婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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十二章 噂の真実

閑話12 兄の様子がおかしい(ヴェントゥス視点)

 兄に婚約者(仮)が出来た。
 仮なのは、婚約のお願いに行った際に、お相手の父親が宿題を兄に出したからと、帰ってきた母から聞いた。
 何で、婚約のお願いしに行って、仮婚約の上に、お相手の父親から宿題?
 そこは婚約の条件ではないのか。
 何で、中途半端な仮婚約? と思わないでもない。
 母から理由を聞いて、納得はした。
 ブラカーシュ王家のパーティーでの牽制のための仮婚約であり、お相手の加護が特殊だから、兄が一生守れるのか見極めるためのお相手の父親からの条件であり、宿題という理由だった。

「リヴィちゃん、今までよく狙われなかったですね……。ミストラル大公が強いからだろうけど、よく隠し通せましたよね」

 私の私室で、ソファに座る目の前の母と兄を見ながら、つい呟いた。
 義理の兄になるリヴィちゃんは私より年下なので、彼からは呼び捨てで構わないと言われたけど、可愛いので両親共々、『リヴィちゃん』と呼ばせてもらっている。
 そのリヴィちゃんは薬神の加護、豊穣の女神の加護、月の女神の加護を持っているそうだ。

 ……どれも、世界に一人しか持ってない加護やん……。

 思わず、普段、使わないような語尾になってしまった……。

「……あ。豊穣の女神の加護ということは、レイディアンス辺境領はもちろん、プロミネンス公爵領はリヴィちゃんが生まれてからかなり豊かになったということですよね?」

「そうらしいな。ついでに元婚約者の領も、豊かになったそうだぞ」

 母が鼻で笑いながら教えてくれた。
 リヴィちゃんの元婚約者とその家族の顛末も、既に聞いている。
 終わったとはいえ、未だに憤慨する母に苦笑する。
 パーティーに行けなかった私より、パーティーに行った両親と兄は元婚約者とその家族の性根が許せないようだ。
 余程の連中なのだと感じる。

「まぁ、その豊かになった領も、今からは大変だろうな。豊穣の女神の加護の恩恵は、リヴィちゃんの気持ちに反映されるようだからな」

 リヴィちゃんの気持ちに反映……だから、元婚約者の領は豊かに、なんだ。
 レイディアンスやプロミネンスは豊かになったのに。
 それでリヴィちゃんの気持ちが分かるじゃないか。元婚約者も哀れだな。

「え? じゃあ、もしや、ウチの国も今から大変になるのでは……」

 思わず、及び腰になる。
 将来の王太子妃、更には竜王妃になるリヴィちゃんがエリスロースにいる間は、豊穣の女神の加護の恩恵が齎されるということになる。
 ブラカーシュ王家は知っているだろうからいいとして、怪しむ他国が出て来るだろうことは少し考えただけで分かる。
 リヴィちゃんの父であるミストラル大公は、そのための宿題、ということなのだろう。
 ミストラル大公側は兄がリヴィちゃんを一生守れるのか見極めるという面と、エリスロース竜王家側には豊穣の女神の加護だと他国に見つからないように先に手立てを考えておけるようにという面がある気がする。
 遠回しだけど、ミストラル大公、良い人だ……。
 多分、息子のリヴィちゃんのためなんだろうけど。

「そういうことになる。だから、ラディはもちろん、俺もカエルムもリヴィちゃんを全力で守るつもりだ」

「成程……。私もリヴィちゃんを守ります。可愛い義理の兄になる訳ですし。私の場合は武力ではなく、政務面で守ることしか出来ませんが、豊穣の女神の加護だと他国に分からなければいいのですよね?」

「出来れば、エリスロースとブラカーシュの貴族にもな。知っているのは俺達、竜王家とレイディアンス大公家、ブラカーシュ王家、プロミネンス公爵家とリヒトだけだ。元婚約者の家も知らん」

「まぁ、知ってたら、簡単にリヴィちゃんとの婚約破棄などしないでしょ。したら、元婚約者は馬鹿ですよ」

 母から聞いた話を聞く限り、リヴィちゃんの元婚約者やその家族は私達、エリスロース竜王家からしたら有り得ない。
 父も兄も私も竜神の血を受け継ぐ者として、家族、特に伴侶となる相手に対して、大事に思い、愛が重くなる傾向がある。
 竜王家に生まれた者は必ず『心の底から愛しいと感じる者』が一人いるらしい。
 その一人を見つけられた竜王家の者は、幸福なのだとか。
 しかし、その一人が既に婚約や結婚していた場合は、倫理観の面で諦めるしかない。
 いなければ、猛進してしまうとか、しないとか。
 まだ私にはその特有性となり得る人とは出会えていない。
 父にとって、母がその特有性で、母の快活な性格のお陰で、父の愛が重いように見えないが、よく見ると重い。
 兄は……今のところ、溺愛しようとしているように見える。
 リヴィちゃんが元婚約者の影響で、恋愛初心者のようだから、彼に合わせようとしているみたいだ。
 空回ってないといいけど。

「知らなくても馬鹿だ。元婚約者を見たが、アレもその母親も弟も害悪だ。リヴィちゃんの心を無視して、酷い扱いしているのに、愛してるだの、一番愛してるのは自分だと言い張る。罪を問われれば、優しいリヴィちゃんなら助けてくれる、許してくれると信じて疑わない。酷いことをされたリヴィちゃんが許す訳も助ける訳もない。それでも、あの子は相手に罪を償い、これ以上、罪を重ねるなと願い、手を差し延べようとしていたが」

 リヴィちゃんを思い浮かべたのか、母の表情が穏やかだ。

「母上。リヴィちゃんをこれからウチでしっかり大切にしましょう。元婚約者が最悪だった分、エリスロース竜王家で、昔のことなど思い出せないくらい構って、大切にしましょう」

「もちろん、そのつもりだ。正直、あの子に似合う服や装飾品をたくさん買ってあげたいし、お茶やお買い物とかしたい。夢だったんだよな、可愛い子供とお買い物デート。お前等はそんなの興味ないって顔だったし、俺とのお出掛けとかしたがらなかったからな。リヴィちゃんとの仲を深めて、お前等に自慢してやる」

「思春期越えたら、母上とお出掛けって恥ずかしくなるじゃないですか」

「どちらも思春期越えたら、性格も可愛くなくなったしな……。対するリヴィちゃんは成人しても可愛いだろうなぁ……。女性顔負けの美人だろうな」

「それは言えますね。絶対に美人です。私も義理の兄リヴィちゃんとお茶したいですね」

 つい、想像してしまい、早くリヴィちゃん、兄と結婚しないかなぁ……と思ってしまう。
 エリスロース竜王国も、ブラカーシュ王国も未成年の結婚は認められていないため、十六歳のリヴィちゃんと兄の結婚は、早くても二年後。
 王太子妃教育や王妃教育があるため、二年では結婚は無理だろうけど。

「そのためにも、ミストラルからの宿題だな。太陽神の加護を与えてもらうための場所を探さないと。ヴェン、手伝ってもらえないか?」

「もちろんですよ。リヴィちゃんを早くエリスロースに招きたいですから。鑑定神の加護、しっかり活用しますよ」

 母に大きく頷いた。
 明日から、城の図書館に入り浸ろう。
 と、そこで、違和感に気付く。
 兄、リヴィちゃんのことなのに、全く話してない。
 聞いているのだろうか、と気になり、母の隣に座る兄を見る。
 母も気付いたのか、隣の兄を見る。

「兄上? 静かですけど、大丈夫ですか?」

「ラディ? 何か悩みがあるのか?」

 二人で兄の顔を覗き込むと、兄の目の下に隈があることに気付く。

「おい、ラディ。ちゃんと寝てるのか?」

「……寝てますが、すぐ目が覚めます」

 やっと兄が声を発した。疲れがあるのか、声が掠れ気味だ。

「……何か、仕事で問題があったのか?」

「決裁が多いですが、問題はないです」

「じゃあ、どうした?」

「……その、ヴィアに会いたくて、辛いだけです……」

 俯き加減に兄は呟いた。
 ああ、これ、精神的にヤバイのでは?

「あー……竜王家の特有性か。ラディ程ではなかったが、昔、カエルムがそうだったな。少し会えなかっただけで、ラディみたいになってたな。リヴィちゃんとの物理的な距離のせいで、ポンコツになりかけてるな」

「でも、毎日手紙の遣り取りはしているんだよね? 兄上」

「……手紙だけでは、足りない……」

 力なく小さく呟き、兄が項垂れた。
 ですよね。
 どう見ても、足りてない。
 兄がポンコツになると、正直、政務が滞る。
 こんな兄を見たことがない私は、何か一時的にでも復活する方法がないか考える。
 リヴィちゃんに会わせるのは難しいが、リヴィちゃんを少しでも感じられたら、浮上するのではないだろうか。
 そこで、思い付く。

「兄上、リヴィちゃんから頂いた手紙の遣り取りとかが出来る魔導具をお借りしてもいいですか?」

「あ、ああ。構わないが……。何をするつもりだ? ヴィアに迷惑を掛けるつもりか?」

「まさか! リヴィちゃんを困らせる気は一切ないですよ。私を何だと思ってるんです、兄上?」

 むしろ、今の兄を見たら、リヴィちゃんが困ると思う。

「それなら、魔導具で何をするつもりだ?」

「まぁ、少し待っていて下さい」

 そう言って、机から便箋を取り出し、リヴィちゃん宛の手紙を書いていく。
 兄から魔導具を借りて、手紙を送る。

「兄上、これで少し落ち着くと思いますよ」

 ……と、思いたい。じゃないと私も困る。
 兄がポンコツになったら、私の仕事が増える。

「とりあえず、リヴィちゃんからの返事をお待ち下さい」

 それから、母と兄は私の私室から出て、それぞれの私室へ帰っていった。






 それからしばらくして、兄が少し元気になったと母から聞いた。
 リヴィちゃんにお願いした物が、あの後すぐに届いたらしい。仕事が早い。

「で、何をリヴィちゃんに伝えたんだ?」

 母が気になったのか、わざわざ図書館にいる私を探しにやって来た。

「ああ、リヴィちゃんと離れてから、兄の様子がおかしいので、何かリヴィちゃんの魔力が宿った身に着けられる物か手作りの物を兄に渡してもらえる? と手紙に書いて送っただけです。どうやら、リヴィちゃんは刺繍入りのハンカチを贈ったようですが……」

「身に着けられる上に、相手にもそこまで負担を感じさせない贈り物だな。しかも、リヴィちゃんの加護付きだから、ラディの身も守れる。リヴィちゃん、考えたな」

「私の提案が功を奏して良かったですよ」

 小さく笑うと、母から褒めるように頭を撫でられた。
 久々で照れ臭くなった。






 それから、時々、リヴィちゃんから刺繍入りのハンカチが届くようで、どうにか兄はポンコツにならずに済んだ。
 が、兄が色々と魔石に付与した過保護なイヤーカフがリヴィちゃんの危機に反応し、転移して、一泊二日したらしい。
 本物のリヴィちゃんに会えて、そのお陰で、兄の気持ちも浮上したようだ。
 しばらくは元気だったが、またポンコツになり掛けた。

「……これ、私も同じようなことになるのか?」

 兄を見て、未来の自分を見ているようで、怖くなった。
 でも、リヴィちゃんに会う度に、嬉しそうに笑う兄を見て、ちょっと羨ましくなったのだった。
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