猫なので、もう働きません。

具なっしー

文字の大きさ
9 / 13

7中 お兄様とデート

しおりを挟む

秋の柔らかな光が、街をまるで優しく包み込むように降り注いでいる昼下がり。私は、兄様と一緒に城下町へと足を踏み入れた。
今日は、MVPに輝いたお兄様との特別なデートの日。街を歩くのは初めてのことなので、胸が高鳴って仕方がない。尻尾もいつも以上にゆらゆらと揺れ、私の心の弾みを映すかのようだ。

通りを進むと、色とりどりの店先には新鮮な果物や、職人が手間暇かけて作った工芸品が並び、活気ある人々の笑顔が行き交う。
ふと足を止めた。視線の先には、あの不思議な香りの漂うパン屋がある。甘く香ばしい香りが、街のざわめきの中でひときわ際立っている。

「お兄様!パンが食べたいです!」
声が思わず弾んだ。まるで私の胸の高鳴りそのままに、言葉が飛び出したようだ。

お兄様は柔らかな笑みを浮かべ、私の隣に立つ。その眼差しは、まるでこの街のすべてを慈しむかのように穏やかで、心臓が少し速く打つのを感じた。

「よし、店に入ろうか。どれが食べたい?」
「うーん……迷うな、全部美味しそう。」

指を差しながら答える私に、お兄様はすぐに小さな籠を取り、迷っていたパンや果物を手際よく入れてくれた。
「好きなものを選ぶといいよ。食べ切れない分は僕が食べてあげるから」
その言葉に、私はぱぁあっと目を輝かせる。思わず心の中で小さく跳ねた。

「ありがとう!お兄様!!大好き!!」
「ぐはっっっっ(可愛い。MVP最高…)」
胸の奥がじんわり温かくなる。

その後も、色とりどりの店をいくつも巡り、甘い香りや新鮮な果物に心躍らせながら、湖へと向かう。歩くたびに尻尾がぴょんぴょん跳ね、私の楽しさを体全体で表しているようだった。

湖に着くと、秋の光が水面に反射し、柔らかい波紋がゆらゆら揺れていた。湖畔の芝生に腰を下ろし、買ったばかりの果物やパンを広げる。
ひとくちかじると、隣の兄様も同じパンを口に運び、穏やかに微笑む。

「自分がわからなくなった時は、いつもここに来るんだ。湖を眺めたり、本を読んだりして過ごす。そしたら…なんとなく、これでいいのかなって思えるんだよね。フィオナと出会えて、一緒にここに来られて本当に嬉しい」

遠くの水面を見つめる兄様の声には、いつも完璧で落ち着いたお兄様が普段見せない葛藤や努力が、そっと垣間見えた。私は胸の奥で、小さなドキドキを感じる。
「お兄様も悩むことがあるんですね…」
「ふふっ。フィオナの中で僕はどう映っているのかな?」
「んー…かっこよくて、なんでもできちゃう…あ!王子様みたいです!!」
「ぷはっ、ははは!フィオナの中で僕は王子様なの?ふふっ、エドワードに自慢しないと…あはははっ」
「そ、そんなに笑わなくても…お兄様は優しくて、甘い紳士な感じが王子様っぽいんですよー。エドワード殿下は、なんて言うか…腹黒暗黒王子?」
「ぶはっっ!ひーっ!はははは!おっかしい!フィオナ、最高!正解だよ、あはははっ」

お兄様は涙を流しながら爆笑し続け、次の日は笑いすぎて筋肉痛で動けなかったという話を後でセドリックから聞いた。
普段見せない一面を見られて、私は少しラッキーな気分になった。

食事の後、私はそっと兄様の肩に寄りかかり、まどろみの中に身を沈めた。温かい風と柔らかな日差しに包まれ、短い昼寝を楽しむ。前世では味わえなかった、穏やかな幸福が胸に満ちる。

「幸せ…(可愛すぎる、天使が肩に…MVP万歳!これからも死守する!)」

ふわりと目を覚ますと、目の前に兄様の顔がある。湖面の光が彼の金色の瞳に反射し、心臓が再び早鐘を打つ。
「うう…むにゃむにゃ……んー…?…えっ!!お兄様??ずっと見てたんですか?ちかっ!!」
「おはよう、フィオナ、よく眠れたかい?」
「はい…ぐっすり……」

兄様は小さく息を吐き、手を差し伸べる。
「お姫様?僕と小舟に乗らない?夕日が綺麗だよ」
「乗りたい!!」

二人で小舟に乗り、湖の中心へ漕ぎ進む。水面に映る橙色の光が、兄様の横顔を黄金色に染める。

「フィオナ、話したいことがある」
声に、いつもの優しさの中に少し硬さが混じる。私は身を乗り出し、その言葉を待った。

「フィオナ、俺と……婚約してほしい」

湖面が静かに揺れる中、驚きで言葉を失った。兄様の真剣な瞳が、私の心をまっすぐに見つめている。
ーー兄弟婚…?あ、そうか、確かこの世界では遺伝は魔力の質によるもので、血は関係なかったはず……よくわからないけど、異世界だもんね、と納得する。

「……でも、本当に……私で、いいんですか?」
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。前世の記憶は誰にも言えないし、言うつもりもない。けれど、それで兄様に迷惑がかかるのは少し怖いと思った。

「もちろんだ。フィオナ以外に考えられない」
兄様はそう言うと、小舟の中で私を優しく抱き寄せる。その腕の温かさに、不安が少しずつ溶けていく。

「…まだ、恋愛として好きかどうか、わからないかもしれない」
「それでも構わない、フィオナはきっと僕を好きになるよ」

兄様はいたずらっぽく笑い、少し頭をかすめて照れるように視線をそらす。その表情が、なんだか可愛らしく思えた。

「私は……兄様と、ずっと一緒にいたいです。だから、婚約、受けます!」

心の底からそう決めた瞬間、兄様は目を輝かせて私を見つめた。
「ほんとかい?…あーよかった。どうしよう、嬉しすぎる…」

レオンハルトは顔を隠して天を見上げ、プルプルと震えた。にやける顔と、溢れてきそうな涙を必死に隠していた。
フィオナには兄としか思われていないことを知っているが、この思いを伝えなければ関係が崩れてしまうのではないかと、不安でいっぱいだった。

パーティーに招かれ、女性が貴重で幼い頃から婚約者がいる世界で、フィオナのようにまだ誰もいない存在は、奪い合いになる可能性がある。それを防ぐため、レオンハルトは腹を決め、婚約を申し込んだのだ。

「兄様…」私はそっと抱きつく。
ビクッッ!
突然のことに、レオンハルトの頭はショートした。
「私と出会ってくれてありがとうございます。大好きです。」

湖に映る夕日の光が二人を包み込む。世界は静かで、でも胸の中は熱く、二人だけの時間が永遠に続くように思えた。

その後、レオンハルトはしばし石化し…溶けたと思ったら鼻血が出て、ロマンチックな場面も、ちょっとドタバタなコミカルさで彩られたのだった。



舟の上で結ばれた私たちは、湖の穏やかな波に揺られながら、未来への一歩を静かに踏み出した。夕日が沈む頃、兄様の手はぎゅっと私の手を握り返し、何も言わなくてもお互いの心が通じ合っていることを確かめ合う。

秋の風が二人の頬を撫で、湖面が金色に輝く中、私の心は初めての幸福感でいっぱいになった。
「兄様……これからも、ずっと……」
「もちろん、フィオナ。ずっと、俺のそばにいてくれ」

湖に映る二人の影が、一つに重なったまま、静かに揺れ続ける。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです。読んでくれてありがとうございました。MVPの兄様へご褒美回でした!前世の要素がなくなってきているのは幼女と精神が混ざってきているからです。知識は残ります…
スパダリお兄様として書いていたつもりが残念要素がでてきてしまいました。やっぱり親子です。次回はパーティー編です。

感想、いいねお願いします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

もふもふな義兄に溺愛されています

mios
ファンタジー
ある施設から逃げ出した子供が、獣人の家族に拾われ、家族愛を知っていく話。 お兄ちゃんは妹を、溺愛してます。 9話で完結です。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...