72 / 82
十五章 本婚約
婚約したのだし……
「……なぁ、ヴィア。婚約したのだし、エリスロースで婚約パーティーをしないか?」
レイディアンス大公家の専用の薬を作る小屋で、辺境領の薬屋へ卸すポーションを作っているリヴィアスを見つめ、ラディウスは笑顔で提案する。
「え……っと、確かに王太子殿下が婚約するので、婚約パーティーは必要だと思いますが、いつ、でしょうか?」
ポーションを精製中の鍋を掻き回し、リヴィアスは目を瞬かせる。
「出来るなら今、と言いたいが、準備は完璧にしたいから、二ヶ月後くらいだろうか」
「二ヶ月……」
鍋の火を消して、準備に必要な物を思い浮かべるように天井を見上げながら、リヴィアスは呟く。
「あの、衣装はどうなさいますか? 僕はまだ用意出来てないのですが……」
困った表情で、リヴィアスはラディウスを見上げる。
いつ正式な婚約になるか分からなかったので、衣装や装飾品は用意出来ていない。
お互いに合わせるのか、それともそれぞれで用意するのかをラディウスや家族、エリスロース竜王家に聞いていなかったのもあり、衣装と装飾品は後回しにしていた。
リヴィアスが用意していたのは、婚約パーティーに招待する人達の一覧くらいだ。
「その話もしたかったんだ」
「も……?」
満面の笑みのラディウスの言葉に、リヴィアスは首を傾げる。
「衣装はもちろん、装飾品、パーティーの招待状の意匠、テーブルクロスの色、飾る花、食べ物、飲み物、食器類等、パーティーに必要な物についてと、結婚式の希望場所、規模、衣装……ああ、これは婚約パーティーと聞く内容は同じだな。それと、結婚後の住居の内装や調度品、衣類、薬を作る部屋の内装、薬を作るために必要な道具等、必要な物を聞きたい」
笑顔で告げるラディウスに、リヴィアスは呆然とする。
「ヴィアはどうする? 何を希望する?」
「あの、アシェル様。婚約パーティーについてなら分かるのですが、結婚式や結婚後についての内容は早過ぎませんか……?」
呆然から困惑に変わり、リヴィアスは笑顔で問い掛けるラディウスを見上げる。
衣装、装飾品、招待状は自分達で、というのは理解出来るが、テーブルクロスの色、飾る花、食べ物、飲み物、食器類等、パーティーに必要な物は王太子が率先して準備するものなのだろうか。
どちらかというと、嫁ぐことになるリヴィアスや義母になるミーティア王妃ではないだろうか……。
国によって違うのだろうか。
エリスロース竜王国はもちろん、他国の風習等を詳しく知らないことに気付き、リヴィアスは勉強しなくては、と心に留める。
「準備は早いに越したことはない。王太子の婚約パーティーや結婚式だから、盛大にすることになる。その分、招待客も準備も多くなる。俺もヴィアも後悔のない婚約パーティーや結婚式がしたい」
真っ直ぐにラディウスはリヴィアスを見つめる。
「後悔のない……」
「あの時、他の者達に見せつけておけば良かったとか、もう少し牽制しておけば良かったとか、色々後悔はしたくないだろう?」
「……それは、殿下がする後悔だろ……」
思わず、黙っていられなくなったレインが呆れた声で突っ込んだ。
「リヴィを困らせるなよ、殿下。やっと正式に婚約出来たのに、ミストラル叔父上に狙われるぞ。流石に、王弟で大公殿下の叔父上が隣国の王太子殿下にエリクサー案件はしないと思うが……」
「エリクサー案件……?」
初めて聞く言葉にリヴィアスは目を何度も瞬かせる。
「あー……その、符牒というか、言葉遊びというか……。所謂、ミストラル叔父上に斬られたら、エリクサーでないと治らないぞ、というか……。レイディアンスやプロミネンスでは、ミストラル叔父上の怒りの対象になるなということも込めて、“エリクサー案件”って言ってる。だから、叔父上が大事にしている家族の中でも、リヴィはステラ叔母上の次に庇護対象で、多分、殿下はリヴィを泣かせたら、斬られる。確実に」
「そんなこと考えなくても分かるだろう。だが、ミストラル大公とは少しずつ交流しているから、前よりは友好的だから、慢心しないように気を付ける」
「あの、アシェル様、レイン兄様。父様はいきなり斬ったりはしませんよ……?」
「……ダンジョンで見たミストラル叔父上は、いきなり斬ったけどな。魔物やケルベロスを」
「迷うことなくな」
レインとラディウスがきっぱりと言い放った。少し顔色が青い。剣に躊躇いがなかったのを思い出したからだ。
「そ、それは、魔物だからであって、人にはしないですよ……?」
首を傾げて、リヴィアスはラディウスとレインを見上げる。
「い、いや、リヴィ。叔父上は人でも……」
従弟の純粋な眼差しで見つめられ、レインの口が止まる。
人でも躊躇いなく斬ると思う、とまでは言えなかった。
未成年の曇りなき眼が、成人して数年の青年には眩しかった。
いつの間に、純粋に人を見ることが出来なくなったのだろう、とレインはふと思ってしまった。
(まぁ、叔父上の躊躇いもなく斬ったのを俺が知っているのは、凶悪な盗賊団だったり、幼いリヴィを性的に見ていた自称冒険者で重犯罪者だったりで、斬られても仕方ない連中だったけどさ……)
思わず、レインは少し落ち着こうと、小さく息を吐く。
「ま、まぁ、とにかく。リヴィはさ、目下の問題として、婚約パーティーはどんな想像をしてる? 殿下のも聞きたいが、俺はリヴィのことを聞きたいんだ」
「何故、レインが聞くんだ」
不機嫌な声と表情を隠すこともなく、ラディウスはレインを睨む。
「母上から聞かれてるんだよ。エリスロース竜王国での、リヴィの後見する家はウチだろ? いくらブラカーシュ王国の準王族とはいえ、後見があった方が殿下の伴侶の座を狙う連中の牽制をしやすい。母上は叔母上とリヴィを目に入れても痛くないくらいの溺愛っぷりだから、準備を手伝いたいんだよ」
「……その話を聞くと、俺は何人の屍を越えないとヴィアに触れられないんだ……? まぁ、触れるが」
リヴィアスをぎゅっと抱き締めながら、ラディウスはレインを見る。
抱き締められたリヴィアスは顔を赤くして、じたばたと身体を動かす。
「触れながら、言うんじゃねぇよ。屍の人数は多分、半端じゃないと思うぞ。まぁ、頑張れ」
「……やる気のない頑張れを言われてもな」
心が籠ってない応援をレインにされ、ラディウスは溜め息を吐く。
「とりあえず、ヴィア。まずは婚約指輪と衣装のデザインはどうする?」
「あの、その衣装のことで少しご相談があるのですが……」
リヴィアスが小さく笑みを浮かべながら、ラディウスを見上げた。
レイディアンス大公家の専用の薬を作る小屋で、辺境領の薬屋へ卸すポーションを作っているリヴィアスを見つめ、ラディウスは笑顔で提案する。
「え……っと、確かに王太子殿下が婚約するので、婚約パーティーは必要だと思いますが、いつ、でしょうか?」
ポーションを精製中の鍋を掻き回し、リヴィアスは目を瞬かせる。
「出来るなら今、と言いたいが、準備は完璧にしたいから、二ヶ月後くらいだろうか」
「二ヶ月……」
鍋の火を消して、準備に必要な物を思い浮かべるように天井を見上げながら、リヴィアスは呟く。
「あの、衣装はどうなさいますか? 僕はまだ用意出来てないのですが……」
困った表情で、リヴィアスはラディウスを見上げる。
いつ正式な婚約になるか分からなかったので、衣装や装飾品は用意出来ていない。
お互いに合わせるのか、それともそれぞれで用意するのかをラディウスや家族、エリスロース竜王家に聞いていなかったのもあり、衣装と装飾品は後回しにしていた。
リヴィアスが用意していたのは、婚約パーティーに招待する人達の一覧くらいだ。
「その話もしたかったんだ」
「も……?」
満面の笑みのラディウスの言葉に、リヴィアスは首を傾げる。
「衣装はもちろん、装飾品、パーティーの招待状の意匠、テーブルクロスの色、飾る花、食べ物、飲み物、食器類等、パーティーに必要な物についてと、結婚式の希望場所、規模、衣装……ああ、これは婚約パーティーと聞く内容は同じだな。それと、結婚後の住居の内装や調度品、衣類、薬を作る部屋の内装、薬を作るために必要な道具等、必要な物を聞きたい」
笑顔で告げるラディウスに、リヴィアスは呆然とする。
「ヴィアはどうする? 何を希望する?」
「あの、アシェル様。婚約パーティーについてなら分かるのですが、結婚式や結婚後についての内容は早過ぎませんか……?」
呆然から困惑に変わり、リヴィアスは笑顔で問い掛けるラディウスを見上げる。
衣装、装飾品、招待状は自分達で、というのは理解出来るが、テーブルクロスの色、飾る花、食べ物、飲み物、食器類等、パーティーに必要な物は王太子が率先して準備するものなのだろうか。
どちらかというと、嫁ぐことになるリヴィアスや義母になるミーティア王妃ではないだろうか……。
国によって違うのだろうか。
エリスロース竜王国はもちろん、他国の風習等を詳しく知らないことに気付き、リヴィアスは勉強しなくては、と心に留める。
「準備は早いに越したことはない。王太子の婚約パーティーや結婚式だから、盛大にすることになる。その分、招待客も準備も多くなる。俺もヴィアも後悔のない婚約パーティーや結婚式がしたい」
真っ直ぐにラディウスはリヴィアスを見つめる。
「後悔のない……」
「あの時、他の者達に見せつけておけば良かったとか、もう少し牽制しておけば良かったとか、色々後悔はしたくないだろう?」
「……それは、殿下がする後悔だろ……」
思わず、黙っていられなくなったレインが呆れた声で突っ込んだ。
「リヴィを困らせるなよ、殿下。やっと正式に婚約出来たのに、ミストラル叔父上に狙われるぞ。流石に、王弟で大公殿下の叔父上が隣国の王太子殿下にエリクサー案件はしないと思うが……」
「エリクサー案件……?」
初めて聞く言葉にリヴィアスは目を何度も瞬かせる。
「あー……その、符牒というか、言葉遊びというか……。所謂、ミストラル叔父上に斬られたら、エリクサーでないと治らないぞ、というか……。レイディアンスやプロミネンスでは、ミストラル叔父上の怒りの対象になるなということも込めて、“エリクサー案件”って言ってる。だから、叔父上が大事にしている家族の中でも、リヴィはステラ叔母上の次に庇護対象で、多分、殿下はリヴィを泣かせたら、斬られる。確実に」
「そんなこと考えなくても分かるだろう。だが、ミストラル大公とは少しずつ交流しているから、前よりは友好的だから、慢心しないように気を付ける」
「あの、アシェル様、レイン兄様。父様はいきなり斬ったりはしませんよ……?」
「……ダンジョンで見たミストラル叔父上は、いきなり斬ったけどな。魔物やケルベロスを」
「迷うことなくな」
レインとラディウスがきっぱりと言い放った。少し顔色が青い。剣に躊躇いがなかったのを思い出したからだ。
「そ、それは、魔物だからであって、人にはしないですよ……?」
首を傾げて、リヴィアスはラディウスとレインを見上げる。
「い、いや、リヴィ。叔父上は人でも……」
従弟の純粋な眼差しで見つめられ、レインの口が止まる。
人でも躊躇いなく斬ると思う、とまでは言えなかった。
未成年の曇りなき眼が、成人して数年の青年には眩しかった。
いつの間に、純粋に人を見ることが出来なくなったのだろう、とレインはふと思ってしまった。
(まぁ、叔父上の躊躇いもなく斬ったのを俺が知っているのは、凶悪な盗賊団だったり、幼いリヴィを性的に見ていた自称冒険者で重犯罪者だったりで、斬られても仕方ない連中だったけどさ……)
思わず、レインは少し落ち着こうと、小さく息を吐く。
「ま、まぁ、とにかく。リヴィはさ、目下の問題として、婚約パーティーはどんな想像をしてる? 殿下のも聞きたいが、俺はリヴィのことを聞きたいんだ」
「何故、レインが聞くんだ」
不機嫌な声と表情を隠すこともなく、ラディウスはレインを睨む。
「母上から聞かれてるんだよ。エリスロース竜王国での、リヴィの後見する家はウチだろ? いくらブラカーシュ王国の準王族とはいえ、後見があった方が殿下の伴侶の座を狙う連中の牽制をしやすい。母上は叔母上とリヴィを目に入れても痛くないくらいの溺愛っぷりだから、準備を手伝いたいんだよ」
「……その話を聞くと、俺は何人の屍を越えないとヴィアに触れられないんだ……? まぁ、触れるが」
リヴィアスをぎゅっと抱き締めながら、ラディウスはレインを見る。
抱き締められたリヴィアスは顔を赤くして、じたばたと身体を動かす。
「触れながら、言うんじゃねぇよ。屍の人数は多分、半端じゃないと思うぞ。まぁ、頑張れ」
「……やる気のない頑張れを言われてもな」
心が籠ってない応援をレインにされ、ラディウスは溜め息を吐く。
「とりあえず、ヴィア。まずは婚約指輪と衣装のデザインはどうする?」
「あの、その衣装のことで少しご相談があるのですが……」
リヴィアスが小さく笑みを浮かべながら、ラディウスを見上げた。
あなたにおすすめの小説
あなたが愛人を作るのなら
あんど もあ
ファンタジー
結婚して八年の夫が、愛人を作った。それも私の推しの女優を! 「君と違って彼女には才能がある」と言う。ならば、私も才能のある愛人を持つ事にいたしましょう。愛人の才能を花開かせる事が出来るのはどちら?
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※短編です。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4800文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。