光と闇の継承者〜神に選ばれた少女の物語〜

加藤 すみれ

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2章 歪みの中で出会う者たち

下界へ、双子の女神と最初の仲間

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下界への扉は、家の奥深く――
誰にも知られぬ隠し部屋にあった。

淡く光る扉を前に、スミレは一度だけ足を止める。
胸の奥が、ひどく静かだった。怖さよりも、覚悟の重さがそこにあった。

「……行ってきます、母さん」

振り返ると、メイサは微笑んでいた。
けれど、その指先はわずかに震えている。

「いってらっしゃい。
必ず一年後には帰ってきてね。絶対に……生きて、また会いましょう」

その言葉を、スミレは胸に刻むように強く頷いた。
――もう、振り返らない。

扉をくぐった瞬間、世界が反転する。



辿り着いたのは、薄暗い部屋だった。
壁に囲まれ、窓もない。どこかの家の――隠し部屋。

「……なぜ、こんな場所に?」

戸惑う間もなく、壁が低い音を立てて動き出す。
隠し扉が開き、ひとりの女性が姿を現した。

鋭い視線。
だが、その面差しは――否応なく、メイサを思い起こさせた。

「気配を感じたと思ったら……迷い込んだ子たちかしら?」

女性はスミレたちを見渡し、静かに告げる。

「今すぐ戻りなさい。ここは、あなたたちにとって危険な場所よ」

その声に、警告だけでなく“庇うような色”を感じ取り、スミレは一歩前に出た。

「それは、わかっています」

震えはなかった。

「でも……遊びに来たわけじゃありません。
私たちは、仲間を探しに来たんです」

下界へ来た理由を語り終えると、女性はしばらく沈黙した。
やがて、小さく息を吐く。

「……他の種族の力を借りるのは簡単じゃないわ。
特に、妖精族はね。それでも――行くの?」

「はい」

即答だった。
命の残りを思えば、迷う理由はなかった。

女性は、かすかに笑う。

「……やっぱり、姉の娘ね」

そして、名を告げる。

「私はマリサ。メイサの双子の妹よ」

その言葉に、空気が揺れた。

「妹……?
そんな話、聞いたこと……」

「でしょうね」

マリサは肩をすくめる。

「私は戦いに疲れて、下界に逃げたの。
今じゃ、臆病者として嫌われているわ」

軽い口調とは裏腹に、瞳の奥には消えない影があった。

「ここで立ち話もなんだし……移動しましょう」

隠し部屋を抜けた先に広がっていたのは、息を呑むほど豪奢な空間だった。
高い天井、煌めく装飾、整然と立つ使用人たち。

「……お城?」

「ええ。この国の城よ」

直後、通路の先から声がかかる。

「王妃様、その方々は……?」

「私のお客様よ。
姉の娘と、そのお友達なの」

メイドは一瞬驚いたものの、すぐに一礼して去っていった。

「……王妃?」

問いかけに、マリサは少し照れたように微笑む。

「人間と結婚したの。これでも一応、ね」

案内された部屋で、マリサは本題に入った。

「それで……仲間を探しているのね」

「はい。
人間族、獣人族、妖精族の力を借りたいです」

その言葉に、マリサは困ったように眉を下げる。

「他の種族はともかく……人間だけは無理よ」

「なぜですか?」

シュンの問いに、マリサは静かに答えた。

「人間は、まだ女神族も魔人族も知らない。
知れば、欲しがる。利用しようとする。
争いを広げないためには――知らせない方がいいの」

スミレは唇を噛む。
正しい。けれど、それでも――。

重い沈黙が落ちた、その時。

「お母様、入ってもよろしいでしょうか?」

扉の向こうから、控えめな少女の声がした。

マリサの表情が、はっと変わる。

「……そうだわ。
この子がいたじゃない」

「マイ、入りなさい」

現れた少女にマリサは事情を話した。
少女は、戸惑いを隠せない様子で立ち尽くしていた。
視線が揺れ、指先が無意識に握られている。

説明を聞き終えたマイは、声を失っていた。

「……そんな……
お母様が、女神族だったなんて……」

「この子は、私たちの従妹?」

スイレンの問いに、マリサは頷く。

「えぇ」

スイレンはじっとマイを見つめ、率直に言った。

「……強そうには見えませんが」

「失礼ね!
これでも、国でお母様の次に強いのよ!」

マイは顔を赤くして言い返す。

「人間は他種族より弱い。
でも、女神族の血を引くマイは――人間の中で最強よ」

その言葉に、皆が顔を見合わせた。

「確かめたいなら……」

マリサは静かに告げる。

「マイと、あなたたちの誰か戦ってみる?」

その瞬間、
マイは不安そうに拳を握りしめ、
スミレはその小さな背中を、静かに見つめていた。
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