婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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六章 実家へ

挨拶と打診

 騎竜に乗ってしばらくして、リヴィアス達はレイディアンス辺境領の上空まで来た。
 リヴィアスは二度目の空から見るレイディアンス辺境領に目を輝かせている。
 その様子を後ろから、表情がくるくると変わるリヴィアスを間近で見ることが出来て、ラディウスは自分の加護でもある竜神に感謝した。
 レイディアンス辺境領の大公家の館の裏庭に騎竜は降りる。
 ラディウスに支えられてリヴィアスが降りると、弟の声が聞こえた。

「リヴィ兄上、お帰りなさい!」

 アイシクルが笑顔でリヴィアスに抱き着いた。

「ただいま、アイス! 怪我とか病気になってない?」

 リヴィアスも抱き締めて、アイシクルに尋ねる。
 兄弟の抱擁に、ラディウスは表情には出さないが、内心、ほっこりした。何より、弟より背が少し低いリヴィアスが可愛い。

「大丈夫! 皆、元気だよ! リヴィ兄上は大丈夫そう? 何も起きてない?」

 アイシクルに問い返され、リヴィアスはぴしりと固まる。
 手紙で伝えたとはいえ、何も起きてないかと問われると、起きているので、どう答えればいいか、悩む。

「えーっと……手紙に書いた通りのことは起きたけど、それ以外は特に……」

 そう答えるしか、リヴィアスには出来なかった。

「……成程」

 すんと冷めた表情でアイシクルは頷いた。
 目撃してしまったラディウスは誰にも気付かれないように苦笑した。

「父様、母様、兄様は?」

「皆、応接室で待ってるよ。エリスロース竜王国の皆様をお連れするようにって、父上に言われたんだ」

「そうなんだね」

「そういうことですので、お初にお目に掛かります。エリスロース竜王国の国王陛下、王妃陛下、王太子殿下にご挨拶申し上げます。私は、ブラカーシュ王国、レイディアンス大公家の三男、アイシクル・ヴァロ・レイディアンスと申します。以後お見知りおき下さい」

 ボウアンドスクレープをして、アイシクルはエリスロース竜王家に挨拶をする。
 優雅で洗練されたリヴィアスの挨拶とは違い、勢いがありつつも、優雅さも混ざった挨拶で、ラディウスは兄弟でも違うのかと感心する。

「アイシクル卿、こちらこそ宜しく。非公式とはいえ、突然、お邪魔することになり申し訳ないね。どうしてもミストラル君とステラちゃんに挨拶しないといけないことがあってね」

 カエルム国王がにこやかにアイシクルに応える。

「その席に、私も同席の許可を父より頂いています。そちらで詳しく伺わせて頂きます。こちらへご案内致します」

 そう言って、アイシクルはミストラル達が待つ応接室へラディウス達を案内した。













 案内されたラディウス達は、応接室に着く。
 アイシクルが応接室の扉を開け、ラディウス達を促す。
 応接室の中へと、カエルム国王、ミーティア王妃、ラディウス、リヒト、レイン、アウラの順で入り、リヴィアスとアイシクルが最後に入る。

「リヴィアス、元気そうだな。お帰り」

 ミストラルが最後に入って来たリヴィアスを確認して、小さく安堵の表情を浮かべた。

「はい。父様、母様、兄様、只今帰りました」

 満面の笑みを浮かべ、リヴィアスは両親と兄を見る。
 見たところ、特に怪我や病気もないようで、安堵する。
 ミストラルが手招きして、リヴィアスとアイシクルを隣に呼び寄せ、それからカエルム国王達にソファに座るように促す。

「……あまり会いたくもなかったが、久しいな。カエルム、ミーティア。それと、初めましてだな、王太子」

 非公式だからなのか、笑顔もなく、ミストラルは不機嫌を竜王家にぶつける。

「初めまして、ミストラル大公。エリスロース竜王国の王太子、ラディウス・アシェル・ソル・エリスロースと申します」

 ラディウスはとても真面目にミストラルに挨拶した。

「……相変わらず、無愛想だよな。“水碧の大公殿下”は」

「お前達が来る理由を知れば、無愛想にもなるだろう」

 両腕を胸の前で組んで、ミストラルは不機嫌に答える。

「あっはっはっ。大事な可愛いリヴィちゃんの婚約の打診だもんな。俺が親なら同じ態度だ。だからこそなんだが、可愛いリヴィちゃんを大事なウチの息子の婚約者にしてもらえないか? リヴィちゃんの元婚約者の婚約破棄等の事情は聞いた。ウチの息子なら元婚約者のようなことはリヴィちゃんに絶対にしない。今まで見てきたが、こんなに可愛くて良い子をウチの息子の婚約者に、伴侶に欲しい。してもらえるなら、俺もカエルムも一緒にリヴィちゃんを守る。どうだろうか?」

 真剣な表情で、ミーティア王妃がミストラルに告げる。
 ミストラルはしばらく黙り、カエルム国王とミーティア王妃、ラディウスを見つめる。

「……断る。と言いたいところだが、王太子。そちらはリヴィアスをどう思う?」

 鋭く目を細めてラディウスを見据え、ミストラルは長い足を組む。

「――私は、リヴィアス卿……ヴィアが必要です。彼は私の心をたくさん癒やしてくれました。竜神の加護を過信して、命を落としそうになった時に必死に助けてくれて、泣きながら怒ってくれました。他の令嬢、令息と違い、私の身を真剣に案じてくれたのは彼が初めてです。自分も傷付いているのに、心優しく周りの者達を心配するヴィアが放っておけない。自分を後回しにして誰かを助けようとするヴィアを、私が一生守りたい。そう思っています」

 真剣な表情でラディウスによって、家族の前で口説かれるような言葉を告げられ、リヴィアスの顔が真っ赤になる。

「……そうか。あの小僧よりはかなりマシだな。リヴィをよく見ている、か。リヴィアスはどうだ?」

 隣に座らせていたリヴィアスに、ミストラルは穏やかな声音で問う。
 声のトーンが全く違う。

「……僕は、今後、誰とも婚約するつもりはありませんでした。自分の心を守りたくて……。静養中に、元婚約者がしなかったことをアシェル様からたくさんしてもらいました。尊重して下さって、それが本当に初めてで……なので、アシェル様が婚約者なら嬉しいです」

 恥ずかしそうに、ふわりと花のようにリヴィアスは笑う。

「王太子なら、問題なさそうなのか? リヴィ」

 心配そうにグレイシアがリヴィアスを見る。

「……はい。アシェル様が婚約者なら、笑顔でいられると思います、多分」

「そこは、多分を付けないで欲しかったな……ヴィア」

「えっ、あの、恋をしたことがないので、自信がなくて、断言出来なくて……」

「その正直なところも好きだよ、ヴィア」

 困ったように笑って、ラディウスが言うと、リヴィアスの顔が一気に真っ赤になり、両手で顔を隠す。
 真っ赤なリヴィアスを見たミストラル達家族は、二人の遣り取りを凝視する。それからちらりと竜王家の背後に立つレインに目を向ける。目が合ったレインは大きく頷いた。

「……相性は良いようだな……。分かった。リヴィアスと王太子の婚約を認めよう」

 ミストラルが頷くと、カエルム国王、ミーティア王妃、ラディウスは目を輝かせた。

「――ただし、条件がある。その条件を飲めなければ、いくら竜神の加護の特有性もあったものだとしても、認めない」

 冷ややかな紺碧色の目で、ミストラルは竜王家――特にラディウスを見据えた。

「この条件を飲めるか? 王太子」
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