婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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七章 薬神の加護と月と豊穣の女神の加護

加護と神話

「父上、ちょっと待って下さい。よく理解出来ないんですが……」

 アイシクルが困惑した表情で、ミストラルを見る。
 長男のグレイシアも困惑し、話の中心にいるリヴィアスもまた困惑している。

「……すぐには理解は難しいだろう。私も初めに聞いた時はそうだった。加護に関する話というものが、ブラカーシュ王家に代々語り継がれているのだが、そこからもう一度話そう」

「ミストラル叔父上。それは俺やアウラも聞いてもいいものですか?」

 レインも困惑した表情で、叔父を見る。

「問題ない。事前に国王である兄上から許可を得ている。レインもアウラも身内だ。エリスロース竜王家もいずれ親戚になる。ライトニング公爵令息もアウラの婚約者であり、王太子の側近だ。そちらも身内枠だ」

 ミストラルの言葉に、レインとアウラはホッとし、リヒトは身内枠に入れられたことに苦笑した。

「学園も含めて、巷で知られている神話と、ブラカーシュ王家に代々語り継がれている話は少し違う」

 ミストラルが言うと、アイシクルが眉を寄せて唸る。

「うぅ……俺達が知っている神話って、色々な神様がこの世界に住む人達に加護を与えてる、というのと、その加護が大きかったり、小さかったり、様々で、加護の中には世界で一人しか与えられない加護もある。大昔に、大きな加護が与えられた人達が王や貴族に。小さな加護が与えられた人達は平民と呼ばれるようになったってくらいなんですけど……。父上、ブラカーシュ王家に代々語り継がれている話は、どう違うのですか?」

 ざっくりと説明したアイシクルは、こめかみに手を当てながら唸る。
 ミストラルとステラ以外の者達がアイシクルの言葉に賛同するように、何度も頷く。

「詳しくというより、真実のようなものだな」

 溜め息混じりに、ミストラルは口を開いた。





 この世界には神々が加護を与える。
 世界を育てるために直接手が出せない神は、この世界に住む者達に与えた加護を通して、世界を育てることにした。
 様々な名の神が、この世界に住む者達に加護を与えた。
 加護は小さいものから大きなものまで。
 生きる全ての者達に与えた。
 いつしか、大きな加護を与えられた者達は王や貴族を名乗り、様々な国を作り、小さな加護を与えられた者達は平民と呼ばれ、それぞれの国で生きるようになった。
 ところが、大きな加護を与えられた者は威張る者が多くなり、欲も増え、自分にない大きな加護を与えられた者を手に入れ、意のままにしようとすることを考えた。
 小さな加護を与えられた者は、大きな加護を与えられた者を羨み、妬み、自分にない大きな加護を与えられた者を取り込もうとし始めた。
 数百年が経ち、いつの間にか、大きな加護を持っていた王や貴族も、小さな加護しか持たずに生まれる者が増えた。
 その中で、小さな加護を与えられた者でも、大きな加護を与えられた者でも、手に入れたいと思う加護を持つ者達がいた。
 十神と呼ばれる神の、珍しい加護を持つ者達だ。

 十神とは、薬神、竜神、戦神、守護神、識神しきじん、豊穣の女神、太陽神、月の女神、星の女神、空神くうじん

 この十神はその時代に、それぞれ一人しか加護を与えられない。
 故に私利私欲で狙われるようになった。
 齎す恩恵が他の加護より強力だからだ。
 その場にいることで、世界にも恩恵を齎す。
 特に狙われたのは薬神、豊穣の女神の加護を与えられた者だ。
 どちらも自分ではなく、他人に恩恵を齎す。
 留め置けば、恩恵が手に入る。
 狙われ過ぎた薬神、豊穣の女神の加護を与えられた者は、どの時代でも狙われることに怯え、精神的に疲弊していく。
 どの時代でも囚われ続けた、薬神の加護を与えられた者、豊穣の女神の加護を与えられた者は、苦しみから逃れるために普段は選ばないだろう選択をしてしまうことが増えた。
 その結果、十神のうち、二柱の神の力が加護を通して届かなくなり、世界が歪み、魔物が増え始めた。
 事態を重く見た神々は、あることを考える。
 薬神と豊穣の女神の加護を一人に与え、生まれる毎に他の神の加護も与え、順番で守ること。
 一人に三柱の加護を与えることで、歪みと魔物を取り除こうと考えた。
 千年の間は、この方法が上手くいき、世界の歪みは落ち着いた。
 が、それでも薬神と豊穣の女神の加護を持つ者は狙われ続け、更に神々は守る手立てを追加した。
 薬神と豊穣の女神の加護を持つ者を外からも守るために、対となる神の加護を持つ者に守ってもらうこと。
 守護神は戦神、月の女神は太陽神、星の女神は空神。竜神、識神は十神を見守る立場になり、薬神と豊穣の女神の加護を持つ者を生まれる度に、六柱が交代で守ることになった。
 守る方法は、薬神と豊穣の女神の加護を持つ者と一生を共にすると心から誓った者に、対となる加護を与えられる。
 この話は、識神の加護を持つ者が過去にいたことで、ブラカーシュ王家に伝わり、語り継がれることになった。



「薬神と豊穣の女神の加護を持つ者は、この時代ではリヴィアスだ。リヴィアスを守る今回の神の加護が月の女神だ。対となる加護は太陽神だ」

 父の説明に、左右のこめかみに人差し指を当て、アイシクルは眉を寄せる。

「……詳しく聞いても、頭に入らないです……。とりあえず、リヴィ兄上をがっつり守ればいいってことですよね? でしたら、今までと変わりませんね!」

「……まぁ、そういうことだな……。なら、私もリヴィを変わらず守ればいいな。まだ今のところ、身内以外には薬神の加護を持つと知られていないが、今まで通り守れば問題ないな」

 両親を挟んで反対側に座るリヴィアスの方に、身を乗り出してグレイシアが頷く。

「そう考えると、あの馬鹿とリヴィ兄上が婚約破棄して良かった……。対となる加護なんて与えられたら、あの馬鹿が何をするか……」

「その対となる加護を与えられる条件だが、薬神と豊穣の女神の加護を持つ者と一生を共にすると心から誓った者であることが一つ目の条件だ」

「は? ミストラル。二つ目はなんだ?」

 後出しで出てきたことで、ミーティア王妃が眉を寄せる。

「薬神と豊穣の女神の加護を持つ者――この場合、リヴィアスだが、リヴィアスに愛されることが二つ目の条件だ。その二つをクリアしなければ、対となる神の加護は与えられない」

 ミストラルの言葉に、アイシクルとレインが吹いた。

「不貞野郎は論外だったということだな」

 グレイシアが呆れたように呟いた。

「だけど、腑に落ちないのだが、とても重要な子でもあるリヴィちゃんを何故、とんでもない扱いをする令息と婚約をさせていたんだい?」

 カエルム国王が眉を寄せて、ミストラルに問う。

「あの小僧の父親――侯爵とは学友だったが、真面目で、領民のために働いていた。夫人は我儘だと聞いていたが、侯爵がしっかり夫人を抑えていた。子供にもちゃんと躾等をしていたとそこで働く使用人達にも素性を隠して聞いていたから、問題ないと思っていた。それと、小僧は小さな小さな加護……ほとんどないに等しいくらいの加護しか持っていないと聞いた。そんな小僧と婚約すれば、リヴィアスも加護が小さいと周囲に思わすことが出来ないかと考えた結果だった」

 ふぅと一息つき、ミストラルは隣に座るリヴィアスを見つめ、頭を撫でる。

「だが、その結果、リヴィアスの心を傷付け、苦しませてしまった。すまない……」

「父様、僕は大丈夫ですよ。それに、僕も悪いんです。確かに、この六年は辛いこともありましたが、その辛いことを父様達に言わなかったこともいけないんです。これからはちゃんと言います。それに、その……傷付いた分、エリスロースの皆様が優しくして下さって、身内以外で、初めて尊重して下さることがこんなにも嬉しいと感じることが出来ましたから」

 ミストラルの剣だこだらけの手を握り、リヴィアスは微笑む。

「ですから、父様。たくさん僕のことを考えて下さってありがとうございます」

 リヴィアスの微笑みを見たミストラルは抱き締めた。

「当たり前だろう。私の大事な息子の一人だぞ」

 リヴィアスの頭をポンポン叩きながら、ミストラルは笑う。

「それで、ミストラル。太陽神の加護は何処で与えられるんだ?」

「詳しくは知らないが、レイディアンスとエリスロースの国境沿いと聞いている」

 ミストラルの言葉に、ミーティア王妃は苦い顔をする。

「レイディアンスとエリスロースの国境沿いって……広いじゃん……! 地図で当たりをつけるにしても、大変だな……」

 溜め息を吐き、地図を思い出しながら、ミーティア王妃は呟いた。

「今日ではなく、他の日に行ってみるといい」

「それで、ラディとリヴィちゃんとの婚約は、太陽神の加護を得た後か? 前か?」

「もちろん後だ。だが、仮婚約だけはしておきたい」

 とても不本意と言いたげな、不機嫌な表情でミストラルは答えた。

「ミストラル君、何故だい?」

「……兄上から、ブラカーシュ王家からパーティーの招待状が届いた。リヴィアスの同伴者として、王太子に参加して欲しい」

「父様、パーティー……ですか?」

 何故? と首を傾げながら、リヴィアスはミストラルを見上げる。

「学園の卒業パーティーで、小僧に冤罪を吹っ掛けられただろう? その時にグレイシアが王家の査問機関に捜査を依頼しただろう? その答え合わせだ」

「答え合わせなら、元婚約者ももちろん浮気相手も参加するから、仮婚約しておけば、リヴィちゃんの同伴者としてラディが参加出来る。元婚約者と浮気相手はもちろん、他の貴族達にも牽制が出来るということか? ミストラル」

「そうだ。あの小僧と婚約中もだが、今もリヴィアスに婚約の打診が多い。正直、鬱陶しい」

「薬神の加護には気付かれてないけど、リヴィちゃんとの婚約は、相手からすれば美味しい蜜だろうからね。リヴィちゃんの齎す薬は喉から手が出る程、欲しいだろうね」

「今は仮婚約だが、する気はあるか? 王太子」

 カエルム国王の言葉に頷き、黙ったままのラディウスに、ミストラルは見据える。

「はい。もちろんです。パーティーでヴィアを守れるなら」

 静かに頷き、ラディウスは真っ直ぐミストラルを見た。それから、隣に座るリヴィアスに微笑む。
 リヴィアスは真っ赤になりつつも、ラディウスに微笑み返した。
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