婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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五章 涙と初恋

閑話5 大公殿下、動揺する(ミストラル視点)

 私の大事な息子――長男から、可愛い息子――次男の衝撃なことを聞かされた。

 次男リヴィアスが、婚約者から冤罪と婚約破棄を一方的に宣言された。
 しかも、国王である私の兄上の前で。
 その後、リヴィアスから婚約中のことを聞き、静養先のプロミネンス公爵家で、私の甥のレインからの手紙でパーティーでの息子の扱いを知った。

「……フューズ。小僧を凍らせて粉々にするのと、消し炭にするのだと、どちらがリヴィの心証に良い?」

 書類にサインを書きながら、側近のフューズに私は問い掛ける。

「……どちらも悪いに決まっているでしょう。レイディアンスの天使にトラウマを植え付けるつもりですか!」

 水色の髪を振り乱し、瑠璃色の目を剥いて、フューズは私に向かって叫ぶ。

「やはりそうだよな。魔物と比べて勝手が違うから、面倒だな」

「いつも思うのですが、本当に王弟ですか……」

「王弟だが? 乳兄弟で昔からの側近が何を言っている」

「そうですよね……。王弟なのに、貴族より、魔物と戯れる方が活き活きとしてますよね。だから、王位より辺境領に行くことを選んだんですよね……」

「ちゃんと領地経営はしているだろ」

「ええ。ミストラル様が辺境領の領主になる前となった後だと、経済は格段に変わりましたし、周囲の目も確かに変わりました。ですが、王都にいた時と比べて、野生化してません? 王族の気品はどちらに……?」

 何とも言えない顔で私を見つめ、フューズは溜め息を漏らす。

「王都に行くと戻って来る。兄上を困らせる訳にはいかないからな」

「左様ですか。ところで、何故、ウィキッド侯爵令息を凍らせて粉々にするだとか、消し炭にするだとか仰るのです?」

「実はレインから報告があってな……」

 レインからの報告をフューズに伝えると、眉を顰めた。

「先程の問いはそういうことでしたか。ですが、ミストラル様がそのようなことをなさると、リヴィアス様が確実に悲しみますのでやめて下さい。こういうのは陛下にご判断頂くのが良いかと思います。仕返ししたい気持ちは非常に分かりますが、陛下が決められた後になさって下さい」

 溜め息混じりに、フューズが告げる。

「……それに、ミストラル様が消し炭にしてしまうと、も知られてしまいますよ」

「……それは困るな」

 机を指で叩きながら、私も溜め息を吐く。
 この世界には、神の加護を与えられた者がいる。
 ブラカーシュ王国にも、王家に連なる者や貴族の一部の者で様々な神の加護を与えられた者がいる。
 水神の加護を私が持っていることは知られている。
 だが、私はもう二つ神の加護を持っている。
 その二つは、炎神の加護と戦神の加護だ。
 戦神の加護は世界で一人しか持たない。
 知っているのは、私の妻のステラ、三人の息子達、乳兄弟で側近のフューズ、執事長のゲイル、国王夫妻である兄上と義姉上、甥と姪の王太子と第二王子、第一王女のみだ。
 貴族達に知られると恐らく、様々な戦いに駆り出される。
 戦いに特化した加護ばかりを持つからだ。
 攻めてくる敵から国を守るのは構わないが、侵略する気はない。
 各国と平和が保たれている今、戦争をする意味がない。斥候は来るが、大きな動きはなく、とりあえず、牽制する程度で済んでいる。
 その斥候もどちらかというと、よく効く薬を齎すリヴィアスのことを調べようとしているようで、威圧すれば尻尾を巻いて逃げる。
 今のところ、薬神の加護を持つことは知られていない。
 私の学友でもあるウィキッド侯爵の、加護を持たない方の息子と婚約することで、リヴィアスも加護を持っていないように見せる隠れ蓑に、誠実な性格をしているウィキッド侯爵の息子だから愛し、守ってくれるだろうと思っていたが、その息子が最悪だった。
 まさか、婚約してすぐから浮気、パーティーではリヴィアスを装飾品のような扱いをしていたとは思わなかった。
 私とウィキッド侯爵が友人だからと、息子を我慢させることになるとも思わなかった。
 しっかり調べておけば良かったと後悔する。
 大事な息子を傷付けてしまった。
 これからはもっと息子を守らなければ。

「……リヴィアス様と婚約破棄したことで、ウィキッド侯爵家も侯爵領もこれから大変でしょうね……」

 リヴィアスのことを考えていると、フューズは小さく呟く。

「……そうだな」

 フューズの言わんとすることが分かり、私も頷く。
 リヴィアスも薬神の加護とは別に、私と同様に加護を二つ持つ。
 豊穣の女神の加護と月の女神の加護だ。
 豊穣の女神の加護は、持つ者が大事に思う場所に、他の地と比べて少しだけ豊かにしたり、植物の成長速度を早める。
 月の女神の加護は、大事に思う者に夜を照らす月明かりのように安らぎと癒やしを齎す。
 私と違い、三つとも世界で一人しか持たない加護だ。
 このことはリヴィアス本人も二人の息子達も知らない。
 知るのは私とステラ、兄上、ステラの姉のエクラ、フューズ、ゲイルのみだ。
 息子達にも、ブラカーシュ王家とプロミネンス公爵家の甥と姪達にも、いずれ伝えるつもりだ。
 ウィキッド侯爵家にも、リヴィアスとの結婚後に伝える予定だったが、婚約破棄で流れた。
 今思うと、これで良かったのかもしれない。
 リヴィアスの加護を知れば、ウィキッド侯爵はともかく、あの小僧も侯爵夫人も欲に目が眩み、息子を道具のように扱っていたかもしれない。
 これからは、ウィキッド侯爵家も侯爵領も、豊穣の女神の加護の恩恵は与えられない。
 小僧も逃した魚が大きかったことに気付くだろう。
 そう考えていると、ステラが作った魔導具からリヴィアスから手紙が届いた。
 定期的に届くリヴィアスからの手紙が、最近の私の楽しみだ。
 静養に行かせたことで、だいぶ心休めているようだ。
 それだけで、安堵する。
 傷付いているのに、必死に心配させまいとするリヴィアスを見て、胸が張り裂けそうな思いだった。
 何も考えず、心穏やかに休んで欲しい。
 そんな気持ちで封を開け、リヴィアスの手紙を読み進めていくと、段々、不穏な気持ちになる。

「ミストラル様? リヴィアス様に何かあったのですか?」

 私の表情を見て、何かを感じたのか、フューズが問い掛ける。

「……リヴィアスが口説かれたそうだ……」

「はい……?」

「エリスロース竜王国の王太子に、リヴィアスが口説かれた上に、告白され、恋仲になったそうだ……」

「は……い……?!」

 フューズが驚愕の表情を浮かべている。
 私もそんな気持ちだ。
 本当なら、父として祝うべきなのだろうが、恋愛感情がなかったとはいえ約一ヶ月前に婚約破棄をされ、傷付いた息子だ。
 そんな息子が、恋仲……?
 しかも、竜神の加護を持つ、王太子が相手だ。
 王太子とは会ったことはないが、あの国王と王妃の息子だ。
 強引に迫ったのではないだろうか……。
 優しいリヴィアスのことだ。
 あの小僧と違い、強引に迫った(かもしれない)王太子に絆されたのではないだろうか。
 ……一度、会う必要があるな。
 そこでリヴィアスを幸せに出来る者なのか、見定めよう。
 場合によっては、レイディアンスの総力を結集して、締める。

「会うしかないだろうな。あの国王カエルムと、王妃ミーティアの息子だ。竜は愛情深いと聞くが、見てみないと判断が付かん」

「そうですね……。王太子は公明正大ですが、貴族には冷ややかな態度をするという話ですからね。リヴィアス様の美しさと可愛らしさ、優しさ、才能に惹かれ、国の益を考えて口説いたのでしたら、エリスロースとは全面戦争ですね。レイディアンスの使用人全員、リヴィアス様のためなら、いくらでも力になりますよ」

 笑顔でフューズは告げるが、そのこめかみには青筋が出来ている。
 我が家の天使の求心力は凄いな。

「とりあえず、返事を書かないといけないが……あまり書きたくないな……。息子を掻っ攫おうとする何処ぞの馬の骨もとい、竜の骨など……討伐したいのだが……!」

 ケルベロスよりもさっくりと討伐したい気満々だ。
 大事な可愛い息子に触れたいなら、私の屍を越えてみろ。
 そんな気持ちだから、リヴィアスにそのままの気持ちの返事を書くと、悲しませるのは分かっている。だが……!

「ですが、お返事しないとリヴィアス様が悲しみますよ」

「ぐっ……! 分かった……書く」

 何故か悔しい気持ちになりながら、私は気持ちを抑えながら、手紙にこう書いた。

『今度、挨拶に連れておいで』と。

 そして、挨拶に来た王太子を見て、王太子より王妃との舌戦の方が気力を使った。
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