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十六章 婚約パーティー
決着~婚約パーティー
「リヴィアス! 助けに来たぞ!」
勢い良く開け放たれた扉の前で、アルギロスが叫ぶ。その後ろでベーゼ、くすんだ灰色の髪、とても暗い赤色と灰色が混ざった鈍色の目、顎の尖った少し神経質そうな顔をした男性が立っている。三人共、ラディウス達に守られているリヴィアスに目を向けている。
「助ける? それはどういう意味だ?」
眉を寄せ、ラディウスは守るようにリヴィアスの肩を抱く。
「まるで、私達が大事な弟を危険に晒しているような言い草だな。ブラカーシュ、エリスロース両国の王族に対する不敬を含め、分かっていて言っているのか?」
胸の前で腕を組んで、グレイシアが鋭く目を細め、アルギロスを見据える。
「あ、義兄上、そんなつもりは……」
「前にも言ったはずだ。弟と婚約中にも私はお前に義兄と呼ぶ許可をした覚えもない。婚約も即日破棄され、弟を散々裏切り、罪人として鉱山に収容されたはずなのに、脱獄するような者に義兄と呼ばれる筋合いはない。不快だ」
不快な表情を浮かべてグレイシアが言うと、アルギロスの顔が歪む。
「ち、ちが……」
「そもそもの話だが、我が婚約者殿を助けに来たとは、どういう意味だ?」
グレイシアと同じく不快な表情を浮かべ、ラディウスはアルギロス達三人を見る。
「……リヴィアスが、エリスロースの王太子に無理矢理婚約させられたと、聞いたから……」
ラディウス達に鋭い目で見られ、ばつが悪そうにアルギロスは呟く。
元婚約者の言葉に、リヴィアスは不快そうに眉を寄せる。
その表情を見て、アルギロスはショックを受けた顔になる。
「ほぉ? 誰に?」
片眉を上げ、ラディウスは真紅色の眼を細める。
「……あ、イスキオス、殿、に……」
ちらりと後ろに立つ、くすんだ灰色の髪の男性をアルギロスは見る。
イスキオスと呼ばれた男性は、ラディウス達を挑発するように肩を竦める。
その態度に、グレイシアの周囲に冷たい空気が流れる。気付いたリュミエールがグレイシアの肩を叩く。
「ーー私は、ラディウス殿下に無理矢理婚約をさせられておりません。私の意思で、殿下との婚約を受け入れました。私や殿下のことを知りもしない方の言葉を鵜呑みにされるのは、相変わらずですね、ウィキッド子爵令息」
静かに冷めた声で、婚約破棄に至った原因を遠回しにリヴィアスは告げる。
「あ、リヴィアス、違う……。俺は、本当に、無理矢理なら、助けたくて……。また、婚約したくて……」
「今まで、私のことを否定ばかりして、装飾品のように扱っていた方に助けてもらいたくありません。無理矢理? 六年間、無理矢理、私の意思を押さえつけていたのは、ウィキッド子爵令息ではありませんか。そのような方ともう一度、婚約だなんて、お断りです」
冷え冷えとした笑みを浮かべ、リヴィアスは尚も告げる。
『お前は効果の高い薬作りしか価値がない』
『お前を娶ってあげるのは俺だけだ。他の者なんて、お前には見向きもしない』
『お前を大事にしてやってるんだから、俺に尽くし、利益を齎すのがお前の役目だろ?』
六年間、アルギロスと婚約していた時に何度も言われた言葉をリヴィアスは声に出す。
傷付き、心に刺さり続けた言葉。
婚約破棄し、離れられて、新しく結んだ婚約者に愛されていると感じながらも、尚も付いて回る、鋭い刃で心を抉り続ける言葉。
その言われた言葉を聞き、アルギロスも、グレイシア達も目を見開く。
リヴィアスを大事に想うグレイシア達のアルギロスを見る目が、更に鋭くなる。
ラディウスはリヴィアスを支えるように、肩を抱く手に力を入れる。
「私はウィキッド子爵令息に言われた言葉、忘れておりません。傷付いていることを感じ取り、私の心を支えて下さったのは、ラディウス殿下です。ウィキッド子爵令息は私にしましたか?」
誰にも傷付いた言葉を言えずにいたのに、感じ取って、優しく包んでくれたのはラディウスだ。
傷付けたと思ってもいない元婚約者との再婚約だなんて、願い下げだ。
傍で支えてくれるラディウスの温もりを感じ、勇気をもらったリヴィアスはアルギロスを見据える。
「あのまま、先日のパーティーでの国王陛下の判決を受け入れ、罪を償っていれば、蒸し返すつもりはありませんでした。ですが、言わないと分からないようですので、言います。私は、ウィキッド子爵令息とは一生関わりたくありません。これ以上、私の前に現れないで下さい」
リヴィアスの拒絶の言葉に、アルギロスは震える。
「そ、そんな……リヴィアス……俺は……」
ゆっくりと床に、アルギロスは膝から崩れ落ちる。
兄の様子を見て、ベーゼの口元が歪む。
それを見たリヴィアスは、ベーゼにも目を向ける。
「……ベーゼ卿、貴方もです。私は貴方とも一生関わりたくありません」
「どうしてですか?! 僕はリヴィアス様に酷いことを言っていませんし、貴方に優しく声を掛けてましたよね?! 何故、僕とも関わりたくないのですか!?」
「先日のパーティーの時、私を拉致しようとしましたよね? そして、今も」
まとわりつこうとする風を白色と銀色が混ざった魔力、月白色の魔力、金色の魔力が弾く。眉を寄せながら言うリヴィアスの言葉に、ベーゼはビクリと肩を揺らす。
「……そうだな。頃合いを見ながら、悪神の加護を使うつもりで、リヴィアスにちょっかいを掛けているな。私もラディウス王太子も防いでいるが」
リヴィアスに同意しながら、リュミエールが不敵に笑う。
リュミエールの金色の目と合い、ベーゼの身体が揺れる。
「お、王太子殿下……まさか……」
「度が過ぎた悪戯に、私が気付かないと思ったのか? 先程から何度もリヴィアスに触れようとしておきながら」
「空と竜、太陽は相性が良い。私の大事な愛しい婚約者を簡単に奪えると思うなよ」
両国の王太子の金色の目と真紅色の目が、鋭くベーゼに刺さる。
「く、空神の、加護を……?! パーティーの時はなかったのに!」
「リヴィアスに対して、あまりにも悪戯が過ぎるから、私に与えて下さったようだ。陛下と親権者のウィキッド子爵からも許可を得ている。本当なら子爵が命を賭けてお前を封じようとしていたが、私が止めた。有能な子爵を失うのは惜しい。命潰えるまで悪神の加護が使えないように、お前の加護を全て封じる」
リュミエールの言葉が圧力となって、ベーゼの身体に見えない重しがのしかかる。同時に使おうとしていた悪神の加護が使えなくなっていることに、ベーゼは気付く。
あと、少しだったのに……!
そう訴えるような目をリヴィアスに向け、ベーゼは床に膝を突いて唇を噛んだ。
「さぁ、最後はそちらだが……我が従弟殿をどうするつもりだった? イスキオス・ペイン・カース」
金色の目を細め、リュミエールはイスキオスと呼ばれた男性を見る。
「……使えない兄弟ですね。カースの血を継いでるくせに、神々の加護を使いこなすことも出来ないとは」
溜め息混じりにイスキオスが冷めた表情で、座り込むアルギロスとベーゼを見下ろす。
イスキオスの様子を見て、ラディウスが警戒するようにリヴィアスの肩を抱く。
「……王太子殿下は、カース家のこと、何処までご存知ですか?」
問い掛けるようにイスキオスは、リュミエールを見た。
「ブラカーシュ王国の建国当初から在る、侯爵家ーー今は伯爵家だということは把握している」
「それだけですか?」
リュミエールを煽るように目を細めて、イスキオスは嗤う。
「ーー何が言いたい?」
警戒するように腰に手を当て、リュミエールも目を細める。
その横で、グレイシアが弟のリヴィアスを守るように、ラディウスとは反対側に立ち、イスキオスを見る。
「本来なら、カース家はブラカーシュ王国の王家になるはずでした。ブラカーシュ家とエリスロース家が裏切らなければ」
イスキオスの言葉に、アルギロスやベーゼも含むこの場にいる全員が困惑の表情を浮かべる。
「昔、神官達の命を使って、美しい月の女神を神官である私の兄が手に入れようとしただけで、空神と太陽神、竜神に縁深いブラカーシュとエリスロースが邪魔をしました」
ラディウスとリュミエールを睨み、イスキオスは続ける。
「邪魔をされ、私の息子がブラカーシュの王太子妃になり、王家と縁戚、ゆくゆくは王家に成り代わる予定も、月の女神を手に入れる予定も潰れました。侯爵家だった爵位も伯爵家に落とされ、強力な神々の加護も子孫達は与えられない。神官だった私の兄は失意のうちに命を終えました。私は何百年も時間を掛けて、ブラカーシュとエリスロースに復讐するために準備をしたのに、そこの兄弟も、その母親も、カースの現当主達も、エリスロースの侯爵家も、サイクロン公爵家の長女も使えない。まぁ、そこの兄弟を唯一褒めるとしたら、月の女神の化身のリヴィアス様を見つけたことですかね」
まるでゴミを見るような目をアルギロスとベーゼに向けた後、イスキオスはリヴィアスを恍惚とした表情で見る。
その目線を遮るように、ラディウスがリヴィアスを背に隠す。
「月の女神の化身?」
眉を寄せ、ラディウスは不快な表情を浮かべる。
「今まで、月の女神の加護を持つ者を見てきましたけど、その中でもリヴィアス様は加護が強い。最近見つけた、神官だった兄が残した日記の通り、まるで月の女神そのものです。リヴィアス様という入れ物に、月の女神を降臨させれば手に入れられる、と神官だった兄は言っていました」
イスキオスの言葉に、ラディウスは更に眉を寄せる。
「神官だった兄? いつの話をしている?」
「三百年前くらいでしたかね? 当時、他国で手に入れた薬のお陰ですよ。当時の薬神の加護を持つ者に、家族を人質に脅して、不老長寿の薬を作らせました。薬神の加護を持つ者を見つける度に作らせて、飲んだお陰で、身体は二十代のままです。今代の薬神の加護を持つ者を見つけてはいませんけど、見つけたら作らせるつもりです。リヴィアス様でも構いませんよ? 有名で、有能、将来有望な薬師ですものね?」
悪気もない笑みを浮かべ、イスキオスは告げる。
ラディウスの背に隠されたまま、リヴィアスは息を飲む。
父、ミストラルの機転のお陰で、薬神の加護を持っていることを家族、親戚、一部の者達しか知られていない。
イスキオスという、薬神の加護を狙う者の悪意を初めて目の当たりにして、リヴィアスは戦慄する。
「ーー成程。王家になれなかった、か。自分達のことは棚上げして、そんな下らん復讐で、私の息子を狙うか」
部屋の扉の方がミストラルの冷ややかな声が聞こえ、リヴィアス達は目を向ける。
背後から聞こえた声に驚き、イスキオスが振り返ったと同時に、ミストラルは回し蹴りをして、近くの壁に向かって飛ばす。
壁にぶつかり、動きが止まったイスキオスを一瞥しながら、ミストラルはリヴィアスに近付く。
その後ろで、カエルム国王とミーティア王妃が続き、イリオス国王が共に付いてきた騎士達に指示を出し、放心した様子のアルギロスとベーゼを拘束する。
「父様……」
「リヴィ。怪我はないな?」
「はい。皆様が守って下さいましたから」
小さく笑みを浮かべ、リヴィアスは父を見上げる。
イスキオスの様子を窺いながら、騎士達が拘束しようとした時、室内で風が巻き起こった。
驚いて、その場にいる全員が、風が発生した場所に目を向けると、動かなかったイスキオスが立ち上がっており、リヴィアスに手を向けていた。
「流石、”水碧の大公殿下“ですね。油断しました。貴方を倒すのは骨が折れるので、無視して、目標達成させて頂きますね」
歪んだ笑みを浮かべ、イスキオスはリヴィアスに向かって、風を放つ。
突風がリヴィアスのみを襲い、風の勢いで開いた窓の外に飛ばされる。
「ヴィアッ!!」
レイディアンス大公家の別館の四階に位置するリヴィアスの部屋から飛ばされるのを目の当たりにして、ラディウスも窓の外へ飛ぶ。
「殿下! リヴィ!」
レインが窓から外を覗く。
「貴様!」
グレイシアが怒りと共に氷の魔法を放ち、イスキオスの首から下を氷漬けにし、ミストラルとリュミエールが顔を容赦なく殴った。
風で飛ばされ、窓の外へ投げ出されたリヴィアスは夜の暗さに少し恐怖し、落下する感覚と重力を感じて、ぎゅっと目を閉じ、身体を丸める。
「ヴィア!!」
叫ぶラディウスの声が近くに感じ、彼の香りが鼻に届き、ふわりと横に抱き上げられ、浮遊を感じた。
不思議に思い、リヴィアスは恐る恐る目を開けると、ラディウスの顔が近くにあった。
「ヴィア、大丈夫か? 怪我はないか?!」
「いえ……大丈夫です。それより、アシェル様はお怪我は、あり……?!」
更に、目を大きく見開いて、リヴィアスはラディウスと周囲を見渡す。
「浮い、てる……?」
呆然とラディウスを見つめ、自分達が落ちていないことにリヴィアスは不思議に思う。
そして、あることに気付いた。
「金色の、翼……」
ラディウスの背中に、蝙蝠のような、けれど大きく、力強い、彼の髪の色と同じ色をした綺麗な翼が見えた。
竜神の加護を持つ者は、身体の一部を竜化出来る。
いつだったか、エリスロース竜王家のことを勉強していた時に、教師からそう聞いたことがある。
そして、目の前のラディウスからも先程、聞いた話だ。
『歴代の竜神の加護を持つ者と違い、俺は竜そのものになれる』
じっとラディウスの翼をリヴィアスは見つめる。
じっと見つめ過ぎたのか、ラディウスがそわそわとし始める。
「……ヴィア、怖いか?」
「え、どうしてですか?」
きょとんとした表情で、リヴィアスは首を傾げる。
「いや……ずっと翼を見てるから……」
眉を八の字に下げ、ラディウスは呟くように言う。その表情に少し怯えがあるのを感じ、リヴィアスは口を膨らませた。
「僕は先程言いましたよ? “どんな姿のアシェル様でも大好きです。嫌いになることはありません”と。アシェル様は僕を信じて下さらないのですか?」
横抱きにされたまま、リヴィアスはラディウスを真っ直ぐに見上げる。
「僕が翼を見ていたのは、アシェル様の翼が格好良いなと思ってたからです。アシェル様らしい力強さと上品で、綺麗な金色の翼が素敵だなって」
ふわりと微笑み、リヴィアスは目を輝かせる。
天色の目が月に反射して、きらきらと輝き、優しい空色に見える。
リヴィアスの神秘的に見える目と微笑みに、ラディウスは心を奪われたように呆然と見つめる。
「一部を竜化したアシェル様を初めて見ました。加護に負担がなければですが、これからは機会がある時はたくさん見せて下さいね?」
満面の笑みを浮かべ、リヴィアスはラディウスの首に手を回す。
「ーーいくらでも。見たい時にいつでも見せる。ありがとう、怖がらないでくれて」
リヴィアスの細く、自分より小さな身体ごと抱き締め、ラディウスはほぅと小さく安堵の息を漏らす。
リヴィアスの言葉を信じていなかった訳ではない。
怖くないと言ったその口で、手の指の爪を竜化させて見せると怖がった婚約者候補達をラディウスは今まで何度も見てきた。
唯一無二の愛しい者から怖がられてしまったら、ラディウスは立ち直れない。
「僕が怖がることはないですよ。僕が一番怖いのは大切な人達が傷付き、心も身体も泣いていることです。守れないことです」
ラディウスの首に回している腕に少し力を入れて、リヴィアスは顔を近付け、彼の頬に口で軽く触れる。
「だから、アシェル様は遠慮なく色々な姿を僕に見せて下さい。僕はどんなアシェル様でも好きですし、離れることはありませんから」
「……ヴィア、貴方は本当に恋愛初心者か? 先程から俺の心を鷲掴みされているんだが……」
「恋愛初心者です! アシェル様の方が僕の心を鷲掴みしているんですよ! それも大きな竜の爪で」
じわじわと顔を赤くして、リヴィアスは口を膨らませる。
「……そういうところは恋愛初心者だな。時々、男前な口説き文句を言うから、焦る」
「僕だって、男ですから」
尚もぷくっと口を膨らませるリヴィアスに小さく笑みを零し、ラディウスは宝物を抱えるように抱き締める。
「……ヴィア。そろそろ戻ろうか。皆、心配しているだろうしな」
「はい。イスキオス卿に諦めてもらわないと困りますから」
「そうだな。月の女神の加護はともかく、ヴィアが薬神の加護まで持っていると知られるのは危険だからな」
リヴィアスを抱え直し、ラディウスは翼をはためかせて、上昇した。
別館の四階にあるリヴィアスの部屋の窓に戻ると、ルミナスとオーロラ、レイン、リヒトが安堵の表情を浮かべた。
「リヴィ、ラディウス王太子殿下。大丈夫ですか?!」
オーロラが駆け寄り、リヴィアスとラディウスを見る。
「うん、ありがとう、オーラ。僕は大丈夫。アシェル様が助けて下さったから」
微笑むリヴィアスと、その腰をしっかり抱いてラディウスは頷く。翼は既に消している。
「良かったわ……。それなら、ちょっと止めてもらえると助かるわ」
「止める?」
困った表情で、心做しか少し顔色が青いオーロラに、リヴィアスは首を傾げる。
「リュミ兄上にグレイ兄上も含めて、父上、叔父上、エリスロースの両陛下が、リヴィとラディウス王太子殿下が窓から飛ばされたことを怒ってて……。流石に僕やオーラ、レイン殿、リヒト殿だけでは戦力が人外の人達を止められないよ。止めないと、罪人として捕えられない」
オーロラと同じ困った表情のルミナスが近付き、リヴィアスとラディウスに伝える。
「普段は冷静なリュミお兄様とカエルム陛下まで怒ってるの。目の前でリヴィを窓から落としたのは私も許せないけど、本当に止めないとそろそろ……」
「リヴィなら止められるから、お願いしてもいい?」
「うん……僕で止められるなら」
「念の為、殿下はリヴィの隣で、すぐに退避出来るように構えておいた方がいい」
頷くリヴィアスに安堵しつつも、レインは少し青い顔で、ラディウスに告げる。
「……そんなにマズイのか?」
「かなり力は抑えていらっしゃるようですが、このままだと命が消えますね。同情はしませんが、諸悪の根源なのですから、罪人として捕らえたいところです」
リヒトがラディウスにのみ聞こえる声で告げる。
「そうだな。リュミエール王太子と父上まで参戦したとなれば、流石にレインやリヒトでも止められないか。ヴィアにしたことを考えると気持ちは分かるが……。流れ弾が来ないようにヴィアを守る」
溜め息混じりにラディウスは頷き、リヴィアスと共に怒りの中心へ向かった。
怒りの中心へ向かうと、首から下を氷漬けにされ、たくさん殴られたのか、顔が腫れ上がったイスキオスと、ミストラル、グレイシア、イリオス国王、リュミエール、カエルム国王、ミーティア王妃がいた。
息も絶え絶えで、腫れ上がった顔のイスキオスを見て、リヴィアスは驚く。
「父様! グレイ兄様!」
怒りで目を血走っている父と兄に気付き、リヴィアスは叫ぶ。
リヴィアスの声に、ミストラルとグレイシアがこちらへ振り返る。
リュミエールやイリオス国王、カエルム国王、ミーティア王妃も動きを止めて、リヴィアスとラディウスを見る。二人の無事を確認して、固かったそれぞれの表情が解れる。
「リヴィ、怪我はないか?!」
グレイシアが肩を掴み、弟の全身を見回す。
「大丈夫です。アシェル様が助けて下さったので」
「そうか……良かった」
「ありがとう、ラディウス王太子」
ほっと息を吐き、グレイシアは安堵し、ミストラルはラディウスに礼を言った。
「い、いえ……」
将来の義理の父から名を呼ばれ、ラディウスは内心、動揺する。
「あの、イスキオス卿はどうして、あのようなことになっているのですか、父様、兄様」
「リヴィを窓から落としたんだ。怒るのは当然だ」
「でも、これは……」
「私達の大事な家族の命を脅かしたのだ。当然の報いだ」
冷めた表情で、ミストラルが告げる。
父や兄達の気持ちは分かる。
同じ立場なら、リヴィアスも似たようなことをするかもしれない。
薬神の加護の影響で、人を傷付けられないが。
それでも、やり過ぎだとリヴィアスは感じた。
「気持ちは分かります。僕も父様達と同じ立場なら、似たようなことをしていたかもしれません。それでも、彼は今までたくさんのことをしました。その罪を償うためにも、僕の命だけでここまで父様達がなさるのは駄目です。他の奪われた命の分の償いはどうなるのですか」
「ん? それは相応の罪の報いを受けろということか? そうなると、この者は命が消えるぞ? 神官の兄と共に、月の女神を召喚するために神官達の命を奪った。先程、吐かせたが、自分の命を延ばすために薬を作らせ、その後、薬神の加護を持つ者とその家族の命も奪ったようだ。何人も。私がしても変わらないと思うが?」
冷え冷えとした紺碧色の目を湛え、ミストラルはリヴィアスに告げる。
同じく薬神の加護を持つリヴィアスが息子だから、余計に怒りを感じているのかもしれない。
生まれた時から、加護のことで家族や親族達に苦労や心配を掛けてしまっているのは、リヴィアス自身も感じている。
王弟だからではなく、ミストラルの息子として、リヴィアスは父に殺めて欲しくない。
「例え、そうだとしても、僕は私刑ではなく、ちゃんと公正な場で、罪を明らかにして、罰し、罪を償って欲しいです。家族として、父様達に殺めて欲しくないです……」
真っ直ぐにリヴィアスはミストラルに告げる。
息子の言葉を聞き、ミストラルは小さく息を吐いた。
「……被害者はリヴィアスだ。リヴィアスの意見を汲むしかないか」
今まで愛用の魔法剣の柄を握っていた左手を離し、ミストラルはリヴィアスに苦笑した。
「だが、息子の命を奪おうとしたり、拉致しようとする連中を許すことは出来ない。凍らせて粉砕や消し炭、首を刎ねたいところだが、リヴィアスが悲しむからやめる。次があるとは思うなよ」
ちらりと首から下が氷漬けにされたイスキオス、拘束されたアルギロス、ベーゼに目を向け、ミストラルは冷ややかに告げた。本気だと身に沁みて分からせるように、殺気を本気で放つことも忘れていない。
ミストラルの本気の殺気を目の当たりしたイスキオス、アルギロス、ベーゼが小刻みに震える。
「……確かにミストラル大公の仰る通りですね。私の大切な唯一の心を傷付け、拉致しようとしたり、命を奪おうとした。次も出来るとは思わせないように分からせるのは当然ですよね?」
目を細め、ラディウスもミストラルに同調する。
三人に本気の竜神の威圧を放つ。
真紅色の目の瞳孔が竜と同じ縦長に伸び、煌めく。
恐怖が相まって、がくがくと三人は震え出し、口から泡を吹き、気絶した。
「あーあ。気絶しちゃったよ。俺も一言言って、威圧してやりたかったのに」
静かに聞いていたミーティア王妃が、気絶したイスキオス、アルギロス、ベーゼを見下ろしながら呟く。
気絶したことで、イスキオス達を再度拘束して、騎士達が部屋から運び出していく。
その様子を見送った後、リヴィアスはミストラル達の方へ向き直る。
「あの、皆様、ご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
深くリヴィアスは頭を下げる。
「リヴィアスのせいではない。無事で良かった」
イリオス国王が近付き、リヴィアスの頭を撫でる。
「彼等のことはリヴィアスの願い通り、公正な場でもう一度裁く。安心しなさい」
「はい、イリオス伯父様」
それから、イスキオス、アルギロス、ベーゼはブラカーシュ王国の王城で裁かれた。
イスキオスは三百年前、神官だった兄と共に、レイディアンス辺境領の神官達の命を奪って、月の女神を召喚しようとし、ブラカーシュ王家とエリスロース竜王家が阻止して、失敗。その際に、爵位を侯爵から伯爵に落とされたことで、ブラカーシュ王家とエリスロース竜王家を逆恨み。
逆恨みしたブラカーシュ王家とエリスロース竜王家に復讐するため、当時の薬神の加護を持つ者に、家族を人質に脅して、不老長寿の薬を作らせ、命を奪った。その後は新たに生まれた薬神の加護を持つ者を見つける度に不老長寿の薬を作らせて、飲み、命を奪うことを繰り返し、薬を飲んだお陰で、身体は二十代のままを維持し、両国で暗躍した。
ブラカーシュ王国では、一年半に渡る流行病の原因がイスキオスの実験によるものだったこと。
エリスロース竜王国では、偽物の効能を謳った薬を広めるように侯爵家に話し、混乱に乗じてラディウスに強力な薬を飲ませるように侯爵家当主を唆したこと。
サイクロン公爵家の長女プリズムを唆し、リヴィアスを逆恨みさせ、襲おうとした。
そして、リヴィアスの身体に、月の女神を降臨させるために、命を奪おうとした。リヴィアスを守ろうとしたエリスロース竜王国の王太子のラディウスにも危害を加えた。
多くの命を傷付け、奪ったイスキオスは、全ての罪が明らかにされた後、処刑。
アルギロスとベーゼは、前回は年齢を加味されて鉱山での力仕事で、取り組み次第では刑期は五年から十年後に釈放だったのだが、脱獄し、再びリヴィアスを狙ったことで改善の余地はないと判断され、一度収容されると脱獄することが出来ないといわれるアップグルント牢獄へ収容が決まった。釈放はそれぞれ三十年後となった。
そして、更に二ヶ月後。
リヴィアスとラディウスは、やっと婚約パーティーをエリスロース竜王国で行うことが出来た。
それぞれの髪と目の色に合わせた衣装を纏い、仲睦まじく登場したことで、ラディウスの噂がガラリと変わる。
他の花には目もくれず、『月華』を溺愛する『陽光竜』と。
勢い良く開け放たれた扉の前で、アルギロスが叫ぶ。その後ろでベーゼ、くすんだ灰色の髪、とても暗い赤色と灰色が混ざった鈍色の目、顎の尖った少し神経質そうな顔をした男性が立っている。三人共、ラディウス達に守られているリヴィアスに目を向けている。
「助ける? それはどういう意味だ?」
眉を寄せ、ラディウスは守るようにリヴィアスの肩を抱く。
「まるで、私達が大事な弟を危険に晒しているような言い草だな。ブラカーシュ、エリスロース両国の王族に対する不敬を含め、分かっていて言っているのか?」
胸の前で腕を組んで、グレイシアが鋭く目を細め、アルギロスを見据える。
「あ、義兄上、そんなつもりは……」
「前にも言ったはずだ。弟と婚約中にも私はお前に義兄と呼ぶ許可をした覚えもない。婚約も即日破棄され、弟を散々裏切り、罪人として鉱山に収容されたはずなのに、脱獄するような者に義兄と呼ばれる筋合いはない。不快だ」
不快な表情を浮かべてグレイシアが言うと、アルギロスの顔が歪む。
「ち、ちが……」
「そもそもの話だが、我が婚約者殿を助けに来たとは、どういう意味だ?」
グレイシアと同じく不快な表情を浮かべ、ラディウスはアルギロス達三人を見る。
「……リヴィアスが、エリスロースの王太子に無理矢理婚約させられたと、聞いたから……」
ラディウス達に鋭い目で見られ、ばつが悪そうにアルギロスは呟く。
元婚約者の言葉に、リヴィアスは不快そうに眉を寄せる。
その表情を見て、アルギロスはショックを受けた顔になる。
「ほぉ? 誰に?」
片眉を上げ、ラディウスは真紅色の眼を細める。
「……あ、イスキオス、殿、に……」
ちらりと後ろに立つ、くすんだ灰色の髪の男性をアルギロスは見る。
イスキオスと呼ばれた男性は、ラディウス達を挑発するように肩を竦める。
その態度に、グレイシアの周囲に冷たい空気が流れる。気付いたリュミエールがグレイシアの肩を叩く。
「ーー私は、ラディウス殿下に無理矢理婚約をさせられておりません。私の意思で、殿下との婚約を受け入れました。私や殿下のことを知りもしない方の言葉を鵜呑みにされるのは、相変わらずですね、ウィキッド子爵令息」
静かに冷めた声で、婚約破棄に至った原因を遠回しにリヴィアスは告げる。
「あ、リヴィアス、違う……。俺は、本当に、無理矢理なら、助けたくて……。また、婚約したくて……」
「今まで、私のことを否定ばかりして、装飾品のように扱っていた方に助けてもらいたくありません。無理矢理? 六年間、無理矢理、私の意思を押さえつけていたのは、ウィキッド子爵令息ではありませんか。そのような方ともう一度、婚約だなんて、お断りです」
冷え冷えとした笑みを浮かべ、リヴィアスは尚も告げる。
『お前は効果の高い薬作りしか価値がない』
『お前を娶ってあげるのは俺だけだ。他の者なんて、お前には見向きもしない』
『お前を大事にしてやってるんだから、俺に尽くし、利益を齎すのがお前の役目だろ?』
六年間、アルギロスと婚約していた時に何度も言われた言葉をリヴィアスは声に出す。
傷付き、心に刺さり続けた言葉。
婚約破棄し、離れられて、新しく結んだ婚約者に愛されていると感じながらも、尚も付いて回る、鋭い刃で心を抉り続ける言葉。
その言われた言葉を聞き、アルギロスも、グレイシア達も目を見開く。
リヴィアスを大事に想うグレイシア達のアルギロスを見る目が、更に鋭くなる。
ラディウスはリヴィアスを支えるように、肩を抱く手に力を入れる。
「私はウィキッド子爵令息に言われた言葉、忘れておりません。傷付いていることを感じ取り、私の心を支えて下さったのは、ラディウス殿下です。ウィキッド子爵令息は私にしましたか?」
誰にも傷付いた言葉を言えずにいたのに、感じ取って、優しく包んでくれたのはラディウスだ。
傷付けたと思ってもいない元婚約者との再婚約だなんて、願い下げだ。
傍で支えてくれるラディウスの温もりを感じ、勇気をもらったリヴィアスはアルギロスを見据える。
「あのまま、先日のパーティーでの国王陛下の判決を受け入れ、罪を償っていれば、蒸し返すつもりはありませんでした。ですが、言わないと分からないようですので、言います。私は、ウィキッド子爵令息とは一生関わりたくありません。これ以上、私の前に現れないで下さい」
リヴィアスの拒絶の言葉に、アルギロスは震える。
「そ、そんな……リヴィアス……俺は……」
ゆっくりと床に、アルギロスは膝から崩れ落ちる。
兄の様子を見て、ベーゼの口元が歪む。
それを見たリヴィアスは、ベーゼにも目を向ける。
「……ベーゼ卿、貴方もです。私は貴方とも一生関わりたくありません」
「どうしてですか?! 僕はリヴィアス様に酷いことを言っていませんし、貴方に優しく声を掛けてましたよね?! 何故、僕とも関わりたくないのですか!?」
「先日のパーティーの時、私を拉致しようとしましたよね? そして、今も」
まとわりつこうとする風を白色と銀色が混ざった魔力、月白色の魔力、金色の魔力が弾く。眉を寄せながら言うリヴィアスの言葉に、ベーゼはビクリと肩を揺らす。
「……そうだな。頃合いを見ながら、悪神の加護を使うつもりで、リヴィアスにちょっかいを掛けているな。私もラディウス王太子も防いでいるが」
リヴィアスに同意しながら、リュミエールが不敵に笑う。
リュミエールの金色の目と合い、ベーゼの身体が揺れる。
「お、王太子殿下……まさか……」
「度が過ぎた悪戯に、私が気付かないと思ったのか? 先程から何度もリヴィアスに触れようとしておきながら」
「空と竜、太陽は相性が良い。私の大事な愛しい婚約者を簡単に奪えると思うなよ」
両国の王太子の金色の目と真紅色の目が、鋭くベーゼに刺さる。
「く、空神の、加護を……?! パーティーの時はなかったのに!」
「リヴィアスに対して、あまりにも悪戯が過ぎるから、私に与えて下さったようだ。陛下と親権者のウィキッド子爵からも許可を得ている。本当なら子爵が命を賭けてお前を封じようとしていたが、私が止めた。有能な子爵を失うのは惜しい。命潰えるまで悪神の加護が使えないように、お前の加護を全て封じる」
リュミエールの言葉が圧力となって、ベーゼの身体に見えない重しがのしかかる。同時に使おうとしていた悪神の加護が使えなくなっていることに、ベーゼは気付く。
あと、少しだったのに……!
そう訴えるような目をリヴィアスに向け、ベーゼは床に膝を突いて唇を噛んだ。
「さぁ、最後はそちらだが……我が従弟殿をどうするつもりだった? イスキオス・ペイン・カース」
金色の目を細め、リュミエールはイスキオスと呼ばれた男性を見る。
「……使えない兄弟ですね。カースの血を継いでるくせに、神々の加護を使いこなすことも出来ないとは」
溜め息混じりにイスキオスが冷めた表情で、座り込むアルギロスとベーゼを見下ろす。
イスキオスの様子を見て、ラディウスが警戒するようにリヴィアスの肩を抱く。
「……王太子殿下は、カース家のこと、何処までご存知ですか?」
問い掛けるようにイスキオスは、リュミエールを見た。
「ブラカーシュ王国の建国当初から在る、侯爵家ーー今は伯爵家だということは把握している」
「それだけですか?」
リュミエールを煽るように目を細めて、イスキオスは嗤う。
「ーー何が言いたい?」
警戒するように腰に手を当て、リュミエールも目を細める。
その横で、グレイシアが弟のリヴィアスを守るように、ラディウスとは反対側に立ち、イスキオスを見る。
「本来なら、カース家はブラカーシュ王国の王家になるはずでした。ブラカーシュ家とエリスロース家が裏切らなければ」
イスキオスの言葉に、アルギロスやベーゼも含むこの場にいる全員が困惑の表情を浮かべる。
「昔、神官達の命を使って、美しい月の女神を神官である私の兄が手に入れようとしただけで、空神と太陽神、竜神に縁深いブラカーシュとエリスロースが邪魔をしました」
ラディウスとリュミエールを睨み、イスキオスは続ける。
「邪魔をされ、私の息子がブラカーシュの王太子妃になり、王家と縁戚、ゆくゆくは王家に成り代わる予定も、月の女神を手に入れる予定も潰れました。侯爵家だった爵位も伯爵家に落とされ、強力な神々の加護も子孫達は与えられない。神官だった私の兄は失意のうちに命を終えました。私は何百年も時間を掛けて、ブラカーシュとエリスロースに復讐するために準備をしたのに、そこの兄弟も、その母親も、カースの現当主達も、エリスロースの侯爵家も、サイクロン公爵家の長女も使えない。まぁ、そこの兄弟を唯一褒めるとしたら、月の女神の化身のリヴィアス様を見つけたことですかね」
まるでゴミを見るような目をアルギロスとベーゼに向けた後、イスキオスはリヴィアスを恍惚とした表情で見る。
その目線を遮るように、ラディウスがリヴィアスを背に隠す。
「月の女神の化身?」
眉を寄せ、ラディウスは不快な表情を浮かべる。
「今まで、月の女神の加護を持つ者を見てきましたけど、その中でもリヴィアス様は加護が強い。最近見つけた、神官だった兄が残した日記の通り、まるで月の女神そのものです。リヴィアス様という入れ物に、月の女神を降臨させれば手に入れられる、と神官だった兄は言っていました」
イスキオスの言葉に、ラディウスは更に眉を寄せる。
「神官だった兄? いつの話をしている?」
「三百年前くらいでしたかね? 当時、他国で手に入れた薬のお陰ですよ。当時の薬神の加護を持つ者に、家族を人質に脅して、不老長寿の薬を作らせました。薬神の加護を持つ者を見つける度に作らせて、飲んだお陰で、身体は二十代のままです。今代の薬神の加護を持つ者を見つけてはいませんけど、見つけたら作らせるつもりです。リヴィアス様でも構いませんよ? 有名で、有能、将来有望な薬師ですものね?」
悪気もない笑みを浮かべ、イスキオスは告げる。
ラディウスの背に隠されたまま、リヴィアスは息を飲む。
父、ミストラルの機転のお陰で、薬神の加護を持っていることを家族、親戚、一部の者達しか知られていない。
イスキオスという、薬神の加護を狙う者の悪意を初めて目の当たりにして、リヴィアスは戦慄する。
「ーー成程。王家になれなかった、か。自分達のことは棚上げして、そんな下らん復讐で、私の息子を狙うか」
部屋の扉の方がミストラルの冷ややかな声が聞こえ、リヴィアス達は目を向ける。
背後から聞こえた声に驚き、イスキオスが振り返ったと同時に、ミストラルは回し蹴りをして、近くの壁に向かって飛ばす。
壁にぶつかり、動きが止まったイスキオスを一瞥しながら、ミストラルはリヴィアスに近付く。
その後ろで、カエルム国王とミーティア王妃が続き、イリオス国王が共に付いてきた騎士達に指示を出し、放心した様子のアルギロスとベーゼを拘束する。
「父様……」
「リヴィ。怪我はないな?」
「はい。皆様が守って下さいましたから」
小さく笑みを浮かべ、リヴィアスは父を見上げる。
イスキオスの様子を窺いながら、騎士達が拘束しようとした時、室内で風が巻き起こった。
驚いて、その場にいる全員が、風が発生した場所に目を向けると、動かなかったイスキオスが立ち上がっており、リヴィアスに手を向けていた。
「流石、”水碧の大公殿下“ですね。油断しました。貴方を倒すのは骨が折れるので、無視して、目標達成させて頂きますね」
歪んだ笑みを浮かべ、イスキオスはリヴィアスに向かって、風を放つ。
突風がリヴィアスのみを襲い、風の勢いで開いた窓の外に飛ばされる。
「ヴィアッ!!」
レイディアンス大公家の別館の四階に位置するリヴィアスの部屋から飛ばされるのを目の当たりにして、ラディウスも窓の外へ飛ぶ。
「殿下! リヴィ!」
レインが窓から外を覗く。
「貴様!」
グレイシアが怒りと共に氷の魔法を放ち、イスキオスの首から下を氷漬けにし、ミストラルとリュミエールが顔を容赦なく殴った。
風で飛ばされ、窓の外へ投げ出されたリヴィアスは夜の暗さに少し恐怖し、落下する感覚と重力を感じて、ぎゅっと目を閉じ、身体を丸める。
「ヴィア!!」
叫ぶラディウスの声が近くに感じ、彼の香りが鼻に届き、ふわりと横に抱き上げられ、浮遊を感じた。
不思議に思い、リヴィアスは恐る恐る目を開けると、ラディウスの顔が近くにあった。
「ヴィア、大丈夫か? 怪我はないか?!」
「いえ……大丈夫です。それより、アシェル様はお怪我は、あり……?!」
更に、目を大きく見開いて、リヴィアスはラディウスと周囲を見渡す。
「浮い、てる……?」
呆然とラディウスを見つめ、自分達が落ちていないことにリヴィアスは不思議に思う。
そして、あることに気付いた。
「金色の、翼……」
ラディウスの背中に、蝙蝠のような、けれど大きく、力強い、彼の髪の色と同じ色をした綺麗な翼が見えた。
竜神の加護を持つ者は、身体の一部を竜化出来る。
いつだったか、エリスロース竜王家のことを勉強していた時に、教師からそう聞いたことがある。
そして、目の前のラディウスからも先程、聞いた話だ。
『歴代の竜神の加護を持つ者と違い、俺は竜そのものになれる』
じっとラディウスの翼をリヴィアスは見つめる。
じっと見つめ過ぎたのか、ラディウスがそわそわとし始める。
「……ヴィア、怖いか?」
「え、どうしてですか?」
きょとんとした表情で、リヴィアスは首を傾げる。
「いや……ずっと翼を見てるから……」
眉を八の字に下げ、ラディウスは呟くように言う。その表情に少し怯えがあるのを感じ、リヴィアスは口を膨らませた。
「僕は先程言いましたよ? “どんな姿のアシェル様でも大好きです。嫌いになることはありません”と。アシェル様は僕を信じて下さらないのですか?」
横抱きにされたまま、リヴィアスはラディウスを真っ直ぐに見上げる。
「僕が翼を見ていたのは、アシェル様の翼が格好良いなと思ってたからです。アシェル様らしい力強さと上品で、綺麗な金色の翼が素敵だなって」
ふわりと微笑み、リヴィアスは目を輝かせる。
天色の目が月に反射して、きらきらと輝き、優しい空色に見える。
リヴィアスの神秘的に見える目と微笑みに、ラディウスは心を奪われたように呆然と見つめる。
「一部を竜化したアシェル様を初めて見ました。加護に負担がなければですが、これからは機会がある時はたくさん見せて下さいね?」
満面の笑みを浮かべ、リヴィアスはラディウスの首に手を回す。
「ーーいくらでも。見たい時にいつでも見せる。ありがとう、怖がらないでくれて」
リヴィアスの細く、自分より小さな身体ごと抱き締め、ラディウスはほぅと小さく安堵の息を漏らす。
リヴィアスの言葉を信じていなかった訳ではない。
怖くないと言ったその口で、手の指の爪を竜化させて見せると怖がった婚約者候補達をラディウスは今まで何度も見てきた。
唯一無二の愛しい者から怖がられてしまったら、ラディウスは立ち直れない。
「僕が怖がることはないですよ。僕が一番怖いのは大切な人達が傷付き、心も身体も泣いていることです。守れないことです」
ラディウスの首に回している腕に少し力を入れて、リヴィアスは顔を近付け、彼の頬に口で軽く触れる。
「だから、アシェル様は遠慮なく色々な姿を僕に見せて下さい。僕はどんなアシェル様でも好きですし、離れることはありませんから」
「……ヴィア、貴方は本当に恋愛初心者か? 先程から俺の心を鷲掴みされているんだが……」
「恋愛初心者です! アシェル様の方が僕の心を鷲掴みしているんですよ! それも大きな竜の爪で」
じわじわと顔を赤くして、リヴィアスは口を膨らませる。
「……そういうところは恋愛初心者だな。時々、男前な口説き文句を言うから、焦る」
「僕だって、男ですから」
尚もぷくっと口を膨らませるリヴィアスに小さく笑みを零し、ラディウスは宝物を抱えるように抱き締める。
「……ヴィア。そろそろ戻ろうか。皆、心配しているだろうしな」
「はい。イスキオス卿に諦めてもらわないと困りますから」
「そうだな。月の女神の加護はともかく、ヴィアが薬神の加護まで持っていると知られるのは危険だからな」
リヴィアスを抱え直し、ラディウスは翼をはためかせて、上昇した。
別館の四階にあるリヴィアスの部屋の窓に戻ると、ルミナスとオーロラ、レイン、リヒトが安堵の表情を浮かべた。
「リヴィ、ラディウス王太子殿下。大丈夫ですか?!」
オーロラが駆け寄り、リヴィアスとラディウスを見る。
「うん、ありがとう、オーラ。僕は大丈夫。アシェル様が助けて下さったから」
微笑むリヴィアスと、その腰をしっかり抱いてラディウスは頷く。翼は既に消している。
「良かったわ……。それなら、ちょっと止めてもらえると助かるわ」
「止める?」
困った表情で、心做しか少し顔色が青いオーロラに、リヴィアスは首を傾げる。
「リュミ兄上にグレイ兄上も含めて、父上、叔父上、エリスロースの両陛下が、リヴィとラディウス王太子殿下が窓から飛ばされたことを怒ってて……。流石に僕やオーラ、レイン殿、リヒト殿だけでは戦力が人外の人達を止められないよ。止めないと、罪人として捕えられない」
オーロラと同じ困った表情のルミナスが近付き、リヴィアスとラディウスに伝える。
「普段は冷静なリュミお兄様とカエルム陛下まで怒ってるの。目の前でリヴィを窓から落としたのは私も許せないけど、本当に止めないとそろそろ……」
「リヴィなら止められるから、お願いしてもいい?」
「うん……僕で止められるなら」
「念の為、殿下はリヴィの隣で、すぐに退避出来るように構えておいた方がいい」
頷くリヴィアスに安堵しつつも、レインは少し青い顔で、ラディウスに告げる。
「……そんなにマズイのか?」
「かなり力は抑えていらっしゃるようですが、このままだと命が消えますね。同情はしませんが、諸悪の根源なのですから、罪人として捕らえたいところです」
リヒトがラディウスにのみ聞こえる声で告げる。
「そうだな。リュミエール王太子と父上まで参戦したとなれば、流石にレインやリヒトでも止められないか。ヴィアにしたことを考えると気持ちは分かるが……。流れ弾が来ないようにヴィアを守る」
溜め息混じりにラディウスは頷き、リヴィアスと共に怒りの中心へ向かった。
怒りの中心へ向かうと、首から下を氷漬けにされ、たくさん殴られたのか、顔が腫れ上がったイスキオスと、ミストラル、グレイシア、イリオス国王、リュミエール、カエルム国王、ミーティア王妃がいた。
息も絶え絶えで、腫れ上がった顔のイスキオスを見て、リヴィアスは驚く。
「父様! グレイ兄様!」
怒りで目を血走っている父と兄に気付き、リヴィアスは叫ぶ。
リヴィアスの声に、ミストラルとグレイシアがこちらへ振り返る。
リュミエールやイリオス国王、カエルム国王、ミーティア王妃も動きを止めて、リヴィアスとラディウスを見る。二人の無事を確認して、固かったそれぞれの表情が解れる。
「リヴィ、怪我はないか?!」
グレイシアが肩を掴み、弟の全身を見回す。
「大丈夫です。アシェル様が助けて下さったので」
「そうか……良かった」
「ありがとう、ラディウス王太子」
ほっと息を吐き、グレイシアは安堵し、ミストラルはラディウスに礼を言った。
「い、いえ……」
将来の義理の父から名を呼ばれ、ラディウスは内心、動揺する。
「あの、イスキオス卿はどうして、あのようなことになっているのですか、父様、兄様」
「リヴィを窓から落としたんだ。怒るのは当然だ」
「でも、これは……」
「私達の大事な家族の命を脅かしたのだ。当然の報いだ」
冷めた表情で、ミストラルが告げる。
父や兄達の気持ちは分かる。
同じ立場なら、リヴィアスも似たようなことをするかもしれない。
薬神の加護の影響で、人を傷付けられないが。
それでも、やり過ぎだとリヴィアスは感じた。
「気持ちは分かります。僕も父様達と同じ立場なら、似たようなことをしていたかもしれません。それでも、彼は今までたくさんのことをしました。その罪を償うためにも、僕の命だけでここまで父様達がなさるのは駄目です。他の奪われた命の分の償いはどうなるのですか」
「ん? それは相応の罪の報いを受けろということか? そうなると、この者は命が消えるぞ? 神官の兄と共に、月の女神を召喚するために神官達の命を奪った。先程、吐かせたが、自分の命を延ばすために薬を作らせ、その後、薬神の加護を持つ者とその家族の命も奪ったようだ。何人も。私がしても変わらないと思うが?」
冷え冷えとした紺碧色の目を湛え、ミストラルはリヴィアスに告げる。
同じく薬神の加護を持つリヴィアスが息子だから、余計に怒りを感じているのかもしれない。
生まれた時から、加護のことで家族や親族達に苦労や心配を掛けてしまっているのは、リヴィアス自身も感じている。
王弟だからではなく、ミストラルの息子として、リヴィアスは父に殺めて欲しくない。
「例え、そうだとしても、僕は私刑ではなく、ちゃんと公正な場で、罪を明らかにして、罰し、罪を償って欲しいです。家族として、父様達に殺めて欲しくないです……」
真っ直ぐにリヴィアスはミストラルに告げる。
息子の言葉を聞き、ミストラルは小さく息を吐いた。
「……被害者はリヴィアスだ。リヴィアスの意見を汲むしかないか」
今まで愛用の魔法剣の柄を握っていた左手を離し、ミストラルはリヴィアスに苦笑した。
「だが、息子の命を奪おうとしたり、拉致しようとする連中を許すことは出来ない。凍らせて粉砕や消し炭、首を刎ねたいところだが、リヴィアスが悲しむからやめる。次があるとは思うなよ」
ちらりと首から下が氷漬けにされたイスキオス、拘束されたアルギロス、ベーゼに目を向け、ミストラルは冷ややかに告げた。本気だと身に沁みて分からせるように、殺気を本気で放つことも忘れていない。
ミストラルの本気の殺気を目の当たりしたイスキオス、アルギロス、ベーゼが小刻みに震える。
「……確かにミストラル大公の仰る通りですね。私の大切な唯一の心を傷付け、拉致しようとしたり、命を奪おうとした。次も出来るとは思わせないように分からせるのは当然ですよね?」
目を細め、ラディウスもミストラルに同調する。
三人に本気の竜神の威圧を放つ。
真紅色の目の瞳孔が竜と同じ縦長に伸び、煌めく。
恐怖が相まって、がくがくと三人は震え出し、口から泡を吹き、気絶した。
「あーあ。気絶しちゃったよ。俺も一言言って、威圧してやりたかったのに」
静かに聞いていたミーティア王妃が、気絶したイスキオス、アルギロス、ベーゼを見下ろしながら呟く。
気絶したことで、イスキオス達を再度拘束して、騎士達が部屋から運び出していく。
その様子を見送った後、リヴィアスはミストラル達の方へ向き直る。
「あの、皆様、ご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
深くリヴィアスは頭を下げる。
「リヴィアスのせいではない。無事で良かった」
イリオス国王が近付き、リヴィアスの頭を撫でる。
「彼等のことはリヴィアスの願い通り、公正な場でもう一度裁く。安心しなさい」
「はい、イリオス伯父様」
それから、イスキオス、アルギロス、ベーゼはブラカーシュ王国の王城で裁かれた。
イスキオスは三百年前、神官だった兄と共に、レイディアンス辺境領の神官達の命を奪って、月の女神を召喚しようとし、ブラカーシュ王家とエリスロース竜王家が阻止して、失敗。その際に、爵位を侯爵から伯爵に落とされたことで、ブラカーシュ王家とエリスロース竜王家を逆恨み。
逆恨みしたブラカーシュ王家とエリスロース竜王家に復讐するため、当時の薬神の加護を持つ者に、家族を人質に脅して、不老長寿の薬を作らせ、命を奪った。その後は新たに生まれた薬神の加護を持つ者を見つける度に不老長寿の薬を作らせて、飲み、命を奪うことを繰り返し、薬を飲んだお陰で、身体は二十代のままを維持し、両国で暗躍した。
ブラカーシュ王国では、一年半に渡る流行病の原因がイスキオスの実験によるものだったこと。
エリスロース竜王国では、偽物の効能を謳った薬を広めるように侯爵家に話し、混乱に乗じてラディウスに強力な薬を飲ませるように侯爵家当主を唆したこと。
サイクロン公爵家の長女プリズムを唆し、リヴィアスを逆恨みさせ、襲おうとした。
そして、リヴィアスの身体に、月の女神を降臨させるために、命を奪おうとした。リヴィアスを守ろうとしたエリスロース竜王国の王太子のラディウスにも危害を加えた。
多くの命を傷付け、奪ったイスキオスは、全ての罪が明らかにされた後、処刑。
アルギロスとベーゼは、前回は年齢を加味されて鉱山での力仕事で、取り組み次第では刑期は五年から十年後に釈放だったのだが、脱獄し、再びリヴィアスを狙ったことで改善の余地はないと判断され、一度収容されると脱獄することが出来ないといわれるアップグルント牢獄へ収容が決まった。釈放はそれぞれ三十年後となった。
そして、更に二ヶ月後。
リヴィアスとラディウスは、やっと婚約パーティーをエリスロース竜王国で行うことが出来た。
それぞれの髪と目の色に合わせた衣装を纏い、仲睦まじく登場したことで、ラディウスの噂がガラリと変わる。
他の花には目もくれず、『月華』を溺愛する『陽光竜』と。
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※短編です。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4800文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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