婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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十一章 恋敵?

閑話11 貴方に恋い焦がれる(ラディウス視点)

 リヴィアス――ヴィアと離れてから、約一ヶ月が経った。

「……ヴィアに会いたい……」

 自分の私室で小さく呟く。
 正直な話、耐えられない。
 ヴィアに出会う前の、『陽光竜の王太子』に戻れる自信がない。
 一応、宮殿での王太子の政務の時は、変わらず今まで通りに貴族達と接しているが、ヴィアに会えないことで苛立ちが募っている。
 ヴィアが側にいない世界は灰色だった。
 出会う前の色に戻り、気持ちが沈む。
 落ちていく気持ちを上げるために、左耳に着けた揃いのイヤーカフの魔石に触れる。
 最愛の目の色と同じ魔石に触れると、彼の魔力を感じる。
 それだけで、少し気持ちが持ち上がる。
 だが、足りない。
 触れたい。
 この腕の中に抱き締めたい。
 ヴィアの、いつもの清浄な空気、薬の匂い、傷付いた誰かを救いたいといった感情の匂いと共に、恋仲になってから最近は清らかだが甘い、月の光に照らされた花のような香りに触れたい。
 俺を魅了してやまない、笑顔を見たい。
 毎日、手紙をお互い遣り取りするが、それでも足りない。
 竜王家の特有性と竜神の加護が、俺に更に追い討ちを掛ける。
 竜王家の者が、自分が認めた唯一と離れると心が乱れ、攻撃的になると言われる。
 竜神の加護を持つ俺はそれが顕著に出る。
 それに気付いたのか、そうでないのかは分からないが、ヴィアは時折、手紙と共に刺繍入りのハンカチを入れてくれる。
 そのハンカチには、ヴィアの魔力と仄かに香りが付けられている。
 恐らく、ヴィアが自ら刺繍したと思われる。
 ハンカチのお陰で、俺は攻撃的にはなっていない。
 冷ややかなのは変わらずだが。
 竜神の血が流れている竜王家の家族達は、俺に同情的だ。
 特に父は、俺と同じで竜王家の特有性で母と結婚したので、心配してくれている。
 俺とヴィアは、両親の時と比べて物理的に住む場所が離れている。
 竜神の加護もある影響で、精神的に不安定になるのではと、父は案じている。

 それなら、俺を定期的にブラカーシュ王国に行かせて欲しいんだけどな……!

 ヴィアの卒業まで二年、こんな状態なのかと思うと、耐えられない。
 お互いの都合が合う週末に会う約束をしたのに、約一ヶ月、エリスロース竜王国を離れたことで、処理しないといけない仕事があり、そのせいで週末に会えていない。

「……本当に、耐えられない。ヴィアに会いたい……」

 辛くて呟くと、俺のイヤーカフが光った。
 ヴィアに何かあったようだ。

「リヒトっ!」

 焦る気持ちで、隣の部屋に待機しているリヒトに声を掛ける。机の引き出しに入れていた、帰還する時のための転移魔法を付与した魔石をいくつかポケットに入れる。

「どうしました?! 殿下!」

 俺の声を聞いて、察した様子でリヒトが私室に入ってくる。

「ヴィアに何かあったようだ! 俺のイヤーカフが反応した。少し行ってくるから、しばらくの間、頼んだ!」

「分かりました。お気を付けて。エリスロースではないのですから、リヴィアス様を困らせないで下さいよ?」

「相手の出方による。ヴィアを傷付けたら、抑えられない」

「いや、本当に、ご迷惑を掛けないで下さいよ?!」

 必死のリヒトの言葉と共に、イヤーカフの魔力で俺は転移した。




 転移した俺は、ヴィアを襲う魔力に気付き、結界を張り、愛しい人を守るように抱き締める。
 ヴィアの清らかだが甘い、月の光に照らされた花のような香りが俺の鼻腔を擽る。
 ぎゅっと目を閉じていたヴィアは、俺に気付いたのか、目を開けて、ゆっくりと顔を上げた。
 呆然とヴィアは俺の顔を見つめている。可愛いな。

「……アシェル、さま……?」

「やぁ、ヴィア。会いたかった。怪我はないか?」

 可愛く見上げるヴィアに思わず、笑みが止まらない。
 会いたくて仕方なかったから、余計に。

「あ……はい。アシェル様とデルフィーニ嬢が守って下さったので、僕に怪我はありません。危ないところをありがとうございます」

「良かった」

 律儀にお礼を言うヴィアが可愛いなと思いつつ、ふと気付く。
 デルフィーニ?
 サイクロン公爵家の次女?
 何で、サイクロン公爵家の次女がヴィアを守ってるんだ?
 噂の令嬢がヴィアを守ったということは、餌食にあったのか?
 今、聞くことではないので、後程、聞くことにする。
 内心、気にしつつも、尚も呆然と俺を見つめるヴィアは目を何度も瞬かせる。

「あの、本当に、アシェル様ですか?」

 何かを確かめるようにヴィアは俺を見つめる。

「俺が偽者だと、ヴィアは思っているのか?」

 もし、そう思われてたら、悲しいんだが……。
 怯えつつも、声音はいつも通りを意識して、ヴィアを見る。

「いいえ。いきなり現れたので、驚いてしまって……」

 違った。良かった、本当に……。

「貴方に何かあった時に守り、俺にも分かるようになっているし、転移されるようにしたと、前にも言っただろう?」

「それは……はい、覚えています」

「だから、来たんだ。それと、状況を聞いてもいいだろうか?」

 ヴィアを守るように抱き締めながら、俺は近くに立つサイクロン公爵家の次女を見た。

「……お久し振りでございます、ラディウス王太子殿下」

 俺の冷たい視線に怯むことなく、次女は微笑んでカーテシーをして挨拶する。

「サイクロン公爵家の次女だな? 何故、サイクロン公爵家の長女が私の婚約者を攻撃する?」

「……サイクロン公爵家の一員として、大変、恥ずかしく、申し上げにくいことなのですが、長女プリズムは、ラディウス王太子殿下に懸想しているようで、婚約者として選ばれなかったことで、リヴィアス卿に逆恨みをしたようですわ。リヴィアス卿、長女の代わりに謝らせて下さいませ」

 扇を広げ、次女は眉を下げ、ヴィアに頭を下げる。
 は? 長女が俺に懸想? しかも、逆恨みしてヴィアに攻撃?
 長女は俺を怒らせる気か?

「デルフィーニが何故、謝るのよ! 謝るのはリヴィアス様でしょ!」

「サイクロン公爵家の長女。私を怒らせたいようだな?」

 冷ややかに長女を睨み、俺は威圧を彼女限定に出す。

「ヒィッ!」

 威圧を感じたのか、長女が小さく悲鳴を上げ、床にへたり込む。

「私の唯一を傷付けようとしたお前を、私は許す気はない」

 怒りを抑えるように、俺は長女を見下ろす。
 ただでさえ、ヴィアに会えなくて辛いのに、ヴィアを攻撃するとはいい度胸だ。

「アシェル様!」

 慌てた声でヴィアが、怒りに任せて更に威圧を放とうとする俺の両手を握る。
 ヴィアの手の温もりに、我に返る。

「ヴィア?」

「落ち着いて下さい。僕は大丈夫です。アシェル様とデルフィーニ嬢が守って下さいましたし、怪我をしていません。ここで、アシェル様がプリズム嬢を怪我をさせるのはよくありません。ちゃんと国同士の法律の下、決めて下さい」

 俺をじっと見上げ、ヴィアが微笑む。

「――でも、僕のために怒って下さって、嬉しかったです。ありがとうございます、アシェル様」

 嬉しそうに笑うヴィアに、俺の中の怒りが消えていく。
 やはり、ヴィアは、俺の癒やしで、唯一だ。

「サイクロン公爵家の長女。私はお前のような者を選ぶ気は一切ない。私の唯一はリヴィアスだ。相手を案じ、心優しい言葉や態度、行動で癒やしてくれる。惜しげもなく、その時、その時の持てる全てで、傷付いた誰かを助けようとする。お前はそれが出来るか?」

 俺の言葉を聞いた長女は、へたり込んだまま、醜く顔が歪む。
 ヴィアに見せたくない顔だ。

「心優しいリヴィアスだから、私は惹かれた。リヴィアスだから私は選び、彼も私を選んでくれた。サイクロン公爵家の長女も、他の者も今後、私は選ぶことはない」

 冷ややかに告げて、ヴィアの腰を抱く。
 告げられた長女は、静かに項垂れた。








 それからしばらくヴィアを抱き締めたり、途中、警備の騎士を連れてやって来たヴィアの弟のアイシクルと双子の王子王女にサイクロン公爵家の次女と共に説明をし、長女を騎士達に引き渡した。
 タイバス学園の学園長にも説明をし、俺はヴィアとアイシクルと共に、王都のレイディアンス大公家の邸宅に帰った。
 話を聞いたミストラル大公が、レイディアンス辺境領からやって来た。
 タイバス学園でのヴィアに対する、不快な目を牽制するため、俺と利害が一致したミストラル大公からある許可をもらった。
 タイバス学園でしっかり牽制した俺は、転移魔法を付与した魔石で泣く泣くエリスロース竜王国に帰還した。

「……ヴィアに会いたい……」

「さっきまで、ご一緒だったのですよね?」

「殿下、どんだけだよ……」

 リヒトとレインに呆れた顔で見てきた。
 離れ難いのだから、仕方がない。
 次に会う時は、何か形として残る物を贈りたい。
 出来れば、危機的状況ではない時に。
 時間がある時に、贈答品の目録を見て選ぼう。
 喜ぶヴィアの顔が見たい。

「……本当に、早く会いたいな」

 ヴィアの笑顔を思い浮かべ、小さく呟いた俺の言葉は、誰にも拾われなかった。
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