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十三章 太陽神
閑話13 お留守番(カエルム&ステラ視点)
……寂しい。
ティアも、ラディも、ヴェンもいない城は、本当に寂しい。
将来、お嫁に来るリヴィちゃんのためだから仕方がないとはいえ、私も行きたかったなぁ……。
リヴィちゃんは元気かな。
年齢より小さく細く見えるリヴィちゃんは、ちゃんと食事をしているのかな?
……まぁ、ステラちゃんのようにいくら食べても細いまま、という体質ならいいのだけど、あの細さは心配だな。
将来、ラディの愛情を一身に受けることになるけど、大丈夫だろうか。
ティアみたいな体力美人なら安心だけど……。
相手が竜神の加護持ちのラディだからなぁ……。
書類を処理しながら、ふと思う。
「……陛下。手が止まってます。考え込むのは構いませんので、手は動かして下さい」
煉瓦色の髪、茶色の目をした私の側近のネビュラが呆れた顔で、私を見る。
「いや、手は動かしてるが? 私は妻の留守を守る良い夫だからね」
「……ご自分で仰らないで頂きたいですね。仰らなかったら、そうでしたのに。残念です……」
「辛辣な側近だな。私、国王だぞ?」
「知ってます。王妃陛下がいらっしゃらないとポンコツになる国王陛下ですね。乳兄弟なのですから、辛辣なのは今更ですね」
冷めた表情でネビュラに言われた。
長い付き合いなので、執務室での書類仕事の時は対応が国王と側近ではなく、乳兄弟のそれになる。
気心の知れた仲なので、私も気が楽になる。
それを知っていての対応だということも、今から何か重要なことを言うのだろうということも。
「薄々勘付いていらっしゃると思いますが、ちょっと国内を探らせていた影から情報が入りました」
茶色の目を細めて、私の様子を窺いながらネビュラは一旦、言葉を止める。
「ラディウス王太子殿下のご婚約者様で、レイディアンス大公家のご次男のリヴィアス卿のお命を狙っているお馬鹿さんがいるようです」
「ほぉ。それは何処のお馬鹿さんだ? 王太子派か? 第二王子派か? それとも竜神を恐れるあまり命を奪って、今後竜神の加護持ちを生まれないように考えているもっとお馬鹿さんの一派か? まだリヴィちゃんがラディの婚約者だと貴族達に伝えていないのに、何故、漏れた?」
机の上に肘を突いて、両手を組んで顎を乗せ、私は目の前に立つ乳兄弟を見上げる。
「正確には全てのお馬鹿さんですね。王太子派は自分の子供をラディウス殿下の伴侶に。第二王子派は婚約者を守れずに死なせたことを引き合いに出して、第二王子を国王に。もっとお馬鹿さんの一派はリヴィアス卿を死なせたことで、竜神の加護を暴走させ、竜神は危ないモノだと国民に思わせ、今後生まれさせないため、リヴィアス卿のお命を狙っているようです。一部はリヴィアス卿を愛人に、と考えて誘拐も狙っているようですが……。婚約者だと漏れたのは、ブラカーシュ王家のパーティーとラディウス殿下が先日、ブラカーシュのリヴィアス卿が通われるタイバス学園で生徒に牽制したからですよ」
困ったように苦笑いを浮かべながら、ネビュラは告げる。
「リヴィちゃんは大人気だねぇ……。可愛いし、美人さんだから分かるけどね。竜神の加護がなくなれば、我が国なんてあっという間に他国に侵略されるよ。特に隣国によって。地図からエリスロースなくなるよ? リヴィちゃんが殺されたら、ミストラル君単体で、我が国の騎士達が全滅じゃないかな。そこまで考えが至らないかねぇ……。私、“水碧の大公殿下”という名の鬼神に命狙われたくないよ。パーティーはブラカーシュの貴族の牽制だからしたけどね。ラディは学園で何をやっちゃってるのかな……」
大きな溜め息を吐き、うっかり想像してしまう。
可愛い息子を殺され、怒りのミストラル君は絶対に単身でやって来る。
戦神の加護という世界で一人しか持たない加護を持つと、つい最近知った私としてはミストラル君を怒らせるようなことはしたくない。
自分の身は確かに大事だけど、それよりも家族や国民達が大事だ。
やった連中は、勝手にミストラル君にやられたら良い。
まぁ、そのようなことはまだ起きてないが、有り得ない未来ではない。
その未来を起こさせないために、お留守番の私が考え、相手に気付かれないようにこっそり動く必要がある。
「そんな未来を起こさせないために、ネビュラ」
「はい、カエルム様」
「ステラちゃんに報告しておいてもらえる? 多分、彼女の魔導具とミストラル君の力が必要になってくる」
「畏まりました。すぐにでもステラ夫人にお伝えして参ります」
一礼して、ネビュラが執務室を出ようとする背中に、「宜しくね」と告げ、私は溜め息をもう一度吐いた。
「リヴィちゃんの加護を知れば、貴族達は命を狙うのではなく、利用するために誘拐を狙ってくるだろうね。はぁー……面倒臭いな、貴族の連中は」
私以外、誰もいない執務室で呟き、愛しの妻や家族、リヴィちゃん、ミストラル君の家族、リヒト君とレイン君が帰って来るまでに概要の説明が出来るように情報の精査をすることにした。
帰って来た妻に、お留守番中に頑張ったことを褒められ、しっかり甘えてしまったのを目撃され、息子達に冷めた目で見られ、内心、泣きそうになったのは秘密である。
◇◆◇◆◇◆
ミストラル様とリヴィ達、ミーちゃん、ラディウス王太子殿下達がダンジョンに行ってから、少し経つ。
お留守番の私はのんびりと魔導具を作っていると、藤色の髪、若緑色の目の侍女のイーリスがノックと共に部屋に入って来た。
「イーリス? どうしたの?」
「ステラ様。エリスロース竜王国のカエルム陛下から、ステラ様宛にお手紙が届いております」
「カエルム陛下から? ミーちゃんじゃなく? 私になの?」
目を瞬かせて、イーリスを見上げる。
「はい、そのように伺っています」
そう言われて、私はイーリスから手紙を受け取る。
中身を読むと、私とミストラル様の三人の大事な息子達の内、珍しい加護を持って生まれた次男のリヴィアスの命がエリスロース竜王国の貴族に狙われることになってしまったという謝罪も入っていた。
カエルム様によると、リヴィを狙っているのは王太子派と第二王子派、竜神を否定している派閥の貴族のようで、私は溜め息を漏らした。
「ステラ様、どうされました?」
イーリスが心配の声を掛けてくれる。
「婚約者だと知られてしまったみたいで、うちのリヴィがエリスロースの貴族に狙われるみたい……」
「え? レイディアンスの天使がですか? エリスロースの貴族は見る目がありませんね」
冷めた目でイーリスが呟いた。
気持ちは分かるけど、リヴィってば我が家の使用人達に人気ね。
自分にも人にも、仕事にも厳しいイーリスまで、リヴィに優しいだなんて。
「貴族はどの派閥です?」
私の結婚と同時にエリスロースから来てくれた侍女でもあるイーリスは、あちらの国の事情も多少は知っている。元々、伯爵家の三女だったのもある。
「主に王太子派と第二王子派、竜神を否定している派の三つね」
「ほぼ全部ではないですか。何故、狙われることになったのです?」
「カエルム陛下の話だと、リヴィの命を狙う理由が王太子派は自分の子供をラディウス殿下の伴侶にするため。第二王子派はリヴィを守れずに死なせたことを引き合いに、婚約者も守れないなら国も守れないとか言い掛かりをつけて、第二王子殿下を国王にするため。竜神を否定している派は同じくリヴィを守れずに死なせたことで、ラディウス殿下の竜神の加護を暴走させて、竜神は危ないと国民に思わせて、今後、竜神の加護を持つ者を生まれさせないためみたいよ。一部はリヴィを愛人にするつもりで誘拐も考えているみたい」
「……エリスロースの貴族は馬鹿なのでしょうか。リヴィアス様を狙う――ミストラル殿下が怒りと共に侵略に来ると思わないのでしょうか」
顔を青くして、イーリスは呟いた。
ミストラル様が怒っているところを想像しちゃったのかしら。
「思わないから、狙うのよ。自分の身に降り掛かって、やっと気付くのだと思うわ」
「陛下は何か対策をお考えなのでしょうか?」
「防ぐために、いくつか魔導具を作って、竜王家に売って欲しいって。リヴィとラディウス殿下の婚約が正式に出来れば、縁戚になるから魔導具を作って売るのは構わないのだけどね。少し割引もね」
「ちなみにどのような魔導具を竜王家はご所望なのです?」
「映像として記録する魔導具と、リヴィの身を守る護身用の魔導具、離れたところでも会話が出来る魔導具をそれぞれ数個ずつね。あとは、リヴィの姿を映す魔導具ね。その魔導具で誘き寄せるつもりなのかしら……」
首を傾げながら、私は眉を寄せる。
ん? 待って。これ、リヴィに会いたいラディウス殿下のための魔導具が入ってない?
私の気のせい? 考え過ぎ?
「……その魔導具ですが、いくつかラディウス王太子殿下のためのものが含まれていません?」
眉を寄せながら、イーリスも呟く。
「あ、やっぱりイーリスもそう思う? 私もそう思ってたのよね。竜王家の特有性もあるから仕方ないけど、リヴィに会いたいラディウス殿下のためのものも入っているよね」
エリスロース竜王家の特有性は、私も実家がプロミネンス公爵家だったから知っている。イーリスも私の侍女になるから知っている。公言出来ないようになってるけど。
竜王家に生まれた者は必ず『心の底から愛しいと感じる者』が一人いるらしい。
その一人を見つけられた竜王家の者は、幸福になる。
そして、愛が重い。
カエルム陛下にとって、ミーちゃん。
ラディウス殿下にとって、リヴィ。
カエルム陛下の時は、ミーちゃんが明るい快活な子だったから重く見えないけど、実際は重い。近くで見てたから分かるけど、カエルム陛下は重い。
竜神の加護を持つラディウス殿下は更に重そう。
うちの子、大丈夫かしら。
しばらくレイディアンスに滞在している時に見たけど、元婚約者のせいで傷付き、恋愛初心者のリヴィに合わせてくれてるのは感心したけど、結婚したら絶対に重い。爆発しそう。
うちの子、大丈夫かしら。
幸せにしてくれそうに見えるけれど、親としてまだ心配だ。
「まぁ、リヴィのために婚家が動いてくれるのは有り難いけれどね。それなら、私もリヴィのために頑張って作ろうかしら。リヴィが心配だし。色々と」
「その“色々”が深くて怖いのですが、ステラ様……。私はレイディアンスの天使が心配でたまりません」
「ええ。だから、リヴィにも渡しておこうかと思ってるわ。護身用の魔導具を数種類。暴走竜対策で」
「ーー良いと思います。天使を守るためには必要です」
大きく深くイーリスは頷いた。
レイディアンスの領主館にいる者達は、皆、リヴィに過保護になるから仕方ない。
リヴィが結婚した後も、『実家に帰らせて頂きます』という状態になっても、我が家はいつでも歓迎よ。
その場合、レイディアンスと全面戦争だろうけど。
その時のミーちゃんは大変だろうなぁ……。
ミーちゃんには色々と連絡が取れるようにしておこう。
そんなことを考えていた頃。
まさかリヴィが大変なことになっていたとは知らず、帰って来てからミストラル様に聞いた。
ミストラル様の鍛えられた胸板をポコポコと叩きまくった。
硬くて、私の手が赤くなった。
今度、ミストラル様を叩く用の玩具のハンマーを作ろうと思う。
ティアも、ラディも、ヴェンもいない城は、本当に寂しい。
将来、お嫁に来るリヴィちゃんのためだから仕方がないとはいえ、私も行きたかったなぁ……。
リヴィちゃんは元気かな。
年齢より小さく細く見えるリヴィちゃんは、ちゃんと食事をしているのかな?
……まぁ、ステラちゃんのようにいくら食べても細いまま、という体質ならいいのだけど、あの細さは心配だな。
将来、ラディの愛情を一身に受けることになるけど、大丈夫だろうか。
ティアみたいな体力美人なら安心だけど……。
相手が竜神の加護持ちのラディだからなぁ……。
書類を処理しながら、ふと思う。
「……陛下。手が止まってます。考え込むのは構いませんので、手は動かして下さい」
煉瓦色の髪、茶色の目をした私の側近のネビュラが呆れた顔で、私を見る。
「いや、手は動かしてるが? 私は妻の留守を守る良い夫だからね」
「……ご自分で仰らないで頂きたいですね。仰らなかったら、そうでしたのに。残念です……」
「辛辣な側近だな。私、国王だぞ?」
「知ってます。王妃陛下がいらっしゃらないとポンコツになる国王陛下ですね。乳兄弟なのですから、辛辣なのは今更ですね」
冷めた表情でネビュラに言われた。
長い付き合いなので、執務室での書類仕事の時は対応が国王と側近ではなく、乳兄弟のそれになる。
気心の知れた仲なので、私も気が楽になる。
それを知っていての対応だということも、今から何か重要なことを言うのだろうということも。
「薄々勘付いていらっしゃると思いますが、ちょっと国内を探らせていた影から情報が入りました」
茶色の目を細めて、私の様子を窺いながらネビュラは一旦、言葉を止める。
「ラディウス王太子殿下のご婚約者様で、レイディアンス大公家のご次男のリヴィアス卿のお命を狙っているお馬鹿さんがいるようです」
「ほぉ。それは何処のお馬鹿さんだ? 王太子派か? 第二王子派か? それとも竜神を恐れるあまり命を奪って、今後竜神の加護持ちを生まれないように考えているもっとお馬鹿さんの一派か? まだリヴィちゃんがラディの婚約者だと貴族達に伝えていないのに、何故、漏れた?」
机の上に肘を突いて、両手を組んで顎を乗せ、私は目の前に立つ乳兄弟を見上げる。
「正確には全てのお馬鹿さんですね。王太子派は自分の子供をラディウス殿下の伴侶に。第二王子派は婚約者を守れずに死なせたことを引き合いに出して、第二王子を国王に。もっとお馬鹿さんの一派はリヴィアス卿を死なせたことで、竜神の加護を暴走させ、竜神は危ないモノだと国民に思わせ、今後生まれさせないため、リヴィアス卿のお命を狙っているようです。一部はリヴィアス卿を愛人に、と考えて誘拐も狙っているようですが……。婚約者だと漏れたのは、ブラカーシュ王家のパーティーとラディウス殿下が先日、ブラカーシュのリヴィアス卿が通われるタイバス学園で生徒に牽制したからですよ」
困ったように苦笑いを浮かべながら、ネビュラは告げる。
「リヴィちゃんは大人気だねぇ……。可愛いし、美人さんだから分かるけどね。竜神の加護がなくなれば、我が国なんてあっという間に他国に侵略されるよ。特に隣国によって。地図からエリスロースなくなるよ? リヴィちゃんが殺されたら、ミストラル君単体で、我が国の騎士達が全滅じゃないかな。そこまで考えが至らないかねぇ……。私、“水碧の大公殿下”という名の鬼神に命狙われたくないよ。パーティーはブラカーシュの貴族の牽制だからしたけどね。ラディは学園で何をやっちゃってるのかな……」
大きな溜め息を吐き、うっかり想像してしまう。
可愛い息子を殺され、怒りのミストラル君は絶対に単身でやって来る。
戦神の加護という世界で一人しか持たない加護を持つと、つい最近知った私としてはミストラル君を怒らせるようなことはしたくない。
自分の身は確かに大事だけど、それよりも家族や国民達が大事だ。
やった連中は、勝手にミストラル君にやられたら良い。
まぁ、そのようなことはまだ起きてないが、有り得ない未来ではない。
その未来を起こさせないために、お留守番の私が考え、相手に気付かれないようにこっそり動く必要がある。
「そんな未来を起こさせないために、ネビュラ」
「はい、カエルム様」
「ステラちゃんに報告しておいてもらえる? 多分、彼女の魔導具とミストラル君の力が必要になってくる」
「畏まりました。すぐにでもステラ夫人にお伝えして参ります」
一礼して、ネビュラが執務室を出ようとする背中に、「宜しくね」と告げ、私は溜め息をもう一度吐いた。
「リヴィちゃんの加護を知れば、貴族達は命を狙うのではなく、利用するために誘拐を狙ってくるだろうね。はぁー……面倒臭いな、貴族の連中は」
私以外、誰もいない執務室で呟き、愛しの妻や家族、リヴィちゃん、ミストラル君の家族、リヒト君とレイン君が帰って来るまでに概要の説明が出来るように情報の精査をすることにした。
帰って来た妻に、お留守番中に頑張ったことを褒められ、しっかり甘えてしまったのを目撃され、息子達に冷めた目で見られ、内心、泣きそうになったのは秘密である。
◇◆◇◆◇◆
ミストラル様とリヴィ達、ミーちゃん、ラディウス王太子殿下達がダンジョンに行ってから、少し経つ。
お留守番の私はのんびりと魔導具を作っていると、藤色の髪、若緑色の目の侍女のイーリスがノックと共に部屋に入って来た。
「イーリス? どうしたの?」
「ステラ様。エリスロース竜王国のカエルム陛下から、ステラ様宛にお手紙が届いております」
「カエルム陛下から? ミーちゃんじゃなく? 私になの?」
目を瞬かせて、イーリスを見上げる。
「はい、そのように伺っています」
そう言われて、私はイーリスから手紙を受け取る。
中身を読むと、私とミストラル様の三人の大事な息子達の内、珍しい加護を持って生まれた次男のリヴィアスの命がエリスロース竜王国の貴族に狙われることになってしまったという謝罪も入っていた。
カエルム様によると、リヴィを狙っているのは王太子派と第二王子派、竜神を否定している派閥の貴族のようで、私は溜め息を漏らした。
「ステラ様、どうされました?」
イーリスが心配の声を掛けてくれる。
「婚約者だと知られてしまったみたいで、うちのリヴィがエリスロースの貴族に狙われるみたい……」
「え? レイディアンスの天使がですか? エリスロースの貴族は見る目がありませんね」
冷めた目でイーリスが呟いた。
気持ちは分かるけど、リヴィってば我が家の使用人達に人気ね。
自分にも人にも、仕事にも厳しいイーリスまで、リヴィに優しいだなんて。
「貴族はどの派閥です?」
私の結婚と同時にエリスロースから来てくれた侍女でもあるイーリスは、あちらの国の事情も多少は知っている。元々、伯爵家の三女だったのもある。
「主に王太子派と第二王子派、竜神を否定している派の三つね」
「ほぼ全部ではないですか。何故、狙われることになったのです?」
「カエルム陛下の話だと、リヴィの命を狙う理由が王太子派は自分の子供をラディウス殿下の伴侶にするため。第二王子派はリヴィを守れずに死なせたことを引き合いに、婚約者も守れないなら国も守れないとか言い掛かりをつけて、第二王子殿下を国王にするため。竜神を否定している派は同じくリヴィを守れずに死なせたことで、ラディウス殿下の竜神の加護を暴走させて、竜神は危ないと国民に思わせて、今後、竜神の加護を持つ者を生まれさせないためみたいよ。一部はリヴィを愛人にするつもりで誘拐も考えているみたい」
「……エリスロースの貴族は馬鹿なのでしょうか。リヴィアス様を狙う――ミストラル殿下が怒りと共に侵略に来ると思わないのでしょうか」
顔を青くして、イーリスは呟いた。
ミストラル様が怒っているところを想像しちゃったのかしら。
「思わないから、狙うのよ。自分の身に降り掛かって、やっと気付くのだと思うわ」
「陛下は何か対策をお考えなのでしょうか?」
「防ぐために、いくつか魔導具を作って、竜王家に売って欲しいって。リヴィとラディウス殿下の婚約が正式に出来れば、縁戚になるから魔導具を作って売るのは構わないのだけどね。少し割引もね」
「ちなみにどのような魔導具を竜王家はご所望なのです?」
「映像として記録する魔導具と、リヴィの身を守る護身用の魔導具、離れたところでも会話が出来る魔導具をそれぞれ数個ずつね。あとは、リヴィの姿を映す魔導具ね。その魔導具で誘き寄せるつもりなのかしら……」
首を傾げながら、私は眉を寄せる。
ん? 待って。これ、リヴィに会いたいラディウス殿下のための魔導具が入ってない?
私の気のせい? 考え過ぎ?
「……その魔導具ですが、いくつかラディウス王太子殿下のためのものが含まれていません?」
眉を寄せながら、イーリスも呟く。
「あ、やっぱりイーリスもそう思う? 私もそう思ってたのよね。竜王家の特有性もあるから仕方ないけど、リヴィに会いたいラディウス殿下のためのものも入っているよね」
エリスロース竜王家の特有性は、私も実家がプロミネンス公爵家だったから知っている。イーリスも私の侍女になるから知っている。公言出来ないようになってるけど。
竜王家に生まれた者は必ず『心の底から愛しいと感じる者』が一人いるらしい。
その一人を見つけられた竜王家の者は、幸福になる。
そして、愛が重い。
カエルム陛下にとって、ミーちゃん。
ラディウス殿下にとって、リヴィ。
カエルム陛下の時は、ミーちゃんが明るい快活な子だったから重く見えないけど、実際は重い。近くで見てたから分かるけど、カエルム陛下は重い。
竜神の加護を持つラディウス殿下は更に重そう。
うちの子、大丈夫かしら。
しばらくレイディアンスに滞在している時に見たけど、元婚約者のせいで傷付き、恋愛初心者のリヴィに合わせてくれてるのは感心したけど、結婚したら絶対に重い。爆発しそう。
うちの子、大丈夫かしら。
幸せにしてくれそうに見えるけれど、親としてまだ心配だ。
「まぁ、リヴィのために婚家が動いてくれるのは有り難いけれどね。それなら、私もリヴィのために頑張って作ろうかしら。リヴィが心配だし。色々と」
「その“色々”が深くて怖いのですが、ステラ様……。私はレイディアンスの天使が心配でたまりません」
「ええ。だから、リヴィにも渡しておこうかと思ってるわ。護身用の魔導具を数種類。暴走竜対策で」
「ーー良いと思います。天使を守るためには必要です」
大きく深くイーリスは頷いた。
レイディアンスの領主館にいる者達は、皆、リヴィに過保護になるから仕方ない。
リヴィが結婚した後も、『実家に帰らせて頂きます』という状態になっても、我が家はいつでも歓迎よ。
その場合、レイディアンスと全面戦争だろうけど。
その時のミーちゃんは大変だろうなぁ……。
ミーちゃんには色々と連絡が取れるようにしておこう。
そんなことを考えていた頃。
まさかリヴィが大変なことになっていたとは知らず、帰って来てからミストラル様に聞いた。
ミストラル様の鍛えられた胸板をポコポコと叩きまくった。
硬くて、私の手が赤くなった。
今度、ミストラル様を叩く用の玩具のハンマーを作ろうと思う。
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