手でも、そこらの騎士団でも、一人で制圧出来る。
ブラカーシュ王国の王弟、ミストラル大公を抑えられるのではないだろうか。
そのくらいの力を持つ殿下がこちらの手元に落ちれば、怖いものはない。
殿下の理性を抑え込めるような何かがあれば、操ることは出来るのではないだろうか。
「……そうか。薬だ。殿下に効く強力な薬を作ればいい!」
ちょうど薬師が我が家門にいる。
分家の伯爵家の三男だ。
その三男は確か、見習いの薬師だったはずだ。
ブラカーシュ王国の『月華の君』のような有名な薬師に作らせたらいいが、父親の王弟は勘が鋭い。
こちらの思惑を看破されてしまう。
そういう訳にはいかないから、やはり分家の伯爵家の三男に作らせるのがいいだろう。
「ちょうど、有り得ない効能を謳った薬がポーションに紛れ込む事件もある。それに便乗して、殿下に飲ませよう」
そう呟き、私は侯爵家の自室で達成前の祝杯を上げた。
用途は伝えず、分家の伯爵家の三男に、殿下に効く強力な薬を作らせた。
竜神の加護を持つ殿下を無力化することを考え、作らせた薬は、遅効性の強度の麻痺毒、催眠薬、魔力低下薬を組み合わせた。
通常の量より十倍の量が入っている。
これなら、流石の殿下も効くのではないだろうか。
この薬の遅効性の麻痺毒は、殿下の周りの者達に気付かれないようにし、強度の麻痺毒は殿下の身体能力を考えて攻撃させないため、催眠薬は意識を混濁させている間に、こちらの都合の良い言葉を殿下に吹き込んで有利にするため。魔力低下薬は殿下の強い魔力を抑えるためだ。
それを飲ませた後は、何度も強力な催眠薬を殿下に飲ませ、こちらの思う通りに殿下を動かしていけばいいのではないか。
そんな欲に塗れた私は、一つの失敗から芋蔓式に証拠を残してしまい、追い込まれてしまった。
その失敗は、有り得ない効能を謳った薬がポーションに紛れ込む事件の犯人が、分家の伯爵家の三男で、私が作らせた殿下用の薬の一つを、一緒にポーションと紛れ込ませていたことに私が気付かなかったことだ。
その失敗によって、まさか薬が殿下の手に渡ってしまい、対策され、薬を鑑定士によって鑑定されたことで、分家の伯爵家の三男の名が出るとは思わなかった。
そんな鑑定士の使い方など知りもしなかった。
追い込まれた私は、強行突破をするしか道はなく、私兵を率い、殿下が住む陽光宮に乗り込み、隙を突いて手元にあった一番強力な殿下用の薬を飲ませた。
それが、まさか、更なる失敗に繋がるとは、この時の私は思いもしなかった。
◆◇◆◇◆◇
「リヴィ! リヴィの助言で、製作者が分かった! 今回の事件の黒幕も芋蔓式に釣れた! ありがとう!」
プロミネンス公爵家の裏庭にあるリヴィアス専用の薬を作る小屋に、レインが勢い良く入ってきた。
「レイン兄様! お久し振りです! お身体は大丈夫ですか?」
「二週間振りにリヴィに会えて、滅茶苦茶に癒される……! へとへとだったけど、リヴィを抱き締めたら、疲労が飛んだ!」
リヴィアスをぎゅっと抱き締め、レインは安堵の息を漏らす。
「リヴィの方は何もなかったか? 大丈夫だったか?」
「はい。こちらは特に何もなく、ゆっくり過ごさせて頂きました」
「そうか。それなら良かった。あ、ウチの殿下がごめんな。一度、やって来ただろう?」
「あ……はい……その、突然、いらしたので、驚きました……」
少し、頬を赤く染めて、リヴィアスは苦笑した。
リヴィアスの様子に、目敏く気付いたレインが鋭く目を光らせる。
「……何か、殿下に言われたのか?」
「あの……その……殿下に、こ、告白されまして……」
「はぁっ?!」
赤くしながら俯いたリヴィアスを見て、レインは目を剥く。
「へ、返事は、まだ、出来てなくて……。返事は今でなくていいと仰って下さって……。告白も含めて、そういった言葉を、家族や親族以外から言われたことがなくて……」
「……本当に、アレは最悪で最低だな……。で、リヴィは殿下のこと、どう思っているんだ?」
「その、よく、分からないんです……。最初は強制的な出会いだったので、無理強いなお願いをされるような、そういう方なのかと思っていたのですが、お話していくと、気さくで、誂うことなく真剣に僕の話を聞いて下さるので、元婚約者とは真逆な方なんだなと、好感に思うのですが……」
「それが友情なのか、愛情なのか分からない、ってところか?」
顔を赤くしながら俯くリヴィアスに、レインは苦笑する。
「はい。僕には、婚約は合わないんだと思うんです。婚約中の交流が苦痛でしたし、薬を作っている方が楽しかったので……」
「それは、アレのせいだと思うぞ。リヴィの場合、アレしか比較対象がないからなぁ……」
「幼い頃は、婚約した相手と、父様と母様みたいに仲睦まじい関係でいたいと思っていたのですが、実際の婚約した相手は浮気ばかりしてましたし、そのような方と仲睦まじくはなれないなぁ……と思いましたし……」
「殿下とはどうなんだ? 想像出来るか?」
「……尊重はして下さってるところは何となく想像出来るんです。普段の時がそうなので。ただ、僕の方が想像出来なくて……」
「アレの弊害が酷過ぎる……。本当にアレを懲らしめる時に一枚噛ませて貰えないかな、ミストラル叔父上……」
困ったように笑うリヴィアスの頭を撫でながら、レインはぼそりと呟く。
「お返事を含めて、色々と考えてみます。ところで、レイン兄様。事件の黒幕が釣れたと仰ってましたけど、解決はしたのですか?」
「いや、まだだな。あらかた作戦は決まったが、まだ誘き寄せてない」
「誘き寄せ……?」
何故、そのようなことになったのかが分からず、リヴィアスは首を傾げる。
「リヴィが予測した内容の通りだったんだよ。ざっくり説明すると、あの薬は殿下専用で、黒幕の目的は殿下だった。それと、偽物の効能を謳った薬を作った奴はその黒幕の家の分家だった。偽物の効能を謳った薬の方を信頼出来る鑑定士に鑑定して頂いて、偽名ではなく、本当の名前も分かって、調べていったんだ」
「偽名、だったのですか?」
「ああ。調べると黒幕の家の分家で、伯爵家の三男の見習い薬師だった。流石に薬師ギルドに登録している見習い薬師がとんでもない偽物の薬をポーションに紛れ込ませて、国を混乱に陥ったとなれば、実家がマズイし、自分の見習い薬師としての経歴に傷が付くと思ったんだろう。が、信頼出来る鑑定士の方が能力が上だったから、本当の名前が出た」
「そうだったのですね……」
「その伯爵家の三男を調べていくと、本家の侯爵家の当主が殿下を狙っていることが分かった」
レインの説明にリヴィアスは眉を寄せる。
「殿下を狙っているのは、自分の娘を婚約者に、ひいては王妃にさせるためだ。まぁ、王家の政略結婚なんてそういうのが多いけどな。が、婚約者候補に選ばれたが、前に殿下が仰ったように、婚約者候補は五人いたんだが、いずれも不正や不貞等があって、全てが白紙になった。他の婚約者候補を出し抜くために、今回の薬を使おうとしていたらしい」
レインの説明を聞いたリヴィアスは、眉を寄せたまま俯く。手をぎゅっと握り締める。
どうして、人を助けるための薬を、悪意の薬に変えて平気で人を貶めようとするのだろう。
「黒幕の目的も分かったから、捕えるために殿下が住んでる陽光宮に誘き寄せるつもりなんだ」
「何故、わざわざ殿下の住む場所に誘き寄せるのですか? 殿下が一番、危ないではないですか」
「他のところだと怪しまれるだろ? その時だけ、警備を薄くして、包囲するつもりなんだよ」
「殿下の護衛は、ちゃんと配備されているのですか? 大丈夫なのですか?」
「一応、な。殿下自身が強いから、本当に念の為、だけどな」
苦笑しながら、レインは告げる。
「誘き寄せる以外に、何か方法はないのですか? 罠とはいえ、城内、それも王族の居住区に誘き寄せるのは、今後似たようなことが起きませんか?」
「可能性はあるが、今回は普段より最低限の警備にしてるから、普段を知れば王族の居住区に侵入しようとは思わないと思う。だが、今回は誘き寄せる必要がある。白紙になって流れた五人の婚約者候補の一人の侯爵家が、今回の事件の黒幕だ。また似たようなことを他の婚約者候補の家がするかもしれない。早急に捕えて、そういうことを狙っても無駄だと思わせる」
「……皆様に怪我がなければいいのですが……」
「俺もリヒトも殿下に付いてるから。近々、誘き寄せる日を考えてるんだが……解決したら、またリヴィに伝えるよ」
俯くリヴィアスに頭を撫でながら、レインは腰を落とし、目線を合わせる。
「ごめんな。疎外感を抱かせるようなことになって。リヴィにとって他国のことだから、巻き込みたくなかったとはいえ、長く放置するようなことになったから、気が気じゃなかったよな」
「それは、仕方がないことです。正式な要請がない限り、僕は首を突っ込むようなことは出来ませんし、突っ込むことで、レイン兄様やアウラ姉様、プロミネンス公爵家にご迷惑を掛けますから」
頭を緩く左右に振り、リヴィアスは言った。
その時だった。
「レインお兄様! リヴィ! 大変よ!」
リヴィアス専用の薬を作る小屋の扉を慌ただしく開けて、アウラが入ってきた。
「アウラ? どうかしたのか?」
眉を顰めて、レインはアウラを見る。
「殿下が強力な薬を飲まされたって、リヒト君から緊急の連絡が入ったの!」
「え……」
アウラの言葉に、リヴィアスは血の気が引いていく。
「レインお兄様達が話してた、黒幕の侯爵が例の薬の強力なのを隠し持ってたみたいで、私兵と一緒に殿下の住む陽光宮に侵入したようなの! 混乱に乗じて、侯爵が殿下に飲ませたみたいで……。すぐに侯爵を引き剥がしたみたいだけど、リヴィの状態異常回復ポーションが効かないみたいなの。リヒト君からの要請で、リヴィも一緒に来て欲しいって。お願い出来る?」
アウラの説明がリヴィアスの頭の中に、半分も入ってこない。
何故、そのようなことに?
(どのくらい、強力な薬をラディウス様に……?)
呆然とリヴィアスは立ち尽くす。
「リヴィ? 大丈夫か?」
呆然としているリヴィアスが心配になり、レインが肩に触れる。
「あの、僕が、ラディウス様の下に伺っても、大丈夫なのですか?」
「殿下の側近のリヒト君の要請だから、問題ないよ。ただ、まだ侯爵の私兵を抑え込めてないみたいだから、レインお兄様に護衛をしてもらうようにって。私も行くよ」
「……あっちはかなり混乱してるな。リヴィ、殿下のところに一緒に行ってもらえるか?」
「もちろんです。僕がお役に立てるなら。それに、状態異常回復ポーションが効かないというのが気になります」
力強くリヴィアスは頷いた。
今は、告白云々より、ラディウスの容態を確認することが先決だ。
「よし、すぐにルスに乗って、行こう!」
「はい!」
リヴィアス、レイン、アウラはエリスロース竜王国の城のラディウスが住む陽光宮へと向かった。
※いつも読んで下さり、ありがとうございます!
ついに、ストックがなくなりまして、明日の更新に間に合えば、20時から23時の間に更新します。
以降は、1日、2日お休み頂くかもしれません……。
楽しみにして下さってる方には、本当に申し訳ございません!
何とか、毎日更新出来るようにします。
宜しくお願い致します!
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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