婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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九章 冤罪と断罪

閑話9 仕事と家族(ウィキッド侯爵視点)

 妻と息子達が、とんでもないことをした。


 ミストラル大公殿下のご次男、リヴィアス様との婚約を一方的に破棄をしたと、王都の執事から領地の執事長に連絡があったのは、私が領地で書類仕事をしていた時だった。
 ミストラル大公殿下とは、王立タイバス学園の同級生で、光栄にも交友を深めさせて頂いた。
 卒業後も時折、手紙の遣り取りをしたり、パーティーで言葉を交わせて頂いたりもした。
 その殿下から、お互いの子供の婚約の相談があった。
 殿下には、三人のお子様がいらっしゃる。
 三人共、男の子で、ご長男とご三男は殿下に似て、子供でも殿下に似た美貌とがっちりとした体格で、騎士や魔法騎士といった将来有望な職に就けそうだ。
 真ん中のご次男は、奥方のステラ夫人に似た女神のような美貌と線の細い、しなやかな体躯、少女と見間違うくらいの美しさを宿した少年だった。
 そのご次男――リヴィアス様と、私の息子で長男のアルギロスの婚約の相談があった。
 歳が二歳差で、年上のアルギロスなら、他のご兄弟と違い、線の細いリヴィアス様を守ってくれるのではと思い、殿下は私に相談して下さったようだ。
 それが何より嬉しく、殿下のご期待に沿いたい。
 大公家との縁が繋げる。
 加護を持たないアルギロスを、大公家の縁が守ってもらえる、お互いを支え合えたらと思い、私はこの婚約を受けた。
 アルギロスもリヴィアス様と初めてお会いした時、一目惚れをしたのでは? と思うくらい初々しい息子に家族としてやって行けるだろうと私は思い、安堵で笑った。
 それがまさか、この時から、アルギロスが婚約をしていない他の令嬢達に声を掛け、口説き、リヴィアス様の注意を無視して、浮気をし、更にはその不貞で子供が出来ていたとは私は思わなかった。
 不貞で生まれた子供の母親は、子爵家の三女の令嬢だった。
 子供が生まれると知った妻は、私にも、リヴィアス様にも、彼のご両親であるミストラル殿下夫妻にも、親族でもあるブラカーシュ王家にも報告をせずに揉み消した。
 揉み消した上で、妻の実家の伯爵家の伝手を使って、子爵家の令嬢を匿っていた。
 子供が生まれ、アルギロスとリヴィアス様が結婚後に愛人とその子供として迎え入れるために。
 アルギロスもそのつもりだったようで、リヴィアス様と共に、子爵家の令嬢、現在の浮気相手のプサリ元男爵令嬢を愛人として迎え、三人を愛する予定だったらしい。
 そんなことをまさか息子が考えていたとは思わなかった。





 アルギロスがリヴィアス様と婚約してから、領地の作物が前年より実をつけるようになった。
 それにより、領地での仕事が増え、領地と王都の邸宅を行き来する回数が増えた。
 移動に疲れた私に妻から、

「邸宅の管理は私に任せて。貴方は領地の仕事に集中して。このままだと、身体を壊すわ」

 労る言葉を告げて、微笑む彼女を心からとても愛しく感じた。
 私を労ってくれる妻と結婚出来て、こんなに幸せ者はいない、と。
 それが、まさか、リヴィアス様が作る薬を勝手に闇市に高値で売り、自分の私腹を肥やしていたとは思わなかった。
 更に、リヴィアス様の美しさに嫉妬して、息子達の結婚後に、闇市で手に入れた魔導具でその美しさを自分のものにしようとしていたとは思わなかった。
 闇市にリヴィアス様の薬を高値で売っていたことも、魔導具で彼の美しさを自分のものにしようとしていたことも、王家のパーティー後の詳しい尋問で知ることになるとは思わなかった。
 息子達もそれぞれリヴィアス様に執着し、執着するあまりアルギロスは浮気へ走り、ベーゼは拉致して閉じ込めてものにしようと考えていたこともパーティー後の詳しい尋問で知った。
 ベーゼが持つ加護――闇神の加護を風神の加護で擬態していたことも知った。

「……以上が、ウィキッド侯爵夫人と長男、次男の尋問で答えた内容だ」

 リュミエール王太子殿下から、そう告げられた。
 王家のパーティーが終わり、一週間が経った今日、私は王城に呼ばれた。
 尋問した内容をイリオス国王陛下、ミストラル大公殿下、リヴィアス様、ラディウス王太子殿下、カエルム国王陛下も聞いていらっしゃる。
 被害者にしてしまったリヴィアス様は気丈な様子で、リュミエール王太子殿下の報告を聞いていらっしゃった。
 この国は十八歳が成人だ。
 まだ十六歳の、未成年の少年の心に深い傷を負わせてしまった。
 何故、私は変わってしまった家族の様子に気付かなかったのだろう。
 何故、領地の仕事に没頭するあまり、王都の邸宅に週に一度しか帰らなかったのだろう。
 毎日は無理でも、三日に一回でも帰れば、家族の様子に、リヴィアス様の様子にも気付いて事前に止めて、改善出来たかもしれなかったのに。
 今更、後悔しても仕方がない。
 私が、家族に見向きもせず、妻に任せきりにし、領地の仕事に集中してしまった結果だ。
 罪は私にもある。
 リヴィアス様の心の傷を思えば、私の衝撃など小さなものだ。
 私が被害者ではない。
 被害者であるリヴィアス様に、私が出来ることをするしかない。

「リュミエール王太子殿下、私にもご報告頂き感謝申し上げます。国王陛下、発言の許可を頂けませんでしょうか」

 深く頭を下げ、玉座に座るイリオス国王陛下と隣に立つリュミエール王太子殿下に顔を向ける。

「許可しよう」

「陛下、ありがとうございます。リヴィアス様」

 玉座から離れ、王族、準王族が立つことを許されている右に立つリヴィアス様に身体を向けた。

「はい。ウィキッド侯爵様」

「六年間、私達家族が貴方様を傷付けてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 深く頭を下げ、リヴィアス様に謝罪する。

「い、いえ、ウィキッドのおじ様は僕に何もしていません。ですので、どうか謝るのは……!」

 戸惑ったご様子で、リヴィアス様はいつもの呼び名で私を呼んで下さった。
 この方は、まだ、私のことをそう呼んで下さるのか……。
 悔恨の念に駆られる。

「いいえ。何もしていなかったことが罪です。リヴィアス様」

 ゆっくり首を振り、リヴィアス様を見る。

「私が妻と息子達の様子、我が家にお越し下さっていたリヴィアス様のご様子に気付かなかったことで、このようなことになったのです。罪を犯した妻と息子達もそうですが、気付かなかったことが私の罪なのです。ですから、私も同罪です」

 そう言うと、リヴィアス様は尚も首を振って下さった。
 優しいこの方を守りたいと願われたミストラル殿下のお気持ちが少し分かった気がした。
 そして、私がしなければいけない決断も。

「――国王陛下。今回の件の責任について、私の言葉をどうか、聞いて頂けないでしょうか」

「聞こう。申してみよ」

「ありがとうございます。今回の我が侯爵家の責任についてですが、侯爵の爵位、領地を返上したく存じます」

「え……」

 私の言葉に、リヴィアス様は大きく目を見開き、問うように陛下に顔を向けた。
 他の皆様は予想していらしたようで、驚いてはいなかった。

「そうか。侯爵の爵位と領地を返し、妻と息子達はどうする? 縁を切るつもりか? 彼等と縁を切るなら、侯爵の爵位と領地はそのままでも良いが?」

 陛下は試すような目で、玉座から私を見下ろす。

「いいえ。縁は、切りません。罪を犯した妻達を切り捨て、自分だけ逃げるつもりはございません。それに、妻達がリヴィアス様を逆恨みしていた場合、彼等が釈放された後に、縁を切ったことで更なる危害を止めることが出来ません」

「成程。己の身で止めるつもりか。良い心掛けだが、それだけで息子の加護の力を止められるか?」

「私には、地神の加護があり、最悪の場合は私ごと土で次男を封じ込めます」

「それだけでは足らないぞ、ウィキッド侯爵」

「ミストラル殿下……」

 両腕を組み、真っ直ぐにミストラル殿下が私を見る。

「覚悟を決め、加護の力を使うのは必要かもしれないが、貴族としての身分はあった方が良い。アレは平民として野に放ったら、何を仕出かすか分からない。身分もなく、堕ちるところまで堕ちれば、形振り構わず動く。次男を詳しく知らなくても、パーティーでの立ち回りを見ただけでもアレの思考は凶気じみている。侯爵には申し訳ないが」

 子供を持つ父親の表情で、ミストラル殿下は私に仰る。
 確かに、殿下の仰る通りかもしれない。
 それでも、貴族のままいる訳にはいかない。
 パーティーや何かの行事で、妻と息子達がリヴィアス様に会うかもしれない。会おうとするかもしれない。
 その時に、何かがあったでは取り返しがつかない。
 これ以上、私も妻達も選択を間違える訳にはいかない。

「――ではこうすればどうだ? イリオス殿」

 今まで遣り取りを聞いていらしたカエルム国王陛下が、イリオス陛下に声を掛けられた。

「何だ、カエルム殿」

「我が国の魔導具で、加護の力を封じ、着けられた者が外すことが出来ない魔導具がある。それを譲り、あの少年に使うのはどうだ?」

「そのような貴重な魔導具を譲ってくれるのか?」

「今回の件は我がエリスロース竜王家にも関係する。リヴィアス卿は、我が息子の婚約者だ。何かあれば非常に困る。それと、貴族の身分のままという意見には賛成だ。加護も封じずに平民になった場合、あの少年は簡単にエリスロースに入って来るだろう。例えば、商団の小間使い等に扮してとか。そうなれば、動きを制限することも出来ない。貴族の身分なら、こちらも動きを制限出来る。他国の貴族が何かした場合、そちらにもすぐ報告出来るだろう? あの執着する目は異常だ」

 カエルム国王陛下の言葉に、イリオス陛下は考える表情になられた。
 確かに、父親である私の目にも、次男ベーゼのリヴィアス様を見る目は異常だった。
 あの子は、何を思い、リヴィアス様に執着するのか。
 リヴィアス様は確かに容姿、性格、才能……全てが魅力的だ。その場にいらっしゃるだけで、場の雰囲気が変わる。
 それでも、あそこまで執着する程ではない。
 あの子は何を求めているのか。

「……では、こうしよう。ウィキッド侯爵家は明日より子爵家に降格。領地は半分没収。次男にはエリスロース竜王国から譲り受けた魔導具を着ける。夫人と長男、次男はそれぞれ年数は異なるが、全員囚人として、鉱山の力仕事等を課す。夫人と長男、次男のリヴィアス卿への接近禁止命令も出す。護送される前に、それぞれに少し時間を与える。その間に、家族と向き合うといい」

 イリオス陛下がそう判じた。

「陛下方の寛大なお心に多大な感謝を申し上げます」

 少しだけ、温情を掛けて下さり、私は深々とイリオス陛下に頭を下げた。









 その後、私は護送される前に妻と息子達と向き合った。
 短い時間ではあり、深くなった家族の溝はすぐには埋まらないが、それでも私は妻と息子達に手紙を何度も送ることを心に誓った。
 少しでも、家族の溝を埋め、何か起きた時には今度こそ止める。
 それが、私の、リヴィアス様に出来る償いだ。









※いつも読んで下さり、ありがとうございます!
本日から始まる、BL大賞にエントリーさせて頂きました!
もし、宜しければ、投票頂けると嬉しいです!
宜しくお願い致します!

それと、予定では今日更新出来ればですが、一応、新章? に入る予定です。
まだ続きますので、これからも宜しくお願い致します!
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