婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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七章 薬神の加護と月と豊穣の女神の加護

薬神の加護と月と豊穣の女神の加護

「よいっ、しょっ」

 薬草園で鍬を振り下ろし、リヴィアスは土を均す。
 均した土に薬草の種を撒き、水魔法で満遍なく雨のように降り注ぐ。
 一連の作業を繰り返し、鍬を下ろして、リヴィアスは一息つく。服装は土で汚れないように、アンブラが用意した水色のつなぎを着ている。

「終わった!」

 にこやかに笑って、リヴィアスはタオルで汗を拭っていると、ふと視線を感じ、そちらに顔を向ける。
 見ると、ラディウスが両手で顔を覆って、何故か天を仰いでいた。
 隣では呆れたように、ラディウスを半眼で見るレインが立っている。

「アシェル様? どうかしましたか……? 体調が宜しくないのですか?」

 首を傾げ、リヴィアスはラディウスに近付く。

「……ヴィアが、可愛らしくて……」

「え」

 目を何度も瞬かせ、リヴィアスはラディウスを見上げる。

「鍬で土を均すヴィアの掛け声が可愛らしくて……。実家で日常生活を過ごすヴィアが可愛い……」

「え……っと、どう反応したら、この場合、正解ですか? レイン兄様……」

「……無視が正解だ。リヴィ、仮婚約、今ならやめても間に合うぞ」

 呆れたようにレインが助言すると、ラディウスの目がカッと見開く。

「レイン、お前! 俺からヴィアを引き離す気か?!」

「引き離すも何も、リヴィに変なところを見せて、リヴィの実家で、殿下は何処に行く気だ? 婚約したいんだろ? 今の殿下は完全に変な竜だぞ。ミストラル叔父上に伝わったら、即破談だぞ?」

「変な、竜……?」

 レインの言葉が衝撃だったのか、ラディウスはリヴィアスをじっと見つめる。
 見つめられたリヴィアスは困ったように笑う。

「と、とりあえず、落ち着くために、薬草茶は如何ですか? アシェル様、レイン兄様」

 そう告げて、リヴィアス専用の薬を作る小屋へと落ち込むラディウスと苦笑するレインを案内した。









「……変なところを見せて、すまない。ヴィア」

 心身を落ち着かせる効果のある薬草茶を飲んだラディウスは、苦笑いを浮かべた。

「いえ。大丈夫です。気にしないで下さい、アシェル様」

「普通は引くのに、リヴィは優しいよな……」

「僕は大丈夫です。アシェル様の素? が見られて嬉しいです。それくらい僕に心を許して下さってるということですよね? 何処かに、素を見せられるところがないと精神的に疲れますから。それがアシェル様にとって僕なら、とても嬉しいです」

「ヴィア……何度、惚れ直せばいいんだ……!」

「わっ」

 ぎゅっとラディウスに抱き締められ、リヴィアスの顔が真っ赤になる。

「あの、アシェル様。僕、今土まみれなので、服が汚れます!」

「服など洗えばいい。それにどんなに土で汚れてもヴィアは美しい! 綺麗だ」

「何を言ってるんですか?! 汚れてるなら、綺麗ではありませんよ!」

「……お互い、話が少し噛み合ってないぞ……」

 呆れたように言い、レインは溜め息を吐いた。

「それはさておき。リヴィ、少し聞きたいんだけど、いいか?」

「はい、何でしょうか。レイン兄様」

 抱き締めてくるラディウスを何とか離し、リヴィアスは目を瞬かせて、レインを見た。

「ミストラル叔父上から聞いたリヴィの加護の、豊穣の女神の加護、いつも使ってるか?」

「いいえ、と言えればいいのですが、僕自身が薬神の加護以外の使い方が分からないですし、他の加護を持っている感覚がないんです。いつも使っているかどうかよく分かりません」

「そうか。実はさっきリヴィが植えた薬草なんだが……もう芽が出てたって気付いてるか?」

「え?!」

 目を大きく見開いて、リヴィアスはレインを見る。
 ラディウスも隣で驚きの表情を浮かべている。

「気付きませんでした。辺境領の土はとても良い土壌で、育ちが早いと、庭師のランドさんが話していたので、てっきりそうなのかと……」

「いやいや。俺の子供の頃の記憶だと、リヴィが生まれるまで、辺境領の土壌はそうでもなかったぞ。子供の頃、土でよく遊んでいたんだが、辺境領の土はカラカラに乾いていて、よく土埃が舞っていたのを覚えている。だが、今は乾いていない」

「それは、僕の加護が影響しているということですか?」

「多分な。リヴィが生まれてから、辺境領の土壌は改善して、作物もよく育ち、採れた作物は栄養価が高い。それにウチのプロミネンスもそうだ。リヴィの加護のお陰だと思う。ありがとう」

 穏やかに笑みを浮かべ、レインはリヴィアスに近付き、頭を撫でる。

「……いえ。僕自身が使っている感覚がないので、お礼は言わないで下さい、レイン兄様」

「それなら、もう一つの月の女神の加護はどんな恩恵になるんだ……?」

 困ったように微笑みリヴィアスを見つつ、ラディウスがぼそりと呟く。

「それは、俺もよく分からん。月の女神の加護は、大事に思う者に、夜を照らす月明かりのように安らぎと癒やしを齎す、って話だろ」

「安らぎと癒やしか……。確かに、ヴィアの側にいるだけで、癒やしを感じるし、落ち着くが……。まさか、これか?」

 言いながら、ラディウスはぎゅっとリヴィアスをまた抱き締める。

「あの! 今、抱き締められても……」

 顔を赤くしながら、ラディウスをまたぐいぐいと押して、離そうとするが照れて、言葉にならない。

「……恐らくそうだな……。成程、つまりリヴィの豊穣と月の女神の加護は常時発動中ということだな」

「だから、ヴィア自身は二つの加護に気付かなかったのかもしれないな……」

「しかも、大事に思う者ということは、元婚約者のアレはどうなんだ?」

 レインの問いに、リヴィアスは眉を顰めた。
 それだけで答えが分かり、レインは頷いた。

「リヴィ。答えなくていい。よく分かった。これからは殿下に大事にしてもらえ」

「当たり前だろう。ヴィアは俺の唯一で、大事な人だ。先程は仮婚約をやめてもいいぞとか、ヴィアに言ってたくせに……!」

 恨めしそうに半眼でレインを睨み、ラディウスはリヴィアスを抱き締める。

「悪いが、俺はリヴィの幸せを願っている従兄のお兄さんだからな。どうしても優先になる」

「ヴィア優先になる気持ちは分かるが……一応、俺は王太子だからな?」

「分かってる。とりあえず、リヴィの加護の感じは何となく分かった。エリスロースでもだが、ブラカーシュにいる時はパーティーとかでも俺もフォローするから、リヴィ」

 笑顔でレインが告げると、リヴィアスは頷いた。

「ありがとうございます、レイン兄様」

「俺もヴィアを守るからな。そういえば、仮婚約ではあるが、パーティーではヴィアの婚約者として、俺をミストラル大公が紹介してくれるんだろう?」

「そのように伺っています」

「俺とヴィアの衣装のデザインをどうする? お互いの目の色の石を探して、ピアスやブローチか何かにするか? それとも、服の色をお互いの色で合わせるか……?」

 ラディウスが問い掛けると、リヴィアスは固まった。じわじわと顔が赤くなっていく。

「ヴィア……?」

「あの……僕、今まで、元婚約者と色を合わせたことがなくて……。良いのですか……?」

「もちろん。ヴィアが俺の唯一だと分かるし、俺もヴィアの唯一だと伝わるだろう? それに……」

 ニヤリとラディウスが不敵に微笑む。

「元婚約者が悔しがる顔を見られるだろう? 逃がした魚は大きかったと後悔させることも出来るし、何より俺はぎゃふんと言わせることが出来るのが楽しみだ」

 満面の笑みに変わり、ラディウスは言い放つ。

「殿下の護衛として出席出来るから、その瞬間を俺も見られるのも嬉しいな。フォローは任せろ、殿下」

 レインもニヤリと笑うと、ラディウスが頷く。

「……僕は関わりたくないのですが……」

「前にも言ったが、元婚約者とは一、二回は会わざるを得ない。そこで諦めさせないとそういう輩はヴィアを付け回す。隣国の王太子とその婚約者に本人はともかく、家族は喧嘩を売ったと焦って止めるだろう?」

 リヴィアスの両手を握り、ラディウスは微笑む。

「俺は、ヴィアには元婚約者との因縁を断ち切った上で、伴侶にしたい。未練はないのは知っているが、それでも元婚約者の影に怯えるヴィアを見たくない。ヴィアの心からの笑顔を常に見たい。ヴィアのためでもあるが、俺のためでもあるんだ」

 そう言って、ラディウスはリヴィアスの左手を持ち上げ、手の甲に口を付けた。

「そのためにも、パーティーの衣装とアクセサリーからお互いの色にしよう」

 ラディウスの言葉に真っ赤なまま、リヴィアスは頷いた。

「いつの間にか、衣装とアクセサリーどちらも互いの色になってる……。必死だな、殿下」

 静かに突っ込んだレインの言葉は、誰にも拾われることはなかった。
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