婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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十章 学園復学

大公からの宿題

「……何故、俺はヴィアと同い年で生まれなかったんだ……」

 王都にあるレイディアンス大公家の邸宅に用意された客室のソファで、ぐったりとラディウスは項垂れた。

「……あの、アシェル様……?」

 燃え尽きた灰のような、ぐったりとしたラディウスにリヴィアスは恐る恐る声を掛けた。
 彼に何があったのか、どうしてそのような言葉を発したのか、リヴィアスは困惑しきりだった。

「リヴィアス様。申し訳ございません。ウチの竜はちょっと壊れてるだけですので、お気になさらないで下さい。叩けば治ります」

 リヒトが呆れた表情で、リヴィアスに告げた。

「た、叩くのですか……? 王太子殿下を?」

「……正直な話、ここまで壊れた殿下を見るのが初めてなので、私も困惑しているのが本音です。恐らく、リヴィアス様の魅力で、ポンコツになったのかと……」

「ポンコツ……」

 リヴィアスは呆然と未だに項垂れるラディウスと、自分の主人を適当に扱うリヒトを交互に見る。
 乳兄弟という彼等の仲だから出来ることなのは分かるのだが、王太子に対してそこまで言っていいのだろうかとリヴィアスは困惑する。

「ヴィアが魅力的なのは当然だ。こんなに俺を魅了するのはヴィアだけだ」

 正気に戻ったのか、目をカッと見開いて、ラディウスはリヒトに言い放った。
 若干、目が血走っているのが少し怖いとリヴィアスは思った。

「……まだ正気ではないようですね。どうします? 少し叩いてみます?」

 にこやかにリヒトがリヴィアスに軽い口調で提案する。

「そ、そんなこと僕は出来ませんよ?!」

「リヴィちゃんがそんなこと出来る訳がないだろ、リヒト。俺がやる」

 リヴィアスとラディウス、リヒトの遣り取りをのんびりと見ていたミーティア王妃が参戦する。
 ぐっと右手を握り拳にして見せ、ミーティア王妃が笑う。

「あの、とりあえず、皆様、落ち着きませんか……? アシェル様、薬草茶は飲まれますか?」

 リヴィアスが恐る恐る様子がおかしいラディウスに近付き、尋ねる。
 尋ねるリヴィアスを見たラディウスが素早い動きで、腰を引き寄せ、自分の膝の上に乗せた。

「ひゃあっ!」

 驚いたリヴィアスが声を上げるのと、同時にミーティア王妃の拳骨がラディウスの頭に落ちた。

「こら、馬鹿息子。リヴィちゃんを驚かせるようなことをするな」

「……申し訳ございません、母上。ヴィアが可愛くて」

「リヴィちゃんが可愛いと思う気持ちは分かるが、順序、考えろよ。ミストラルとは絶対に遣り合っても、俺は負けるからな」

 呆れた顔でミーティア王妃が告げると、ラディウスはしっかりと頷いた。

「それで? ラディ、何があった?」

「何、とは?」

「お前が打ちひしがれてる理由」

「あ……その……ヴィアが学園に復学すると聞いたので、ヴィアと同い年なら留学と称して、ブラカーシュにいられるし、学園でも一緒なのにな、と……」

 リヴィアスを膝の上に乗せたまま、ラディウスは後ろから彼の肩に頭を乗せた。声に力がなく、リヴィアスは心配になるが、肩に頭が乗っているので振り向けない。

「何だ、そういうことか。残念だったな」

「それに、まだヴィアは成人していないので、結婚もまだ先なので、余計に……」

「仕方ないな。エリスロースもブラカーシュと同じく成人は十八歳だし、未成年の結婚は両国共に認めていない。国の顔とも言える王太子が未成年に手を出したとなると大問題だからな。分かっているだろうが、ちゃんと節度を守れよ?」

「ついでに申し上げると、仮婚約ですからね、まだ。ミストラル大公殿下の宿題も達成出来てませんからね」

 ミーティア王妃とリヒトの笑顔の圧力で、拗ねるようにラディウスは更にリヴィアスの肩に顔を埋めた。
 彼からいつもの清浄な空気、薬の匂い、傷付いた誰かを救いたいといった感情の匂いと共に、恋仲になってから最近は清らかだが甘い、月の光に照らされた花のような香りが匂う。
 リヴィアスのこの香りに気付いているのは、竜神の加護を持ち、五感が人より優れているラディウスのみだと思うと、優越感を抱く。
 だから、余計に離れ難い。

「……ラディ。順序を本当に考えろよ。ついでに言うと、そろそろカエルムも俺もだが、お前もエリスロースに戻るんだからな? リヴィちゃんの元婚約者との問題はとりあえずは解決したし、ブラカーシュの貴族達にリヴィちゃんの新しい婚約者はラディだと知らしめ、牽制出来た。次はエリスロースの貴族達だな」

「……そのためにも、ミストラル大公の宿題も早めにやり遂げるつもりです」

 リヴィアスの肩から顔を上げ、ラディウスはミーティア王妃を見て、頷いた。
 リヴィアスは顔を赤くして、ラディウスの膝の上に乗った状態で固まったままだ。

(……膝の上はまだ慣れない……。慣れる日が来るのかな……)

 膝の上で動いていいのかも分からず、リヴィアスはリヒトに助けを求める視線を投げてみた。
 それに気付いたリヒトがミーティア王妃に目配せすると、将来の義母が動いてくれた。

「宿題をやるのは当然だが、その前にリヴィちゃんが困ってるからやめろ」

 ひょいっとリヴィアスを抱き上げ、ミーティア王妃はラディウスの膝から解放してくれた。

「母上! 俺の癒やしが……!」

 床に下ろしてもらったリヴィアスは、少し安堵の息を漏らす。

「癒やしなのは分かるが、とりあえず落ち着け。で、話は戻すが、ラディ。ミストラル達と話したが、五日後には帰るからな? 宿題については、一旦、エリスロースに帰って、そっちでも調べてからにしよう。場所が特定出来ないなら、無闇に探す時間が勿体ない」

「そ、そうですが……。離れ難い……」

 しょんぼりとするラディウスに、ミーティア王妃、リヒトが苦笑する。
 噂に聞く王太子とは違う、ラディウスの姿にリヴィアスは小さく笑う。
 一喜一憂するラディウスの素の姿と、王太子としての冷ややかな姿の差が大きくて、リヴィアスは何故か可愛く感じてしまった。

(せ、成人男性に感じるのはいけない気がする……。誰かに相談したいけど、こういう時って、母様に聞いたら分かるかな……)

 徐々に顔を赤くさせ、リヴィアスは視線を床に落とす。

「王太子ですから、ヴィアに仕事をしているところを見せないと愛想を尽かされますよね……。離れ難いですが、帰るしかないですね……。帰るまで補充します」

 ミーティア王妃に少し拗ねた顔で、ラディウスは呟いた。

「殿下の場合、すぐ補充がなくなりそうですね……。本当に仕事、して下さいよ……」

 溜め息混じりにリヒトはラディウスを見遣る。

「あの、アシェル様。先日、お貸しした母が作った魔導具なのですが、僕、毎日お手紙書きます」

 ラディウスに近付き、自分より大きな彼の右手をリヴィアスは握り、微笑む。
 微笑むリヴィアスが可愛いと思いつつ、お礼を言おうとして、ラディウスはふとあることに気付いた。

「待て、ヴィア。あれは俺にくれた物ではないのか……?」

「はい。お貸ししますとあの時にお伝えしましたよ……?」

「くれた物だと……」

「最初はお貸ししますだったのですが、その、こ、恋仲になった時に差し上げますと僕はお伝えしようと思ったのです。ですが、母から仮婚約中はまだ貸し出しにしておくようにと何故か言われまして……」

「……ステラも何気に元婚約者のことで、トラウマ残してるな……。保険を使いやがった……」

 リヴィアスの話を聞いたミーティア王妃がぼそりと呟く。

「ラディ。レイディアンス大公家を安心させるためにも、場所を探して特定するぞ」

「はい。ヴィアも、ヴィアの家族も安心してもらわないと、お互い幸せになれませんから」

 ミーティア王妃に頷き、ラディウスは目の前のリヴィアスを見る。

「ヴィア。俺も毎日手紙を書くから、返事が欲しい。どんな小さなことでもいいから、毎日感じたことを教えて欲しい。貴方の感じたことを一緒に感じたい」

 爛々と輝く真紅色の目で、ラディウスは見つめる。

「はい……アシェル様も教えて下さいね」

 頷いて、リヴィアスは嬉しそうに微笑んだ。










※いつも読んで下さり、ありがとうございます!
いつの間にか、お気に入り登録が3100人超えてました!
ありがとうございます!
そして、まだ二日目ですが、BL大賞が一位になってまして、朝から腰を抜かして、震えております(小心者なので、いつもより多く震えております)
本当にありがとうございます!
BL大賞に初めてエントリーしたのもありますが、どうにか毎日更新して、微力ながらBL大賞を盛り上げればと思います。
楽しく読んで頂けるように頑張りますので、これからも宜しくお願い致します!
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