婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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十四章 太陽神の加護

太陽神と月の女神(ラディウス視点→三人称視点)

 ヴィアの姿形の、唯一目の色が違う、銀色の目をした月の女神が俺を見るなり微笑んだ。

「ごめんなさい、竜神の子。太陽神の代わりに謝罪するね。今から一緒に殴り込みに行こう!」

 ヴィアとは違う笑顔で言われ、混乱する俺達は固まった。
 ヴィアの顔で、ヴィアとは違った明るく笑う月の女神に、俺は眉を寄せる。
 それに気付いたのか、月の女神は眉を下げた。

「ごめんなさい、竜神の子。この顔は元々だから変えられない。私の加護の影響か、私の愛し子は似た顔になる。目の色が天色なのは豊穣の女神の加護の影響。薬神の加護を使う時にきらきらと輝くのは、薬神の加護の影響。皆さんを混乱させてしまうけど、そこはごめんなさい」

 俺達にぺこりと頭を下げるヴィアそっくりの月の女神は、太陽神とは違い、友好的だった。しかも律儀。
 それより、気になることがあるので、俺はつい聞いてしまった。

「月の”女神“様なのに、男性、なんですか?」

「あ、これはね、私の加護を与えた愛し子の性別に依ってしまうんだよ。本当は女神だよ。太陽神達は女性に加護を与えても男神のままだけど、私だけそうなるんだよ」

 苦笑して、月の女神は頬を掻く。

「女神なのに、男性の身体で、混乱させるだろうから、私の名前を教えるから名前で呼んでいいよ。私の名前はアリアンロッド。宜しくね」

 ふわりと柔らかく笑う月の女神ーーアリアンロッド様は銀色の目を細めた。

「竜神の子には、本当に太陽神が申し訳ないことをしてしまったよね。あの困ったさんは竜神の子に嫉妬してるんだよ」

 小さく息を吐きながら、アリアンロッド様は俺を見る。
 神様が俺に嫉妬している理由が分からない。
 そんな表情を浮かべていると、アリアンロッド様はまた苦笑する。

「太陽神の兄が竜神で、竜神が大好きなんだ。その竜神の加護を持ち、更に対の私が加護を与えた愛し子にも愛されてるから、竜神の子に嫉妬してるんだよね……。嫉妬した結果、困らせるつもりで試練だとか言って、竜神の子と私が加護を与えた愛し子を引き離したんだよ。だから、本当にごめんなさい」

 深々と頭を下げて謝罪し、アリアンロッド様は溜め息を吐く。
 そんな理由で嫉妬されても困る。
 加護なんて、こちらが選べる訳でもなく、生まれた時に与えられる。
 生まれた時なんて、自我も何もない。
 こちら側からしたら、知るか、巻き込むなと言いたい。
 文句があるなら、竜神に言え。
 と、喉のところまで出そうになる。

「竜神に直接言えばいいのに、言えないから竜神の子に嫉妬した上に、私の愛し子も巻き込んだ。戦神や剣神、鑑定神、水神、風神、炎神、雷神の愛し子まで巻き込んでるから、皆怒ってるんだよ。だから、私が代表して殴り込みなんだよ。私も竜神も怒ってるし」

 ヴィアとそっくりな顔で、アリアンロッド様は口を膨らませる。
 そこは似ているから、ほんの少しだけ俺の怒りが小さくなった。

「中途半端な試練になったのは、怒っている神達が介入した結果で、ケルベロス程度なら、戦神の愛し子なら一撃でしょ?」

 ダンジョンでの中途半端な魔物の数は、俺達に加護を与えた神達が怒って、介入した結果だと分かり、そこは納得した。
 母やミストラル大公達も納得したようで、頷いていた。

「……先程のこの首飾りにヴィアの魔力が移ったのは、どういうことですか?」

 俺の問いに、アリアンロッド様はゆっくり目を逸らした。

「……その、私の愛し子が太陽神に怒って、太陽神の嫌がらせから竜神の子を守ろうと無意識に魔力を移したみたいで……」

 両方の人差し指を突きながら、アリアンロッド様は呟くように答えた。

「は……い? ヴィアが怒った? いつですか?」

「……その……現在進行中で……」

 困ったように目を逸らしながら、アリアンロッド様は答える。

「それはまずい!」

 静かに話を聞いていたグレイシア殿が声を上げた。

「グレイシア殿?」

「リヴィが怒ると私達でも抑えるのが大変なんです」

「リヴィ兄上が俺達兄弟の中で一番、魔力が多いから、怒って魔力が暴れたらリヴィ兄上が怪我してしまう……!」

「怪我?! 何故、そのようなことに?」

「薬神の加護の影響で、人を傷付けることが出来ないから魔力の暴走が自分に行くんだ。普段は薬を作ることに魔力を使うから怒ったとしても、そこまではいかないが、今回はダンジョンに行くからとリヴィも魔力を万全にしている。今回は本当にまずいことになる」

 ミストラル大公も少し青い顔をする。
 俺も想像してしまい、血の気が引いてくる。
 ヴィアの身が危ない。

「だから、殴り込みなんだよ。私の加護で繋がっているから分かるけど、今は愛し子も大丈夫」

「すぐにヴィアのところに行きます!」

 そう俺が声を上げると、アリアンロッド様がフロアの奥にある扉へと進む。

「この扉の先の階段を下りると、最下層だよ。竜神の子、私と殴り込みに行こう。太陽神ーーベレヌスのお仕置き、手伝うよ?」

 扉を開けたアリアンロッド様は、ヴィアが怒った時に似た笑みを浮かべ、俺の肩を優しく叩いた。





 階段を下り、最下層に着くと、年代物の調度品が備え付けられた大きな部屋で太陽神ににっこりと冷ややかな笑みをヴィアが向けていた。
 ヴィアの美しさが、その表情に凄みを増していて、少しだけ怖かった。
 嫌な予感がする。

「ーーヴィアっ!」

 愛称を呼ぶ俺に気付き、ヴィアは安堵と怒り、悲しみが混ざった表情で駆けた。





◇◆◇◆◇◆





 気が付くと、リヴィアスは天蓋付きの大きなベッドに寝かされていた。
 ゆっくりと身体を起こし、辺りを見回す。
 大きな部屋で、年代を経て、品格のある調度品が備え付けられ、誰かが住んでいるようで、埃等は付いていない。
 ベッドから下り、窓の外を覗く。
 春に咲く花、冬に咲く花等、季節関係なく咲く庭園が見え、場所の特定が出来ず、リヴィアスは困惑する。

「……僕、確か、ダンジョンにいたはずで、アシェル様と太陽神様にお会いした気がしたんだけど……」

 首を傾げ、窓から空を見上げる。
 リヴィアスの天色の目と同じ青い空があり、太陽が輝いている。
 ダンジョンではないのだろうか。
 側にいてくれたはずのラディウスもおらず、不安になる。

(……どうか、アシェル様や父様達が無事でありますように)

 両手を胸の前で組み、目を伏せてリヴィアスは祈る。その時だった。

「ここはダンジョンで、最下層だよ。空が見えるのは私の力の影響だね」

 背後から声が聞こえ、びくりと驚いて、リヴィアスは振り返る。
 金色の髪と目をした美青年ーー太陽神が目の前にいた。

「た、太陽神、様……」

 思わず、リヴィアスは一歩退る。

「あの、アシェル様はどちらにいらっしゃいますか……?」

 太陽神の隣には誰もおらず、自分の側にいてくれたはずのラディウスの安否が気になる。
 リヴィアスは不安に駆られながらも、太陽神に問い掛ける。

「竜神の子? ああ、彼には試練を与えたよ? 君が愛した者だからだと、そう簡単には私の加護は与えないよ。君の元婚約者のような者もいるだろ? 一度限りしか与えられないのだから、見極めないと」

「試練……?」

「そう。試練。死なない程度の試練だよ? 竜神の加護を使っても構わないし、自分の魔力、君が彼のためにと作った薬を使うのも、一緒に来た君や彼の家族達と力を合わせるのも構わないって、かなり譲歩したんだよ。ケルベロス程度なら、戦神の加護を持つ君のお父さんでも倒せるだろう?」

「ケルベロス……!?」

 太陽神の言葉にリヴィアスは大きく目を見開く。
 確かに、父ミストラルなら倒せるかもしれない。
 だが、それでも相手は魔獣と呼ばれる脅威で、通常なら大人数で挑むものだ。
 何が起こるか分からない。
 ケルベロスを倒した瞬間に、隙を突かれて他の魔物が襲ってくるかもしれない。
 平然と言って退ける太陽神に、リヴィアスは眉を寄せる。

「だからといって、アシェル様達は人間です。太陽神様方とは違い、攻撃された時に場合によっては、命を落とすかもしれないんです。その時はどうなさるんですか?」

「その時? その時はその時だよ。君が新しく愛す る人を連れて来て、私の試練を受けたらいいよ。その時も私は譲歩するよ?」

 あっけらかんとした顔と声音で、太陽神はリヴィアスに微笑む。

「どうして、そう簡単に言えるのです? たった一つの命ですよ……?」

 困惑した表情で、リヴィアスは見つめる。

「私は神だからね。人間の命なんて、小さなものだよ。それに試練だって、私の対の月の女神の加護を持つ君と、私の兄の竜神に愛される竜神の子に腹が立ったから決めただけだし。でも、譲歩はしたし、これからも譲歩するよ?」

 子供のように口を膨らませて、太陽神は自分は悪くないといった顔をしている。
 太陽神の言葉に、リヴィアスの中で何かがぷつりと切れる音がした。

「ーーそのような理由で、アシェル様や父様達を危険に晒したのですか……?」

「え……」

 リヴィアスはにっこりと冷ややかな笑みを浮かべた。
 リヴィアスの美しさが、その笑みに凄みを増す。
 空気の圧のような魔力が、太陽神に圧し付けられる。

「ーーヴィアっ!」

 太陽神の背後に見える扉の奥から、ただ一人にしか呼ばれない自分の愛称を呼ぶ声に気付き、リヴィアスはそちらへ目を向ける。
 愛しい人の無事な姿に安堵し、彼と家族達を巻き込んだ太陽神に怒りを感じ、心配させてしまったことに悲しくなり、様々な感情が混ざり、泣きそうな表情でリヴィアスは駆けた。

「アシェル様……っ!」
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