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五章 涙と初恋
王妃とのお茶会
「すまないが、詳しく経緯をリヴィアス卿から教えてもらえないか?」
「はい、分かりました」
「ラディウスはカエルムから話を聞け」
ミーティア王妃に問われたリヴィアスは、彼に別室へと連れられた。
王宮にある応接室の更に奥へと連れられる。
ソファを勧められたと同時に、ミーティア王妃付きと思われる侍女がソーサーにティーカップを乗せ、テーブルに置いた。
ソーサーをテーブルに置く侍女の手が一瞬、震えていたことにリヴィアスは気付く。
不審に思い、リヴィアスはティーカップの中の紅茶を見て、眉を寄せ、ミーティア王妃を見た。
(これ、毒だ……!)
口を付けようとしているミーティア王妃に、リヴィアスは慌てて声を上げる。
「王妃陛下! 飲まないで下さいっ!」
ミーティア王妃に声を掛けたと同時に逃げようとする侍女を逃さないために、リヴィアスは水魔法を侍女に放つ。
「きゃあああ!!」
リヴィアスの水魔法が侍女に当たったと同時に、胸から下が氷漬けになり、床に倒れる。
倒れた音で、不審に感じたと思われる騎士が二人、部屋へと入って来る。
「王妃陛下! 如何なさいましたか?!」
リヴィアスはミーティア王妃の前に庇うように立ち、騎士の様子を窺う。
騎士二人が剣の柄を握り、倒れている侍女ではなく、リヴィアスとミーティア王妃の方に近付く。
(あの侍女と仲間……?)
ゆっくりと近付く騎士二人が侍女と仲間なのか、王宮の騎士なのか区別がつかず、リヴィアスは手に魔力を込めながら窺う。
「――リヴィアス卿。援護を頼むぞ」
「え、王妃陛下?!」
ミーティア王妃が低い声で告げて、懐に隠していた剣を取り出し、騎士二人に斬りかかる。
虚を突いて、騎士一人を一撃で昏倒させ、すぐさま残りの騎士一人を足払いし、倒れたと同時に首元に鞘から抜いた剣先をミーティア王妃は突きつけた。
「――何が狙いだ?」
「母上! ヴィア! 無事か?!」
問い掛けるミーティア王妃の声が、慌てて部屋に飛び込んで来たラディウスの声にかき消された。
「無事だ、馬鹿息子。近くで大声で叫ぶな。この騎士の格好をした侵入者二人とそこの氷漬けの侍女を捕らえろ。あと、ヴェントゥスを呼べ」
騎士に剣を突きつけたまま、ミーティア王妃はラディウスに指示する。
「分かりました」
頷いて、連れて来た騎士達にラディウスは指示していく。
危機は去ったと察し、ミーティア王妃は剣を鞘に戻す。
その間に部屋にカエルム国王が入って来た。
「ティア、リヴィアス卿、無事かい?」
「ああ。リヴィアス卿のお陰で、命拾いした」
肩に触れ、心配そうに顔を覗き込むカエルム国王にミーティア王妃は頷く。
「そうか……。リヴィアス卿。昨日は息子、今日は妻まで助けてくれてありがとう」
「い、いえ、国王陛下。王妃陛下がご無事で良かったです……」
胸に手を当て、リヴィアスは一礼する。
「ちょっと! 離しなさいよ!」
叫ぶ侍女と騎士の格好をした侵入者二人を騎士達が拘束したのを確認したラディウスは近付き、呼ばれたヴェントゥスが部屋にやって来た。
「母上! リヴィアス殿! 大丈夫ですか!」
「ああ。リヴィアス卿に助けられた。リヴィアス卿、この紅茶に何か入っていることに気付いたのか?」
「はい、王妃陛下。王妃陛下と私のティーカップに入っている紅茶には、毒が混入しています。見たところ、麻痺と魔力低下、吐血する毒です」
「毒だと?! それに、麻痺と魔力低下……まさか……」
リヴィアスの言葉に、ラディウスが目を見開く。
「ど、毒なんて、ラディウス様、わたくしは入れていません!」
拘束された侍女の顔が歪むのが、リヴィアスの視界の端で見えた。
「うるさい、小娘。ヴェントゥス。早速だが、この紅茶の中身を確認してくれないか?」
「はい、母上」
ミーティア王妃が指示すると、ヴェントゥスは頷いて、手付かずのティーカップを見る。
「リヴィアス殿の言う通りですね。麻痺と魔力低下に、吐血させる毒ですね。混入させたのは、そこの侍女の格好をした侯爵家の娘ですね。兄上に強力な薬を飲ませた侯爵の娘です」
じろりと目を細めて、ヴェントゥスは拘束された侍女に扮した侯爵家の娘を鋭く睨む。
「な、何で、わたくしの正体が……」
睨まれた侍女に扮した侯爵家の娘がびくりと身体を震わせる。
「成程な。俺とリヴィアス卿に毒を飲ませようとしたのは、俺を人質としてラディウスに自分を婚約者に選ばせようとしたのと、薬師のリヴィアス卿によって俺が救助されるのを防ぐためか」
「馬鹿なことするね。リヴィアス殿に何かあれば、“水碧の大公殿下”が君を地の果てまで追い掛けるし、リヴィアス殿は準王族だから、ブラカーシュ王国と全面戦争になるのに。そのくらい分からないかな。色々とやらかしたから、君の家、取り潰されるけど、その辺、分かってる?」
ヴェントゥスの言葉にようやく考えが至ったのか、侯爵家の娘の顔が青褪める。
「そもそも、何故、ヴィアの素性が侯爵家の娘に知られたんだ?」
リヴィアスに近付き、腰を抱きながらラディウスが不快に眉を寄せる。
「あの、アシェル様。昨日、侯爵に僕が名乗ったからだと……」
「ああ……そういえば……名乗っていたな。ということは、あの時点で、あの場にいたのか」
真紅色の目を鋭く細め、ラディウスは侯爵家の娘をちらりと見る。その目はリヴィアスや家族達に向ける目と違い、冷たさが宿っている。
「貴方のせいよ! 貴方が邪魔をしなければ、薬を飲んだラディウス様はわたくしと婚約するはずだったのに!」
氷漬けから、拘束具で捕らえられた侯爵家の娘がリヴィアスに向かって、叫ぶ。
「……人々を救うための薬を、悪意ある薬に変え、私利私欲で使うような人に言われたくありません。紅茶に入っている毒も、昨日の殿下が飲まされた薬も、場合によっては命を落とすかもしれない量です。それで命を落としたら、婚約者どころではありませんし、人の命を何だと思っているのです? 更には薬を飲んだ殿下と婚約? 意思のない殿下と婚約して、何が楽しいのですか? 自分のことしか考えない方に、邪魔だとかとやかく言われる筋合いはありません」
にっこりと冷ややかな笑みをリヴィアスは浮かべた。
リヴィアスの美しさが、その表情に凄みを増す。
その笑みを見た侯爵家の娘は身体を震わせる。
「ラ、ラディウス様! ラディウス様はわたくしのことを婚約者として、選んで下さいますよね?!」
「――誰が、母と俺の唯一の人を害そうとする、お前のような者を選ぶか。それに、俺は名で呼ぶ許可を出していない。名で呼ぶな、腐る」
冷たく鋭く睨み、ラディウスはリヴィアスの視界に侯爵家の娘が入らないように間に立つ。
「そ、そんな……! わたくしが選ばれるはずだったのに……」
拘束されたまま、侯爵家の娘は項垂れた。
「……犯人が侯爵家の当主だけなら、まだ一族を咎めるつもりはなかったが、我が妃にも、隣国の準王族にも毒を盛ろうとしたのだ。情状酌量の余地はない。近々、侯爵家には罰を下そう。それまで、父親共々、牢屋で大人しくしてるといい」
カエルム国王が冷めた緋色の目を侯爵家の娘に向けた。
「連れて行け」
鋭くラディウスは騎士達に告げ、侯爵家の娘と騎士の格好をした侵入者二人は連行された。
「ヴィア……母上を助けてくれて、本当にありがとう……」
リヴィアスの両手を握り、ラディウスは微笑む。
「いえ……毒に気付いて、本当に良かったです……」
「リヴィアス卿、ありがとう。本当に助かった。だが、何故、毒だと気付いた?」
「それは、侍女に扮した侯爵家の令嬢の手が震えていたので不審に気付きました。あとは、その、ぼ、私の加護のお陰です……」
「加護?」
「はい。あの、その前に、王妃陛下。失礼かと存じますが、一つ、お聞きしたいことがあります。お伺いしても宜しいでしょうか?」
胸に手を当て、リヴィアスは背の高いミーティア王妃を見上げる。
「あ、ああ……。何だろうか?」
「……王妃陛下のお身体に蓄積されている数種類の毒は、敢えて放置なさってますか? それとも、知らずに飲まされたものですか?」
輝く天色の目を何度も瞬かせて、リヴィアスはミーティア王妃をじっと見つめる。
目を大きく見開いて、ミーティア王妃はリヴィアスを見返す。
カエルム国王もリヴィアスを見つめる。
「……そこまで分かるのか。ということは、リヴィアス卿の加護は薬神の加護だな」
「はい。仰る通りです」
「俺の身体に蓄積されている数種類の毒は、知っていたが、もう治せない状態だったから諦めていた。十年前から少しずつ飲まされた毒だからな」
「母上、それはどういう……」
ミーティア王妃の言葉に驚いたラディウスは、呆然と母を見つめる。
「十年前から、早く国王を竜神の加護を持つラディにしろという勢力と、鑑定神の加護を持つヴェンにしろという勢力で揉めていてね。竜神の加護を持つラディを正統後継者と考え、ティアとヴェン、二人を亡き者にしようと考えた者がいるんだよ。すぐ殺すのではなく、少量の毒でじわじわとね。ヴェンは鑑定神の加護があるから、自分の身を守れたけど、ティアは気付くのが遅れた」
カエルム国王がミーティア王妃の肩を抱き締めながら、力なく笑う。
「何度か状態異常回復ポーションを飲んだが、毒の種類が多くて、効かなかった。何度か、ミストラルからもリヴィアス卿が作った状態異常回復ポーションを貰い、飲んだが全ては治せなかった」
「……そうだったのですか……」
じっとミーティア王妃を天色の目で、リヴィアスは見つめる。
「……あの、王妃陛下。一つ、試して頂いても宜しいでしょうか?」
「試す? 何をだ?」
首を傾げるミーティア王妃に笑い掛け、リヴィアスはマジックバッグから橙色の液体が入ったポーションの瓶を取り出す。
「これは?」
「こちらは、あらゆる病気を治すという神の霊薬と呼ばれるソーマです」
「……は?!」
「効くかどうかは分かりませんが、こちらを飲んで頂けませんか?」
「これは、どうしたんだ?! いくら薬神の加護を持っているからといって、ほぼ伝説に近いものを貰う訳には……!」
ぷるぷると手を震わせながら、ミーティア王妃はリヴィアスを見た。
「問題ありません。この薬は僕が魔力で作ったものなので、いつでも作れますから……」
そう言って、リヴィアスはミーティア王妃の手にソーマが入った瓶を乗せる。
「試しにというのも変ですが、飲んで頂けませんか?」
優しく微笑み、リヴィアスは告げる。
それがまるで、慈愛に満ちた女神のような微笑みで、ミーティア王妃は思わず見惚れる。
「……分かった。飲んでみる。効かなかったら、すまない」
「大丈夫です。その時は、王妃陛下のお身体を治すための薬を新しく作ります」
リヴィアスの言葉に押され、ミーティア王妃はソーマが入った瓶の蓋を開け、一気に飲み干した。
すると、ミーティア王妃の身体が淡い橙色に光る。
そして、大きく目を見開いた。
「……治った気がする。身体が軽い……」
手を何度も開閉させ、ミーティア王妃は目を輝かせた。
「良かった……」
嬉しそうにカエルム国王と話すミーティア王妃に微笑みながら、リヴィアスは安堵の息を漏らした。
※いつも読んで下さり、ありがとうございます!
遅くなってごめんなさい!
明日も日付が変わるまでに更新させて頂きます!
宜しくお願い致します!
「はい、分かりました」
「ラディウスはカエルムから話を聞け」
ミーティア王妃に問われたリヴィアスは、彼に別室へと連れられた。
王宮にある応接室の更に奥へと連れられる。
ソファを勧められたと同時に、ミーティア王妃付きと思われる侍女がソーサーにティーカップを乗せ、テーブルに置いた。
ソーサーをテーブルに置く侍女の手が一瞬、震えていたことにリヴィアスは気付く。
不審に思い、リヴィアスはティーカップの中の紅茶を見て、眉を寄せ、ミーティア王妃を見た。
(これ、毒だ……!)
口を付けようとしているミーティア王妃に、リヴィアスは慌てて声を上げる。
「王妃陛下! 飲まないで下さいっ!」
ミーティア王妃に声を掛けたと同時に逃げようとする侍女を逃さないために、リヴィアスは水魔法を侍女に放つ。
「きゃあああ!!」
リヴィアスの水魔法が侍女に当たったと同時に、胸から下が氷漬けになり、床に倒れる。
倒れた音で、不審に感じたと思われる騎士が二人、部屋へと入って来る。
「王妃陛下! 如何なさいましたか?!」
リヴィアスはミーティア王妃の前に庇うように立ち、騎士の様子を窺う。
騎士二人が剣の柄を握り、倒れている侍女ではなく、リヴィアスとミーティア王妃の方に近付く。
(あの侍女と仲間……?)
ゆっくりと近付く騎士二人が侍女と仲間なのか、王宮の騎士なのか区別がつかず、リヴィアスは手に魔力を込めながら窺う。
「――リヴィアス卿。援護を頼むぞ」
「え、王妃陛下?!」
ミーティア王妃が低い声で告げて、懐に隠していた剣を取り出し、騎士二人に斬りかかる。
虚を突いて、騎士一人を一撃で昏倒させ、すぐさま残りの騎士一人を足払いし、倒れたと同時に首元に鞘から抜いた剣先をミーティア王妃は突きつけた。
「――何が狙いだ?」
「母上! ヴィア! 無事か?!」
問い掛けるミーティア王妃の声が、慌てて部屋に飛び込んで来たラディウスの声にかき消された。
「無事だ、馬鹿息子。近くで大声で叫ぶな。この騎士の格好をした侵入者二人とそこの氷漬けの侍女を捕らえろ。あと、ヴェントゥスを呼べ」
騎士に剣を突きつけたまま、ミーティア王妃はラディウスに指示する。
「分かりました」
頷いて、連れて来た騎士達にラディウスは指示していく。
危機は去ったと察し、ミーティア王妃は剣を鞘に戻す。
その間に部屋にカエルム国王が入って来た。
「ティア、リヴィアス卿、無事かい?」
「ああ。リヴィアス卿のお陰で、命拾いした」
肩に触れ、心配そうに顔を覗き込むカエルム国王にミーティア王妃は頷く。
「そうか……。リヴィアス卿。昨日は息子、今日は妻まで助けてくれてありがとう」
「い、いえ、国王陛下。王妃陛下がご無事で良かったです……」
胸に手を当て、リヴィアスは一礼する。
「ちょっと! 離しなさいよ!」
叫ぶ侍女と騎士の格好をした侵入者二人を騎士達が拘束したのを確認したラディウスは近付き、呼ばれたヴェントゥスが部屋にやって来た。
「母上! リヴィアス殿! 大丈夫ですか!」
「ああ。リヴィアス卿に助けられた。リヴィアス卿、この紅茶に何か入っていることに気付いたのか?」
「はい、王妃陛下。王妃陛下と私のティーカップに入っている紅茶には、毒が混入しています。見たところ、麻痺と魔力低下、吐血する毒です」
「毒だと?! それに、麻痺と魔力低下……まさか……」
リヴィアスの言葉に、ラディウスが目を見開く。
「ど、毒なんて、ラディウス様、わたくしは入れていません!」
拘束された侍女の顔が歪むのが、リヴィアスの視界の端で見えた。
「うるさい、小娘。ヴェントゥス。早速だが、この紅茶の中身を確認してくれないか?」
「はい、母上」
ミーティア王妃が指示すると、ヴェントゥスは頷いて、手付かずのティーカップを見る。
「リヴィアス殿の言う通りですね。麻痺と魔力低下に、吐血させる毒ですね。混入させたのは、そこの侍女の格好をした侯爵家の娘ですね。兄上に強力な薬を飲ませた侯爵の娘です」
じろりと目を細めて、ヴェントゥスは拘束された侍女に扮した侯爵家の娘を鋭く睨む。
「な、何で、わたくしの正体が……」
睨まれた侍女に扮した侯爵家の娘がびくりと身体を震わせる。
「成程な。俺とリヴィアス卿に毒を飲ませようとしたのは、俺を人質としてラディウスに自分を婚約者に選ばせようとしたのと、薬師のリヴィアス卿によって俺が救助されるのを防ぐためか」
「馬鹿なことするね。リヴィアス殿に何かあれば、“水碧の大公殿下”が君を地の果てまで追い掛けるし、リヴィアス殿は準王族だから、ブラカーシュ王国と全面戦争になるのに。そのくらい分からないかな。色々とやらかしたから、君の家、取り潰されるけど、その辺、分かってる?」
ヴェントゥスの言葉にようやく考えが至ったのか、侯爵家の娘の顔が青褪める。
「そもそも、何故、ヴィアの素性が侯爵家の娘に知られたんだ?」
リヴィアスに近付き、腰を抱きながらラディウスが不快に眉を寄せる。
「あの、アシェル様。昨日、侯爵に僕が名乗ったからだと……」
「ああ……そういえば……名乗っていたな。ということは、あの時点で、あの場にいたのか」
真紅色の目を鋭く細め、ラディウスは侯爵家の娘をちらりと見る。その目はリヴィアスや家族達に向ける目と違い、冷たさが宿っている。
「貴方のせいよ! 貴方が邪魔をしなければ、薬を飲んだラディウス様はわたくしと婚約するはずだったのに!」
氷漬けから、拘束具で捕らえられた侯爵家の娘がリヴィアスに向かって、叫ぶ。
「……人々を救うための薬を、悪意ある薬に変え、私利私欲で使うような人に言われたくありません。紅茶に入っている毒も、昨日の殿下が飲まされた薬も、場合によっては命を落とすかもしれない量です。それで命を落としたら、婚約者どころではありませんし、人の命を何だと思っているのです? 更には薬を飲んだ殿下と婚約? 意思のない殿下と婚約して、何が楽しいのですか? 自分のことしか考えない方に、邪魔だとかとやかく言われる筋合いはありません」
にっこりと冷ややかな笑みをリヴィアスは浮かべた。
リヴィアスの美しさが、その表情に凄みを増す。
その笑みを見た侯爵家の娘は身体を震わせる。
「ラ、ラディウス様! ラディウス様はわたくしのことを婚約者として、選んで下さいますよね?!」
「――誰が、母と俺の唯一の人を害そうとする、お前のような者を選ぶか。それに、俺は名で呼ぶ許可を出していない。名で呼ぶな、腐る」
冷たく鋭く睨み、ラディウスはリヴィアスの視界に侯爵家の娘が入らないように間に立つ。
「そ、そんな……! わたくしが選ばれるはずだったのに……」
拘束されたまま、侯爵家の娘は項垂れた。
「……犯人が侯爵家の当主だけなら、まだ一族を咎めるつもりはなかったが、我が妃にも、隣国の準王族にも毒を盛ろうとしたのだ。情状酌量の余地はない。近々、侯爵家には罰を下そう。それまで、父親共々、牢屋で大人しくしてるといい」
カエルム国王が冷めた緋色の目を侯爵家の娘に向けた。
「連れて行け」
鋭くラディウスは騎士達に告げ、侯爵家の娘と騎士の格好をした侵入者二人は連行された。
「ヴィア……母上を助けてくれて、本当にありがとう……」
リヴィアスの両手を握り、ラディウスは微笑む。
「いえ……毒に気付いて、本当に良かったです……」
「リヴィアス卿、ありがとう。本当に助かった。だが、何故、毒だと気付いた?」
「それは、侍女に扮した侯爵家の令嬢の手が震えていたので不審に気付きました。あとは、その、ぼ、私の加護のお陰です……」
「加護?」
「はい。あの、その前に、王妃陛下。失礼かと存じますが、一つ、お聞きしたいことがあります。お伺いしても宜しいでしょうか?」
胸に手を当て、リヴィアスは背の高いミーティア王妃を見上げる。
「あ、ああ……。何だろうか?」
「……王妃陛下のお身体に蓄積されている数種類の毒は、敢えて放置なさってますか? それとも、知らずに飲まされたものですか?」
輝く天色の目を何度も瞬かせて、リヴィアスはミーティア王妃をじっと見つめる。
目を大きく見開いて、ミーティア王妃はリヴィアスを見返す。
カエルム国王もリヴィアスを見つめる。
「……そこまで分かるのか。ということは、リヴィアス卿の加護は薬神の加護だな」
「はい。仰る通りです」
「俺の身体に蓄積されている数種類の毒は、知っていたが、もう治せない状態だったから諦めていた。十年前から少しずつ飲まされた毒だからな」
「母上、それはどういう……」
ミーティア王妃の言葉に驚いたラディウスは、呆然と母を見つめる。
「十年前から、早く国王を竜神の加護を持つラディにしろという勢力と、鑑定神の加護を持つヴェンにしろという勢力で揉めていてね。竜神の加護を持つラディを正統後継者と考え、ティアとヴェン、二人を亡き者にしようと考えた者がいるんだよ。すぐ殺すのではなく、少量の毒でじわじわとね。ヴェンは鑑定神の加護があるから、自分の身を守れたけど、ティアは気付くのが遅れた」
カエルム国王がミーティア王妃の肩を抱き締めながら、力なく笑う。
「何度か状態異常回復ポーションを飲んだが、毒の種類が多くて、効かなかった。何度か、ミストラルからもリヴィアス卿が作った状態異常回復ポーションを貰い、飲んだが全ては治せなかった」
「……そうだったのですか……」
じっとミーティア王妃を天色の目で、リヴィアスは見つめる。
「……あの、王妃陛下。一つ、試して頂いても宜しいでしょうか?」
「試す? 何をだ?」
首を傾げるミーティア王妃に笑い掛け、リヴィアスはマジックバッグから橙色の液体が入ったポーションの瓶を取り出す。
「これは?」
「こちらは、あらゆる病気を治すという神の霊薬と呼ばれるソーマです」
「……は?!」
「効くかどうかは分かりませんが、こちらを飲んで頂けませんか?」
「これは、どうしたんだ?! いくら薬神の加護を持っているからといって、ほぼ伝説に近いものを貰う訳には……!」
ぷるぷると手を震わせながら、ミーティア王妃はリヴィアスを見た。
「問題ありません。この薬は僕が魔力で作ったものなので、いつでも作れますから……」
そう言って、リヴィアスはミーティア王妃の手にソーマが入った瓶を乗せる。
「試しにというのも変ですが、飲んで頂けませんか?」
優しく微笑み、リヴィアスは告げる。
それがまるで、慈愛に満ちた女神のような微笑みで、ミーティア王妃は思わず見惚れる。
「……分かった。飲んでみる。効かなかったら、すまない」
「大丈夫です。その時は、王妃陛下のお身体を治すための薬を新しく作ります」
リヴィアスの言葉に押され、ミーティア王妃はソーマが入った瓶の蓋を開け、一気に飲み干した。
すると、ミーティア王妃の身体が淡い橙色に光る。
そして、大きく目を見開いた。
「……治った気がする。身体が軽い……」
手を何度も開閉させ、ミーティア王妃は目を輝かせた。
「良かった……」
嬉しそうにカエルム国王と話すミーティア王妃に微笑みながら、リヴィアスは安堵の息を漏らした。
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2024年10月追記
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