光と闇の継承者〜神に選ばれた少女の物語〜

加藤 すみれ

文字の大きさ
2 / 15
一章 別れと出会い、歪みの“兆し”

二つの力、ひとつの命

しおりを挟む
女神族と魔神族の争いが絶えない時代。
その最前線に近い村に、一人の少女がいた。
名を、スミレという。
彼女は生まれつき、目が見えず、足も動かなかった。
理由は魔力過多――そう呼ばれる異常。

世界では、魔力が多すぎる者は熱や頭痛に悩まされる程度で済む。
だがスミレの内側に満ちる力は、その“程度”をはるかに超えていた。
身体の奥で渦を巻く魔力は、常に暴れ、
視界を奪い、足を縛り、彼女を車いすの上に閉じ込めていた。

世界は暗く、遠い。
届くのは、剣と魔法がぶつかる音だけ。

「役立たず」
「守られるだけの存在」

そう囁く声を、スミレは何度も聞いた。
否定できなかった。実際、彼女は何もできなかったから。

それでも
彼女には、大切な存在がいた。
双子の弟、シュン。
異父姉妹で一つ年下のリリナ。
そして、親友のクリスタ。

「今日はね、空がすごく高いよ」
クリスタはいつも、教えてくれた。
見えない世界を、言葉で編み、スミレの手の中に置いてくれた。

戦いの気配が近づくたび、胸が締めつけられる。
―また、誰かが傷つく。私は、何もできない。ー
その日常は、唐突に終わった。

魔神族の襲撃。
村の強者たちは会議で不在だった。
逃げ遅れたのは、スミレたち四人。
「弱いのがいるぞ!」
叫び声とともに、空気が歪む。
狙われたのは、動けないスミレだった。

「アイスウォール!」
シュンの声。
氷の壁が立ち上がり、四人を守る。
だが次の瞬間、闇の魔法がそれを粉砕した。
砕けた氷の音が、雨のように降り注ぐ。

―終わる。ー
そう思った、そのとき。
「スミレ!!」
誰かの叫びと同時に、強い衝撃。
身体が宙を舞い、地面に転がされた。

次に届いたのは、血の匂いと、重い音。
「…っ!?クリスタァァ!!」
リリナの叫びで、理解してしまった。
「ごめんね…ちょっと、無理しちゃった」
クリスタの声は、信じられないほど穏やかだった。
「どうして…私なんかを…」
喉が震える。
「だって…大切な友達だもん」
その一言が、深く、深く突き刺さった。

―私が、弱いから。私が、動けないから。ー

その瞬間。
スミレの内側で、何かが崩れた。
悲しみではない。
恐怖でもない。
怒りだった。
奪った者への怒り。
守れなかった自分への怒り。

「…やめて…」
震える声が、空気を裂く。
「もう…誰も…」
次の瞬間、世界が悲鳴を上げた。

甲高い音。
地面を割り、氷が突き出す。
叫びは、途中で途切れた。
魔神族は、内側から砕け散った者と、
氷に貫かれ、動かなくなった者に分かれて倒れていた。
戦場は、静まり返った。

すべてが終わったあと、
スミレは必死に地を這い、クリスタのもとへ向かった。
「…クリスタ…」
その身体は、すでに淡い霧となり始めていた。
「ねえ、スミレ」
最後の力で、クリスタは笑う。
「私の歌…あなたにあげる」
命石が、やさしく光り、スミレの胸へと溶け込む。

「お願い…私の一族の歌声を…生かして…」
それが、最後の言葉だった。
その日、スミレは誓った。
―私は、この世界を壊している者を、倒す。ー

力を与えられたからではない。
失ったからこそ。
「もう…誰も、失わせない」
静かに、だが確かに。
少女は、歩き出すことを決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...