婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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五章 涙と初恋

非公式の謁見

 ラディウスにエスコートされ、リヴィアスはレインと共に、エリスロース竜王国の国王夫妻が待つ部屋に着いた。

「……少し、ヴィアを驚かせるかもしれない。その時はすまない……」

 ラディウスがぼそりと呟く。その声は心なしか怯えているように感じた。

「え?」

 リヴィアスは目を何度も瞬かせて、ラディウスを見上げるが、そっと目を逸らされる。

「会えば分かると思う。先に謝っておく……ごめん」

 それだけ言って、ラディウスは深呼吸した。
 王太子らしい姿は何処に行ったというくらいの困った表情のラディウスに、リヴィアスは困惑する。
 応接室と思われる部屋の前で、ラディウスは扉を三回叩く。
 中から許可の声が聞こえ、ラディウスは扉を開け、リヴィアスと共に入る。その後ろをレインが続き、扉を閉める。レインはそのまま、扉の横に控える。

「父上、母上。リヴィアス卿をお連れしました」

 ラディウスにエスコートされ、リヴィアスはソファに座る国王夫妻を見た。

「お初にお目に掛かります。エリスロース竜王国の国王陛下、王妃陛下にご挨拶申し上げます。私は、ブラカーシュ王国、レイディアンス大公家の次男、リヴィアス・シエル・レイディアンスと申します。以後お見知りおき下さいませ」

 洗練されたボウアンドスクレープをして、リヴィアスは国王夫妻に挨拶をする。

「初めまして、リヴィアス卿。私はカエルム・フレア・エリスロース。エリスロース竜王国の国王だ。ラディウスを助けてくれてありがとう」

 優しい声音、ラディウスと同じ金色の短い髪、ヴェントゥスと同じ緋色の目をしたカエルム国王は穏やかに微笑む。

「初めまして、リヴィアス卿。ミーティア・レイ・エリスロースだ。エリスロース竜王国の王妃で、そこの馬鹿息子の母だ。貴方には何とお礼を言えばいいか……」

 ヴェントゥスと同じ若緑色の長い髪、ラディウスと同じ真紅色の目をしたミーティア王妃がリヴィアスに笑い掛ける。

「いえ……。薬師として、人として、ラディウス殿下をお助けすることが出来て、本当に良かったです」

 緊張しつつも笑みを浮かべて、リヴィアスは一礼する。

「リヴィアス卿は良い子だな。そんなリヴィアス卿の前で申し訳ないが、少し失礼するよ」

「え?」

 目を何度も瞬かせるリヴィアスをよそに、ソファからミーティア王妃が立ち上がる。
 何かを察したレインが、すぐさまリヴィアスに近付き、抱きかかえ、離れる。

「レイン兄様?!」

 驚いてリヴィアスが声を上げたその時、鈍い音が響いた。

「ラディウスっ! 竜神の加護を過信するなと何度も言ってるだろうがっ! この馬鹿息子!」

「ひゃっ……!」

 ドスの利いた声でラディウスの頭に拳骨をするミーティア王妃に、リヴィアスは驚いて、小さく声を上げる。

「お前、命を落とすつもりか?! 親の俺やカエルムより先に死んだら、すぐに地獄まで追い掛けて拳骨喰らわすからな。分かったか!? 馬鹿息子!」

「も、申し訳ございません、母上……」

 凄く痛かったのか、頭を抑えながら、ラディウスはミーティア王妃に謝る。
 その遣り取りをうんうんと何度も頷きながら、カエルム国王がのんびりと見つめている。
 そんな竜王家の親子をリヴィアスは呆気に取られる。
 家族の在り方は家族の数だけあり、多種多様なのは分かる。
 が、エリスロース竜王家は、リヴィアスが見た家族の中では熱い。そんな気がする。
 拳骨はとても痛そうだが、言葉は愛があるとリヴィアスは感じた。
 リヴィアスがラディウスに告げたように、『竜神の加護を過信するな』とミーティア王妃は言った。
 リヴィアスが泣いて告げた同じ言葉を、ミーティア王妃はラディウスに言った。
 リヴィアスと同じ想いなんだと、そんな気がして、ミーティア王妃に対して、少し親近感が湧いた。

「次、同じようなことがあったら、死ぬまで幽閉だからな? 誰が何と言おうが、国王をヴェントゥスにするからな」

「死ぬまで幽閉は困ります。愛するリヴィアスに会えないのは辛い……」

 ポロッと本音を漏らすラディウスに、リヴィアスは驚いて顔を真っ赤にする。

「は? 愛するリヴィアスって……可愛い良い子のリヴィアス卿のことか? お前、いつ口説いた」

 ミーティア王妃は腕を組んで、ラディウスを半眼で睨む。

「……二週間前から求愛し、昨日、恋仲になりました。婚約したいので、お二人に認めて頂きたく思います」

 拳骨の痛みは何処に行ったのか、キリッとした表情に戻し、ラディウスは両親である国王夫妻を見た。

「……一ヶ月前あたりから、リヒトとよく何処かに行っていたのはプロミネンスだったか……。だが、リヴィアス卿には婚約者がいただろ。横取りするつもりか?」

 座っていたソファに戻り、ミーティア王妃はラディウスを見上げる。

「いえ。リヴィアス……ヴィアは約一ヶ月前にブラカーシュ国王の前で、冤罪を吹っ掛けられて、婚約者から婚約破棄を宣言されました。ブラカーシュ国王も了承し、即日婚約は破棄されてます。ですので、横取りしていません。真剣に愛を告げました」

 簡単に説明し、ラディウスは堂々と国王夫妻に言う。

「……ラディ。リヴィアス卿は突然の婚約破棄で傷付いていないかい? だから、プロミネンスに来ているんじゃないのかな? そんな状態のリヴィアス卿に求愛するのはどうなのかな? ちゃんと、リヴィアス卿に考える時間をあげたのかい?」

 心配そうにリヴィアスを見ながら、カエルム国王はラディウスに問い掛ける。

「求愛した後、返事はいつでもいいと告げました。昨日の出来事で、俺と両想いだと分かり、ヴィアと恋仲になりました」

 じっと父王を見つめ、ラディウスは頷く。

「リヴィアス卿。貴方はどう思う? 本当にラディウスで良いのか?」

 ミーティア王妃が心配そうにリヴィアスを見つめる。その真紅色の目が、ラディウスとそっくりでリヴィアスは嬉しそうに笑う。

「……私は、元婚約者のことがどうしても苦手でした。冤罪を言われて、一方的に婚約破棄をされて、確かに傷付いたのですが、アシェル様が優しく心を配って下さり、愛を囁いて下さいました。元婚約者にはされたことがなくて、尊重して下さったのも初めてで……。たくさんの初めてを下さるアシェル様が良いです」

 敢えての『アシェル』で呼び、リヴィアスは国王夫妻に微笑む。
 ラディウスの二番目の名前を聞き、国王夫妻は目を見開く。
 竜神の加護を持つ者が唯一と認めた者のみ、二番目の名前を呼ぶことを許される。
 それをラディウスがリヴィアスに呼ぶことを認めた。
 ミーティア王妃は苦笑して、一つ頷く。

「……成程。ラディウスは本気なんだな? リヴィアス卿もラディウスで良いんだな?」

 ミーティア王妃の問い掛けに、リヴィアスとラディウスは返事をした。

「それなら俺は反対しない。カエルムは?」

「私も反対はないよ。ただ……ミストラル君とステラちゃんはどうかな……?」

 少し青い顔で、カエルム国王がミーティア王妃を見る。

「あー……ステラはともかく、ミストラルかぁ……。あいつ、確か息子達、特にリヴィアス卿を可愛がってるんだよな? 戦いになったら、流石の俺でも勝てんと思う」

 額に手を当て、ミーティア王妃が大きな溜め息を吐く。
 国王夫妻の会話を聞き、ラディウスの顔が少しだけ歪む。

「母上でも負けるという、ミストラル大公はどんな人なんだ……」

「父は厳しいですけど、優しいですよ?」

 きょとんとした表情で、リヴィアスはラディウスを見上げる。

「それは息子のヴィアだからだと思うが……ケルベロス単独討伐なんだよな……?」

「は?! ケルベロス単独討伐!?」

 身を乗り出すように、ミーティア王妃がリヴィアスを見る。

「はい。五年前に、レイディアンス辺境領に現れたので、父が単独討伐しました」

「怪我は?!」

「無傷です」

 当たり前のように告げるリヴィアスに、ミーティア王妃はがくりと項垂れた。

「ラディウス……ミストラルに婚約を打診して、断られたら諦めろ。俺も少し話しただけで、とても可愛い良い子だと分かるくらいのリヴィアス卿と家族になれれば嬉しいが、ミストラルを相手するのはキツイ」

「そこは頑張って欲しいところですが」

「頑張る。頑張るさ。俺だって大事な息子には幸せになって欲しいからな。だが、ミストラルと敵対はしたくない……」

「あの、父はちゃんとした理由があれば、敵対するような人ではありません」

「それは知ってる。ミストラルとは顔見知り以上の関係ではあるからな。だが、レインから聞いたが、リヴィアス卿はプロミネンスには静養で来たのだろう? 静養で来た大事な息子が他国の王太子に求愛され、知らない間に恋仲になったと聞いたら、俺でも相手を見定めるために戦いを挑むぞ」

「リヴィアス卿は、ミストラル君にはもう話したのかな?」

 少し血の気が多いミーティア王妃を宥め、カエルム国王はリヴィアスを見る。

「はい。昨日、母が作った魔導具を使って、手紙で報告しました」

「ミストラル君は何と返事があったのかな?」

「今度、挨拶に連れておいでと書かれてました。私もそろそろブラカーシュに戻らないといけないので、都合を合わせて、一度、レイディアンスに行きませんか? とアシェル様に伺おうと思っていたところです」

 ラディウスを見上げ、リヴィアスは微笑む。

「今度、挨拶に連れておいで……言葉だけでは、ミストラルの心情が分からん」

「ミストラル君がラディを見定めるつもりだから、リヴィアス卿には連れておいでとしか書かなかったんだろうね……。これは、私達も挨拶に一緒に行くべきかもね。婚約すれば、リヴィアス卿は将来的に竜王国の王妃になる訳だしね……」

 カエルム国王の言葉に、リヴィアスはハッとした。

(そうか……アシェル様と婚約して、結婚したら、エリスロースの次期王妃になるんだ……)

 ラディウスと婚約、結婚すれば、次期王妃になる。
 ウィキッド侯爵令息と婚約していた時は、侯爵夫人としての勉強はしていたから、勉強は苦ではない。
 だが、王妃になる勉強はもちろんしていなかったので、不安になる。

(アシェル様を支えられるかな……。ううん。守って、支えるんだ)

 ラディウスの側で、彼を守る。
 昨日、約束した言葉だ。
 その約束を守るために、勉強でも何でもする。
 そんな決意を抱いていると、ラディウスが何かを察したのか、リヴィアスの腰を抱く。

「ヴィア。そんなに意気込まなくていい。俺も貴方を支えるし、守る」

 匂いで気付かれたのか、リヴィアスは微笑むラディウスを見て、顔を真っ赤にする。

「は、はい……」

 両手で顔を覆い、リヴィアスは何度も頷いた。
 そんな二人の遣り取りを微笑ましく国王夫妻とレインは見ていた。
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