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十四章 太陽神の加護
太陽神の加護
「アシェル様……っ!」
涙を目に溜めて、ラディウスに向かってリヴィアスは駆ける。
太陽神を通り過ぎ、リヴィアスはラディウスの胸に飛び込む。
「ヴィア! ごめん、貴方を守れなかった……」
リヴィアスをしっかりと受け止め、ラディウスは謝る。
細い背中に腕を回すと、リヴィアスは否定するように頭を何度も左右に振る。
リヴィアスもラディウスの背中にゆっくり手を回す。
しっかりと存在を確かめるように服を掴み、リヴィアスは頭をラディウスの胸にぐりぐりと押す。
「ヴィア……? どうした?」
今までにないリヴィアスの行動に、ラディウスは困惑する。
「……せん」
小さな小さな声で、リヴィアスはラディウスに囁く。
「え? ヴィア? もう一度言って」
五感が人より優れているラディウスの聴覚で、ちゃんと聞き取れたが、確認のため、小さな声にもう一度お願いする。
ラディウスの顔が嬉しくて、にやけそうになっている。
「……僕をもう離さないで下さい。僕もアシェル様から離れたくありません……」
震える手でラディウスの服を掴み、胸にしがみついたまま、リヴィアスはぽつりぽつりと呟く。銀色の長い髪の間から覗く、小さな形の良い耳が赤い。
「……うん。俺も離したくない。ヴィアが無事で良かった……」
「アシェル様はお怪我はありませんか? ケルベロスが出たと聞きました……」
まだラディウスの胸に埋め、顔を上げず、リヴィアスは小さく呟く。
「大丈夫だ。ミストラル大公が一撃で仕留めてくれた。誰も怪我はしていない。強くて、尊敬するよ」
ラディウスの言葉に、リヴィアスはほっと安堵する。
ラディウスの服を掴んでいた力が少し緩む。
「それよりもヴィア。貴方の顔を、俺に見せてくれないのか?」
ラディウスの問い掛けに、リヴィアスはびくりと身体を震わす。
「……あの、涙でぐちゃぐちゃなので、あまり見せたくない、です……」
顔を隠すように俯き、リヴィアスはふるふると左右に頭を振る。
「そうか?」
「あっ」
ラディウスはリヴィアスの両頬を両手で挟み、自分に見えるように上げる。
天色の目を潤ませ、目尻に涙を溜めたリヴィアスの顔が間近にある。
目の周りが少し赤く、充血している。
それでも綺麗で美しく、ラディウスはリヴィアスを愛おしく感じる。
吸い込まれるように、リヴィアスの額に触れる。
ラディウスのいきなりの行動に、リヴィアスはきょとんとした表情を浮かべる。目尻から溜まった涙が一筋流れる。
「いつものヴィアも綺麗で可愛いが、泣いてるヴィアも綺麗だ。恥ずかしがらなくていいのに」
「う……あ、あの、ここまでどうやって来られたのですか?」
照れてしまい、リヴィアスは慌てて話題を変えようと、ラディウスに尋ねる。
「ああ、魔物やケルベロスとかは皆で戦って倒してここまで来たんだが、ここから一つ上の層で、月の女神のアリアンロッド様にお会いして、ヴィアが太陽神に怒ってると聞いて、慌てて下りて来たんだ」
「そう、だったのですか……ご心配を掛けてしまって、ごめんなさい。どうしても許せなくて……」
俯いて謝るリヴィアスに苦笑して、ラディウスは頭を撫でる。
「心優しいヴィアが許せない程のことを太陽神様は言ったのか?」
「許せないと思うよ。私が愛し子の立場なら怒るどころか殴ってたね」
両腕を組んで、月の女神アリアンロッドが話に入る。
「わっ」
自分と同じ顔が現れ、リヴィアスは思わず一歩後退した。
「驚かせてごめんね? リヴィ君。私は月の女神で、名前はアリアンロッド。宜しくね」
にっこりと微笑む月の女神アリアンロッドに、リヴィアスは呆然とする。
目の色が違うが、同じ顔の女神に困惑する。
何故、似ているのだろうか。
女神なのに、何故、男性なのだろうか等、疑問が溢れる。
「この顔は元々だから変えられない。私の加護の影響か、私の愛し子は似た顔になる。だから、私とリヴィ君は似ているんだよ。女神なのに男性の身体かというと、私の加護を与えた愛し子の性別に依ってしまうんだよ。本当は女神だよ。太陽神達は女性に加護を与えても男神のままだけど、私だけそうなるんだ」
「僕が、男性だから、女神様も……?」
「そう。でもそこはリヴィ君が悪い訳ではないよ? 性別は流石の神も介入出来ないから。今までも何度かあるから、気にしないで。あ、私のことはアリアンロッドと呼んで」
リヴィアスに似た柔らかい笑みを浮かべ、アリアンロッドはリヴィアスの頭を撫でる。
「はい、宜しくお願い致します。アリアンロッド様」
一礼して、リヴィアスも微笑む。
微笑み合うリヴィアスとアリアンロッドを見て、ラディウスは顔には出さないが内心、悶えた。
二人が可愛い……。
「自己紹介等も済んだことだし、そこの困った太陽神のお仕置きをしようか」
にっこりと笑顔のまま、アリアンロッドは太陽神に一歩、一歩と近付く。
「あ、アリー……そ、その、お仕置きって……」
アリアンロッドの凄みのある笑みを見て、太陽神が怯えの表情を浮かべる。
アリアンロッドが進む数だけ、太陽神も後退する。
「それは自分が一番分かってるんじゃないかな? ベレヌス」
ベレヌスと呼ばれた太陽神は、見ても分かるくらいに冷や汗を流している。
アリアンロッドから圧を感じる。
「……先程のヴィアと似た圧ーー魔力だな。ヴィアに加護を与えているだけあるな」
感心するように、ラディウスはアリアンロッドとベレヌスを見る。
釣られるようにリヴィアスも太陽神と月の女神の遣り取りを見る。
「な、何のことかな……? 私は悪く……」
ない、と続けて言おうとして、アリアンロッドは笑顔でベレヌスの左頬を拳で殴った。
「「あ……」」
アリアンロッドに殴られたベレヌスが吹っ飛ぶのを、呆然とリヴィアスとラディウスは見つめる。
「……神様のお仕置きって、拳なんですね……」
「いや、ヴィア。それは神様によって違うんじゃないか……? 俺も神様にお会いしたのは初めてだが」
感心したように呟くリヴィアスに、思わずラディウスは突っ込む。
「お兄さんの竜神の愛し子だから、ラディウス君に嫉妬して、私の愛し子にも愛されてるから嫉妬するって、どういうつもりかな? それに、色々な神の愛し子まで巻き込んでどうするつもり? 皆、怒ってるけど?」
「え?」
「私がリヴィ君を加護している時点で、ベルにもリヴィ君の状況が見えているよね? それなら分かるよね? 元婚約者には見向きもしなかったリヴィ君がラディウス君に惹かれて、愛されて、愛してるところ」
目を何度も瞬かせて、左頬を押さえながら、座るベレヌスはアリアンロッドを見上げる。
アリアンロッドの言葉に、じわじわとリヴィアスの顔が赤くなっていく。
「見ているんだから、試練だとか無しでラディウス君にすぐ加護を与えられるのに、嫉妬して与えないって何? 試練を与えて、命を落としても、次に新しく愛する人が出来たら連れて来て、また試練を受ければいいって何?」
アリアンロッドの言葉に、ラディウスは眉を寄せて、リヴィアスを見る。
とても不快な表情で、リヴィアスがベレヌスを見ているのにラディウスは気付いた。
「ヴィア、そんなことを言われたのか?」
ラディウスの問いに、リヴィアスは何も言わずに悲しげに俯いた。その表情と沈黙が答えだった。
ベレヌスもばつが悪い表情をしていた。
「アリアンロッド様。大変申し訳ありませんが、ヴィアの心を傷付けるような神様の加護を、私は求めません。私は元々、竜神の加護を持っています。加護を過信するつもりはありませんが、竜神の加護でヴィアを一生守ります」
「そう言うと思った。私がラディウス君と同じ立場なら、同じことを言うよ。こちらの事情で加護を与えたことで二人を巻き込んだのに、あんなことをリヴィ君が言われたら、ラディウス君ならいらないって言うよね」
頷いて、アリアンロッドはラディウスの言葉に理解を示す。
「……悪かった。嫉妬したのは確かにその通りで、私の伴侶のアリーの愛し子にも、兄さんにも愛されてる、兄さんの愛し子が羨ましくて、嫉妬した。だが、試練を与えたのはアリーの愛し子の今までを見た結果で決めた。元婚約者の家族達に裏切られるような形になった。兄さんの愛し子がどうするのか、見たかったんだ」
ばつが悪そうにベレヌスは答えた。
ちらりとリヴィアスを見てから、ベレヌスはアリアンロッドに目を向ける。
リヴィアスを見るベレヌスの目が、少しだけ父が自分を見るような目に似ていた。
「で、見た結果は?」
「……ちゃんとアリーの愛し子を愛しているのが分かったから、加護を与えようと思う……」
ぽつりとベレヌスは呟いた。
そして、立ち上がり、ベレヌスは右手をラディウスに向けた。
光の鱗粉のようなものがラディウスに降り注ぎ、身体が輝く。
「……これで私の加護は与えた。すまなかった」
先程とは打って変わって、申し訳なさそうにベレヌスがリヴィアスとラディウスに謝る。
「ラディウス君に加護を与えた竜神が一番怒ってたから、後で説教されるといいよ、ベル」
腰に手を当て、にっこりと冷ややかな笑みを向け、アリアンロッドはベレヌスに言い放った。
「う……」
「あの、太陽神様。僕のことを心配して下さってありがとうございます」
一礼をして、リヴィアスは微笑む。
「……私の伴侶のアリーの愛し子だから、私にとっても愛し子だよ。心配するに決まってるよ。だが、やり方が悪かった。不快にさせて、傷付けるようなことをして申し訳ない……」
申し訳なさそうに、ベレヌスもリヴィアスとラディウスにもう一度、頭を下げた。
「私もごめんなさい。ベレヌスを止められなくて、二人はもちろん、家族達も巻き込んでしまってごめんなさい」
アリアンロッドも謝ると、リヴィアスが慌てた。
「あの、アリアンロッド様、太陽神様。もう、大丈夫です。謝罪は受け取りました。僕の方こそ、怒ってしまってごめんなさい。アリアンロッド様、僕に加護を与えて下さってありがとうございます」
「こちらこそ、加護を通して、楽しそうにしているリヴィ君が見られて嬉しいよ。ラディウス君と仲良くね。今度、私の加護の使い方を教えに行くよ」
「常時発動ではないのですか?」
「まさか。いくらリヴィ君の魔力が多くても、常時発動していたら、寝たきりだよ。今のリヴィ君は無意識に、想いに応じて使っている状態。それだと咄嗟の時に使えないから、使える訓練が必要だよ。これからは使えていた方がいいよ」
「これからとは、どういうことでしょうか? 何かあるのですか?」
リヴィアスの隣で聞いていたラディウスが、アリアンロッドを見る。
「……あまり、不安にさせたくないのだけど、リヴィ君の元婚約者の弟が動きそうなんだよ」
「え? でも、彼は加護を封じる魔導具を着けられ、力仕事等をさせる罰として鉱山に収容されたのでは……?」
「彼の加護を利用して、リヴィ君を手に入れようとしている者達がいるみたいなんだ。脱走させようとしているみたい。彼の闇神の加護は少し特殊で、闇神本人も与えたものではないから、気になって調べてるところだから、分かったら伝えるね」
「薬神と豊穣の女神の加護には気付いていないが、アリーの加護で愛し子は美しい。それだけでも手に入れようとする理由にはなる」
アリアンロッドとベレヌスの言葉に、リヴィアスは俯き、ラディウスは眉を寄せる。
「だから、ラディウス君もだけど、二人には加護がちゃんと使えるようにして欲しいんだよ」
「近々、私達が行き、二人に使い方を教える。その時には加護を通して伝えるよ。それまでは気を付けて欲しいんだ」
「分かりました。父達にもこのことを伝えてもいいですか?」
「もちろん。リヴィ君を守る手はいくつあっても良いくらいだから」
リヴィアスに近付き、アリアンロッドは頭を撫でる。
「詳しい話は今度、話すから、それまでは気を付けて。それと、薬を作る時は身体の負担になり過ぎない作り方をしてね?」
にっこりとアリアンロッドに微笑まれ、リヴィアスはゆっくり目を逸らした。
※いつも読んで下さり、ありがとうございます!
ついに今日でBL大賞も終了ですね。
投票等して下さいまして、本当にありがとうございます!
初めてのジャンルの小説なのに、月前半はずっと一位で、ひえ~と驚きと怯えで、後半は二位をキープしていて、何がどうしてこんなことに? と思いつつ、更新していました。
感想も頂き、とても嬉しかったです。
お気に入り登録も気が付けば、4570人を超えていまして、今までの私の小説の中で過去最高人数でこちらも驚きました。
期間中、たくさんのお気に入り登録をして下さり、ありがとうございます!
BL大賞の結果はどうなるのか分かりませんが、とてもハラハラドキドキな一ヶ月を送れました。
楽しいお祭りに参加出来て、とても楽しかったです。
「婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!」はまだまだ続きますので、宜しくお願い致します!
狂気じみた彼がアレで終わらないだろうと思われた方もいらっしゃるかなと思いますが、その通りでした。あちらも近々動く予定です。
とりあえず、明日は更新をお休みさせて頂きます。
これからも、楽しんで読んで頂けるように更新頑張ります!
宜しくお願い致します!
涙を目に溜めて、ラディウスに向かってリヴィアスは駆ける。
太陽神を通り過ぎ、リヴィアスはラディウスの胸に飛び込む。
「ヴィア! ごめん、貴方を守れなかった……」
リヴィアスをしっかりと受け止め、ラディウスは謝る。
細い背中に腕を回すと、リヴィアスは否定するように頭を何度も左右に振る。
リヴィアスもラディウスの背中にゆっくり手を回す。
しっかりと存在を確かめるように服を掴み、リヴィアスは頭をラディウスの胸にぐりぐりと押す。
「ヴィア……? どうした?」
今までにないリヴィアスの行動に、ラディウスは困惑する。
「……せん」
小さな小さな声で、リヴィアスはラディウスに囁く。
「え? ヴィア? もう一度言って」
五感が人より優れているラディウスの聴覚で、ちゃんと聞き取れたが、確認のため、小さな声にもう一度お願いする。
ラディウスの顔が嬉しくて、にやけそうになっている。
「……僕をもう離さないで下さい。僕もアシェル様から離れたくありません……」
震える手でラディウスの服を掴み、胸にしがみついたまま、リヴィアスはぽつりぽつりと呟く。銀色の長い髪の間から覗く、小さな形の良い耳が赤い。
「……うん。俺も離したくない。ヴィアが無事で良かった……」
「アシェル様はお怪我はありませんか? ケルベロスが出たと聞きました……」
まだラディウスの胸に埋め、顔を上げず、リヴィアスは小さく呟く。
「大丈夫だ。ミストラル大公が一撃で仕留めてくれた。誰も怪我はしていない。強くて、尊敬するよ」
ラディウスの言葉に、リヴィアスはほっと安堵する。
ラディウスの服を掴んでいた力が少し緩む。
「それよりもヴィア。貴方の顔を、俺に見せてくれないのか?」
ラディウスの問い掛けに、リヴィアスはびくりと身体を震わす。
「……あの、涙でぐちゃぐちゃなので、あまり見せたくない、です……」
顔を隠すように俯き、リヴィアスはふるふると左右に頭を振る。
「そうか?」
「あっ」
ラディウスはリヴィアスの両頬を両手で挟み、自分に見えるように上げる。
天色の目を潤ませ、目尻に涙を溜めたリヴィアスの顔が間近にある。
目の周りが少し赤く、充血している。
それでも綺麗で美しく、ラディウスはリヴィアスを愛おしく感じる。
吸い込まれるように、リヴィアスの額に触れる。
ラディウスのいきなりの行動に、リヴィアスはきょとんとした表情を浮かべる。目尻から溜まった涙が一筋流れる。
「いつものヴィアも綺麗で可愛いが、泣いてるヴィアも綺麗だ。恥ずかしがらなくていいのに」
「う……あ、あの、ここまでどうやって来られたのですか?」
照れてしまい、リヴィアスは慌てて話題を変えようと、ラディウスに尋ねる。
「ああ、魔物やケルベロスとかは皆で戦って倒してここまで来たんだが、ここから一つ上の層で、月の女神のアリアンロッド様にお会いして、ヴィアが太陽神に怒ってると聞いて、慌てて下りて来たんだ」
「そう、だったのですか……ご心配を掛けてしまって、ごめんなさい。どうしても許せなくて……」
俯いて謝るリヴィアスに苦笑して、ラディウスは頭を撫でる。
「心優しいヴィアが許せない程のことを太陽神様は言ったのか?」
「許せないと思うよ。私が愛し子の立場なら怒るどころか殴ってたね」
両腕を組んで、月の女神アリアンロッドが話に入る。
「わっ」
自分と同じ顔が現れ、リヴィアスは思わず一歩後退した。
「驚かせてごめんね? リヴィ君。私は月の女神で、名前はアリアンロッド。宜しくね」
にっこりと微笑む月の女神アリアンロッドに、リヴィアスは呆然とする。
目の色が違うが、同じ顔の女神に困惑する。
何故、似ているのだろうか。
女神なのに、何故、男性なのだろうか等、疑問が溢れる。
「この顔は元々だから変えられない。私の加護の影響か、私の愛し子は似た顔になる。だから、私とリヴィ君は似ているんだよ。女神なのに男性の身体かというと、私の加護を与えた愛し子の性別に依ってしまうんだよ。本当は女神だよ。太陽神達は女性に加護を与えても男神のままだけど、私だけそうなるんだ」
「僕が、男性だから、女神様も……?」
「そう。でもそこはリヴィ君が悪い訳ではないよ? 性別は流石の神も介入出来ないから。今までも何度かあるから、気にしないで。あ、私のことはアリアンロッドと呼んで」
リヴィアスに似た柔らかい笑みを浮かべ、アリアンロッドはリヴィアスの頭を撫でる。
「はい、宜しくお願い致します。アリアンロッド様」
一礼して、リヴィアスも微笑む。
微笑み合うリヴィアスとアリアンロッドを見て、ラディウスは顔には出さないが内心、悶えた。
二人が可愛い……。
「自己紹介等も済んだことだし、そこの困った太陽神のお仕置きをしようか」
にっこりと笑顔のまま、アリアンロッドは太陽神に一歩、一歩と近付く。
「あ、アリー……そ、その、お仕置きって……」
アリアンロッドの凄みのある笑みを見て、太陽神が怯えの表情を浮かべる。
アリアンロッドが進む数だけ、太陽神も後退する。
「それは自分が一番分かってるんじゃないかな? ベレヌス」
ベレヌスと呼ばれた太陽神は、見ても分かるくらいに冷や汗を流している。
アリアンロッドから圧を感じる。
「……先程のヴィアと似た圧ーー魔力だな。ヴィアに加護を与えているだけあるな」
感心するように、ラディウスはアリアンロッドとベレヌスを見る。
釣られるようにリヴィアスも太陽神と月の女神の遣り取りを見る。
「な、何のことかな……? 私は悪く……」
ない、と続けて言おうとして、アリアンロッドは笑顔でベレヌスの左頬を拳で殴った。
「「あ……」」
アリアンロッドに殴られたベレヌスが吹っ飛ぶのを、呆然とリヴィアスとラディウスは見つめる。
「……神様のお仕置きって、拳なんですね……」
「いや、ヴィア。それは神様によって違うんじゃないか……? 俺も神様にお会いしたのは初めてだが」
感心したように呟くリヴィアスに、思わずラディウスは突っ込む。
「お兄さんの竜神の愛し子だから、ラディウス君に嫉妬して、私の愛し子にも愛されてるから嫉妬するって、どういうつもりかな? それに、色々な神の愛し子まで巻き込んでどうするつもり? 皆、怒ってるけど?」
「え?」
「私がリヴィ君を加護している時点で、ベルにもリヴィ君の状況が見えているよね? それなら分かるよね? 元婚約者には見向きもしなかったリヴィ君がラディウス君に惹かれて、愛されて、愛してるところ」
目を何度も瞬かせて、左頬を押さえながら、座るベレヌスはアリアンロッドを見上げる。
アリアンロッドの言葉に、じわじわとリヴィアスの顔が赤くなっていく。
「見ているんだから、試練だとか無しでラディウス君にすぐ加護を与えられるのに、嫉妬して与えないって何? 試練を与えて、命を落としても、次に新しく愛する人が出来たら連れて来て、また試練を受ければいいって何?」
アリアンロッドの言葉に、ラディウスは眉を寄せて、リヴィアスを見る。
とても不快な表情で、リヴィアスがベレヌスを見ているのにラディウスは気付いた。
「ヴィア、そんなことを言われたのか?」
ラディウスの問いに、リヴィアスは何も言わずに悲しげに俯いた。その表情と沈黙が答えだった。
ベレヌスもばつが悪い表情をしていた。
「アリアンロッド様。大変申し訳ありませんが、ヴィアの心を傷付けるような神様の加護を、私は求めません。私は元々、竜神の加護を持っています。加護を過信するつもりはありませんが、竜神の加護でヴィアを一生守ります」
「そう言うと思った。私がラディウス君と同じ立場なら、同じことを言うよ。こちらの事情で加護を与えたことで二人を巻き込んだのに、あんなことをリヴィ君が言われたら、ラディウス君ならいらないって言うよね」
頷いて、アリアンロッドはラディウスの言葉に理解を示す。
「……悪かった。嫉妬したのは確かにその通りで、私の伴侶のアリーの愛し子にも、兄さんにも愛されてる、兄さんの愛し子が羨ましくて、嫉妬した。だが、試練を与えたのはアリーの愛し子の今までを見た結果で決めた。元婚約者の家族達に裏切られるような形になった。兄さんの愛し子がどうするのか、見たかったんだ」
ばつが悪そうにベレヌスは答えた。
ちらりとリヴィアスを見てから、ベレヌスはアリアンロッドに目を向ける。
リヴィアスを見るベレヌスの目が、少しだけ父が自分を見るような目に似ていた。
「で、見た結果は?」
「……ちゃんとアリーの愛し子を愛しているのが分かったから、加護を与えようと思う……」
ぽつりとベレヌスは呟いた。
そして、立ち上がり、ベレヌスは右手をラディウスに向けた。
光の鱗粉のようなものがラディウスに降り注ぎ、身体が輝く。
「……これで私の加護は与えた。すまなかった」
先程とは打って変わって、申し訳なさそうにベレヌスがリヴィアスとラディウスに謝る。
「ラディウス君に加護を与えた竜神が一番怒ってたから、後で説教されるといいよ、ベル」
腰に手を当て、にっこりと冷ややかな笑みを向け、アリアンロッドはベレヌスに言い放った。
「う……」
「あの、太陽神様。僕のことを心配して下さってありがとうございます」
一礼をして、リヴィアスは微笑む。
「……私の伴侶のアリーの愛し子だから、私にとっても愛し子だよ。心配するに決まってるよ。だが、やり方が悪かった。不快にさせて、傷付けるようなことをして申し訳ない……」
申し訳なさそうに、ベレヌスもリヴィアスとラディウスにもう一度、頭を下げた。
「私もごめんなさい。ベレヌスを止められなくて、二人はもちろん、家族達も巻き込んでしまってごめんなさい」
アリアンロッドも謝ると、リヴィアスが慌てた。
「あの、アリアンロッド様、太陽神様。もう、大丈夫です。謝罪は受け取りました。僕の方こそ、怒ってしまってごめんなさい。アリアンロッド様、僕に加護を与えて下さってありがとうございます」
「こちらこそ、加護を通して、楽しそうにしているリヴィ君が見られて嬉しいよ。ラディウス君と仲良くね。今度、私の加護の使い方を教えに行くよ」
「常時発動ではないのですか?」
「まさか。いくらリヴィ君の魔力が多くても、常時発動していたら、寝たきりだよ。今のリヴィ君は無意識に、想いに応じて使っている状態。それだと咄嗟の時に使えないから、使える訓練が必要だよ。これからは使えていた方がいいよ」
「これからとは、どういうことでしょうか? 何かあるのですか?」
リヴィアスの隣で聞いていたラディウスが、アリアンロッドを見る。
「……あまり、不安にさせたくないのだけど、リヴィ君の元婚約者の弟が動きそうなんだよ」
「え? でも、彼は加護を封じる魔導具を着けられ、力仕事等をさせる罰として鉱山に収容されたのでは……?」
「彼の加護を利用して、リヴィ君を手に入れようとしている者達がいるみたいなんだ。脱走させようとしているみたい。彼の闇神の加護は少し特殊で、闇神本人も与えたものではないから、気になって調べてるところだから、分かったら伝えるね」
「薬神と豊穣の女神の加護には気付いていないが、アリーの加護で愛し子は美しい。それだけでも手に入れようとする理由にはなる」
アリアンロッドとベレヌスの言葉に、リヴィアスは俯き、ラディウスは眉を寄せる。
「だから、ラディウス君もだけど、二人には加護がちゃんと使えるようにして欲しいんだよ」
「近々、私達が行き、二人に使い方を教える。その時には加護を通して伝えるよ。それまでは気を付けて欲しいんだ」
「分かりました。父達にもこのことを伝えてもいいですか?」
「もちろん。リヴィ君を守る手はいくつあっても良いくらいだから」
リヴィアスに近付き、アリアンロッドは頭を撫でる。
「詳しい話は今度、話すから、それまでは気を付けて。それと、薬を作る時は身体の負担になり過ぎない作り方をしてね?」
にっこりとアリアンロッドに微笑まれ、リヴィアスはゆっくり目を逸らした。
※いつも読んで下さり、ありがとうございます!
ついに今日でBL大賞も終了ですね。
投票等して下さいまして、本当にありがとうございます!
初めてのジャンルの小説なのに、月前半はずっと一位で、ひえ~と驚きと怯えで、後半は二位をキープしていて、何がどうしてこんなことに? と思いつつ、更新していました。
感想も頂き、とても嬉しかったです。
お気に入り登録も気が付けば、4570人を超えていまして、今までの私の小説の中で過去最高人数でこちらも驚きました。
期間中、たくさんのお気に入り登録をして下さり、ありがとうございます!
BL大賞の結果はどうなるのか分かりませんが、とてもハラハラドキドキな一ヶ月を送れました。
楽しいお祭りに参加出来て、とても楽しかったです。
「婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!」はまだまだ続きますので、宜しくお願い致します!
狂気じみた彼がアレで終わらないだろうと思われた方もいらっしゃるかなと思いますが、その通りでした。あちらも近々動く予定です。
とりあえず、明日は更新をお休みさせて頂きます。
これからも、楽しんで読んで頂けるように更新頑張ります!
宜しくお願い致します!
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