光と闇の継承者〜神に選ばれた少女の物語〜

加藤 すみれ

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一章 別れと出会い、歪みの“兆し”

5年前の涙と少年の声

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あれから、五年が経った。

森の奥、かつて四人で笑い遊んだ湖のほとりに、小さな墓がひとつだけ佇んでいる。
そこに埋められているのは、親友クリスタの命石。

湖の底には、今も色とりどりの石が沈んでいる。
全色を揃えようと、息が苦しくなるまで潜ったあの日々。
笑い声、はしゃぐ声、そして水面を蹴る音。
五年前の光景が、鮮やかにスミレの心に重なる。

「クリスタ…また来たよ」

スミレは一人、車いすを進め、墓の前で手を止める。
指先で冷たい石をなぞり、静かに息を吸った。

「ねえ…あれから、村の人たちに嫌われちゃった」

声がわずかに震える。

「だって…村で一番強くなるはずだったあなたを…私は…」

言葉は途切れ、頬を涙が伝った。

「私の力が、もっと早く使えていたら…あなたは…」

小さな嗚咽が漏れる。

「クリスタ…ごめんなさい。守れなくて…」

そのとき、背後から足音が近づいた。
スミレは慌てて涙を拭い、声のする方へ耳を澄ます。

「姉さま! またここにいらしたのですね」

りりなの声は優しいが、どこか焦りを含んでいた。

「姉上、行くなら俺たちにも声をかけてくださいって、何度も言ったでしょう?」

続いて、しゅんの声も届く。
二人は駆け寄るように現れ、スミレを囲んだ。

「ごめんなさい…今日は、どうしても二人きりで話したくて」

無理に作った笑顔は、すぐに崩れそうだった。

「姉さま…」

りりなが一歩近づき、優しく手を差し伸べる。

「クリスタが亡くなったのは、姉さまのせいじゃありません。
クリスタだって、そんなふうに思ってはいません」

その言葉に、スミレは俯いた。

「…私のせいよ。もし、あの時力を使えていたら…」

「姉上…」

しゅんの声もかすかに震える。
後悔と罪悪感が胸の奥で絡み合い、重く沈んだ。

「少し、一人にして。」

スミレはそう告げ、車いすの向きを変え、森の奥へと進む。
行き先は決めていない。ただ、一人になりたかった。

木々の間を進むうち、かすかに異様な匂いが鼻を刺す。
鉄と血の匂い。

「…誰か、けがをしている?」

匂いを頼りに進むと、茂みの陰に少年が倒れていた。
呼吸は浅く、うめき声は今にも消えそうだ。

「人…」

小さく呟く。
迷いがよぎるが、スミレは首を振った。

「そんなことを考えている場合じゃない」

深く息を吸い、スミレは静かに歌い始めた。


『目を閉じて、深く息をして
 風のささやきに耳を澄まして
 闇に隠れた痛みも、悲しみも
 私がそっと抱きしめるから

 星の光を、心に灯して
 凍えた涙を溶かすように

 迷いも孤独も、怖さもすべて
 この歌が優しく包み込む
 あなたは一人じゃない
 ここに、私がいる』


歌い終えると、血の匂いはすっと消えた。
少年の呼吸は穏やかになり、身体の緊張が緩むのがわかる。

「…うっ。ここは…? 君は、誰だ?」

警戒して立ち上がる少年に、スミレは微笑む。
目が見えなくても、存在の温度や呼吸、心の鼓動で相手を感じ取れる。

「私はスミレ。あなたがけがをしていたから、治したの。痛いところはない?」

少年の手がわずかに震える。

「君が…僕を?どうして…」

「理由なんていらないわ。傷ついた人を助けるのに」

風が吹き、スミレの前髪が空に舞う。

「…君、目が見えないのか?」

「えぇ、ずっと生まれつきよ」

沈黙のあと、少年は小さく息を吐いた。

「…ありがとう。助けてくれて。
俺はルイ。君は?」

「スミレ。よろしく、ルイ」

目は見えなくても、互いの存在を心で確かめ合う二人。
呼吸や鼓動、微かな気配で、確かな温もりを感じる。

森の奥、湖のほとり。
かつて四人で笑った場所で、新たな出会いが静かに芽吹いた。

スミレは胸の奥に、五年前の痛みと希望を重ねながら確かな決意を刻む。

―私は、この世界を壊している者を倒す。
もう、誰も失わせない。ー

それが、親友への償いであり、
自分が生き続ける理由だった。
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