婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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八章 ブラカーシュ王家のパーティー

ブラカーシュ王家のパーティー

 前日に元婚約者のことで驚きのことを知ったリヴィアスだったが、不思議と怒りは沸かなかった。
 静養中にラディウスと出会い、元婚約者からの対応とは違う、彼からの言葉と行動でたくさん優しくされたからかもしれない。
 元婚約者のことは、恋愛感情が元々なかったため、もう過去のこと、とリヴィアスは割り切ったが、家族、親族は違った。
 婚約中も知らなかった、相手側のウィキッド侯爵家の所業に、父、ミストラルを筆頭に怒り心頭だった。
 リヴィアス本人も知らなかったのだから、ミストラル達は寝耳に水だったに違いない。
 リヴィアス自身のせいではないが、家族と親族達に申し訳ない思いでいっぱいだ。
 すぐに抗議をしに乗り込みに行きたいであろうミストラル達は、イリオス国王にパーティーまで待てと止められ、怒りが燻っている状態だ。
 その影響なのか、パーティーの準備が皆、早い。
 ウィキッド侯爵家の所業を知った、リヴィアスの侍女アクアも、ステラとミーティア王妃から指示のあった髪型に怒りのまま、神業の如く、素早く仕上げた。
 長いリヴィアスの銀色の髪を頭の上から左右それぞれ複雑に編み込み、項のあたりから緩く三編みにしてくれた。

「……アクアは凄いね……。僕、こんなに綺麗に出来ないよ。解くのも難しそう……」

 鏡を呆然と見つめながら、リヴィアスは呟く。

「今までは、ウィキッド侯爵令息の我儘で、リヴィアス様の御髪を簡単に整えることしか出来ませんでしたからね。ステラ様、ミーティア王妃陛下、ラディウス殿下のご許可の下、今回のパーティーからはリヴィアス様の御髪をたくさん整えても良いと解禁されました。私の腕によりをかけて、リヴィアス様の御髪をこれでもかとご衣装に合わせて整えさせて頂く所存です」

 緑色の目を輝かせて、拳を握り、アクアは鼻息荒く、宣言した。

「……とても嬉しいけど、奇抜な髪型とか、目立つ髪型にはしないでね……。普通、普通がいいな……」

「ご衣装に合わせた髪型にさせて頂く所存です!」

 力強くアクアは二度言った。彼女にとって大事なことのようだ。

「うん……程々にね……」

 リヴィアスは静かに項垂れた。








 アクアの手腕で髪型を整えたリヴィアスは、ラディウスの髪の色と同じ金色――上品で、柔らかな光沢を放つ絹で出来た衣装を纏い、胸元には同じく目の色と同じ真紅色の宝石ルビーを嵌め込んだブローチ、耳元には同じ宝石のイヤリングを身に着けている。
 その姿を王都のレイディアンス大公家の邸宅の玄関で目の当たりにしたラディウスは、内心、悶絶した。

(俺の! 色! 俺の色を纏っているヴィアが、美しい! 可愛い! 綺麗! 誰にも見せたくない!)

 必死に顔には出さず、王太子然とした表情と雰囲気で、ラディウスはリヴィアスを迎える。
 そのラディウスの衣装もリヴィアスと対になっており、愛しい人と同じ銀色――上品で月のような穏やかな光沢を放つ絹で出来た衣装を纏い、胸元には目の色と同じ天色の宝石アクアマリンを嵌め込んだブローチ、耳元に同じデザインで、同じ色の宝石のイヤリングを身に着けている。

「ヴィア……とても美しくて、綺麗だな。貴方の隣に立てることをとても光栄に思う。髪型もとても可愛い。侍女のアクア嬢の手腕は素晴らしいな」

「……あ、あの、アシェル様も、とても素敵で、格好良いです……」

 微笑して、左手の甲にそっと口付けしながら告げるラディウスの言葉に真っ赤になりながら、リヴィアスも必死に応える。

「アシェル様、本日は宜しくお願い致します……」

 一礼して、リヴィアスははにかむ。
 はにかむリヴィアスを目の当たりにしたラディウスは、耐えきれずに抱き締めた。

「可愛いな……本当に……! 元婚約者をぎゃふんと言わせるためとはいえ、元婚約者に見せたくないな……! でも、牽制したい……! 言葉は悪いがざまあみろと言いたい……!」

 葛藤を叫びながら、ラディウスはリヴィアスを尚も抱き締める。

「アシェル様?! あの、落ち着いて下さい……!」

「……本当に殿下は困った竜ですね。そろそろ落ち着かないと、リヴィアス様に愛想を尽かされますし、ミストラル大公殿下やご兄弟の威圧を喰らいますよ? それで仮婚約が取り消されても知りませんよ」

 呆れた声音で、リヒトがラディウスの耳元で囁く。
 そこで我に返ったラディウスは一つ咳払いをして、リヴィアスから離れた。

「すまない、ヴィア……。ヴィアの美しさに我を忘れていた……」

「いえ……落ち着いて下さって良かったです……」

 ほっと安堵の笑みを浮かべ、リヴィアスは俯いた。
 ラディウスが格好良くて、直視出来ない。
 元婚約者のウィキッド侯爵令息とパーティーに参加した時も、リヴィアスは俯いていた。
 我が物顔で、リヴィアスをパーティーに連れ出し、装いを見ても褒めもせず、服装を合わせようという言葉もなく、ただの装飾品のように扱う元婚約者が嫌だった。
 対するラディウスはそんなことはなく、服装や装飾品を互いの色に合わせようと言ってくれたり、リヴィアスを褒めてくれる。何より、自分の侍女を褒めてくれたのが嬉しかった。

「ヴィア。パーティーで元婚約者と浮気相手に会わないといけないが、離れずに俺がずっと側にいる。他の連中も牽制するから、安心して欲しい」

「ありがとうございます。とても、心強いです」










 そして、リヴィアス達は馬車に乗り、ブラカーシュ王家主催のパーティーがある王城に向かった。
 王城に着いたリヴィアス達は、係の者に呼ばれるまで王族専用の控室で、待機となった。
 パーティー会場には、爵位の低い貴族から順に入場する。
 既に主要な貴族達はもちろん、ウィキッド侯爵家、プサリ男爵家も会場に集まり、残るはレイディアンス大公家と共に来たエリスロース竜王家、ブラカーシュ王家の入場のみとなった。
 参加した貴族達は、リヴィアスの参加があるのかと興味津々に待っているようだと、第二王子のルミナスから言われ、リヴィアスは苦い顔をした。

「まぁ、仕方ないよね。渦中のウィキッド侯爵令息、プサリ男爵令嬢も参加する、ブラカーシュ王家のパーティーだからね。リヴィが参加し、二ヶ月前の冤罪かどうかの結果が出る訳だしね。その冤罪も予定調和のような、答えが分かりきったものだけどね」

「結果としては、リヴィの名誉回復と二家の令息と令嬢の断罪だけどね。何も悪いことをしていない、私達の大事な従弟のリヴィの心を傷付けたのだから、しっかり犯した罪は償ってもらわないと」

 ルミナスの双子の妹の第一王女のオーロラも会話に加わり、拳を握る。

「ですので、ラディウス王太子殿下。僕達の大事な従弟のリヴィをお願いします。渦中のウィキッドの長男とプサリの養女はもちろん、実力行使に出る可能性がありますが、次男はどさくさに紛れて、リヴィに近付くと思います。僕の加護では気付くことは出来ても、物理的にも精神的にもリヴィを守ることが出来ません。ラディウス王太子殿下の竜神の加護なら、リヴィを守れます。動きがあれば僕の加護で、すぐにお知らせします。どうか、リヴィを宜しくお願い致します」

 ルミナスとオーロラは息の合った礼を同時に行い、ラディウスは穏やかに微笑んだ。

「もちろん、ヴィアは私の大切な唯一無二。絶対に守る」

「ルミナ、オーラ。心配してくれてありがとう。アシェル様もありがとうございます」

 リヴィアスの満面の笑みに、ラディウス、ルミナス、オーロラは床に膝をつきそうになった。

「元婚約者のせいで……無自覚なんだよね……」

「ラディウス王太子殿下。どうか、リヴィの笑顔を見た者がどのようになるのか、是非ともリヴィに教えてあげて下さいませ」

 持っていた扇を広げ、オーロラがラディウスに懇願する。

「……もちろんだ。角が立たずに伝えられる方法を模索中だ」

「でしたら、そのまま率直にお伝えなさると良いですわ。遠回しに言うと、リヴィは違う解釈をしてしまうので。特に恋愛関係や容姿に関しては……」

 扇を広げたまま、オーロラはラディウスに囁く。

「……想像出来るから、余計に心配だ。分かった。助言、感謝する」

 ラディウスがそう言うと、オーロラは小さく笑みを零した。
 それからすぐ、係の者がリヴィアス達――レイディアンス大公家とエリスロース竜王家を呼んだ。

「それでは行こうか、ヴィア」

 左腕をリヴィアスに差し出し、ラディウスは余裕の笑みを浮かべる。

「はい。宜しくお願い致します、アシェル様」

 ラディウスの左腕にそっと右手を添えて、リヴィアスは頷いた。
 ミストラルを先頭に、ステラ、グレイシア、アイシクルが続き、リヴィアスとラディウスが最後にパーティー会場に入った。
 リヴィアスとラディウスを見た、パーティー会場にいた貴族達にざわめきが広がる。

「リヴィアスっ!」

 ざわめきの中、ウィキッド侯爵家の長男アルギロスの声が会場内に響いた。
 その声が悲鳴のようにリヴィアスには聞こえた。
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