婚約破棄をされたので、次の婚約をせずに薬師として生きます!

羽山由季夜

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十六章 婚約パーティー

閑話16 婚約パーティー前後の陽光竜の王太子(ラディウス視点)

 ヴィアを狙う元婚約者と弟、辿るとその二人の先祖にあたる諸悪の根源の問題も解決し、二ヶ月が経った。
 やっと、やっと、我が国エリスロース竜王国でヴィアを俺の婚約者としてお披露目出来る。

 長かった……! 本っっ当に長かった!

 ヴィアを狙う有象無象が本当に多くて、問題解決後のこの二ヶ月も、本当に寄ってくる虫達が煩わしかった。
 もうヴィアは俺と婚約しているのだから、言い寄っても無理なのは分からないのだろうか。
 一回の機会があると思っているのだろうか。
 まぁ、俺も仮婚約前に同じように思っていたし、書類仕事を片付けて、時間を作って、ほぼ毎日プロミネンス公爵領に押し掛けたが。
 お陰で、相思相愛になれて良かった。
 婚約パーティー準備や打ち合わせのために、俺の騎竜のフォスでレイディアンス辺境領へ迎えに行く度に、ヴィア宛の手紙が目に入った。
 ヴィアの部屋の机に広げられている手紙の内容が、竜神の加護によって五感が人より優れている影響で、遠くにいても文面が見えてしまう。
 ブラカーシュ王国のパーティーで俺が牽制していたにも関わらず、ヴィア本人やミストラル大公宛に婚約の打診の手紙を送る有象無象がまだいる。
 ヴィアもミストラル大公も断っているのは、本人達から聞いている。
 エリスロース竜王国でも婚約の打診の手紙を送る有象無象がいて、プロミネンス女公爵を経由して、ヴィアとミストラル大公に渡しているそうだ。
 受け取った後、即お断りの手紙を送っているとヴィアからの手紙に書いてあった。

「僕は、もうアシェル様と婚約しているのに、何故、手紙を送ってくるのでしょうか。ブラカーシュの貴族の皆様はともかく、エリスロース竜王国の貴族の皆様には、アシェル様との婚約パーティーの招待状も送って、ほとんどの貴族の皆様から出席のお返事も頂いているのに……」

 騎竜のフォスに共に乗り、ヴィアは俺の腕の中で口を膨らます。
 口を膨らますヴィアも可愛いなぁ。

『人間の番関連は俺も詳しく知らないが、番であるあるじに婚約の打診は陽光竜の噂もあり無理だが、心優しいリヴィなら万が一でも応えてくれると思ったのではないか? リヴィを見ていれば有り得ないが。騎竜の俺でもそれは分かるぞ』

 フォスが鼻先でふんと笑いながら、告げる。

「万が一でも、億が一でも有り得ません。僕はアシェル様を裏切るようなことはしません。既に婚約している相手に婚約を打診するのはいけないことなのは、世界共通の暗黙の了解ではないのですか?」

 眉を寄せて、ヴィアは振り返って俺を見上げる。

「……まぁ、その暗黙の了解も何も、倫理の観点からすることではないだろう。それも、自国の王族の婚約者に、自国の貴族が打診という時点で叛意ありと思われても仕方ない。王太子の俺を舐めているということでもある」

「……不敬ですね」

 眉を寄せて、ヴィアは押し黙った。
 俺のことを案じてくれるヴィアを愛しく感じ、彼の長い銀色の髪を一房取り、触れる。

「ミストラル大公を通じて、俺や両親に誰から打診があったのか連絡が来ているから、後のことは俺や両親に任せて欲しい。パーティーまでに片付けておくよ」

「あの、僕も不快に感じましたけど、だからといって、その貴族の方々を傷付けるのはしないで下さいね」

 ヴィアに釘を刺され、内心、舌打ちをした。
 これを機に、ヴィアを狙う貴族と竜王国に対して不穏な動きをする貴族を潰そうと思ったのに。
 俺の思惑をヴィアは気付いたのだろうか。

「……傷付けはしないが、流石に王太子に不敬だから、父上と俺の連名で、抗議というか、警告はするつもりだ」

「そうですか……。無茶はしないで下さいね」

「当たり前だ。ヴィアとの約束は守る」

 ヴィアの頭頂部に口付けをして、微笑む。
 ふわりと甘い、月の光に照らされた花のような香りが鼻腔に届く。
 ヴィアとの約束は守る。
 太陽神ベレヌス様の試練の時のような失態はもう、しない。







 何度も婚約パーティーの打ち合わせを行い、準備も終え、明日、婚約パーティーとなった。
 エリスロース竜王国の王宮にレイディアンス大公一家、ブラカーシュ王家からリュミエール王太子、ルミナス第二王子、オーロラ第一王女が滞在する。
 ヴィアはもちろん、俺の婚約者なので、俺が住む陽光宮に滞在する。
 婚約者とはいえ、ヴィアは未成年なので、俺と同室ではなく、もちろん、夫婦の部屋でもなく、客室だ。

 ……早く、成人してくれないか、ヴィア……!

 一緒に寝たいが、ミストラル大公の牽制が凄く、流石の両親から、

『頼むから、ミストラルが怒髪、天を衝くようなことになると、俺達では止められないからな? 二ヶ月前のイスキオスのよう顔がボコボコな状態にラディがなったら、リヴィちゃんが泣く上に、迷惑を掛けたからとか何とかで婚約解消になるぞ。お前も嫌だろ』

『可愛いリヴィちゃんとティアと一緒に、お忍びでお買い物をする私達の夢がなくなるのは辛い。何より、一時の暴走をした結果、婚約解消はラディもリヴィちゃんも不本意だろう』

 と、ヴィアが泣く、不本意な婚約解消になる等々言われては、我慢するしかなく……。
 同じ敷地にいるのに、一緒に寝られないのが辛い。
 何度か寝顔を見たが、いずれも疲れで倒れている時ばかりだったので、可愛い寝顔を堪能出来ていない。
 可愛い寝顔を見られるのは、成人して結婚した後になりそうだ。辛い。

「結婚式ではなく、婚約パーティーなのですから、殿下と同室ではないのは当然でしょう」

 何を言ってるんですか? と冷めた目でリヒトが俺に言う。

「殿下より先に、アウラさんと婚約している私でさえ、同室ではありませんよ?」

「そうなのか?!」

 他家の婚約事情を知り、驚く。
 お互い成人しているのに、同室ではない?!
 そのことに驚きだ。
 自分の婚約者だぞ!?
 四六時中、一緒にいたくないのか?

「……殿下の場合は、今までが今までだけに、無駄に婚約者に対して夢を抱いてますよね。リヴィアス様という竜王家の特有性ではなく、政略での婚約者なら、殿下もそこまで想わなかったと思いますよ」

「確かに、ヴィアではなく、違う者が俺の婚約者なら、違っただろうが……。それは、アウラのことをリヒトは政略での婚約者と思っているのか?」

 少し気になったことを俺はリヒトに問うてみた。
 アウラもレインとリヒトと共に、俺の幼馴染みのような存在だ。だからなのか、つい、リヒトの言葉が気になった。

「まさか。ライトニング公爵家も六代前の竜王家の王女の血が、プロミネンス公爵家には十代前の竜王家の王子の血が流れていますからね。竜王家の特有性とまではいきませんが、近いことはアウラさんに感じますよ。ですが私達は、殿下と違って、ちゃんと理性がありますので」

 良い笑顔でリヒトは俺に言い放った。
 それは、俺には理性がないと言いたいのか。
 竜王家の特有性のヴィアを前に、俺はかなり我慢している方だと思うが?
 公明正大ではあるが、貴族達の前では冷ややかと言われる王太子だぞ。

「……まぁ、今の殿下が今までと違いますから、乳兄弟として長くいる私としても戸惑いはありますが、今の殿下の方が人間らしくて良いと思います。竜王になられた後のことを考えても」

 俺の視線に気付いて、少し苦笑を混ぜてリヒトは笑う。
 竜神の加護を持つ俺が王になる時、呼び名が変わる。
 王ではなく、竜王。
 竜神の加護を持つ者のみが名乗れる呼び名。
 必然的に結婚するヴィアも、王妃ではなく竜王妃と呼び名が変わる。
 竜神の加護を持つ者は、竜王家の特有性である唯一を見つけると、他の竜王家の者以上に性格が変わるらしい。
 知ったのは、ヴィアと婚約した後、父から聞いた。
 公明正大で、貴族達の前では冷ややか、というのは、まさしくそれで、唯一と出会う前は家族や近しい者以外には感情は何処までも平坦。
 唯一と出会った後は、唯一に対して愛が重くなり、他の者達にも少しだが感情が動くそうだ。
 確かに、ヴィアに出会ってから、俺から見える周囲の色が灰色だったものが、一気に色鮮やかになった。
 感じる匂いも、温度も、感触も、今までと違うように思った。
 その中心はヴィアで、彼が笑うと胸が高鳴る。泣くと胸が締め付けられ、泣かせた原因を探し、潰したくなる。
 そんな暴走気味な感情を俺が持っているとは、今の今まで思いもしなかった。

「……俺が一番、戸惑っている」

 だが、悪くない。

「ですが、悪くはないとお思いなんですよね? 私としては、もう少し早くリヴィアス様と出会っていらっしゃれば、その暴走気味な愛も落ち着いていたでしょうに……」

「それは俺も分かってる。もっと早く出会っていれば、あの元婚約者共にヴィアも心を傷付けられなかったのに、と思う」

 ヴィアの表情を思い出し、心が曇る。
 二ヶ月前に元婚約者達を誘き出した時、婚約中にヤツがヴィアに対して言ったという言葉を思い出す。
 元婚約者から言われた言葉を家族や俺、他の誰にも言わないで、墓まで持っていくつもりだったと、あの騒動の後にヴィア本人から聞いた。
 十歳から六年間、傷付く言葉を元婚約者から言われ続けたヴィアは、本人が思っている以上に傷付いている。
 初めて会った時と比べて、表情は明るくなったがそれでも時折、一瞬だが暗い表情になる。不意に思い出してしまうようだった。
 それに気付いたら、抱き締めたり、額や頬に口付けを贈ったり、愛を囁くようにしているが、ヴィアの心の傷は深い。幼い頃に言われた言葉は、成長しても付いて回る。
 もっと早く、ヴィアに会っていれば、違っていたかもしれない。
 過去のことだから、変えられないのが悔しい。

「だが、今からが俺の本領発揮だろう? 今の婚約者は俺で、あの元婚約者ではない。俺はヴィアを蔑ろにしない」

「ええ。そうですね。殿下なら、リヴィアス様の心を癒し、守られるでしょうね。私もアウラさんと共に、殿下とリヴィアス様をお支え致します」

「心強いな。俺の乳兄弟は」

 お互い笑って、俺とリヒトは明日の婚約パーティーの最終確認を行った。








 次の日。
 いよいよ、婚約パーティー当日になった。
 早朝から陽光宮は、使用人達が慌ただしく動いている。
 それはもう、今まで見たことがないくらいに。
 俺が生まれた時からいる使用人から、年若い使用人まで働いているが、陽光宮にいる者達は信用出来る者達だ。
 冤罪等で家を追い出された訳ありの貴族の子息子女や、俺や王家が助けた平民達で、いずれも助けたことで恩義を感じてくれているようで、忠誠心が厚い。
 婚約者のヴィアに対しても、以前、俺や母を薬で助けたことと、温厚で心優しい人柄に触れ、人気は爆上がりだ。
 なので、今日の婚約パーティーの準備は凄まじかった。
 ヴィアの侍従のアンブラ、侍女のアクア、護衛のルーチェの三人と結託して、ヴィアの髪型から衣装、湯浴みの香りまで、その所要時間を含めて計画されていた。
 いつの間にか、母ミーティアとヴィアの母君のステラ夫人まで参戦していたのは驚いた。
 ヴィアの髪型はステラ夫人とアクア、ルーチェ、陽光宮の侍女達。
 衣装と装飾品は、母とアンブラ、陽光宮の侍従達が準備している。
 ちなみに、俺の髪型と衣装、装飾品は、既に整えられている。
 いずれもサイクロン公爵家の次女……もとい、次男のデルフィーニ卿のデザインだ。
 母の従兄甥いとこおいにあたるデルフィーニ卿のデザインは、当然ながら、母もステラ夫人も、はたまたミストラル大公までもが気に入った。
 俺とヴィアの衣装をデルフィーニ卿と、彼の侍女達が縫製という名の、玄人な手作りをしてくれた。
 王族や高位貴族が御用達な仕立て屋顔負けだった。
 俺よりヴィアの衣装を凝り過ぎたようで、婚約パーティーに間に合わなかったそうだ。
 俺の衣装は一週間で出来たらしい。
 ヴィアの衣装は凝っていて、掛ける時間が違うのはしょうがないが、俺も主役なんだが。

「ラディを着飾っても面白くない。リヴィちゃんは可愛い服も綺麗な服も何でも似合うからな。なぁ、ステラ。今日はやっぱり決まってた可愛い衣装ではなく、可愛くて、綺麗な衣装はどうだ? ラディはもちろん、エリスロース竜王家とレイディアンス大公家、ブラカーシュ王家、プロミネンス公爵家にも愛されているのが分かるような衣装」

 ヴィアが侍女のアクアと陽光宮の侍女達によって、浴室で磨かれている間、俺と母、ステラ夫人で衣装の最終確認をしている。

「私は大賛成だけれど、ミーちゃん、その衣装は間に合わないって言ってなかった?」

「デルにお願いして、間に合わせたさ。俺、王妃だぞ?」

「そこで、遠戚とはいえ、王妃の権力を使わないで下さい、母上」

 溜め息混じりに俺が言うと、ステラ夫人も苦笑していた。

「可愛い未来の息子ちゃんを蔑ろにして、婚約破棄した馬鹿野郎とその家族と違って、俺達は未来の息子ちゃんを王家総出で溺愛している。そんな見て分かる衣装を着ていれば、ウチの国の貴族の馬鹿共を牽制出来るし、リヴィちゃんには俺達に愛されてるって感じられるだろ。王妃の権力、ここで使わないでいつ使う?」

 ニヤリと口の端を上げて、母が笑う。
 そこは王妃というより、王のような威厳を感じる。
 母は男性だが、ヴィアとは違う美しさと強さ、優しさがあり、周囲をよく見て動く。誰に対しても褒める時は褒め、怒る時は怒る。父はそういったところに惹かれたらしい。
 息子の俺としては、母が男前だから、ヴィアに対して、口説き文句のような言葉を普段でも掛けているから、正直なところやめて欲しい。
 俺が言おうと思っていたことも多々あるし。

「有り難いけど、リヴィが聞いたら、申し訳なさそうにするわね」

「なら、俺達だけが知っていればいいさ。俺も恩着せがましく言うつもりは全くないし、むしろ、俺とカエルムからの愛情籠った贈り物だからな」

「ミーちゃんの男前のところは変わらないね。なのに、王妃なのよね……。王の間違いじゃないのかしら」

「カエルムもいざと言う時は男前だけどな。竜神の血が流れているのに、穏やかなんだよな、カエルム。だから、俺のような性格の者が隣に立てば、お互いを補い合えるだろ?」

 それでも嬉しそうに笑う母は、綺麗だった。
 そんな母を見て、俺もヴィアと支え合えたらいいなと思った。





 それから、王妃の権力で作製を急がせた衣装を着たヴィアを見た俺は、床に崩れ落ちた。
 俺が着ているのは、前回のブラカーシュ王国のパーティーと同じようなお互いの髪の色で合わせたコート、ウェストコート、スラックスの衣装なのだが、ヴィアは少し違う。
 デザインは俺と同じだが、前側から見ると一見、ウェストコート、スラックス、裾の長いコートなのだが、後ろ側から見ると印象がガラリと変わる。
 後ろ側の裾が前側より長く、まるでドレスのような、フリルが付いており、歩くとふわりと膨らむ。しかも、腰に生地と同じ素材、色の可愛らしい大きなリボンが付いているが、そのリボンが付いていても、ヴィアの美しく可愛らしさを邪魔しない、むしろ引き立てる付属品になっている。
 何より、所々に俺とヴィアの目の色の小さな宝石も付いていて、見ただけで『分かるだろ?』と言っているような俺の独占欲を表現した衣装だった。
 しかも、俺は視覚も良いからすぐ分かるのだが、他の者達が見ると薄らとだと思うが、レイディアンス大公家、エリスロース竜王家、ブラカーシュ王家、プロミネンス公爵家の紋章がそれぞれ生地と同じ色の糸で衣装の至るところに縫われている。
 近付いて、ヴィアの衣装を見ただけで、本当に『分かるだろ?』な衣装だ。
 母が『エリスロース竜王家とレイディアンス大公家、ブラカーシュ王家、プロミネンス公爵家にも愛されているのが分かるような衣装』と言った意味がよく分かった。
 そんな衣装も強力なのに、今回のヴィアの髪型は彼の侍女のアクア、ルーチェ、ステラ夫人、陽光宮の侍女達の本気を見た。
 髪型は長い銀色の髪を編み込みにして、首から下は緩く三つ編みにして後ろに流している。
 前回も似た髪型だったのだが、今回は違った。
 額に小さな真紅色の石ーー恐らくガーネットーーがあり、細い金の鎖を伝い、こめかみのところに水色の石ーー恐らくアクアマリンーーとダイアモンドと銀細工の髪飾りが一体となったものが着けられている。
 耳には俺が贈ったイヤーカフを着けていて、サークレットと一体化したように見える作りのものだった。
 全身着飾っているのに、ギラギラしていなくて、正に『月華の君』で、二ヶ月前の諸悪の根源が言ったように、月の女神の化身と間違われても否定出来ない美しさだった。

「あ、あの、アシェル様……変、ですか……?」

 崩れ落ちた俺を目の当たりにしたヴィアは、恐る恐る見つめた。

「いや、むしろ、綺麗で、可愛くて、この世の全ての言葉を使っても言い表せないくらいの美しさで、俺の語彙が何処かへ吹っ飛んだ」

「そ、そんな、褒めても何も出ないです……!」

 顔を真っ赤にして、ヴィアは慌てた。
 可愛いなぁー。
 今から、貴族達に見せないといけないんだよな。見せなくてもいいんじゃないか?
 だが、見せないと貴族達に牽制が出来ないしなぁ。そのためのパーティーでもあるんだが……見せたくない。
 床に崩れ落ちた俺は、見上げるようにヴィアを見た。
 よく見ると、きめ細かい白い透き通る肌には、薄らと化粧が施されている。
 アクア達が本気だとよく分かった。
 これは、恐らく、貴族達の牽制と、元婚約者のせいで、今までヴィアを着飾れなかったことが爆発したのだと思う。
 それに、ヴィアの晴れ姿でもある。
 寄ってくる虫は、俺が払えばいいか。
 そう思い直して、立ち上がり、俺はヴィアの薬草の匂いが染み付いた、白く細い、自分より小さな左手を握る。

「ーーヴィア。ちゃんと言わせて欲しい。いつも美しいが、今日のヴィアはとても綺麗で、美しくて、可愛い。俺の愛する婚約者殿」

 そう告げて、ヴィアの手の甲に口付けを落とす。

「僕も言わせて下さい。今日アシェル様はとても格好良いです! 僕の愛しい婚約者様!」

 顔を真っ赤にしながら、嬉しそうにヴィアが微笑む。
 ヴィアと会った初めの頃より、お互いの想いが通じてから、本当によく笑顔を見るようになった。
 それが嬉しくて堪らない。
 これからずっと、ヴィアを笑顔にするのは俺だ。誰にも譲る気はない。

「……これから、ずっと、たくさんヴィアを愛し続ける。元婚約者との六年間をしっかり上書き出来るように」

 だから、どうか、貴方の生が終わるまで、俺の傍にずっといて欲しい。

 そう願いを込めて、俺はヴィアの左手の婚約指輪に、以前、彼が俺の婚約指輪にしてくれたように口付けた。




 始まった婚約パーティーで、それぞれの髪と目の色に合わせた衣装を纏い、仲睦まじく登場し、ずっと離れなかったことで、陽光竜の王太子の噂がガラリと変わる。


 他の花には目もくれず、『月華』を溺愛する『陽光竜』と。



 その噂は、エリスロース竜王国を越え、ブラカーシュ王国、その他の国にまで広まり、何故か国内、時々、他国からパーティーの招待状が頻繁に届くようになった。
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