婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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十二章 噂の真実

噂の真実

 放課後、学園内のサロンの一室にリヴィアス、アイシクル、ルミナス、オーロラは、デルフィーニに呼ばれた。
 防音の魔導具を起動させ、デルフィーニは、

「リヴィアス卿。昨日は、長女が大変なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」

 と、リヴィアスに深々と頭を下げて謝罪した。

「あの、昨日も言いましたが、デルフィーニ嬢が謝らないで下さい。貴女は僕を守って下さいました。僕の方こそ、お礼を言うべきところです。ありがとうございます」

 笑みを浮かべ、リヴィアスも頭を下げてお礼を述べる。

「……リヴィアス卿。僭越ながら、少しは疑いを持たれた方が良いかと思いますわ。わたくしが、長女のプリズムと結託して、リヴィアス卿を陥れるかもしれない可能性もありますのよ?」

 困ったように笑みを浮かべ、デルフィーニは対面のソファに座るリヴィアスを見る。
 コの字型に配置されたソファの一つに、リヴィアスが座り、その隣にはアイシクルが、隣のソファにルミナスとオーロラが座る。
 リヴィアスとアイシクルが座るソファの対面に、デルフィーニが一人で座っている。
 リヴィアスを襲ったプリズムは、昨日、拘束されて、ブラカーシュ王国の王城の留置所で、尋問を受けている。そこにはラディウスから報告され、カエルム国王の指示で、捜査員が早速派遣されている。

「僕にはそうは思えないです。昨日のプリズム嬢を見た限り、デルフィーニ嬢と結託しているようには見えませんでした。プリズム嬢は直情的な方だと見受けられましたが、デルフィーニ嬢はその反対の思慮がある方だと感じました。だから、昨日、必死に守って下さったのですよね? プリズム嬢がしたことで、サイクロン公爵家はもちろん、エリスロース竜王国に対して、僕が悪い感情を持たないようにすることと、ラディウス王太子殿下の怒りからサイクロン公爵家を守るために。違いますか?」

 じっと天色の目でリヴィアスは、デルフィーニを見る。
 透き通る水のような色の目で見つめられ、デルフィーニは小さく息を吐いた。

「……そうですわね。その通りですわ。やっと、ラディウス王太子殿下がご婚約されたのに、プリズムのせいで、ご婚約者のリヴィアス卿がエリスロース竜王国に嫁ぎたくないと言われたら、困りますもの……」

 扇で口元を隠し、デルフィーニは苦笑する。

「何故、デルフィーニ嬢が困るんだい? ラディウス王太子殿下と再従兄妹同士とはいえ、そこまでの仲ではないはずだよね?」

 話を聞いていたルミナスが金色の目を細め、警戒するようにデルフィーニを見る。

「……実を言いますと、わたくし、学園卒業後は衣装関係のデザイナーを目指してますの。ですので、可愛く、美しいリヴィアス卿がエリスロース竜王国にいらっしゃらないと、わたくしの創作意欲が激減してしまいますから……」

「ん? それは、もしかしてリヴィの衣装を作りたいと言っているの……?」

 困ったように頬に手を当てるデルフィーニに、オーロラが尋ねる。

「はい。リヴィアス卿を見ていると、掻き立てられるのです、創作意欲が……!」

「……もしかして、編入当初からじっとリヴィを見ていたのは……」

 恐る恐るルミナスがデルフィーニを見る。

「はい、将来、ラディウス殿下とご結婚なさる際の結婚衣装の案を多数……」

「……噂の、サイクロン公爵家の邸宅の敷地内に、別館があり、その別館がその令嬢専用の可愛いものを愛でるための場所で、その中には人間を愛でる部屋があり、衣食住は整っているけど、別館から出られない上に、令嬢の趣味の服を着せられる……というのは……?」

「恐ろしい噂ですわね。ちゃんと説明をして、同意を得た上で、数日、宿泊して、モデルになって頂き、デザインし、作った衣装を着て頂くことはしてますわ。もちろん、対価として、お給金を支払ってますわ」

 人当たりがいい笑みを浮かべ、デルフィーニは問うオーロラに答える。

「思い込みが激しい、というのは……?」

「それは、プリズムですわね。あのお馬鹿さん、数年前に参加した式典でラディウス王太子殿下がこちらを見て、微笑んだと勘違いをして、それから自分が殿下の婚約者になると思い込んで、至るところで吹聴してましたので……。何度も両親や兄、わたくしが違うと訂正するのですが、聞く耳を持たなくて……」

 困ったように苦笑して、デルフィーニは息を吐く。 

「わたくしとプリズムは血の繋がらない姉妹ですが、遠縁ではあるので、容姿が似ています。その結果、あのような噂になったのでしょう。現に、サイクロン公爵家のであって、ではないでしょう?」

「……そういうことだったのね」

 納得したように、オーロラとルミナスは頷いた。

「あの、少し、気になっていたのですが、聞いてもいいですか?」

 今まで聞いていたアイシクルが、恐る恐るデルフィーニに声を掛ける。

「はい、何でしょう? アイシクル卿」

「デ、デルフィーニ嬢は、男性、ですよね……?」

「はい」

 満面の笑顔で、デルフィーニは大きく頷いた。

「「「え」」」

 リヴィアス、ルミナス、オーロラが固まった。

「よく分かりましたわね、アイシクル卿」

「少しだけ、歩く時に女性とは違う、男性の、剣を使う人の動作に似ていたので……。違和感がありました」

「それで分かってしまわれましたか……。わたくし……ゴホン。俺もまだまだですねー」

 公爵令嬢としての口調から、砕けた口調にして、デルフィーニは笑う。

「ラディウス王太子殿下にも気付かれなかったのに、レイディアンス大公家の次期参謀は凄いですね」

「兄や我が大公家に危害を加えるのか、そうでないのかを判断しないといけませんので。デルフィーニ嬢……デルフィーニ卿は何故、女性と偽っているのですか?」

「サイクロン公爵家には俺と五歳離れた長男がいるのですが、父が女の子も欲しがるも、なかなか出来ず、やっと出来た俺が生まれた時に、サイクロン公爵家の縁戚に命を狙われまして。その縁戚を捕らえた時に俺そっくりの女の子がいて、親である縁戚は犯罪者として、三十年、鉱山の力仕事等を課されるから、その子を養女にしたのです。それがプリズムです。俺が女性として届けられたのは父が、生まれるのは女の子だろうと先走って手続きした結果ですね。それで、誕生日が早いから彼女が長女、俺が次女になった訳です」

「それ、カエルム国王陛下に報告は……?」

 ルミナスが驚いた表情で、デルフィーニを見る。

「伝えてますよ。父も生まれてすぐ知らせて、訂正を申し出たのですが、事情を聞いたミーティア王妃陛下が、サイクロン公爵家の親族達から命を守るために俺が成人するまでは女性の振りをするようにと。ミーティア王妃陛下と父は従兄弟同士ですので、サイクロン公爵家の親族達をよく知ってますから」

「プリズム嬢はご存知なのですか?」

 デルフィーニの言葉を聞いて、リヴィアスは心配そうに尋ねる。

「いえ、知りません。俺が男性というのも知りません。真実を知れば、自分が犯罪者の娘だとショックを受けるでしょうから。養女というのはもちろん、知っています。ただ、最近は様子がおかしいので、もしかしたら真実を知り、余計に殿下に懸想してしまったのかもしれません」

「思い込みが激しいって、言っていたものね……」

「僕としては、女性としての振る舞いが完璧過ぎて、気付かなかった自分にショック……。でも、何故、命を狙われるんだい?」

「サイクロン公爵家の加護は代々、風神の加護を持つ者で、その力が強い者が当主になると決まってまして、直系でもある兄と俺が強いので、どちらかが当主になるだろうと親族間では言われています。それを良しとしない、自分の子供もしくは本人が当主に、と考える親族もいる訳です。その筆頭がプリズムの親で、他にもまだいるので、女性として偽っていれば、釣れるだろうとミーティア王妃陛下の助言ですね」

 困った表情で告げるデルフィーニを、リヴィアス達は同情するように見つめる。

「俺としては、当主は兄に任せようと思ってます。プリズムは風神の加護は持っていませんし、何より、殿下が絶賛溺愛中のリヴィアス卿に危害を加えようとした訳なので、恐らく父も何かしらの処断をすると思います。正直、頭もお花畑なので当主など無理です。俺は先程も申した通り、衣装関係のデザイナーを目指してますので」

 にっこりと笑みを浮かべ、デルフィーニはリヴィアスを見つめる。

「デザイナーになった暁には、リヴィアス卿のご衣装をデザインさせて頂いても宜しいでしょうか?!」

 ぎらりと爛々と目を輝かせ、デルフィーニはリヴィアスの方へ身を乗り出す。

「……あの、奇抜なものではないですよね……?」

「大丈夫です……! 俺はその人、その人に似合う最大限、最高な衣装を! が、モットーなので……! 何なら、俺のデザイン画見ます?!」

 興奮気味にデルフィーニは笑顔で、鞄から取り出したデザイン画をリヴィアスに見せる。

「あら、素敵じゃない……!」

 デザイン画を見つめるリヴィアスの隣にやって来たオーロラが目を輝かせる。
 デザイン画には、リヴィアスをモデルにしたと思われる絵と衣装が描かれている。
 どれも、リヴィアスに似合った衣装で、美しくも洗練とされておりつつも、可愛さが所々にあり、恐らく、ラディウスが好みそうなものも数点。

「……これ、ラディウス王太子殿下に、ご贔屓にしてもらうつもり用?」

 ラディウスが好みそうなデザイン画を見つめ、ルミナスがぼそりと呟く。

「あ、分かりますか、やっぱり。殿下、リヴィアス卿にぞっこんですものね。昨日、久々に殿下とお会いしましたが、今までと全然違いますし。でも、リヴィアス卿と殿下がとてもお似合いでしたので、昨日は創作意欲を掻き立てられ、デザインさせて頂きました」

 両頬に手を添えて、デルフィーニはリヴィアスを見つめる。

「それで、どうでしょうか?! デザイナーになった暁には、リヴィアス卿のご衣装をデザインさせて頂いても宜しいでしょうか!?」

「デザイナーになる前でも構いません。デルフィーニ卿が宜しかったら、今後のパーティー用の衣装のいくつかをお願い出来ますか……? 出来れば、その、ラディウス殿下と対で……」

 顔を赤らめて、リヴィアスはデルフィーニに問う。

「お任せ下さい……! 殿下と対の衣装だなんて、俺の創作意欲が限界を超えそうです……! 期限等があれば、その都度、仰って下さい……! いつでも対応致します!」

「ありがとうございます。あの、宜しければ、僕とお友達になって下さいませんか?」

 リヴィアスからの提案に、デルフィーニはぴくりと反応する。

「俺が、リヴィアス卿とお友達……?」

「はい。実は、お友達がいなくて……。学園では弟や従兄妹が側にいるので、気にならなかったのですが、先日、休学中にお友達がいないことに気付きまして……」

 恥ずかしそうにリヴィアスは呟いた。

「い、いいのですか?! 俺で宜しければ、是非……!」

「ありがとうございます。僕のことは遠慮なく、リヴィと呼んで下さい」

「でしたら、俺のことはデルでも、フィーでも……! リヴィ様……!」

「あ、では、成人するまではフィー様と……。成人してからはデル様と呼ばせて下さい」

 はにかんだような笑顔で、リヴィアスが言うとデルフィーニは胸を押さえた。

「ルミナス殿下、オーロラ殿下、アイシクル卿。リヴィ様が可愛過ぎるんですが、どのように今まで守っていらっしゃったのですか?!」

「……だから、牽制が必要なのよ。ラディウス王太子殿下には感謝しかないわ」

「今日の牽制のお陰で、だいぶ諦めたんじゃないかな」

「良い圧力でしたよね。そこからの頭に口付けは良い連続技でした」

 オーロラ、ルミナス、アイシクルが頷き合う。
 それぞれ悟った目をしている。

「……俺も協力させて下さい」

 デルフィーニはそう答えると、三人は笑顔になった。

「ようこそ、特等席へ」

 オーロラの言葉を不思議に思いながらも、デルフィーニは笑みを浮かべた。






 この遣り取りが、デルフィーニの、王太子妃専属のデザイナーとしての第一歩になるとは、本人も思いもしなかった。
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